第3049話 はるかな過去編 ――帰還――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後の時代には八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す事になるある種の前世のカイトや、その配下の騎士達との会合を果たす事になっていた。
そうして彼らの支援を受けながら冒険者としての活動を開始させる一同であったが、ふとしたことから一旦は足場を固めるべく資金集めに奔走し、ホームの改修を行う事にしていた。
というわけでホームの改修について冒険者を統括するおやっさんと話をしていた瞬であったが、その最中に訪れた急報をきっかけとして冒険者達と共に魔族に攻撃されている砦の防衛作戦に参加。魔族達の策略により危機的状況に陥ったものの、グレイス達の到着によりなんとか危機を脱する事が出来ていた。そうして、数日。砦の再建やらに尽力した瞬は、おやっさん率いる冒険者達と共に王都に戻っていた。
「ふぅ……」
「あ、先輩。お疲れ様っす……話聞いたんっすけど……大丈夫でした?」
「ああ、ソラか……何やってんだ?」
「いや、庭の掃除っすね……部屋の掃除を由利達がやってるんで、ぼさっと突っ立ってないで外の掃除でもしてこいって……」
「そ、そうか……お前もなんかだんだんカイトに似てきたな」
どうやら瞬が北東の第二砦の防衛に出ている間に、ソラ達も帰還していたらしい。今日は朝から休みにしていたようで、溜まっていた洗濯物を干したり掃除をしたりとしていたらしかった。というわけで、そんな彼は瞬の言葉に笑った。
「それ笑えないっすね」
「あはは……で、まぁ俺はこの通りだ。なんとか五体満足ではあるが……」
「ダメージは、って所っすか」
「ああ……酒呑童子の力も使ってこれだ。なかったら危うかった」
「え゛」
酒吞童子と言えば渡辺綱を相手にしても傷一つ負わないような、厄災種の攻撃を裏拳一つで弾き飛ばすような超絶の猛者だ。その猛者の力を使ってさえ満身創痍になっているという状況に、ソラは頬を引きつらせる。それに対してため息を吐いた瞬であったが、そんな彼が思い出した様に告げる。
「ああ、そうだ。そう言えば今回の一件で一応王国側から見舞金と報奨が出るらしい。もし届いたら受け取っておいてくれ。一応パーティ扱いになるそうだから、俺のサインじゃなくても良いらしい」
「あ、うっす……あ、とりあえず中入ります? 何があったかとか情報共有もしときたいですし……」
「そうだな。そっちの状況やらも聞いておきたい……セレスティアやイミナさんは?」
「あ、そっちも昨日の夕方戻ってます。俺らは昨日の昼ですね。本当は一日早く出来たはずなんっすけど……そっちの影響があったらしくて。馬車の出発が遅れたんっすよ」
まぁ、当然だがあれだけの戦闘が繰り広げられたのだ。色々な所から戦力は供出される事になり、その再編やら色々とで馬車にも遅延が発生していたらしかった。とまぁ、それはさておき。中に入った二人はそのままセレスティアらを交え、今回の一件についての情報を共有する事になる。
「……銀剣卿!? あの銀剣卿か!?」
「それは、あの……あの銀剣卿……ですか?」
「え? いや、すまん……他にも銀剣卿というのが居るのか?」
銀剣卿と戦った。そう聞いたイミナが絶叫にも近い様子で目を見開き、セレスティアが困惑気味に問いかける。が、そう言われても瞬はこの世界の魔族には明るくないのだ。なので困惑気味に問いかけるしかなかった。これに、セレスティアもイミナもそれはそうだと落ち着いて話をする事にした。
「すまん……銀剣卿というのは我々の時代では魔王の中でも最優とも言われるほどの古強者だ。父に銀閃卿というのも居てな。それと混同される事が多いんだが……銀剣卿の方だったら良く生き残れたものだ」
「ま、魔王……」
確かにあれほど強かったのならそう呼ばれても不思議はないかもしれない。瞬はイミナ達の時代における銀剣卿の武名を聞いて、思わず頬を引きつらせる。と、そんな彼だが砦に滞在していた数日の間にカイトから聞いた話を思い出す。
「ああ、いや、だがどうだろう……そう言えばカイトから最高位の魔族ではないからまだ良かった方と言う事ではあったが」
「……そうか。この時代は過去だから、銀剣卿もまだその程度しかなかったのかもしれないのか。どうにせよ高位の魔族ではあるのだから、師団長や軍団長級かもしれないがな」
「どうにせよ、よく生き残れたものとしか言えないでしょうね」
「ですね……にしても、銀剣卿か」
また因果なものだ。イミナはセレスティアの言葉に同意しながら、自分達の抱える因果を思い出して嘆息する。これにソラが問いかけた。
「なにかあったんっすか?」
「ああ……銀剣卿は我らの時代にはちょうどこの大陸を攻める部隊を率いている謂わば総司令官だ。何度も姿を見せているが……ああ、そうだ。確認だが、こんな男に間違いないか?」
そう言えば父か息子か確認するのに一番手っ取り早い方法があったんだった。イミナはそういえば、と懐から自分達の時代で使われている小型のカメラを取り出す。そうして何枚かの写真の中から、銀剣卿の写真を取り出した。
「これだ」
「ああ、この男で間違いないです。銀灰色の剣を持つ長髪の男……うん。間違いない……え。間違いない?」
「ああ、相手は魔族だ。数百年経過していても見た目に変化がなくても不思議はないだろう」
なんで自分が見知ったままの姿でイミナ達の時代にも居るのだろうか。そう困惑した瞬であるが、イミナは懐にカメラを仕舞いながら笑う。
「ああ、なるほど……とはいえ数百年後ならより強そうですね」
「強い。少なくとも私達が束になっても敵わないぐらいにはな」
「それほど……」
現在でさえとんでもなく強いのだ。それが数百年先になると何をか言わんやでしかなかっただろう。というわけで、その後はしばらくの間一同はこの時代の魔族についての注意点や他にどんな魔族が居るかなどについての情報共有を行う事になるのだった。
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