第3059話 はるかな過去編 ――対大鎧――
『時空流異門』と呼ばれる異なる時間。異なる空間へと飛ばされてしまうという現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後の時代に八英傑と呼ばれる事になる八人の英雄の一人にしてとある王国の騎士団長であったこの時代のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する。そうして彼らの支援を受けながら冒険者としての活動を開始させる一同であったが、一旦は足場を固めるべく資金集めに奔走する事になっていた。
というわけで冒険者を統括するおやっさんの助言から王都近郊にあるという迷宮攻略に臨んでいたわけであるが、それも今は最後のトリとなるボスの攻略にたどり着いていた。
「参式!」
大鎧の魔物が本格的な攻勢を開始させるのを見て、瞬はこれ以上の温存は不要と判断。今まで温存していた魔力を解き放ち、<<雷炎武・参式>>を起動させる。そうして先程までより遥かに強大な雷と炎を身に纏い、間髪入れずに炎に包まれた大鎧の魔物へと肉薄した。
「おぉおおおお!」
雄叫びを上げて炎に包まれた大鎧に肉薄した瞬は魔力と炎を頼みに炎を突っ切る。そうして若干の熱さが彼に襲い掛かるわけであるが、それを無視して彼は一気に刺突を大鎧に向けて叩き込んだ。
「っ、まだ駄目か! だが!」
瞬が込めた力は先程の比較にならない領域だ。故に炎の勢いに負けず大鎧の魔物の堅牢な鎧に激突したものの、鎧を貫くにはまだ足りなかったらしい。
だがしかし、攻撃力としては上がっていたからか僅かに亀裂が入ったのを瞬は確かに見る。と、そうして彼が次の一手を放とうとするその瞬間だ。大鎧の魔物の双肩に取り付けられた魔石が青く輝くのを、彼は見た。
「!?」
なにかが来る。青い輝きと共に炎の勢いが弱まっていくのを、彼は自身に襲い掛かる熱波で知覚する。そうして彼は次なる攻撃を警戒し、その場を飛び退いた。
(水か)
青い輝きが放たれた直後に大鎧の魔物の周囲に立ち昇ったのは水の柱だ。無論こちらも単なる水の柱ではなく、魔力によって生成された魔力を多分に含んだ水だ。瞬の纏う炎だろうと貫通してくるだろう。と、そうして一度引いた瞬に、イミナが声を上げる。
「瞬!」
「っ、了解!」
イミナの拳に蓄積された魔力と気の塊を見て、彼女の意図をおおよそ瞬が察する。そうして今度はイミナが突進し、振るわれる大剣をジャンプで回避。そのまま更に距離を詰めて水の柱まで肉薄する。
「はぁ!」
だぱんっ。何か重量物が水面に落ちるような大きな音が響いて、大鎧の身に纏う水の柱が大きく弾き飛ばされる。更にイミナ自身はその攻撃の反動を敢えて殺さず後ろへと吹き飛ばされる事により、スペースを確保する。そこに、今度は瞬が入り込む。
「おぉおおお!」
水の柱に邪魔をされてイミナの一撃はほぼ無力化されてしまっていた。それはわかっていればこその連携だった。というわけでイミナの作った穴へと、瞬は再度槍を叩き込もうとして、目を見開く事になった。
「っぅ!?」
引っ張られる。瞬は自らの槍が放つよりも前に引っ張られる感覚を得て、思わず困惑する。と、そうして彼が一瞬困惑した所に、大鎧の魔物は容赦なく剣戟を叩き込んだ。
「っ!」
「おらよ! いって!」
マズイ。そう認識した瞬であったが、この攻撃に関しては問題なくソラによって防がれる。そうして自身の横数十センチの所で停止した大剣を見て、瞬は大慌てでその場から飛び退いた。
「すまん! 大丈夫か!?」
「さーすがにキツいっすね!」
流石に自身で受け止めるならまだしも、半透明の盾を遠隔地に顕現させて防ぐのではわけが違う。先程よりも更に強くソラの顔にはしかめっ面が浮かんでいた。とはいえ、まだ笑って冗談が言えるだけ大丈夫とは言えただろう。そうしてそんな彼を見ながら、瞬は先程の一幕を考察する。
(何があった……急に引っ張られるような……む? 魔石が緑色に……)
肉薄して気付かなかったが、魔石の片方が緑色に変色している。瞬は少し離れた事で大鎧の魔物の双肩にある魔石の片方が緑色に変色している事に気が付いた。
(なるほど。風属性で内側に竜巻だか風だかを生じさせて、こっちの攻撃を引き込んだのか……む)
何が起きたかを察した瞬であったが、そんな彼が見ている前で大鎧の残る片方の青色になっていた魔石が緑色に変色する。そうして直後だ。彼自身の身体が大鎧の魔物へと大きく引き寄せられた。
「っ! そういう事もしてくるか!」
「っ」
どうやら引き寄せられているのは瞬だけではなかったらしい。他の面子も全員揃って大鎧の魔物へと引き寄せられていた。が、セレスティアはそれを受けて次の一手を閃いていた。そうして、彼女の身体が宙を舞う。
「っ! セレスティア様!?」
何を考えているんだ。耐えようとすれば耐えられる引き寄せに対して、敢えて自らの身を任せたセレスティアにイミナが声を上げる。そうして一瞬の内にセレスティアの身体が大鎧の魔物まで引き寄せられ、そんな彼女に向けて大鎧の魔物が容赦なく大剣を振り下ろす。
「はっ」
振り下ろされた大剣に対して、セレスティアはそれを理解していた様に袈裟懸けに自らの大剣を振るう。そしてこの激突はどうやら、ほぼ互角だったようだ。激突した大剣同士が弾かれて、僅かに大鎧の魔物の体勢が崩れる。が、それに対してセレスティアはかつてカイトが舌を巻いたほどの剣士でもあるのだ。その反動さえ利用して、即座に次の攻撃に転じていた。
「はぁ!」
自身を引き寄せる風の勢いさえ利用して、セレスティアは先に瞬が生み出した亀裂へと剣戟を叩き込む。その攻撃は寸分違わず亀裂を更に押し広げ、大鎧の魔物の完全に内側まで亀裂を押し広げた挙げ句にその巨体を大きく吹き飛ばした。
「あれは……」
吹き飛ばされた大鎧の魔物の胴体部。そこに収められていたのは黄金に輝く球状の物体だ。考えるまでもなく、大鎧のコアだろう。と、それに目を見開いていた瞬に向けて、イミナが声を掛けた。
「瞬! 一気に叩き込め! 私が動きを縫い留める!」
「っ!」
ぐっと拳を引いて魔力を蓄積させ無数の拳打を放つイミナに、瞬も自身がなすべきことを理解する。そうして、イミナの拳打が起き上がろうとする大鎧の魔物を地面に押し留めているのを見ながら瞬は大きく跳躍する。
「おぉおおおお!」
雄叫びと共に、瞬の身体を覆っていた雷と炎が槍へと収束。強大な魔力が槍に宿っていく。そうして彼は大きく海老反りになって、その槍を大鎧の魔物のコアへと容赦なく叩き込むのだった。
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