第3044話 はるかな過去編 ――猛攻――
『時空流異門』という時空間の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後の時代において八英傑という八人の英雄の一人にしてその中心人物の一人と名を残す事になるこの時代のカイトや、その配下の騎士達との会合を果たす事になる。
そんな彼らの支援を受けながら、元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させる一同であったのだが、その最中。ふとしたことから足場を固めるべく資金調達に奔走する事になり、幾つかに分散して迷宮攻略に赴いていた。
そんな中で一足先に迷宮攻略を終えた瞬は冒険者を統括するおやっさんと話をしていたわけであるが、そこに舞い込んできた砦の救援依頼を受けシンフォニア王国に属する冒険者達と共に王都北東の第二砦とやらの救援に赴いていた。
「思ったほどは釣れなかったな」
「放っておけばまだ来る……だから逸るな」
現れた高位の魔族は四人。そのうち一人が生み出そうとしていた超高密度の魔力球をまた別の一人が破壊する。
「あ、おい」
「砦の破壊は最終的な目的だ……最優先は周辺の増援を釣り出して王都の防備を削る事だ。大魔王様の作戦を忘れるな」
「あいあい」
どうやらこの圧倒的な強者達をして、大魔王とやらは圧倒的らしい。大魔王の作戦と言われて砦ごと全てを破壊しようとしていた魔族があっけらかんと魔力を消失させる。
「……やべぇな、こりゃ……瞬。いつでも逃げる準備はしておけよ」
「逃げられますかね、これ」
「無理だろうなぁ……」
どうやら自分達は完全に釣り出されてしまったらしい。おやっさんもここに来て今回戦いが長引いていた理由を理解する。魔族達は敢えて自分達高位の魔族が居ない様に装って戦いを長引かせ、王都や周辺の砦から増援を釣り出して戦力を削ごうと目論んでいたのだろう。
(ちっ……カイト達が王都を離れてる、って情報は完全に流出してる、ってわけかよ。どこのバカだ……いや、バカなら良い。入り込まれていたら面倒だ)
当然だがカイト達が王都を離れているという情報は軍事機密に属する情報だ。おやっさんが知っているのは彼らの不在時には王都防衛の一角を担うためで、冒険者協会で知っているのはごく一部だ。無論それは軍も同様のはずで、それが露呈していたという事は即ち内通者の存在が考えられた。
と、そうして両軍沈黙した戦場で、まるでそれを気にせず四人の高位の魔族達が動き出す。それを見て、おやっさんが声を大にした。
「……気合い入れろ! なんとか周囲の砦からの増援まで耐え抜け!」
「「「っ! おぉおおおおお!」」」
どうせ逃げる事なぞ出来はしないだろう。冒険者達はここで死ぬ気で戦わねば生き延びる事は出来ないと理解していた。そうしておやっさんの檄に冒険者や兵士達が奮起し、鬨の声を上げて応ずる。それを見て、高位の魔族の一人が動いた。
「お前が冒険者達の頭か」
「!?」
全く見えなかった。瞬は一瞬で肉薄していた高位の魔族の一人に瞠目する。そうして、直後。おやっさんが消えて彼方の地面に巨大なクレーターが出来上がる。
「「「おやっさん!」」」
「崩れたな」
「!?」
おやっさんが吹き飛んだ直後に狙われたのは、当たり前だがその彼と共に戦っていた瞬だ。そうして冒険者達がおやっさんの一撃での戦線離脱に困惑するのを見て、長髪の魔族――おやっさんを吹き飛ばした魔族――が瞬の眼前に一瞬で移動する。
「<<鬼武者>>!」
「む?」
ここで瞬が咄嗟に酒吞童子の力を強引に引き出せたのは、ある種奇跡と言ってよかった。元々常に目覚めている酒吞童子はこの難敵の存在におそらく自身でなければ太刀打ち出来ないことを理解していた。
そして瞬ならば直感的に自身の力を借り受けるだろうと考え、先んじて全てのお膳立てを整えてくれていたのだ。というわけで長髪の鬼武者に変貌し自身の剣戟を受け止めた瞬に、銀の長髪の魔族が僅かに眉をひそめる。
「……」
王国兵ではないのか。長髪の魔族は瞬の変貌に瞠目しながらも、冷静にそう見定める。そうして、彼は無数の斬撃を一息に放った。
「……」
「おぉおおおお!」
無数の斬撃に呼応する様に、鬼の咆哮が響き渡る。そうして無数の斬撃に二振りの大太刀が激突し、無数の火花が舞い散った。
「……<<接続者>>か。面白い」
<<接続者>>。どうやら瞬達の様に前世の力を引き出せる者を魔族達はそう呼んでいたらしい。その発現に長髪の魔族が楽しげに笑う。
「女。この獲物、貴様のだろうが俺に譲れ。俺の遊び相手ぐらいにはなれるようだ」
「ご随意に」
先程までおやっさんと瞬の二人を相手に戦っていた赤紫色の女魔族は、銀の長髪の魔族の言葉に僅かに苦笑しながらもその要望に応ずる。どうやら、格の違いは明白だったようだ。そうして長髪の魔族に応じた赤紫色の女魔族が問いかける。
「その代わり、私も好きにさせて頂いても?」
「砦を破壊しない限りは好きにしろ。わかっていると思うが大魔王様のご命令は砦の破壊は最後だ。まだもう少し王国の兵を釣り出す」
「御意」
銀の長髪の魔族の言葉に、赤紫色の女魔族が応ずる。そうして、瞬はついに姿を現した高位の魔族との戦いに臨む事になってしまうのだった。
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