第3034話 はるかな過去編 ――炎の迷宮――
『時空流異門』に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまった瞬達。そんな彼らは後の時代に八英傑という八人の英雄達の一人として名を残す事になるこの時代のカイトやその仲間達と会合。彼らの支援を受けながら、元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させる。
が、その最中にカイトと貴族達との軋轢を理解すると、一旦元の時代へ戻る方向から足場を固める事を優先させる事にして、一同はその資金調達として三手に別れて迷宮攻略に赴く事になっていた。
「……熱いな。いや、当然か」
「『炎の迷宮』……ですからね」
瞬とリィルがやってきていたのは、スカーレット家が管理する『炎の迷宮』。火属性に特化した迷宮だ。多くの冒険者達に並んで入った『炎の迷宮』であるが、入り口付近は特に代わり映えしない石造りの空間だった。が、漂う熱気の凄まじさが、この迷宮が厳しい所である事を予感させていた。
「『炎の迷宮』というのだから灼熱地獄にでもなっているのかと思ったが……見た所溶岩流も無い。熱気がすごいだけか」
「そうでもないみたいですよ。耳を澄ませてみてください」
「うん? これは……」
ぷしゅ、という気泡のようななにかが弾ける音やなにかが吹き出すような音。果てはそれに混じってごく僅かだが、なにかが煮えたぎるような音も混じっていた。
これらがこの迷宮に巣食う魔物達が蠢く音なのか、それとも迷宮そのものの音なのかはわからない。わからないが、注意が必要である事は事実そうだった。
「……まだぼんっ、という爆ぜるような音が無いだけマシか」
「それはそうかもしれませんね……が」
「ああ。油断はしない方が良さそうだ……っ!」
おそらく油断していれば痛いでは済まないだろう。そう判断した瞬であったが、その直後。自身が立っていた場所の足元からガス漏れのような音が響いたのを耳にして、即座にその場から離れる。そうして彼がその場を飛び退いた直後だ。彼の居た足場の石畳が何枚も吹き飛んで、大きく宙を舞った。
「間欠泉!? 水も有りか! だが、これは……」
「なるほど。一筋縄では、いきそうにありませんね」
吹き出した灼熱の水蒸気に槍の穂先を向け、リィルは水蒸気の出入り口に氷で封をする。状況の把握までは動くに動けないわけであるが、そうなるとこの水蒸気の音は五月蝿くて仕方がなかった。そうして氷で封をした彼女が状況を改めて見極める。
「ふむ……炎化してしまうと今度は間欠泉で大ダメージ……になりそうですね」
「ということは、本当にそこらの調整が重要か。炎のダメージを防ぐなら、炎化に近い事をしなければ厳しいだろう」
「そうですね……ただタイミングや周囲への注意をしっかりしておかねば、吹き出した水蒸気が蟻の一穴になりかねない」
これは至極当然の話であるが、炎に水を掛ければ消えてしまう。これが単なる水であれば問題が無いのであるが、今しがた吹き出した水蒸気が普通の水でない事を二人は理解していた。
「魔力を含んだ水か……単なる水なら、熱気だけで一息に吹き飛ばせるんだが」
「そうは問屋が卸さない、という事でしょう……瞬。しばらくは」
「ああ。周囲への警戒に注力した方が良さそうだ」
気を付けねば炎の身体を貫いて大火傷だ。先の水蒸気は火属性に強い耐性を手に入れて油断した者ほど痛い目に遭う悪辣なトラップ、と考えて良さそうであった。
というわけで、熱気で急いで駆け抜けたい心を宥めて、二人はゆっくりと攻略に望む事にする。そうして最初に居た部屋から進むこと、部屋を幾つか。その部屋には敵こそ居なかったものの、出口が二手に分かれていた。
「分かれ道か」
「慣れれば別行動でも良いかもしれませんが……」
「そもそも罠の事を考えれば、別行動は厳禁だろう。最低限通信手段は手に入れておくべきだと思うが」
「……そうだ。そういえば通信機は使えそうですか?」
「ああ、そういえば」
うっかりしていた。瞬はリィルの指摘で自分達がそもそも通信機を持っていた事を思い出す。というわけで、彼は少しだけ恥ずかしげに通信機を起動させた。
「……どうだ?」
『忘れていたんですね』
「……俺だって忘れる事はある」
『あはは……ですが大丈夫そうです。温度や耐久性に問題が無い事は技術班からの資料にありましたから、ここでも普通に使えそうですね……溶岩に落ちて大丈夫かどうかはわかりませんが』
「大丈夫でも回収出来るとは思わんな……いや、出来そうな人も居るが」
瞬が思い出していたのはバランタインやバーンタインだ。瞬は見た事がないが、彼らは溶岩の中だろうと普通に歩き回れるという。ならば溶岩に落ちた道具の回収ぐらい水たまりに落ちたと同じ感覚でやってのけるだろうと思ったのである。
というわけで、通信機の状況を確認した二人は今度は部屋の端まで移動。再度チェック。これに問題がなかったので、一度瞬が来た道を引き返して一つ前の部屋まで戻って、通信機の状態をチェックする。
「リィル。聞こえるか?」
『ええ。問題有りません。ノイズなども無いので、この程度なら問題はなさそうですね』
「よし……まぁ、別行動するか否かは別にして、別行動させられた場合でもなんとかなりそう、とわかったのは儲けものか」
ここは迷宮。多種多様な罠が仕掛けられている可能性がある。その中には普通に全く別の場所へ飛ばされてしまうような物もあり、意図しない別行動はあり得るのであった。
というわけでひとまず考えられる状況への確認を終わらせた瞬が再び先の部屋に戻ってくるわけであるが、そこではリィルが警戒態勢を取っていた。
「どうし」
「……」
「……」
そういうことか。瞬はリィルの視線を受けて、周囲の音に耳を澄ませる。そうして研ぎ澄まされた彼の感覚にも、なにかがこちらに近づいてくる音が聞こえてきた。というわけで、彼は言葉ではなく念話を使う事にする。
『なにかが這いずっているような音だな』
『ええ……まだ音がするだけマシ、でしょう』
『……そうか。浮遊型の魔物が居る場合もあるか……初手はどっちがやる?』
『こちらが囮になります。貴方が』
『わかった』
前々から言われている事であるが、速度であればリィルより瞬がすでに上回っている。なのでリィルが姿を晒す事で囮になり、敵が壁際に隠れた瞬に気付く前に仕留めようという判断であった。そうして、警戒から数秒。二人は戦闘態勢を整えると、通路から敵が現れるのを待ち構える事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




