第3056話 はるかな過去編 ――廃墟――
『時空流異門』。それは異なる時間軸。異なる空間へと繋がってしまうというかつて起きた時を巡る戦いの余波で発生する様になってしまった時の異常現象。それに巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達であったが、そんな彼らは後の時代に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一角として名を残す事になるこの時代のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する。
そんな彼らの支援を受けながら元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させる一同であったが、ひとまずは足場を固めるべく資金集めに奔走する事になっていた。
というわけで、王都近郊の迷宮へと赴いていた一同は門番との戦いを経て廃墟と化した王宮のような迷宮を進んでいた。
「はぁあああああ!」
門番の次に交戦したボロボロの動く鎧のような魔物に向け、瞬が横薙ぎに槍を振るって兜を打ち砕く。そうして打ち据えた後、彼はその遠心力を利用して回転。背後にまで迫ってきていた骸骨の闘士の肋骨を打ち砕く。
「次だ!」
骨が砕け散って周辺に散らばっていく乾いた音を聞きながら、瞬は即座に周囲を見回す。そんな彼が次に目を付けたのは、ゾンビのような魔物だ。動きは鈍く、のっそりとしたもので瞬ほどの実力があればさほど脅威ではない。
が、最大の脅威はこの魔物は一度に繰り出される数が非常に多い事だった。故に囲まれる前に消し炭にしてしまおう、と考えたのである。
「はっ!」
だんっ。朽ちた石畳を打ち砕くほどの踏み込みでゾンビ型の魔物へと肉薄し、瞬は一突きでその胴体を串刺しにする。そうして、彼は裂帛の気迫と共に槍そのものを炎と化した。
「おぉおおおお!」
これでもう一体。ゾンビ型の魔物を完全に消し炭にすると、彼はそのまま炎と化した槍を横薙ぎに振るって周囲のゾンビ型の魔物を焼き尽くす。が、そんな横薙ぎも一体一体消し飛ばす毎に勢いを失くしていき、先のボロボロの鎧の魔物にぶつかった事で完全に停止する。
「ちっ」
だから包囲戦は厄介なんだ。瞬は忌々しげな顔で舌打ちし、魔力で編んだ槍を消して再度魔力で槍を編む。弾かれた反動で動きが鈍るなら消して動きやすくするのみ。そう判断したのだ。そうして今度は二槍流に切り替えると、片方の槍で返す刀で振るわれる剣を弾いてもう片方の槍で頭部に収められたコアを貫いた。
「次!」
コアを炎で消し炭にして、更にもう片方には雷を宿して加速。残った胴体部を超高速で打ち据えてスペースを確保する。そうして出来た空間に突っ込んで、今度は炎を宿した槍を振るって数体のゾンビ型の魔物を焼き払う。が、倒した所で続々と湧いて出る不死系の魔物達に、さしもの瞬も声を上げた。
「ちっ! ソラ!」
「もうちょいお待ち! 異世界だからかチャージがむっちゃ遅いんっす!」
「早くしてくれ! 倒せはするし堪えられもするが、このままだと物量で蹂躙されるだけだ!」
「わーってます!」
瞬の怒声に対して、ソラは声を荒らげながらも<<偉大なる太陽>>へと魔力を収束させていく。何が起きていたのか。それは簡単だった。
「流石にモンスターハウスはまだわかるがな! まさかほぼ無尽蔵とはな!」
「封鎖されるのも理解出来ます……ねっ!」
ソラを中心として三角形を構築しソラを護衛するイミナとセレスティアの二人もまだまだ余裕はある様子だが、流石にこれから先を想像して顔には苦いものが込み上げていた。とはいえ原因も掴めていたし、対処も定まっていた上、無尽蔵に湧いて出てくる以外に厳しいものは無いのだ。必死さはなかった。そうしてこの部屋に突入して十数分後。ソラが準備を終わらせる。
「出来た! 先輩! 飛びます!」
「わかった! セレス!」
「わかりました! イミナ!」
「はっ!」
瞬がセレスティアへと声を掛け、そんな彼女がイミナへと声を賭ける。そうして一瞬で四人が自らの動きを認識し合うと、最初となるソラが<<偉大なる太陽>>を掲げて地面を蹴って天井スレスレまで浮かび上がる。
「<<聖なる浄化>>!」
<<偉大なる太陽>>から純白の輝きが放たれて、周囲を埋め尽くすほどの不死系の魔物達を焼き尽くしていく。その輝きは足元を覆っていた薄暗いモヤさえ吹き飛ばすほどで、次の増援が生まれようとした瞬間に消し飛ばす。とはいえ、少し強い個体は完全には消し飛ばせていない。故にこの無限増援の発生源への道を作るべく、セレスティアが強撃を放った。
「はぁああああ!」
気合一閃。裂帛の気合と共に放たれた巨大な斬撃が黒いモヤの塊までの道を生み出す。そうして生まれた道へと瞬が地面を蹴って突っ込んでいくわけであるが、発生源が抑えられるのを黙って見過ごすわけでもない。
故に、聖なる光に焼き尽くされながらも動く鎧達に向けてイミナが神速を以って肉薄。聖なる光により脆くなった鎧を一撃で打ち砕いて殲滅していく。
「はぁ!」
黒いモヤの塊まで後一歩。そこまでたどり着いた瞬は槍を一つに切り替えその一つに全ての力を収束させると、一切の容赦なくモヤの塊の中心目掛けて槍を突き立てる。そうしてなにか固いもの同士がぶつかった際に生ずる澄んだ音が鳴り響いて、周囲へと黒いモヤが勢いよく吹き出した。
