第3061話 はるかな過去編 ――鑑定――
『時空流異門』と呼ばれる異なる時空間に飛ばされてしまうという非常に珍しい現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後の時代に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す事になる過去の時代のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する。
そうして元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させた一同であったが、資金集めのために王都の近郊にある迷宮へと赴きお宝集めに奔走する事になっていた。というわけで、迷宮の攻略を終わらせて一日。一旦ホームに手に入れた道具やお宝の数々を持ち帰った一同はそこでわかる限りを選別。売っても良い、もしくは鑑定して貰うべきだろうという分を持って、ソラと瞬の二人が紹介された鑑定士の所へと赴いていた。
「「……」」
ここで合ってるのか。合ってるんじゃないっすかね。二人は見事な商会の入り口の前で、思わず唖然となって顔を見合わせ無言で会話する。流石に王国側が選任している鑑定士だ。見た目にせよ何にせよ、きちんとしたデパートのような印象があった。
とはいえ、一般市民も普通に受け入れてくれているのか唖然となる二人を邪魔そうに見ながら、人々は中に入っていく。それを見て、瞬が気を取り直す。
「えーっと……と、とりあえず入るか……邪魔みたいだし……」
「そ、そっすね……とりあえず中へ……」
ここまでしっかりしているのだ。総合受付ぐらいはあるかもしれない。二人はそう思いながら――というよりそう思いたかっただけだが――中へと入っていく。そして幸いな事によくある百貨店の様に総合案内所があった。
「あのー……」
「なにかお困りでしょうか」
「あ、えっと。鑑定士の人への紹介状を貰ったんですけど、鑑定士の人ってどこ……でしょう」
「あー……」
なるほど。どうやらソラ達の困惑した様子で、総合案内所の職員がおおよそを理解する。こういった冒険者が来る事は珍しい事ではないらしかった。
「それでしたら、3階の奥。左に受付があります。そちらへどうぞ」
「あ……これですね」
「はい」
「ありがとうございます」
総合案内所の真横に置かれていた百貨店の見取り図を指し示しながらの案内に、ソラと瞬は一つ頭を下げてその場を後にする。そうしてそんな慣れた対応に、ソラも瞬も少しだけ恥ずかしそうだった。
「……みんな考える事は一緒、ってことっすかね」
「まぁ……どこでも良いか、とリストの一番上を適当に選んだだけだから、な……」
おそらく同じ様に考えた冒険者達が同じ様に聞くから、あそこまで慣れた様子だったのだろう。ソラも瞬も完全にお上りさん状態でそう思う。というわけで少しだけ恥ずかしげながらも二人は足早に歩いて案内された事務所まで向かっていく。するとそこだけは彼ら同様に冒険者と思しき人々が多かった。
「へー……買い取り以外にも販売もしてるんっすね」
「買い取ったものをそのまま売ってる……ってわけか。そうか。商会としての営業許可証があればそのまま売る事も出来るか」
「あ、なるほど……」
もしかしたらこの場に居る何割かは入ってきた物を即座に買おうと狙っている者かもしれない。ソラは商人らしい人を見ていた瞬の気付きにそう思う。と、いうわけでそんな冒険者や商人達をかき分け、二人は受付に向かう。
「いらっしゃいませ。何かしらの紹介状はお持ちですか?」
「あ、これを」
「ありがとうございます……ああ、なるほど……わかりました。ありがとうございます。こちらはお返し致します。次回も同じご依頼をお受けになられましたら、そちらをお持ちください」
「あ、わかりました」
差し返された紹介状を受け取って、ソラは一つ頷いた。というわけで、二人は番号札を受け取って備え付けられていた椅子で暫く待たせて貰う事にする。と、そこで瞬が目を見開いた。
「ソラ……あれ」
「ん? あれは……『復元の光』?」
「ああ……売約済みとなっているみたいだが」
「出回るんっすね、あれ……幾らぐらいなんでしょ」
買えるなら一つは買っておきたい。ソラも瞬も結局あの後は一つも手に入らなかった『復元の光』を見ながら、幾らぐらいなのだろうと思う。というわけでその後も店内にて販売されている魔導具の数々を見る二人であるが、やはりどれもこれもがかなり高価な物ばかりだった。
「これは……今回手に入れたな。大体販売価格はこれぐらいか……」
「っすね……やっぱ儲け良いかも……」
今までギルドのサブマスターとして活動する中で、上代価格と仕入価格の関係やその割合などを二人は学んでいた。迷宮攻略で手に入れた魔導具などで不要な物は売る事になるのだが、その時の利益率の設定などの関係で必要だからだ。
というわけで色々と販売されている魔導具を見ながら、二人は念話――流石にこんな話を口では出来ないため――でどれぐらいの利益になりそうかを試算する。
『仕入価格は6……いや、7か?』
『7でしょ……流石に。もしかすっと75とか8?』
『8は流石に無いだろう』
二人が言っている数字は所謂掛率というもので、販売価格に対して仕入価格が幾らぐらいだろうかという話をしていた。7なら販売価格の7割が仕入価格、75ならその75%が仕入価格と二人は言い表していたのである。無論これは業者を相手にする時の言い方なので冒険者から直接買う今回がそれに当てはまるわけではないだろう。というわけで念話で色々と話していた二人であるが、そんな事をしているとすぐに順番が回ってきたようだ。
「7番の方、3番の部屋までどうぞー」
「っと……行くか」
「うっす」
これは良い儲けが期待できそうだ。二人は販売されている魔導具の数々の中に自分達が今回持ち込んだ物もあった事から、少しだけ期待した様子で中へと入っていく。というわけで中に入った二人であったが、そんな二人を待っていたのは若い女性の鑑定士だった。
「「失礼します」」
「はい……今回鑑定を担当させて頂きますグラキエレです。お願いします」
「お願いします」
「では、今回の鑑定品をお見せ下さいますか?」
「はい……点数多いんですけど、大丈夫です?」
「はい」
「じゃあ、お願いします」
女性鑑定士の応諾に、ソラは瞬に頷きかけてそれに瞬が持ってきた道具袋を取り出す。そうしてリストと共に、今回の依頼品の写真を取り出す。
「えっと……全部出すと多いんで写真持ってきました。中、全部入ってると思うんですけど……一応確認お願い出来ますか?」
「……はい。では確認させて頂きます」
驚いた様子を一瞬見せた女性鑑定士だが、逆に少しだけ気を引き締めた様子で頷いて袋の中身を全て確認する。そうして彼女が一つ頷いた。
「はい、大丈夫です。全てあります……では一つ一つ確認していきますね」
「お願いします」
ここからが本番だ。ソラも瞬も僅かに緊張した面持ちで頷いた。そうして、それから暫くの間女性鑑定士が袋の中から一つ一つ中身を検めていくのだった。
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