第3063話 はるかな過去編 ――再会――
『時空流異門』に巻き込まれ、異なる世界。異なる時間軸へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らが飛ばされたのは、セレスティア達の世界の過去の時代。戦国乱世と呼ばれていた時代だった。
そんな時代で出会ったのは後にこの時代を終わらせる事になる八英傑と呼ばれる英雄の一角にして、とある王国の騎士団長であったこの時代のカイトや、その配下の騎士達であった。
彼らからの支援を受けながら元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始したわけであるが、その最初の目標は拠点を改良するための資金調達という所であった。
というわけで、王都の冒険者を統率するおやっさんの助言を受けて迷宮に挑んでいた一同であったが、その結果は上々という所になりソラも瞬も少しだけ嬉しそうに百貨店――鑑定士がここに居たため――を見て回っていた。
「今回の全部の経費を差っ引いても、かなり黒字になりそうだな」
「そっすね。多分250ゴールドぐらいは儲けてたんじゃないかと。それに前の四迷宮を合わせると……」
おそらくかなりの上振れになっているのだろうが、これは幸先良い成果と言えるのではなかろうか。二人はそんな様子で上機嫌に話し合う。
「大体収入としちゃ400ゴールドぐらい……っすかね。あっちはやっぱ渡航費とか宿泊費とか、申請書の発行とかで色々とお金掛かっちまってましたし。それに俺らの所があんま、ってのもありましたし……」
「まぁ、それは仕方がないだろう。こればかりは上振れする事もあれば、下振れする事もあるだろうからな。それに、今回の収穫も人数あたりで換算すればそこまで大きいわけでもない」
今回も上振れしたわけであるが、当然いつもいつでも上振れしてくれるわけではない。どうやらソラ達が挑んだ『風の迷宮』では下振れと言って良い状況になってしまったらしく、ほぼほぼ黒字はなかったそうだ。ちなみに、セレスティア達に関しては平均的だったらしく、若干黒字という所であった。
「そうっすね……人数あたりでみれば、今回四人だから……大雑把に70ゴールド。上振れって事を考えると大体平均は250ゴールドとして、大雑把に60ゴールド。無茶苦茶上振れした場合の四迷宮並……って所っすかね」
「それだとやはり十分こっちの方が良さそうか」
「そっすね。俺らの実力を考えても王都の迷宮で良いと思います……経費も鑑定費用だけで良いですし」
四迷宮では鑑定に費用が発生しない代わりに、渡航費や宿泊費などが経費として計上される。特にこの内宿泊費がバカにならず、安全を確保するために高い宿に泊まる様にしているため日数が掛かれば掛かるほど経費が高くなる。それを三拠点分だ。勿論渡航費もこのご時世なのでかなり高くなる。見過ごせない費用であった。
「確か鑑定費用はその物の値段の5%……だったか」
「ええ……なんで今回の利益の300ゴールドだと15ゴールドっすね。実際にゃ売らない物があった時でも負担しないと駄目っすけど」
「高い様に思えるが……」
「実際にゃ安くても5%なんで、こうなっちまうんでしょうね」
それでも宿泊費などを考えると安上がりだ。二人はそんな様子で意見を一致させる。というわけで色々と見て回っていたわけであるが、少し離れた所で唐突に黄色い歓声が上がったのを耳にする。
「なんだ?」
「危険……とかそんなのじゃない様子っすけど」
そこに悲鳴はなく、敢えていうのであればアイドルでも来たような良い意味でのどよめきの声だ。二人――周囲もだが――はそんな様子でそちらの方角を見る。が、すぐに瞬は興味を失ったようだ。再びショーウィンドウの観察に戻る。
「まぁ……気にしないでも良いか」
「どうっしょ。情報無いから知っといた方が良い気もしますよ。俺らに今一番無いのってお金より情報ですから……」
「そ、それもそうか」
流石に視点であればソラの方が大局的だったらしい。どうせアイドルやらそういったものだろうと思い興味を失った瞬に対して、ソラはだからこそと口にする。そしてそうであれば、と二人はちょうど自分達が居る階層より下だった事もあり、吹き抜けの上から覗くぐらいはしてみるかと移動する。
「何なんだろうか、一体……」
「さぁ……」
やはり人混みに紛れてしまっているのか、声の中心に居るだろう何者かの姿は見受けられない。というわけで少しの間観察していると人混みが移動して中心人物が見える様になり、二人は思わず納得する事になる。
「「あー」」
「なるほど。納得っすね」
「あはは。カイトか。なら納得だ」
中心に居たのは蒼い髪の青年。言うまでもなくカイトである。王国を幾度となく救った彼の人気は二人も知っており、その彼が来ていたのであればなるほどとしか思えなかった。なお、軍務などではないのか普通の私服だったのだ。
と、そんな二人であったが、どうやら困った様に笑うカイトの側もまたこちらに気付いた――逃げ場を探していたため――ようだ。彼が地面を蹴って浮かび上がり、二人の高さにまで移動する。
「よっ」
「あ、ああ……下は良いのか?」
「流石にああも囲まれると移動できんからな……っと」
瞬の問いかけに、カイトはやはり少しだけ困った様に笑いながら3階の床に舞い降りる。そうして、彼が教えてくれた。
「それにどっちにしろ、オレの目的も3階にあったんだ。ちょうど良かった」
「今日は休暇なのか?」
「まぁ……似たりよったりではあるが。仕事の一環……でもあるな」
やはり軍務になると答えられない事は多かったのだろう。瞬の問いかけにカイトは苦笑混じりに肩を竦める。
「で、二人は?」
「ああ、俺達は迷宮に行ったから、その鑑定をしてもらってたんだ」
「迷宮でここになると……河川敷の事務所か?」
「ああ」
「なるほどな。二人の腕なら、あそこが一番良い稼ぎになるだろう」
どうやらカイトからしても、王都の迷宮が一番良い稼ぎポイントになると思われたようだ。
「ということは今は売買の手続き待ちとかか?」
「ああ……良くわかるな」
「オレも時々利用するからな」
「そう言えばさっき噂だとお前も入る事がある、って鑑定士の人が言ってたな」
カイトの言葉にソラがそう言えば、と先の女性鑑定士が言っていた事を思い出す。これに、カイトははっきりと頷いた。
「ああ……色々と良い魔導具が手に入る。特に『復元の光』は貴重だからな」
「あれか……お前なら簡単に手に入れられそうだな」
「なんでだよ。オレでも滅多に手に入らねぇよ」
「そ、そうなのか? レアドロップ率上昇持ちのお前でも?」
それはあれだけ高い値段が付くわけだ。ソラはカイトの言葉に目を丸くする。これに、カイトが怪訝な顔を浮かべる。
「レアドロップ率上昇? なんだそれ」
「え? あ、あれは未来のお前が持ってるだけなのか」
「何を持ってるんだよ、未来のオレは……」
聞いた事もないような力をまた持ち出されたぞ。カイトは未来の自身に対して盛大に顔をしかめて呆れ返る。前にソラ達も言っていたが、やはり未来のカイトの一番すごい所はその特殊能力の数々だろう。それは過去の当人からしても驚きの領域だった。というわけで、ソラと瞬は時間があった事もあり、その後は暫くカイトとの間で雑談を繰り広げる事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