「っ! やり切れなかったか!? なら!」
どうやら仕留めきるには至らなかったらしい。瞬は吹き出した黒いモヤを無数の槍を生み出して強引に相殺させていきながら、上を見上げ声を上げる。
「ソラ! プランBだ!」
「了解っす! おぉおおお!」
瞬の声掛けを受けて、ソラは虚空を蹴って急降下。<<偉大なる太陽>>を掲げる様にしながら、黒いモヤが吹き出す中へと突っ込んでいく。
「おらぁああああ!」
ちょうど瞬が砕いた割れ目目掛けて、ソラは<<偉大なる太陽>>の切っ先を叩き込む。そうして彼は当初の打ち合わせ通り、内部へと聖なる光を一気に注ぎ込んだ。
「……ふぅ」
黒いモヤの塊が内側から放たれる聖なる光に焼き尽くされ消し飛んだのを見て、ソラがほっと胸を撫で下ろす。そしてどうやら、発生源が絶たれた事で他の魔物達も消え去ったようだ。一同その場で堪らず腰を下ろす。
「なんとか、か……はぁ」
「流石に多かったですね」
「ええ……まぁ、伊達に四迷宮以上と言われるわけではないという事なのでしょう」
これは暫くの間ソラかセレスティア様のどちらかは同行して貰わないと駄目そうだ。イミナは伝え聞く限りの難易度に見合った罠の数々と強敵にそう思う。と、そうしてその場に腰を下ろして一休みしていた一同であったが、ソラが唐突に声を上げた。
「んぁ!?」
「どうした?」
「び、びっくったー……あ、すんません……と、ととと!」
やばそう。ソラは目の前で光り輝く空間に、四つん這いになりながら犬の様に距離を取る。かなり不格好だったが、そんなのを気にしていられる状況でもなかったようだ。そうして数秒後。ごとごとごと、となにかかなり重そうな物質が何個も地面に落下する音が鳴り響いた。
「うお……」
「これは……」
「す、すごいですね……」
出てきた宝箱は全部で5つ。これだけ一気に現れるのは滅多にない事だった。が、それだけ先の罠が厄介なものだと認識されているという事でもあり、確かにこの面子で物量に押しつぶされかねなかった事を考えれば報酬は難易度に見合うものだっただろう。というわけでそんな宝箱を開いて、中を確認する。
「これは……指輪か? だが単なる指輪……でもなさそうだな」
「こっちはなにかの魔導具っすね……なんだろ、これ」
「うん? それは……なんだろうな」
何なんだろう。瞬はソラが自身の取り出した指輪を袋に仕舞いながら、ソラが取り出した懐中電灯のような先端にガラスが取り付けられた奇妙な筒を見て小首を傾げる。と、そんな二人の困惑した様子にセレスティアとイミナ――こちらもそれぞれ魔導具らしいなにかを手に入れていた――が二人の方を見る。
「それは……うそ」
「なんだと!?」
「え? あ、知ってる……んですか?」
「あ、ああ……だがまさか、そんな……」
ここで手に入るなんて。驚愕した様子のソラの問いかけに、ソラを更に輪をかけて驚愕した様子のイミナが頷いた。そしてそんな彼女と同様に驚愕の表情を浮かべていたセレスティアが、この懐中電灯のような魔導具の事を教えてくれた。
「『復元の光』……たった一度だけですが、壊れた物を完全に復元するという魔導具です」
「へー……壊れたものを。便利だな」
たった一度だけではあるが、壊れたものを復元できるというのだ。特にこの戦乱の時代には非常に有用だろう。というわけで感心した様子のソラであったが、この時点ではこの魔導具の凄さを理解出来ていなかったようだ。
「便利なんてものじゃない……通常は復元出来ないような超古代の魔導具でも復元出来てしまうんだ。無論、このサイズに見合った物にはなるので砦や飛空艇ほどの巨大な物は無理だが……」
「ちょ、超古代のでも?」
「ああ……しかも修復できる魔導具の精密さや難易度に一切関係なく復元してしまう……そうだな。ソラ達でわかる様に言えば、ユスティーナ殿が作った最先端の魔導具を一切のデメリットもなく復元してしまう、というものという所か。無論、完全に粉砕され一部の部品が失われていても問題はない。それも含め、復元される」
「「……」」
あ、それは凄まじいわ。ソラも瞬もティナの魔導具を例に出され、それさえ復元してしまえるという『復元の光』に思わず顔を顰める。
「何が何でもこれは使わず持ち帰ろう。もし何かがぶっ壊れても修理できる、ってのは強すぎる」
「それが良いだろう。もし他にも手に入るのなら、一つぐらいなら売っても良いかもしれないしな」
一応ノワールという修理の伝手は手に入っているものの、それでも完璧に修理できるかどうかは定かではないのだ。万が一の切り札が手に入った、というのは資金集め云々を別にして強すぎた。
というわけで、ソラは『復元の光』をこういった役立ちそうな物が手に入った場合に備えて用意しておいた小容量だが保管能力の高い袋へと仕舞い込む。
「他のも鑑定したら色々と良さそうな可能性は高そうですね」
「ああ……これは期待できそうだな」
金銭面であれば四迷宮を上回っているという触れ込みに嘘はなさそうだ。ソラの言葉にイミナもはっきりと頷いた。そうして、一同はさらなるお宝を求めて奥へと進んでいくのだった。
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