第3020話 はるかな過去編 ――助言――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。それもよりにもよってセレスティア達の時代同様に――下手をするともっと――荒れた動乱の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは後にこの時代を終わらせた八英傑の一人にして中心人物の一人と言われる事になるこの時代のカイトや、その仲間達との会合を果たしていた。
そうして元の時代へと戻るべくカイト達の支援を貰いながらも冒険者としての活動を開始させた一同であったが、ふとした事をきっかけとしてカイトから助言を貰うべくソラと瞬が彼の所を訪問する。
が、通された先で待っていたのは彼が率いる騎士団の最高幹部である四騎士達で、そんな彼らとの間でソラと瞬の二人は話し合いの機会を持つ事になっていた。
「あ、そうだ……そう言えばお二人は何をしに団長へ?」
「え、ああ……俺はカイトに今後の活動で相談があって。で、先輩は……」
「あ、自分は戦い方で少し助言を頂きたく」
「ああ、なるほど……確かにどちらもあまり大っぴらには出来ない事ですね……」
ソラに続けた瞬の言葉に、ルクスはなるほどと道理を見て納得する。この二人が未来から来た話は四騎士全員が共有している。なので今後の活動への助言については勿論だし、未来の技術というかこの世界の者たちにとっては多くの未知の技術を有する戦い方もあまり大っぴらには出来ない。というわけで、悩んだ末にすでに明かしているカイトに助言を求めるのは正しいだろう。
「とはいえ、申し訳ないのですが先にお伝えした通り、本日団長は不在でして……私達で良ければ、話を伺いましょうか?」
「良いんですか?」
「まