第3066話 はるかな過去編 ――遺物――
『時空流異門』という時と空間の異常現象に巻き込まれて、セレスティア達の世界の過去の時代。後の時代に戦国乱世と呼ばれる事になる時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らはこの時代を生き抜いていたとある王国の騎士団長である過去のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する。
そうして彼らの支援を貰いながら元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させたソラ達であったが、第一歩として今後の活動に備えて拠点の拡充をするべく資金集めに奔走する事になっていた。
というわけで王都の冒険者を統率するおやっさんの助言を受け迷宮に潜っていたソラ達であったが、手に入れた魔導具の売却をしている所に偶然再会したカイトとの会話により手に入れた希少な魔導具である『復元の光』を譲る事になる。それから数日。王国側の承認が下りた事と諸々の偽装工作が終わったとの事で、実際の引き渡しになっていた。
「はい。これが『復元の光』」
「助かった……オレも見るのは本当に久しぶりだな」
「そう言えばお前の鎧とかって壊れる事無いのか?」
「壊れるけど修理してくれるヤツ居るから使わないんだ……オレのだけじゃないけどな」
そもそもカイト率いる<<蒼の騎士団>>とレックス率いる<<紅の騎士団>>の武装の大半は銀の山とやらで作られた物らしい。そうでない武具に関しても大半が神域で神々により鍛えられた、など伝説級の由来があるものばかりで、やはり並大抵の技術者達では修繕は非常に難しいらしかった。が、それはあくまでも並大抵の、であって銀の山の鍛冶師達なら出来るのであった。
「そういう……なんかお前の鎧とかだと一品物とかが多そうで出来ないような感じになる」
「あはは……まぁ、出来ないは出来ないけどな。っと、それはともかく。助かったよ。これで次に進める」
「やっぱ忙しいのか?」
「忙しいか忙しくないか、で言われれば忙しいよ、物凄くな」
今更ではあるが、カイトは王国の騎士団長だ。本来はこんな場に来るべきではないだろう。が、今回は事の性質上カイトが動くのが一番偽装に良いとされたのであった。というわけで『復元の光』を受け取ったカイトはそのまま王城の地下へと戻っていくのだった。
さて王城の地下。ヒメアにより結界で封鎖された一角。そこには無数の金属片が散らばっていた。が、それはある程度原型がわかるような形で設置されており、この数ヶ月技術者達が行ってきた成果が見て取れていた。そんなある意味金属の立体パズルを見ていたサルファに、カイトが告げる。
「最初はパズルみたいで無理そうかも、とか思ってたけど。存外なんとかなってるもんだな」
「ですね……けれどここが限界という所かもしれません。これ以上はパーツが無いので……」
「そうだな……」
先にカイト自身も述べているがこれは何百年何千年も昔に作られた古代の魔導具で、この破片は広範囲に散らばっているらしい。故に原型がわかる様に、というのもあくまでもそう推測出来るというだけで正解かどうかなぞ誰にもわかっていなかった。
「おそらく、原型は物語に語られるあれだとは思うのですけど……」
「わからない、ってのが正確な所ってわけだろう?」
「そうですね。結局そう見えたからそう思っているだけで、本当にそうかどうかというのは誰もわからない。足りていないパーツが見付かったら、実は全く違う魔導具だった、という可能性は全然あると思います」
見付かった場所はレジディア王国の僻地で、古代の遺跡があるような場所ではなかったらしい。まぁ、それ故に今までの多くの国が見付ける事が出来ていなかったのだが、それ故にこそ情報があまりになさすぎた。どこの古代文明のものなのか。それさえわかっていないのだ。
とはいえ、それを悠長に待っていられるほど現状は甘くない。それは二人共わかっていたからこその『復元の光』であった。というわけで、カイトが持ち帰った『復元の光』を箱から取り出す。
「で、こいつってわけだ」
「はい……まさか彼らが手に入れられるとは。偶然ではあるのでしょうが……」
「なにか縁のようなものはあるのかもな」
「かも、しれませんね……元老院に少し本気で動く様に掛け合ってあげましょう」
少しだけ冗談めかした様子で、サルファは相変わらず動きの鈍い元老院の尻を蹴っ飛ばしてやるかと口にする。そうして一通り笑いあった所で、カイトが真剣な顔で頷いた。
「じゃあ、やるか……サルファ。いつも通り支援を頼む。姫様も上で結界のコントロールをしているから、あまり長話してると怒られるしな」
「あはは。そうですね……全員、退避エリアまで下がれ! 『復元の光』を使う! 何が起きても不思議じゃないぞ!」
カイトの言葉に一つ笑ったサルファであったが、そのまますぐに研究者達の統率に入る。そうして彼の指示の下発掘された部品の精査を行っていた研究者達が用意されていたエリアに駆け込んだのを確認し、彼は一人魔導具の近くに居るカイトへ向けて一つ頷いた。
『兄さん』
「あいよ……さて」
『復元の光』についてはセレスティア達も詳しくは話していなかったが、基本的に部品が近くにある場合はそれを使って修繕される事になっていた。というわけでもし王城のどこかに誰も知らない遺物があった場合、飛んでくる事になったりして危険なのだ。そうして人員の退避が完了したのを見て、カイトは懐中電灯に電源を入れる様に側面に取り付けられていたスイッチを押し込んだ。
「っ」
ぴかっ。まるで懐中電灯の様に、前面に取り付けられた魔石からまばゆい光が放たれる。それはきれいに並べられていた部品の数々を照らし出して、その全てを輝かせる。そうして、数秒。ゆっくりと『復元の光』から放たれる光が消灯し、前面に取り付けられていた魔石が砕け散った。
「……成功だ」
『みたいですね……後は、どうなるか』
『復元の光』の魔石が砕け散ったのであれば、復元は成功したという事なのだろう。二人は『復元の光』を知っていればこそそう理解する。そうして、バラバラだった部品が一箇所に集中していく。それを見ながら、カイトが問いかける。
「どうだ?」
『やはり想像していた通りの形状です……ですが……うん。思ったより欠けているパーツが多いみたいですね』
サルファ達の想像では原型は円筒状になっているのでは、という所で実際円筒状になっていたわけであるが、外装と思われていた部品が内側でまるでファンの様な役割を果たす部品だったり、と考えているよりずっと部品が多かったらしい。サルファは少しだけ内心で残念そうだった。そしてもう一つ、彼の想像どおりであった事があった。
『ですがやはり……これが全部じゃないみたいですね。謂わばこれはエンジン部……かもしれません』
「そこは想定通りか」
『ええ……やはり全容の把握には残る部分の早急な発見が必須かと』
『復元の光』が復元するのはあくまでも一つだけだ。そしてセレスティア達が言及しているが、砦や飛空艇のような大規模なの魔導具には使えない。というわけで発掘された部品の中に残る余った部品を見て、あくまでもこの部品が推進部に相当するものなのだとサルファは認識したようだ。そうして、同盟の研究者達は改めてこの古代の魔導具の研究に勤しむ事になるのだった。
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