第3042話 はるかな過去編 ――第二砦の戦い――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまった瞬やソラ達。そんな彼らはセレスティア達の時代には八英傑と呼ばれる事になるカイトや、その配下の騎士達と会合を果たしていた。
そうして彼らの支援を受けながら元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させる一同であったが、そんな中でふとした事をきっかけに地固めに奔走する事を決め、ひとまずはその資金調達に奔走する事になっていた。
というわけで冒険者を統括するおやっさんからの助言で迷宮の攻略による資金調達を決めた一同であったが、その最中。おやっさんからさらなる助言を求めて瞬が話をしていると、魔族達による王都に近い砦への強襲を知る事になり、その救援部隊に瞬もなし崩し的に参加する事になっていた。
「……おやっさん。第二砦はどうなってやすかね」
「上位の魔族共が来てなければ、まだ持ち堪えてるだろう」
「来てたら?」
「消し炭になってなけりゃ幸いだな……後は奇襲をどの段階で察知出来たか、って所か」
冒険者の一人の問いかけに、おやっさんが僅かに笑いながら答える。上位の魔族達は一人で国を攻め滅ぼせる領域で、シンフォニア王国であればカイトや四騎士達という最上位の猛者でないと対応が出来ない相手だった。
「とりあえずどうしやす? 上位の魔族が来てない想定で」
「来てなけりゃ、門の外に飛び込んで迎撃だ……来てたらまぁ、大急ぎで逃げる……わけにゃいかんよなぁ」
「逃げたら終わりすっね」
「違いねぇ」
間違いなく自分達の戦いの成否が王都の安否に関わっている。それを理解していればこそ、誰もがこの戦いに対する不退転の決意を固めていた。そうして飛竜に吊られ飛ぶ荷車の中、おやっさんが瞬に話しかける。
「瞬……お前確か、投槍が得意だったな?」
「ええ……本来は投槍がメインです」
「そう言ってたな……初手、頼めるか? 投槍を使えるヤツなんて滅多に居ないからよ」
「手加減、難しいですよ? 特に魔族相手だと……」
「構わねぇ構わねぇ。兎にも角にも敵を追い返さにゃ話にならん。逆に言えば追い返せば砦の門が吹き飛ぼうがなんとかは出来る時間は稼げる……味方諸共吹き飛ばすつもりでやってくれ」
「それは……」
中々賛同しかねる。そう思う瞬であるが、笑いながら告げるおやっさんの顔はあまり冗談を言っているようには見えなかった。とはいえ、これを若い瞬に言うのは筋が違う事はおやっさんもわかっていたようだ。反応しかねる瞬に豪快に笑う。
「あっはははは。真に受けるな。そのつもりでやれ、って話だ。砦の奴らだって馬鹿じゃねぇ。勿論俺らもな。お前が出る直前な王国軍の奴らに頼んで、門前で戦ってる奴らに注意を促すようにゃするさ」
「わかりました」
当たり前だがおやっさんとて味方諸共吹き飛ばすのが上策と思っているわけではない。それを理解した瞬はこれにようやく納得を示す。そうして、王国軍の竜騎士を交え色々と話が進むこと数時間。外が夕暮になった頃だ。彼らの向かう方角のはるか彼方で、爆発が巻き起こる。
「っとぉ!」
「よっしゃ! 砦の連中、まだ堪えてやがる!」
「さすが良いモン食ってる兵士様は違うな!」
爆発が起きているということは即ち、まだ戦いが続いているということだ。それに冒険者達が歓喜の声を上げる。そんな歓喜の声を聞いていたのか、上で飛竜を操る竜騎士も声を上げた。
「おい、冒険者共! そろそろ目的地だ! 戦いの準備は良いな! 砦の真上を突っ走る! 衝撃でくたばるんじゃねぇぞ!」
「「「おぉおおおお!」」」
竜騎士の檄に呼応する様に冒険者達が雄叫びを上げる。そうして最後の力を振り絞る様に飛竜が加速。爆炎だの雷鳴だの様々な属性が轟く戦場にたどり着く。
「っぅ! 出れるヤツはさっさと出ろ! 長くは保たない!」
「瞬! 守りは俺達がやってやる! 思う存分ぶちかませ!」
