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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3029話 はるかな過去編 ――金策――

 『時空流異門』に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは後の時代に八英傑の一角にして中心人物と謳われる事になるカイトやその仲間達との会合を経て、元の時代へ戻るための活動を開始させる。

 そんな中でふとしたことからカイトの率いる騎士団の最高幹部である四騎士達や彼の主人にして後の妻となる第二王女らとの会合を果たしたソラと瞬であるが、その翌日からは改めて足場を固めるべく活動を再開させていた。というわけで、改めて依頼でも受けるかとギルドを訪れていた瞬は少し話があるとおやっさんに呼び出されていた。


「てーわけで、だ。お前さんらの望む通り腕利きの奴らに声を掛けたんだが……」

「駄目……だったんですか?」

「いや、まーったくの逆だ逆! 面白いぐらいに乗ってきやがった!」

「え、あ、はぁ……」


 当初真剣な様子で話を進めていたおやっさんにこちらもまた真剣味を覗かせていた瞬であったが、おやっさんが一転して笑い出したのを見て思わずたたらを踏む。そうして、そんな彼におやっさんがこの一ヶ月ほどの話を教えてくれた。


「まー、俺の知り合いってのはカイトの野郎の知り合いも多くてな。一癖も二癖もあるヤツがごまんといやがる。ただ、やっぱ腕は良いヤツが多いんだ……一癖も二癖もあるけどな」

「あはははは」


 もうわかりやすいカイトの知り合いだ。おやっさんの言葉に瞬が楽しげに笑う。これにおやっさんもまた笑った。


「ま、そんなわけであいつの知り合いが面白い話を持ってきた、って言ったら即座に誰も彼もが話聞いてやるだけな、って飛びつきやがった。顔にはさっさと話せって誰も彼もが書いてやがんの」

「それは良かったです……でも大丈夫なんですか?」

「お前もカイトの知り合いならわかんだろ? あいつの知り合いの一癖も二癖もあるヤツなんぞ、大半が貴族達がどれだけ金を積もうとそれを蹴り返すような偏屈だらけだ。金はいらねぇから面白い話持って来いってな。これで厄介なのがきっちり金は請求する奴らってのがまぁなんとも笑えるんだが」

「あははは」


 気に入った仕事なら報酬なぞ二の次。そんな話も溢れ返る世の中で、カイトの知り合い達の一癖も二癖もある職人達はしっかり金も請求してくるらしい。おやっさんの語る話に瞬もまた楽しげに笑う。とはいえ、これは何の意味もなく笑い話として話したくて話しているわけではない。


「まぁ、そういうわけだから真面目な見積が出た、って考えて良いだろうぜ。で、そんな奴らだから貴族と揉めてもお前さんや俺等の事は裏切りゃしねぇだろう。ぶっちゃけると何人かはもう揉めてやがるから今更言うなだぁほ、って言ってやがるけどな」

「すでにですか……」


 普通なら凄まじいと思うのであるが、カイトの知り合いだと言われればなんとも納得出来てしまうのはなぜだろう。瞬はカイトの知り合い達と言われ、さほど驚かない自分をある種呆れていた。


「あっはははは。そんな奴らだ、あいつらはな……ま、それがわかってるから陛下も色々と裏でこっそり支援してやったりしてやってくださってるってのも居る。お前らも安心は安心だろ」

「大丈夫なんですか?」

「あ? だから安心だろ?」

「ああ、いえ……その陛下が支援されてる、って」

「ああ、それか……そこらは結局は持ちつ持たれつだ。そういう腕の良いヤツに逃げられて、ってのは国として恥だからな。で、職人共も恩義は恩義と覚えはする。そういう奴らは陛下のために命を掛ける。王族しか知らない、ってネタを作るのに良いんだよ」

「あ、なるほど……」


 やはり王族も貴族と揉める事は多々ある。そこから王族のみしか知らない何かしらを手に入れたい、と思うのは不思議の無い事だが、そうなると腕の良い職人は王族として確保しておきたいと思って不思議はないだろう。そうなると、こうやって貴族と揉めた職人を裏でこっそり支援する事で貴族達には黙って密かに作らせたり、という事も出来るのであった。


「で、その意味で見りゃカイトってのは良いコネクションを持ってるからな。そこらもあって陛下はあいつを重用してんだよ……勿論、打算だけじゃねぇけどな」

「はぁ……あ、とりあえずこれが見積書ですか」

「っと、すまねぇな。そうだ。こいつが見積書だ」

「……一つだけみたいですけど」

「あっはははは。これがなぁ、カイトの知り合い共ってのはどうにもそれで繋がってるヤツも居るみたいでな。おもしろ半分に声を掛けて、どうせなら俺らで合作しちまうか、とかのたまってやがるみたいだ。その分、若干費用はまけてくれたらしいがな。まぁ、一応俺独自の知り合いにも声を掛けちゃみたが、妥当な金額だろう」


 どうやらエネフィアでもそうであるように、カイトの知り合いはカイトの知り合いで繋がりを持っている事も多かったようだ。そこから色々と話が繰り広げられ、そういった一癖も二癖もある職人達による合作が提案されたらしい。とはいえ、これをおやっさんは悪い話とは考えていなかった。


