第3021話 はるかな過去編 ――旅した者――
『時空流異門』に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。それも魔族達の暗躍と侵攻から戦国乱世と呼ばれる時代に突入した時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは後の時代に八英傑の一人と呼ばれる事になるカイトやその仲間達と会合を果たす。
というわけで元の時代に戻るべく冒険者としての活動を開始させるわけであるが、そんな中でふとした事をきっかけとしてカイトを訪ねる事になる。
が、そこで出会ったのは、どういうわけか彼の率いる騎士団の最高幹部。前世のルクスやこの当時のカイトの義理の弟であるクロード・マクダウェルら四騎士と呼ばれる者たちであった。
そんな彼らの問いかけに応ずる形で未来のカイトについてを語ったソラと瞬であったが、それも一段落した所で今度は異大陸について助言を受ける事になっていた。
「で、異大陸……どの大陸について知りたいの?」
「あ、え……どの? いくつもあるんですか? いや、てかいくつも行けるんですか?」
「この世界には現在3個の大陸が発見されているわ。大陸並に大きいものが幾つか」
「はへー……って、そりゃそうか」
地球にもエネフィアにも幾つも大陸があるのだ。この世界にだって複数個の大陸があっても不思議はないだろう。ソラは間抜け面を晒したものの、思い返せば何を当たり前なと思ったらしい。ライムの返答に首を振って気を取り直す。
「えっと……そっか。大陸名とかこの時代で通じるわけないよな……えっと……大精霊様がいらっしゃる大陸です」
「どの?」
「どの? え、どの?」
どの、という事はもしかして複数個知っているのか。ソラはライムの返答に今度は驚きを隠せず目を丸くする。そしてこれは事実だった。
「一つは聖域までたどり着いたわ。他も噂で幾つか」
「たどり着いた!? 自力でですか!?」
「大変だったわね」
「大変……」
どこか自慢げに告げるライムに、ソラは言葉を失う。そしてどうやらルクスからもクロードからも訂正されない所を見ると、これに関しては本当の可能性が高そうだった。ただし、嘘ではないものの色々とあるらしい。クロードが口を開いた。
「たどり着いたは良いけど聖域に入って早々に貴方には必要がない、と言われたのでしたっけ」
「そうなのよ……大変だったのに。まぁ、そのかわりとして港まで一瞬で送り返して頂いたから楽だったのよね。申し訳ないとかなんとかで」
「ど、どの大精霊様の聖域にたどり着いたんですか?」
「氷よ。ここから北の帝国の更に北の果て。そこから海を隔てた更にその先。大きな氷の大地があるのよ。その大地の更に奥。銀の山より更に過酷な霊峰の山奥……そこに聖域があったわ」
「「……」」
あ、これは実力的に絶対に行けないやつだ。ソラも瞬もライムの言葉に言葉を失う。というわけで、ソラがおずおずと告げた。
「よ、良く行きましたね、そんな所まで……」
「そうするしかなかった……という所なのよ。国が滅んで強大な魔王が現れてしまえば」
「え? ということは貴方も?」
「ええ。私とグレイスの二人は一度目の侵攻の際、呪いからは逃れていたわ」
「それで魔族共に喧嘩を売りに行ったんだったな。団長が居なければ良くて凌辱されて晒し者。悪ければ死に晒しただろう」
ライムの言葉に応ずる様に言葉を発したのは、先程出ていったグレイスだ。そんな彼女が少し呆れる様子だったのは、ライムの当時の実力やらから相当に無茶な芸当だったらしい。これに、ライムが不機嫌そうに頬を膨らませる。
「……」
「そんな顔をしても事実は変えられん。それに、勝てないのがわかったから力を求めに出たんだろう」
「あ、グレイスさん……大丈夫そうでした?」
「まぁ……大丈夫は大丈夫だろう。ただ少し時間は掛かるそうだ」
クロードの問いかけに対して、グレイスは少しだけ苦笑の色を深めて肩を竦める。これに、瞬が問いかけた。
「時間が掛かる?」
「ああ。まぁ、これについては申し訳ないが付き合うしかない……で、何の話だ?」
「大精霊様の聖域の話よ」
「ああ、それか。ライムが詳しいな」
「だから私が話していたのよ」
それでか。ライムの返答にグレイスは納得した様に頷く。というわけで話の腰を折ったとグレイスが謝罪。改めてライムが口を開く。
「というわけで、北の氷の大地に聖域はあるわ」
「……それ、未来で多分伝わってないですね」
「まぁ……私もこいつら以外には一切話してないし。誰も聞いてないし」
「「……」」
それは走り書きでも良いから残しましょうよ。興味なさげに話すライムに、ソラも瞬も未来のセレスティア達が苦労している事を思い出して内心そう思う。まぁ、ここでされても未来が変わるので良いのかとも思うので、口には出来なかったが。というわけで、ソラは気を取り直して問いかけた。
「ま、まぁ……それはそれとして。他には?」
「他には……西の大大陸の南部には火の大精霊様にまつわる神殿が多かったわ。火の大精霊様の話が多く伝わっていたし、実際に契約者となった者も居たそうね。それを考えれば、聖域があっても不思議はない」
「それですか……」
「知ってるの?」
「まぁ……セレスちゃんから聞いては」
どうやらセレスティア達の時代において制圧された大陸というのが、この火の聖域があると言われる大陸だったらしい。が、古くから伝わっている話だったからこそ、この大陸にも伝わったのだとソラも納得するしかなかった。
「となると……西の大大陸の中央にある水の大精霊様の聖域に関する噂も?」
「「え?」」
「そっちは知らないのね」
それは初耳だ。セレスティア達さえ知らない話を出されて、ソラも瞬も揃って目を丸くする。どうやら魔族達にこっぴどくやられた彼女は力を追い求めて世界中を放浪。やはりこういった事態ならと大精霊達の力を借りようと考えたようだった。というわけで、この後もしばらくの間ソラと瞬は二人して、彼女しか知らない大精霊の情報を聞き取っていく事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




