第3062話 はるかな過去編 ――宝の価値――
『時空流異門』という時と空間の異常現象に巻き込まれ、セレスティアの世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後の時代に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去の時代のカイトや、その配下の騎士達と遭遇。そんな彼らの支援を受けながら、冒険者としての活動を開始させる。
そうして始まった冒険者としての活動であったが、その最初は拠点を整えるための資金調達であった。
というわけで、王都の冒険者を統括するおやっさんの助言を受けて迷宮の攻略に赴いた一同であったが、途中一足先に戻った瞬が砦の防衛戦に乗り出すといったトラブルはあったもののなんとかおおよその迷宮攻略を完了。不要と思しき道具類の鑑定を行って貰っていた。
「……はい、こんな所でしょうか。内訳はこちらになります」
「……こんなするんですか?」
「はい。そのリストの一番上……『無貌の柄』が非常に価値のあるものでした」
「えっと……すんません。どれの事ですか?」
道具の名前を言われた所でソラにも瞬にもそれがなにかわからないのだ。というわけで名前を提示された所でそれがどれかわからず、というわけであった。そんな彼の問いかけに、女性鑑定士が教えてくれた。
「ああ、申し訳有りません。こちらです」
「あ、なるほど……」
女性鑑定士が指し示したのは、最後の最後に手に入れた柄だけの魔導具だ。確かに刀身がなく無貌というには相応しいだろう。というわけで、『無貌の柄』を見ながらソラは内訳書を確認して、仰天する。
「100ゴールド!? これそんなするんっすか!?」
「100!?」
「はい……その魔導具はどんな武器にも変貌する優れた魔導具です。然るべき方が使えばどんな武器にでもなりますし、そうでなくても優れた武器としての性能を有している。しかも刀身が魔力で編まれますので、武器の破損の可能性も低い。それ故、このお値段となります」
「「はー……」」
この世界の通貨単位であるが、基本はカッパー、シルバー、ゴールドという三種類らしい。それぞれ1000カッパーで1シルバー。1000シルバーで1ゴールドとなっていた。とまぁ、それはさておき。女性鑑定士の言葉に驚きあっけにとられた瞬が思わず口を開いた。
「これ、販売価格だとどれぐらいなんですか?」
「そうですね……その状況や時期次第ですが150ゴールドぐらいでしょうか」
あ、教えてくれるんだ。瞬の言葉に思わず制止しそうになっていたソラは拍子抜けした様子でそう思う。ちなみに店頭で普通に販売している時点で店側からすると隠す意味はなかったのだが、ソラもあまりの高価格に気付いていなかったようだ。
「えっと……全部で大体300ゴールド……うわぁ……」
一回の踏破で必要な金額の2割ぐらい稼げちまったよ。ソラは今回の踏破での収入に思わず顔を顰める。金銭感覚が狂いそうだった。そう言ってもここから更に今回掛かった経費などを差っ引かねばならないので、実際の所はもっと利益は下がる。妥当と言えば妥当かもしれなかった。と、そんな彼は気を取り直して女性鑑定士に問いかける。
「あ、そうだ。詳しい詳細っていただけます?」
「勿論です。こちらが今回鑑定士た品の簡易の鑑定書になります。詳細な内容に関しては後日、お申込み書の住所に郵送でお届け致します」
「あ、そうなんっすね……えっと……」
「はい……では、どれをお売り頂けますか?」
どれを残してどれを売り払うべきか。ソラは女性鑑定士の問いかけにリストを見ながら考える。といっても大半は不要なもので問題なさそうで、今回持ち込んだ物は概ね売ってここからの活動資金にして良さそうだったようだ。
「……先輩、なにか必要な物あります?」
「いや、俺の方も問題はないだろう。武器も防具も一通り整っているしな。それに防具に関しては俺の物はなにかの技術が使われたものではないし……」
瞬の防具であるが、こちらはソラの様になにか特殊な技術が費やされているわけではない。強い魔物の革を昔からの製法で鞣したりして加工した軽鎧と呼ばれる類のものだ。
