第3032話 はるかな過去編 ――別行動――
『時空流異門』と呼ばれる異なる時。異なる空間へと飛ばされてしまう非常に稀な現象。それに巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。それもよりによって戦国乱世と呼ばれた時代へと飛ばされてしまったソラ達。彼らは後にこの時代を終わらせたとされる八人の英傑達の一角にして勇者と呼ばれたこの時代のカイトやその仲間達、彼の率いた騎士達と会合。元の時代へ戻るべく、冒険者としての活動を開始させる。
そんな中でソラ達は一旦元の時代へ戻るための活動を停止させて、貴族との戦いを見据え足場を固めるべく金策に奔走していた。というわけで、おやっさんから迷宮の情報を手に入れた一同は四騎士達の実家が管理する迷宮へと向かう事になる。そうして、数日後。瞬が出発の用意を完了させていた。
「良し……とりあえず最初は俺とリィルのコンビか」
「すんません……スカーレット家の『炎の迷宮』が一番情報が揃ってたんで……」
「いや、大丈夫だ。問題ない」
ソラの言葉に瞬は一つ首を振る。四騎士の中でも一番大きいのはどうやらスカーレット家で、どうやら王族に連なる名家らしい。かつてグレイスがもし母が死んだ場合、自分がシンフォニア王国復興の芽だった、といったのはそういう事だったようだ。
というわけで、そんなスカーレット家の管理する『炎の迷宮』には王都からも申請が出来るようで、瞬が一足先に出立出来る事になったというわけであった。
「それに戦力的に考えても、俺とリィルの組み合わせなら若干事前調査無しでも問題はないだろう。特に俺もリィルも炎はかなり軽減出来たり無効化出来たりするからな。一番最初に入ってみて、情報を手に入れてくる」
「すんません。お願いします」
瞬の言葉に今度はソラが頭を下げる。先におやっさんから言われていた事であるが、四騎士達の実家が管理する迷宮ということは、立ち入るには四騎士達の実家からの許可が必要だった。その許可は現地に行かねばならなかったり、と通行許可申請などで手間になってしまう事が多かったようだ。
「まぁ、どうにせよ今の俺達を考えれば誰かは残らないとならないだろうからな。ホームの性能を考えても留守にも出来んだろう」
「そうっすね……それを考えりゃ、やっぱ早めにホームの改修はしておくべきっすね」
現在一同が活用しているホームであるが、これはカイトが知り合いをあたって手に入れた空き家だ。一応冒険者が使う事を前提としていたので生活面での不備はないが、魔術やらトラップに対する備えが完璧というわけではない。そして時代が時代。下手に空けてしまって要らぬ事を誰かにされない様に誰かは残る必要があったのである。まぁ、それがわかっているからこその改修でもあった。
「良し……とりあえずわかっている事とするとペア限定の迷宮で、高熱を帯びたエリアが非常に多い……という事か」
「おそらく属性に特化した迷宮ってのが四迷宮に総じて言える事みたいですね」
「ああ……やけどには注意しないとな。俺の場合だが」
「やけど……で済めば良いっすけど」
「あはは……まぁ、<<雷炎武>>を使えばある程度は炎も無力化出来る。溶岩は……流石にまだ無理だが。直撃しなければ問題はない」
「『溶岩巨人』あたり、普通にいそうな気しますけどねー」
「注意しよう」
『溶岩巨人』とはそのまま溶岩で出来た巨大な魔物だ。エネフィアでは火山帯で良く見られる魔物であるが、『炎の迷宮』であれば普通に出てきそうであった。というわけでソラの指摘に笑った瞬であるが、改めて気を引き締めて一つ頷いた。
「良し。これで準備は完了だ……明日から一週間、頼むな」
「うっす」
一応の事前調査によると、四迷宮はどれも平均二日ほどで全域を攻略出来るらしい。そしてここからスカーレット家まで二日かかるため、瞬とリィルが戻ってくるのはほぼ一週間先というわけであった。というわけで、準備を整えた瞬はこの翌日。リィルと共にスカーレット領に向かう馬車に揺られ、出発していくのだった。
さて瞬が王都を出発して二日。道中はほぼ何事もなく進んで、スカーレット領に到着していた。そうして到着したスカーレット領であるが、到着した『スカーレット』はかなり大きな街であった。
「これは……いや、当然かもしれんが町並みは『マクダウェル』とは異なるな」
「あちらはどういう様子だったんですか?」
「ああ、あっちは本当に長閑な、という様子が良く合う様子だった。無論、発展していないわけではないが……それでもここほど大きくはなかったな」
まぁ、まだ十年ほどしか経過していない『マクダウェル』に対して、この『スカーレット』はすでに何百年の歴史があるらしい。なので規模に違いが出ても不思議はないだろう。
ちなみに、歴史であればマクダウェル家の方が古い様にも思えるが、スカーレット家も同様に古いらしい。ただ炎帝と呼ばれる騎士を排出したのは、開祖マクダウェルより後らしかった。それはともかく。
「ふむ……こっちはレンガ造りの家が多いし、なにか赤色が多いな」
「スカーレット家、だからではないでしょうか」
「ああ、それはそうか。そういえばグレイスさんも真紅がイメージカラーだったな……」
「なんですか?」
「いや、お前もそう言えば真紅がイメージカラーだったなとな」
カイトの元に集った真紅の戦士。それがリィルの祖先にして武神と言われるバランタインだ。もしかしたら、なにかそういう因果があるのかもしれない。瞬はグレイスと同じく真紅の鎧を身に纏うリィルにそう思う。
「まぁ、良いか。とりあえず宿の確保は出来ているし、一度街でも見て回るか」
「そうですね……おそらく今後も何度かお世話になる可能性が高そうですから、そうした方が良いのかと」
ここは四騎士の実家だ。四騎士達がカイトに仕える限り、リィル達もまた四騎士達と行動を共にする事が増えてくるだろう。それを考えれば、以前のマクダウェル家の様にこのスカーレット家にお世話になる事が出るかもしれないというのは自然の流れだろう。
というわけで、今日は迷宮の情報を収集すると共に、スカーレット家の情報を手に入れるべく一日を費やす事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