「了解!」
「他のヤツは全員、作戦通り瞬の守りに入れ!」
「「「おう!」」」
思い切り。味方を巻き込むつもりで。そういったおやっさんであるが、その周囲を含め誰も攻撃が成功するとは毛ほども思っていなかった。そして案の定。
「おぉおおおおお!」
雄叫びを上げて、瞬が荷車から飛び降りる。そうして轟音が轟く戦場の真上に、轟く紫電に両軍が気付いた。
「増援!? どっちだ!?」
「あれは……王国軍の紋章!」
来たか。両軍共にシンフォニア王国軍の増援の到着を理解する。そうして、直後。瞬の投げ下ろした紫電の槍へと、赤紫色の光が激突した。
「っ!」
止められた。瞬は自身の攻撃が何者かに受け止められた事を理解する。そうして、直後。瞬の投げ下ろした雷の槍が打ち砕かれる。が、これはおやっさん達の想定内だった。
「おぉおおおお!」
そんなもん、最初からわかってんだよ。そう言わんばかりの気迫と共に、おやっさんが赤紫色の閃光へと激突。僅かな拮抗の後、赤紫色の閃光を地面へと叩きつける。
「おぉうらぁあああああ!」
雄叫びと共に、おやっさんが赤紫色の閃光へと追撃を仕掛ける。これに、赤紫色の閃光が収束。人の形を取って激突。両軍の激突する門前にて巨大な爆発が巻き起こる。
「っぅ!」
「良し! 作戦通り!」
「行くぞ!」
「「「おぉおおおおお!」」」
衝撃に煽られ顔を顰める瞬を横目に、冒険者達はまるで待ってましたとばかりに急降下。おやっさんと敵の衝撃で生まれた空白地へとなだれ込む。
「良し! 隊列を立て直せ!」
「冒険者共! 普段悪口ばっか言って悪かったな!」
「お前らこそ救世主だ!」
「調子良い事言いやがって!」
「その言葉、覚えとけ! 後で酒山程奢らせてやる!」
やはり劣勢だった状況での増援だ。王国兵達が歓声を上げ、乱れた隊列を整えるべく一時撤退していく。そうして王国兵達に代わって最前線に躍り出た冒険者達が交戦を開始した直後。瞬が僅かな疑念を抱く事になる。
(なんだ……? なぜ乱れない……?)
明らかに敵陣営はこちらの増援が来る前に戦いを終わらせようとしていたはずだ。瞬は王国軍への増援にも関わらず同様の見られない魔族側に困惑を隠せなかった。と、そんなわけで空中で僅かに停滞する彼であったが、その真下。赤紫色の魔族と交戦していたおやっさんの所で爆発が上がるのを目の当たりにする。
「おやっさん!」
「ぐぅっ!」
「ちぃ!」
考えるのは後だ。瞬は嫌な予感を振り払い、真下へと急降下。おやっさんへと追撃しようとする赤紫色の魔族の眼前に躍り出る。
「!?」
「はぁ!」
「ちっ」
どうやら瞬の速度はこの赤紫色の魔族にとっても想定外だったらしい。自身の眼前に現れるや即座に切り払う瞬の攻撃に僅かに舌打ちし、バックステップで距離を取る。そうしてバックステップで距離を取った赤紫色の魔族の姿が露わとなる。
「女?」
「だから?」
「なんでもない」
強い。何を当たり前な。瞬は一瞬でこの褐色の肌に赤紫色の鎧を纏う女魔族の力が並々ならぬ事を理解し、何を当たり前なと自身を戒める。自身の渾身の一撃を弾き飛ばしたのだ。弱いわけがなかった。と、そんな彼と足並みを揃える様に、瞬の横におやっさんが舞い戻る。
「瞬。気を付けろ……こいつ出来る」
「わかりますよ」
「だろうな……ふぅ……ふぅ……」
おそらく自分と瞬の二人で組んで戦ってようやく互角だろう。おやっさんは数度の激突で女魔族が自分以上である事を理解していた。
「瞬。お前が撹乱しろ。俺がアタッカーを務める……二人で仕留める。女だからって油断するなよ」
「……はい」
この女魔族は油断も容赦も出来るような相手ではない。瞬も肌身に感じる力からそれを理解していたようだ。おやっさんの言葉に僅かな緊張を滲ませながらうなずいた。そうして、二人は赤紫色の女魔族との戦いを開始させるのだった。
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