第3050話 はるかな過去編 ――水辺――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。それも戦国乱世と呼ばれていた時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後の時代にて八英傑と呼ばれる八人の英雄達の一人として名を残す事になるこの時代のカイトや、その配下の騎士達と会合を果たす事になっていた。
そうして彼らの支援を受けながら冒険者としての活動を重ねていた一同であったが、その前に一旦足場を固めるべく迷宮へと挑む事になるものの、その途中で起きた王都北東の砦への救援に向かうなどしつつ、日々を過ごしていた。
というわけで、北東の砦の救援に出ていた瞬が戻ってきた翌々日。元々瞬の怪我は大したことはなかったこともあったため、ソラと瞬、そしてこちらの世界が地元のセレスティアとイミナの四人は一度おやっさんから貰った地図を頼りに王都に近い所にある迷宮の調査に赴く事になっていた。
「そう言えば二人もこの迷宮に来た事は?」
「私はありません……イミナは?」
「私も……ありませんね。そう言えば噂さえ聞いた事がなかったかもしれません」
「そういえば……今更ですが思い出せば何も聞いた覚えがないですね」
四迷宮に関しては四騎士達の家が存続しているので言い伝えで残っていたが、この王都の迷宮に関しては何も伝わっていなかったらしい。そんな事を思い出して、しかし彼女らは首を振る。
「いえ……もしかするとシンフォニア王家には伝わっていたのかもしれませんね。更に言えば元々この地はカイト様が治められていらっしゃいましたし……色々と封印されていた可能性は高そうです」
「ああ、そういえば後の時代にはカイトが四迷宮も封印していたんでしたっけ」
「危険だということでな。が、簡単に感じられた。おそらく時代と共に難易度が上がってしまったんだろう」
実のところ、迷宮の難易度は不変というわけではなく、時として変動してしまう事があるらしい。これについては何故か、と問われても誰もわからないが、そういう事がある事だけは事実でそれは一同も理解していた。とまぁ、そんな事を話しながらイミナの案内で川辺へと向かうことしばらく。王都に水を供給する川へとたどり着いた。
「これが、旧王都へ水を供給していたと言われるサラス大川だな」
「はー……」
「ず、随分と大きいんだな……これ、湖じゃないんですか?」
「川だ。まぁ、対岸が見えないぐらいには大きいので湖と勘違いする者も多いそうだが」
大川というのでどんな川なのだろうと思っていたが、思った以上だった。そんな様子で驚愕を露わにする地球組二人に対して、イミナは少しだけ嬉しそうに大川を紹介する。そんな彼女を笑いながら、セレスティアが一応の事を教えてくれた。
「といっても流石に狭い所はもっと狭いですけどね。王都近郊の大川はひときわ広くなっているみたいです」
「まぁ、そうですね。もっと南や北の果てだと対岸が見える程度には狭くなる。ここがひときわ広いんだ」
「なるほど……それで、その川の管理事務所というのは?」
「それか」
兎にも角にも管理事務所へ行かない事には何も始まらない。というわけで、瞬の問いかけにイミナは改めて地図を手に、自分の記憶を思い出す。そんな彼女に、セレスティアが問いかける。
「なにか思い出せそうですか?」
「多分、この場所やらから考えてやはりあの倒壊した建屋……が、そうだったのかもしれませんね」
「ああ、例の……」
「ええ。情報が無くおそらくという所でしたが」
以前言われていたがシンフォニア王国の王都はこれから数百年先に一度崩壊し、カイトが廃城の賢者と呼ばれる事になり別の地にて再興している。
なので今の王都の付近は荒れ果てており、この河川の管理事務所も同様に荒れ果て倒壊してしまっていたそうだ。そして王都が崩壊していたことから情報がなく、誰もがおそらくそうなのではと思っていたが結論は出ていなかったらしい。
とはいえ、それはあくまでも管理事務所だけ。河川はあいも変わらず存在していたし、地形もほとんど変化はなかったようだ。イミナは慣れた足取りでそちらへと案内を開始する。
「良く来るんですか?」
「いや、あまり来る事はないが……夏場などの暑い時に軍学科の者が川辺での訓練を行う事があるんだ。その際、わかりやすいと倒壊した建物を目印にしていてな。急な雨に何度か入っても居るんだが……」
迷宮の入り口があったとは思わなかった。ソラの問いかけに対して、イミナは少しだけ懐かしい様子を見せながら答える。そうして、更に進むことしばらく。少し大きな建物が姿を露わにする。
「これは……思ったより大きいですね」
「ああ……健在な姿は私も見た事がないが、思った以上だ」
建物の規模としては二階建て。広さは一般的な小学校程度だろう。単なる河川の管理事務所としては異様な大きさと言えた。とはいえ、それも無理はなかったかもしれない。
「多分ここまで結構遠かったんで、夜を過ごすための宿直室? そういうのとか迷宮への挑戦者のための宿も兼ねたりしてるんじゃないですかね。そういったのを考えると結界の展開が出来る様にもしておかないとですし」
「「あ、なるほど……」」
それはあり得るかもしれない。思った以上の大きさに驚きを浮かべていた瞬とイミナであったが、ソラの推測を聞いてなるほどと納得を露わにする。ちなみにこの彼の推測は正解だったようで、ここに勤める兵士のための宿泊施設やら食堂やら医務室など色々とあるため、この規模にどうしてもなってしまったそうだ。
それになんといっても、この河川は王都に水を供給しているのだ。毒やらを撒き散らかされない様に注意する必要もあり、管理の人数も多いらしかった。
「まぁ、良い。とりあえずは中に入るか」
「はい」
イミナの言葉に従って、一同はとりあえず河川の管理事務所へと向かっていくのだった。
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