その内側に着込んでいる鎖帷子にしても優れた冶金技術を使われてはいるがこれまた古くからある製法で作られたもので、全身最新技術の塊と言えるソラの防具とは対照的だった。
「了解っす……となると、全部売り払う形で良いっすかね。じゃあ、このリスト全部販売で、今回の鑑定費用は全部それと相殺でお願い出来ますか?」
「かしこまりました。では清算手続きに入ってまいりますので、暫くお時間を頂けますか? 良ければ店内を見て回って頂いても結構ですが……大体30分ほど掛かりますので」
「あ、そうさせて貰って良いですか?」
やはり取引の金額が金額だし、相手が相手なので色々と取り決めを交わさねばならないらしい。というわけで、かなりの時間が掛かる事はソラも瞬も理解して織り込み済みだった。
「はい。ではこちらの番号札を一旦お返し致します。手続きが完了すれば店頭のモニターに表示が現れますので、それを目印に再度受付までお越しください」
「ありがとうございます」
ひとまずはこれで今日の仕事は完了かな。二人は何事もなく終わった今回の精算手続きに胸を撫で下ろす。と、そういえばと瞬がふと女性鑑定士へと問いかけた。
「あ、そうだ……一つ良いですか?」
「なんでしょうか」
「『復元の光』という魔導具が店頭に販売されていた様子なのですが……あれは頻繁に見付かるものなのですか?」
「『復元の光』ですか……もしや、お求めですか?」
「ああ、いえ……もし手に入れられれば、とは思うのですが……」
自身の問いかけにどこか申し訳無さそうな様子を見せる女性鑑定士に、瞬は慌てて首を振る。彼としてもそんな簡単に手に入れられるとは思っていなかったし、あくまで興味本位という所も大きい。これに女性鑑定士も少しだけ頬を緩めてくれた。
「そうですか……いえ、滅多な事では手に入らないみたいです。大体数ヶ月に一つ……ぐらいでしょうか。長い時だと半年売りに出ない事もあります。手に入っても使われる方も多いみたいですし……あれを求めて迷宮に入られている方もいらっしゃるほどと伺っています」
「そんなに……」
ということは俺達が見付けたのは非常に珍しいものだったのか。瞬は女性鑑定士の言葉にそう思う。というわけで、彼は興味本位で問いかける。
「店頭にあったみたいですけど、あれおいくらだったんですか? 俺達が来た時にはすでに売れていたので……」
「そうですね……確か500ゴールドでしたね」
「「ご、500……」」
今回の自分達の収穫を全部合わせたよりも高いのか。それに瞬もソラも思わず頬を引きつらせる。
「そうだ。もし手に入れられましたら、是非お越しください。入り次第すぐに連絡を、と仰られているお客様がいらっしゃいまして」
「「えぇ……」」
そんな高価な物だろうと入荷したらすぐに連絡が欲しいと言えるヤツが居るのか。ソラも瞬も盛大に顔を顰める。というわけで、これまた完全に興味本位で――答えてもらえるとは思っていないが――瞬が重ねて問いかけた。
「誰なんですか? そんな高価なもの……貴族とか?」
「ああ、王国軍ですよ。新造する事も難しい魔導具も多いらしいですね。『復元の光』を常に求められているらしいです。噂では、かの騎士団長様も『復元の光』を求めて迷宮に入られているとか」
「あ、なるほど……」
確かに頻繁に魔族やら他国やらと戦っているというシンフォニア王国軍であれば、『復元の光』の需要はひっきりなしだろう。入荷次第直ぐに連絡を、というのもわかろうものであった。そして相手が王国なら、隠す意味もなかった。というわけで、ソラが問いかける。
「ってことは今回の店頭の物も王国軍が?」
「いえ、今回は大丈夫ということで、一般に出回りました。ですのでこちらに関してはお買い上げされた方については……」
「ああ、いえ。大丈夫ですよ」
単に求めている顧客が居るというだけで、そうでない相手に関しては守秘義務もあるだろう。というわけで、そこらの雑談を少しだけ楽しんだ後。ソラと瞬は個室を後にするのだった。
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