第3065話 はるかな過去編 ――遺物――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。魔界の魔族達の暗躍により戦国乱世と呼ばれた時代に飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後にこの時代を終わらせる八英傑と呼ばれる過去のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する。
そうして彼らの支援を受けながら元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させる一同であったが、その第一歩は拠点を整える事であった。
というわけで王都の冒険者を統率するおやっさんの助言を受け迷宮へと赴いていた一同であったが、それも終わって専門家に鑑定を依頼していると偶然カイトと遭遇。彼と話しながら時間を潰していると、彼が『復元の光』と呼ばれる希少な魔導具を求めている事を知り、偶然それを手に入れていた事から彼へと譲り渡す事にしていた。
「というわけなんだけど……大丈夫だよな?」
『勿論です。この拠点にせよなんにせよ、カイト様には世話になりっぱなしですから』
『違いない……異論は一切無い。それどころかあの方のお役に立てるなら大賛成だ』
ホームに戻った後。ソラはひとまず由利やリィルが残っていたので二人の許諾を得て、出ていたセレスティアとイミナの二人に『復元の光』の件についてを相談していた。というわけで、全員の合意を得たソラがカイトへと頷きかけた。
「あっちも大丈夫だって」
「そうか……助かった。あればっかりは何十回挑戦しても手に入らない場合があるからな……ありがとう」
「いや、良いって。世話になりっぱなしだから、これぐらいはさせてくれた方がありがたい」
カイトの感謝に対して、ソラは少し恥ずかしげに首を振る。やはり何にせよ世話になりっぱなしな現状がある。今のところ使う予定がなかったため、特に問題はなかった。
「でもこれで何をするんだ?」
「んー……まぁ、お前らになら良いか。関わりが無いわけじゃないし。少し前に黒き森に行った時の事は覚えているか?」
「ああ」
「そう……あの中身に関係していたんだ。あれは王城の地下にある古代の魔導具を一部解析した結果で、サルファでも解読出来なかった部分をそのまま転写したものだ。それをあいつ以上の魔術師であるノワールに解析してもらうために移送していた、ってわけだな」
「あれ全部が?」
一抱えほどもある箱の中身が全部魔術が書き記されたものだというのだ。ソラはカイトの言葉にびっくりしていた。
「ああ……といってもそのものじゃなくて、あくまでも魔術式を書き記したものだけどな。用紙も専用の物だから、若干ぶ厚めの紙ではあるが」
「へー……ってことは『復元の光』はそれに使うのか?」
「そう。古代の魔導具というだけあって、やっぱ壊れててな。壊れている部分がわからないから、残りの部分を探させてはいるんだが……」
これが上手く行っていないんだ。カイトはソラに対して少しだけ苦い顔でそう告げる。これに、ソラが問いかける。
「探させている? どっかで見付かったのか?」
「レジディア王国の端っこの方でな。そこに埋まっていたのが偶然付近での魔物との戦闘で出てきたらしい。で、それがレックスの所に報告があがって、ウチにまで移送させてきたってわけ……お前らがちょうどこっちに来た日にな」
「あれの時のか!」
そういうことだったのか。カイトの言葉にソラは驚いた様に目を見開く。どうやらソラ達が来た日に偶然出会ったキャラバンに積まれていたのが、発掘された古代の魔導具の一部だったようだ。あの時レックス達が救援に即座に駆けつけられたのも、遠くで見ていたという所だったのだろう。
「まー、結構広範囲に渡って散らばってたみたいだから、全部探し集めるのは結構苦労しているみたいでな。しかも何年前のものだかもわからん。『復元の光』が効果無いか、って試してみる事になったんだが……」
「軍に頼むと色々と露呈する可能性があるから独自で動いてた、ってわけか」
「そういうことだな」
軍の中に内通者が居るだろう事はこの間の砦の一件でも明らかだろう。『復元の光』のような希少な魔導具に関しては軍でも割りと噂になるため、カイトというかは敢えて軍を介さず手に入れる様にしたのであった。
「兎にも角にも助かったよ。これがあるか無いかで色々と変わってくる……そうだ。もうここまで巻き込んだようなものだから、もし効果があった時には一つ依頼を頼んで良いか?」
「依頼? そりゃ、まぁ……お前からの依頼だったら断れないけど」
「そうか……もし効果があったら、今度多分ノワールをこっちにこっちに来て貰う必要が出てくる。一応あいつ一人で問題はないっていうか、あいつ一人でもお前らより強いんだけど……」
「あ、やっぱり強いんね」
わかっていた事ではあったけれど。ソラは明白に自分達よりはるかに格上と明言され、少しだけ頬を引き攣らせる。とはいえ、これは先に彼女の館に行った際に使われている技術が数百年先でさえ再現が難しい事を考えれば当然の話ではあったし、ソラ達もそうだろうなと思っていたようだ。カイトも笑って頷いた。
「そりゃそうだ。裏に引っ込んでようとオレ達の支援に出られる程度ではある……が、如何せん見た目がなぁ」
「あー……単なる子供と思われて、ってわけか」
「そういうこと。心配されるならまだ良いんだが、バカな奴らが時々居るんでな。つっても、魔族共でも低級の奴らはマジで子供と思って無視したりするのが笑い話ではあるけどな」
「幸か不幸かわかんねぇな、それ」
おそらく高位の魔族であってもノワールは勝ててしまうのだろう。それを考えれば絶対に勝ち目のない低級の魔族達がノワールに手を出さない事は彼らにとっては幸運と言えるのだが、その理由が低級故というのは笑うしかなかった。
「そうだな……まぁ、それはそうとしても逆にデカいゴーレムとか使うと今度は魔族共に気付かれやすくなるし、対して高度な……それこそ人と見分けがつかないような使い魔を使うと今度は良い所のお嬢様になっちまって盗賊達に狙われる。勿論壊滅させるし問題もないんだが……結局それに引き寄せられて魔物やら魔族やらが出てきて面倒になる」
「で、見せるための護衛ってわけか」
「そ。居るぞ、ってだけで手は出しにくくなるからな」
「未来のお前から嫌というほど聞かされた話だな」
未来のカイトも護衛なぞ必要がない、それどころか彼の方が護衛を守る事になってしまうとは聞いていた。なのでソラはそれとまるっきり同じ現象が起きるというノワールに笑うしかなかった。
「あはは。だーろうな……まぁ、それはそうとして。とりあえず『復元の光』の件、助かった。また密かに人を寄越すかオレが来る。その時までに準備してもらえるか?」
「わかった」
カイトの申し出に対して、ソラは二つ返事で承諾する。というわけで、ソラ達は結局手に入れた『復元の光』についてもカイトに売り渡す事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




