第3054話 はるかな過去編 ――二つの鎧――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、異なる世界異なる時間軸へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らが飛ばされたのは、どういうわけかセレスティア達の世界の過去の時代だった。
そんな時代は後に戦国乱世と呼ばれた動乱の時代であったのだが、幸か不幸かこの時代を終わらせたと言われる八英傑の一角として名を残す事になるこの時代のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する事になっていた。
そうして彼らの支援を受けながら冒険者としての活動を開始させる一同であったが、今はひとまず足場を固めるべく資金集めに奔走する事になり、王都近郊にある迷宮へと足を運んでいた。というわけで、そんな迷宮でトラップに四苦八苦しながらも一同はなんとか、二体の鎧との初の戦闘に及ぶ事になっていた。
「っと!」
がんっ。男性型の鎧の抜き打ちを盾で防いだソラであるが、ほぼほぼ不意打ちじみた一撃だ。受け止められたのは彼の腕前だからこそで、それでも石畳の上を削りながら後ろへと飛ばされていた。
「ソラ! 無事か!?」
「大丈夫っす! っと!」
次が来る。瞬は男性型の鎧が次を放つべく動き出したのを見て、今度はぐっと足に力を込めて身を固める。そうして、直後。男性型の鎧がソラへと剣戟を放った。
「っ」
「はぁ!」
ソラが攻撃を防いだ直後。その瞬間を狙いすまして、雷を纏った瞬が攻撃を仕掛ける。そうして放たれる刺突であるが、これに男性型の鎧は篭手の曲面を利用して器用にスライドさせる。
「何!? ならば! はぁ!」
「っと! 先輩! 俺居るんっすからもうちょっと方向考えてくださいよ!」
刺突が曲面を利用して無力化されたのなら、打撃を叩き込むまで。そう判断した瞬が回し蹴りを男性型の鎧の側面に叩き込んだわけなのであるが、その衝撃はソラにも及んでいたようだ。彼がしかめっ面で抗議の声を上げる。
「あ、すまん! 大丈夫か!?」
「まぁ、なんとか!」
「良し……ふぅ」
流石に今の一撃は無作為だったかな。瞬は攻撃そのものについては正解だった様子だ、と思いながらも少しだけ迂闊だった事を反省する。と、そんな彼が唐突に身を屈める。
「っ!」
「瞬! 大丈夫か!?」
「ええ! っと! 次はこっちか!」
このまま男性型の鎧を攻めきるか。そう思っていた瞬であったが、やはりそうは問屋が卸さないらしい。彼が追撃に入るよりも前に女性形の鎧がイミナ・セレスティアとの戦闘を中断させ、こちらに割り込んできていた。その一方で男性型の鎧はセレスティアへと切り込んでおり、どうやら選手交代というところであった。
「っ」
速い。瞬は純白の女性型の鎧が翼を羽ばたかせ、細剣を手に滑る様にこちらへと肉薄するのを見る。これに彼は雷を利用して動体視力を加速。女性型の鎧の動きをコマ送りの様に遅くさせる。
(っ! 刺突は囮か!)
やはり単に速いだけではないらしい。瞬は羽ばたく翼の破片がこちらに舞い上がろうとしている事に気が付いて、僅かに眼を見開く。
「はぁ!」
瞬は地面に槍を突き立てて石突を頂点として片手だけで逆立ちの様に浮かび上がる。そうして立ちふさがった槍に対して、女性型の鎧は身を捩って急回転。その横を突き抜けて、急上昇を掛けようとする。が、瞬に注目し過ぎた。直後、その眼前に半透明の壁が出現する。
「とぉ!」
「助かった!」
「うっす!」
激突の大音を聞きながら、瞬は腕の力だけで跳び上がって地面に着地。激突の反動で地面に叩きつけられた挙げ句、ソラが更に半透明の壁を押し込んだ事で地面に押し付けられる女性型の鎧へ向けて地面を蹴った。
「はぁ! っ!?」
「はぁ!?」
躱された。瞬は自身の槍が直撃する直前に女性型の鎧が消えたのを見て、僅かに眼を見開く。そしてどうやらこれは彼が幻視させられたわけではなく、ソラの腕からも押し込んでいる圧力が消えていたようだ。彼の驚きの声も響いていた。
「「っ」」
どこだ。瞬とソラの二人は消えた女性型の鎧の気配を探るべく、意識を研ぎ澄ませる。そうして周囲の気配に意識を研ぎ澄ませた二人であったが、答えは意外なところから訪れた。
「きゃあ!」
「っ! 何!?」
「そっちか! っぅ!?」
セレスティアの悲鳴とイミナの困惑の声で瞬がそちらに女性型の鎧が移動したのを察した直後。意識がそっちに取られた瞬に向けて男性型の鎧が斬りかかる。これに彼は大慌てで身を捩り、間一髪で剣戟を回避する。
「先輩!」
「問題ない!」
「りょーかいっす! おらぁ!」
身を捩り体勢を崩したところに攻撃を叩き込もうとする男性型の鎧に、ソラがタックルを叩き込んで強引に弾き飛ばす。そうして弾き飛んだ男性型の鎧へと体勢を立て直した瞬が攻撃しようとした、その瞬間。今度は女性型の鎧へと切り替わる。
「なぁ!?」
マズイ。瞬は自身が男性型の鎧である事を前提として攻撃を叩き込もうとしていたが故に、攻撃が空振る事を理解する。が、すでに攻撃は放たれた後だ。そんな彼のがら空きの胴体に向け細剣の剣戟が叩き込まれんとした直後。その横っ面をイミナの拳が打ち据える。
「貴様の相手は私だったろう!」
「はぁ……すいません!」
「構わん! が、どうやらこいつらは位置の入れ替えとある程度近くへの瞬間移動ができるらしい!」
「なるほど……」
それでソラの重圧から逃れたし、いきなり男性型の鎧と女性型の鎧が入れ替わったのか。瞬はイミナの言葉でそれを理解する。そしてそれなら、攻撃方法も定まろうものであった。
「イミナさん!」
「わかった! タイミングはこちらに合わせてくれ! 全速力ならそちらの方が速い!」
どうやら考えた事は一緒というわけなのだろう。瞬の声掛けにイミナは即座に応ずる。
「了解です! ソラ!」
「セレスティア様!」
「「了解!」」
入れ替わるのなら移動するのなら。それを踏まえた上で攻撃するのみ。四人はそう判断し、即座に行動に入る。そうして、セレスティアとソラが同時に攻撃を振るう。
「「はぁ!」」
振るうのは大ぶりで、攻撃範囲の広い一撃だ。これに男性型の鎧も女性型の鎧も防御の姿勢を取る。当然だが移動した先にも攻撃が及んでいる以上、移動したところで意味はない。そうして両者が攻撃を防いだと同時に、その胴体。どちらが入れ替わってもどちらにも直撃させられるような攻撃を瞬とイミナが同時に叩き込んだ。
「「はぁ!」」
がぁん。ほぼ完璧に同時に、一撃が叩き込まれる。そうして漆黒と純白の鎧の中央にひび割れが入って、二つの鎧が完膚なきまでに砕け散るのだった。
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