第3048話 はるかな過去編 ――種明かし――
『時空流異門』と呼ばれる時の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らはセレスティア達の時代には八英傑と呼ばれる八人の英雄達の一人と呼ばれる事になるこの時代のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する。そんな彼らの支援を受けながら元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させるわけであるが、一旦は資金集めに奔走する事になっていた。
というわけで資金集めを兼ねて迷宮へと赴いた一同であるが、それを一足先に終わらせた瞬は資金集めの目的の一つであるホームの改修工事の相談で冒険者を取りまとめるおやっさんとの相談をしていたわけであるが、そこに舞い込んできた急報をきっかけとして冒険者達と共に王都北東にある砦の救援に赴く事になっていた。そうして、戦いの終結後。おやっさんと共に戦っていた瞬は遅れてやってきたカイトと合流していた。
「そうか……はぁ。ギリギリセーフ……という所だったか。サルファ。そちらから見て侵入はどうだ?」
『問題ありません。まだ最終防衛ラインは無事です』
「あれに気付かれた様子は?」
『大丈夫かと。あの探知網は軍部でもアルヴァ陛下に近い最上層部しか知らないはず。そこはまだ口が固い』
これは軍の中でも最上層部や展開に尽力したカイト達しか知らない事だが、実は王都の周辺にはこの砦を結ぶ形で中に入り込んだ者を検知する結界が構築されているらしい。砦が地脈を結ぶ形で構築されている理由の一つだった。
「だな……とはいえ、警戒はされていそうか」
『おそらく。でなければ数人先行させていても不思議はない……おそらく何度かの戦闘行為で理解したのでしょうね。いえ、もしかするとこちらが探索してすぐに見つけ出している様子から、悟ったのかもしれません』
「どちらでも良い。突破されないなら」
『そうですね……ああ、僕は一度戻ります。今回は見てくれだけの兵隊……でしたし』
「そうだな。すまん、急に声を掛けちまって」
『いえ』
カイトの感謝に対して、サルファが一つ笑う。実のところ、今回サルファが率いている様に見えるエルフの兵士達は彼の率いる都の精兵なぞではなかった。
救援に駆けつけた部隊の一部をエルフに偽装させ、カイトが持っていた――こういった作戦が良くあるので持っている――偽装用の兵装を装備させ待機させたのだ。グレイス達が到着した事と合わせ、都からの増援が来ている様に勘違いを促したのであった。
「ふぅ……ああ、おやっさん。すんません」
「おう。大変だな、騎士団長様は」
「あはは……にしてもなんとか間に合った」
「ほんっとにギリギリのタイミングだったがな」
本当に後数分遅れていれば死んでいた。おやっさんはカイトの言葉に心底そう思う。というわけで、そんな彼がカイトに問いかける。
「で、カイト。お前さん何があって出ていたんだ? この様子だと乗せられた、って感じなんだろうが」
「ああ、それか……実際、乗せられてたみたいだな。ここと南西の砦に攻め込まれてたみたいだ」
「……ん? お前さん達は確か……」
「ああ。南東の端。『幽谷』に行ってた……あっちはあっちで大変だったがな」
「……で、今こっちか?」
「ここに居るだろ」
まさかそんなシンフォニア王国の果てからここに間に合ったのか。おやっさんはあっけらかんと笑うカイトに苦笑する。それは間に合わないと想定しているはずだった。
「どうやったんだ、お前さん」
「気合で乗り切った」
「だからその気合ってなんだよ……」
「姫様の裏技だよ。そいつの効果範囲を大拡大して、オレ以外にも適用。ごっそり魔力は削られたがな……ま、なんとかって所か」
おやっさんの問いかけに、カイトは右腕を僅かに上に上げて手の甲に浮かぶ龍の紋様――双龍紋とは別――を浮かび上がらせる。これがカイトがヒメアと専属騎士の契約を結んでいるという証で、これを使用する事により様々な事が出来るのであった。
「なるほど……確かに砦なら王都からなら近いか」
「そういうこと……で、サルファが偶然王都に来ていたから、手を借りたって感じだ」
「なるほどな……それでさっきの話ってわけか」
「そういうこった……まー、つっても。これをやるのに陛下のお力添えもあった。色々と裏技やってようやく、って感じだった。間に合ったのは奇跡的かもな」
本来は自身しか呼び出せないのを、自身配下の騎士団をまるごと王都まで転移させたのだ。その困難さは並々ならぬもので、カイト達も正攻法では無理だったのである。
「そうか……こっちとしちゃ間に合ってくれたなら御の字って所だ」
「そうだな……大変なのはこっからだが。おやっさん。人手を借りたい」
「わかってる……口の固い信頼の置けるヤツを見繕ってやる。こんな事を何度もされちゃ俺らも困るからな」
「ああ。オレ達はオレ達でここまで入り込めた道を探す必要がある。内偵、頼む」
今回おやっさんも察していたが、こんな奥深くまで魔族達が悟られる事もなく入り込めたのには何かしらの内通者が欠かせない。どこかに魔族に通じていた者が居るはずで、それを探らねばまた同じ事が起きてしまう。早急に探さねばならなかった。
「おう……ああ、そうだ。それはそうとして。怪我した奴らの手当やらは任せて良いか?」
「それは勿論だが……何かあったか?」
「いや、俺は瞬と一緒にここから少し離れた所にある薬草の群生地へ向かおうと思ってな。回復薬はしこたま必要だろう……瞬、良いか?」
「あ、大丈夫です。幸い俺の怪我はさほどですし……」
「ああ、なるほど……それならちょっと待ってろ」
おやっさんの指摘と瞬の承諾を受けて、カイトはそれを尤もと判断。後処理を行う騎士の一人を呼び出す。
「団長。なんでしょう」
「何人かオレと共に来い。回復薬の原料になる薬草の群生地が東にあっただろ。そこに向かう」
「あ、わかりました。それなら足の速いヤツの方が良いですね」
「ああ。支度が整い次第、すぐに来る様に言ってくれ。ついでにグレイスとライムの二人にはオレが離れるとも」
「はっ!」
カイトの指示を受け、若い騎士が敬礼で応ずる。そうして彼が去っていったのを見送って、カイトがおやっさんに告げた。
「良し。ここじゃ邪魔だから、東側で待っていてくれ。オレはエドナに荷物を運ぶ用の鞍を用意する。馬車も一台あった方が良いか」
「いや、馬車もそうだが、急いだ方が良いだろう。足の速い馬で一旦急場をしのいで、後でなんとかした方が良くないか?」
「ふむ……確かにそうだな。その線で進めるか」
可能なら一気に回収してしまいたい所だったが、そう言ってもいられない状況でもある。というわけで、カイトもまずは急場しのぎを優先する事にしたようだ。
というわけで、戦いを終わらせた瞬はカイトやおやっさん、数名の騎士と共に薬草の群生地へと赴き、それから数日は砦の復旧に尽力する事になるのだった。
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