「が……こいつは良い話だと俺も思うし、俺も実はこいつらに依頼しようと考えてる」

「どういうことですか?」

「これはこいつらからの提案なんだが……全体的な設計図とかはこっちが持つが、職人共が持つのは各担当部分だけでどうだ、って話だ。意味がわかるか?」

「あ、つまりは……誰か一人のが盗まれても問題がない、と」

「そうだ。どこか一人が襲われたりしても全体は把握出来ない。しかも複数人の合作だから、一つがわかった所で全体の把握は難しい……攻略は困難になるだろう」


 なるほど。それは確かに一つの所に頼むよりも良いかもしれない。勿論瞬はそれに伴う幾つかの弊害はあるだろうが、とも理解しているものの、何より貴族という難敵が仮想的としてある以上はそのリスクを負うだけの価値があるかもしれないと判断した。


「そうですね。相手は特に、ですから……そうした方が良いかもしれません」

「おう……ま、後の判断はソラの小僧やあのお姫様なんかと一緒に考えろ」

「はい……とりあえずありがとうございました。これで後は……まぁ、ですけど」

「あっはははは。そこは諦めろ。こいつら、自分の腕に誓ってボッタクリはしねぇが適正価格ってのは出しやがる。それが腕の良い職人ってもんだろうけどな」


 見積書に記載された費用を見て思わず苦笑した瞬に、おやっさんが楽しげに笑う。そこに書かれていた金額は中々に高額で、この一ヶ月かなりの高報酬の依頼をこなしても全く足りない金額であった。というわけで、瞬はそんな見積書を手に一旦全員に相談するべくホームへと戻る事にするのだった。




 さてホームへ戻った瞬であるが、そんな彼が持ち帰った見積書を見てソラが頬を引き攣らせていた。


「こ、こりゃまた……た、高い……」

「だな……あははは……」

「こんなものじゃないのか?」

「ですね。いえ、ここに書かれた方々を見るに、格安でさえないでしょうか」

「確かに……そういえばこの方の名前は建築学の授業で伺った事がありますね」

「「……」」


 流石はすでに一千年以上も続く騎士の名門と王家の令嬢。どうしたものか、と半笑いになりながら悩むソラと瞬の二人に対して、これを安いとさえのたまっていた。

 実際後の世に様式名などで名を残しているのなら本当に格安の金額ではあったのかもしれないだろう。とはいえ、それが正論であっても払わねばならないのは事実なのだ。頭の痛い問題ではあった。というわけで、ソラは盛大にため息を吐く。


「はぁ……どうします? これ多分正当な金額っすよね」

「あまりまけてくれ、というのも言いたくはないよな……」

「そうっすね……今後を考えてもそうするのは得策じゃないっしょ」


 金銭感覚の違う王侯貴族達は横にして。ソラも瞬もこの金額の是非はともかくとしてひとまずこの金額をどうやって稼ぐかを考える。


「とりあえずこっちがランク制度じゃなくてよかった、って所っすね……自分達の腕がどの程度通用するか、というのも大体わかりましたし」

「そうだな……ふむ。どうしたものか」


 危険だが高報酬な依頼はエネフィアでは基本ランクによる足切りが掛けられているわけであるが、この世界ではそのランク制度自体がこの時代には存在していない。なので受けたいと思えば受ける事は出来た。


「とりあえず高額な依頼を幾つか受けるのは頼んで良いですか? あ、見繕うって方で」

「なにか考えがあるのか?」

「ちょっと一個だけ……迷宮(ダンジョン)っすよ」

迷宮(ダンジョン)か」


 確かにそれなら一攫千金は夢ではない。ソラの言葉に瞬はなるほど、と目を見開く。この世界に迷宮(ダンジョン)がある事はセレスティア達から聞いているが、この時代のどこに何があるかは彼女らも知り得ないらしい。というわけで、おやっさんに相談してみようと思ったのであった。


「うっす。迷宮(ダンジョン)で稼ぎ……は疲れるからやりたくはないですし、危険性も高いんであんま乗り気じゃないんっすけど……準備も必要ですし」

「ただ効率が最も良いのは、という所か」

「そうっすね。色々と制約がある所だと特に、って感じで」

迷宮(ダンジョン)か……」

「なんでちょっと嬉しそうなんっすか」

「いや、腕試しに良いかと思ってな」

「もしかして……実は好きなんですか、迷宮(ダンジョン)

「……割とな」


 あ、そうっすか。どうやら瞬にとって迷宮(ダンジョン)は自身の腕を見誤りさえしなければ腕試しに良い場と認識されていたらしい。大手を振って迷宮(ダンジョン)へ行けるとなって、少しだけ上機嫌だったようだ。


「いや、でも流石に多分今回のは死にますよ?」

「わかってる。そういうのはウルカで経験してる」

「はぁ……」


 ここで瞬は意図的に語っていなかったが、実は空いた時間があればシフ達に連れて行ってもらうぐらいには何度か挑んでいたらしい。残念ながら最後まで踏破は出来なかったそうであるが、後にこの話を聞いたリィル曰くいつか一人で踏破してみせる、と意気込んではいるらしかった。


「まぁ、それなら俺は賛成だ。稼ぎとしても良いだろう」

「私も良いと思う。修行にもなるだろうし、この時代の迷宮(ダンジョン)だと良い訓練になりそうだ」

「そうですね……安全策を取れるのなら、良いと思います」


 どうやら、瞬以外の二人も賛成らしい。ソラはセレスティアとイミナの返答にそう判断する。そうして、彼は一旦瞬に通常の依頼を任せ自身はセレスティアらと共に迷宮(ダンジョン)についてを調査するべく動く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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