第3035話 はるかな過去編 ――炎の迷宮――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまった瞬達。そんな彼らは後の時代で八英傑と呼ばれる八人の英雄達の一角にして中心人物となるこの時代のカイトや、その仲間達と会合する。
そうして元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させたわけであるが、紆余曲折を経て一旦足場を固めるべく資金調達に奔走する事になり、一同は幾つかに別れて四迷宮と呼ばれる迷宮の攻略に臨んでいた。というわけで、瞬とリィルのペアが訪れていたのはスカーレット家が管理する『炎の迷宮』だった。
「「……」」
敵の気配の察知から数秒。敵が来るだろう方角の通路から見て死角になる壁際に身を寄せた瞬は敢えて姿を晒し敵を待ち構える姿勢を取るリィルを見ながら、息を潜めていた。そうして、更に数秒。リィルの顔が険しくなったのを見て、彼女が敵を目視したと理解する。
『瞬。接敵はある程度にとどめた方が良さそうです』
『わかった』
おそらく殴り掛かるのはやめた方が良いのだろうな。瞬はこちらに近付いてくるなにかが高熱を帯びているだろう事を察する。が、その次の瞬間。敵の姿を目視する前に彼が動いた。
「瞬!?」
「はっ!」
「っ!」
真後ろ。リィルは瞬が自身の背を守る様に動いた事を理解する。そうして彼女が慌てて交戦に入ろうとする瞬間、瞬が声を上げた。
「前を頼む! こっちは俺がなんとかする!」
「頼みます!」
炎の腕を防いだ瞬に、リィルがのっそりとした動きでこちらに近付いてくる高熱の泥の魔物を相手にするべく前に出る。そうして僅かに距離を取った所で、瞬は気合を入れて炎の腕を押し戻した。
「はぁ!」
しゅぼっ。何かが爆ぜるような音が響いて、炎の腕が大きく押し戻される。そうして押し戻されたところで、地面を這っていた炎から上半身だけの炎の人型が現れた。
(何だ? 見た事があまりない系統の魔物だが……)
瞬がリィルの背後に魔物が忍び寄っていた事に気付いたのは半ば偶然ではあった。交戦に備えて彼女の動きを注視していたわけであるが、その結果目端に蠢く炎の鱗片とでも言うべきものが気になったのだ。
そうして彼女が交戦の姿勢を整えたとほぼ同時に急加速したのを見て、これは魔物ではないかと推測。割って入ったのであった。
(……俗に言う精霊系……や、ウィル・オ・ウィスプ系なのかもしれん。物理攻撃はあまり通用しないかもしれん……か?)
どうなのだろうか。瞬は炎の巨人を見ながら、そう思う。と、そんな彼が考察を重ねていると炎の巨人の胴体が膨れ上がる。
(息吹系か? いや、違う!)
胴体が膨れ上がるのなら口に該当する部分から高熱の火炎放射が来るのではないか。瞬はそれに備えようと身構えて、しかし胴体が更に膨れ上がったのを見て一瞬で認識を切り替え。そしてそれは正解だった。膨れ上がった胴体が更に膨れ上がると、その一部。丁度瞬を正面に捉える側が爆ぜたのだ。そうして、炎の壁もかくやというほど巨大な火炎が放出する。
「はぁ!」
後ろではリィルが交戦中だ。避けるわけにはいかなかった。故に瞬は<<雷炎武>>の炎部分を拡大させ、炎の壁を押し留める。そうして膠着すること、数秒。炎の放出が弱まると同時に、瞬が踏み込んだ。
「ふっ」
この炎の巨人も魔物である限り、どこかにコアがあるはず。そう読んだ瞬は炎の巨人の開かれた胴体に向けて槍を突き立てる。が、流石に弱まったとはいえ炎の壁で目眩ましがされているような状態で、更に炎で覆われたコアを探しぬくような芸当は彼にはまだ出来ない。直撃はしなかったようだ。とはいえ、その勢いは周囲の炎を吹き飛ばすだけの力があった。
(あれか……一つなら良いんだが)
僅かに見えた真紅の球体を見て、瞬はあれこそがこの魔物のコアであると直感的に理解する。とはいえ、この一つだけとは限らない。故に彼は自身に向けて放たれる炎の巨腕の薙ぎ払いを受け止めて僅かに距離を取ると、呼吸を整え次の部位を狙い定める。
(あるとするなら……頭か、腹か)
おそらくさっきのは人間で言えば心臓に該当する部分に収められるコアだろう。瞬は異世界とはいえこの領域の魔物のコアの収納場所によほどの特例は無いと判断。先程が心臓に該当するコアであると判断し、次があるならこの二つの場所と推測する。そうして、彼は滑るような動きで肉薄する炎の巨人が腕を振り下ろす様に振り上げたのを見て、敢えてその内側に突っ込んだ。
「おぉおおおお!」
裂帛の気合で一瞬だけ炎を押し留めると、瞬はその余勢を駆って地面に隣接する様に存在する炎の巨人の腹へと槍を突き立てる。そうしてその勢いで周囲の炎が晴れ渡るが、どうやら外れだったらしい。何もなかった。
「……ふむ」
となるとあと残るのは頭だけか。瞬は振り下ろされた巨腕が持ち上げられ、今度は薙ぎ払うような動きを見せたのを見て地面を蹴って飛び上がる。そうして自身の真下を舐める様に巨腕が通り過ぎるのを見ながら、彼は魔力で槍を編み出してそれを空中で蹴っ飛ばした。
「これも外れか……ということは一つか」
それにしては強い気がするが。よほどの特殊な事例でない限り、魔物の強さはコアの数に比例する事が多かった。この炎の巨人の戦闘力はコア一つ分とは瞬には考え難かったらしい。とはいえ、事実は事実として顔にも胴体にも存在しないという事実があるのだ。ならばそれを現実として瞬は受け入れた。
「ふぅ……」
リィルとも炎の巨人とも少し離れた地面――勿論敵の視線がリィルに向かない様にはしているが――に着地し、瞬は呼吸を整える。そうして、彼は槍を一つから二つに持ち替える。
(……あまり褒められた芸当ではないが……)
それが一番楽かつ確実か。瞬は内心で苦笑しながら、再度こちらに肉薄してくる炎の巨人の動きを見きってその巨腕を掻い潜り、その懐まで潜り込む。
「はぁあああああ!」
雄叫びを上げながら、瞬は雷鳴を轟かせて槍をシッチャカメッチャカ振り抜いていく。こういった不定形の魔物ではコアが若干動く事も多く、一突きで仕留めきれるのはよほどの猛者だけだ。それを理解する瞬はそれなら、と胴体そのものを滅多刺しにして逃げられない様にしてしまおうと考えたのである。そしてこれが功を奏した。
「取った!」
手応えを感じた。瞬は左手の槍がなにかを貫いた感覚を感じ取り、そのまま炎を振り払う様に横に薙ぎ払う。そうしてその場を離れて、目視でコアを確認した。
「良し」
貫いていたのは、言うまでもなく先に瞬が目視した真紅のコアだ。と言っても流石にど真ん中に突き立てられたわけではなく、若干中心から外れていた。それを見て、瞬が苦笑する。
「まだまだだな」
おそらくコーチとかだと一息に中央をやれたんだろうが。瞬は自身がまだまだであると反省。精進する事を胸に刻む。そうして炎の巨人が消えるのを待つだけになったと思った瞬であるが、そこで彼は目を見張る事になるのだった。
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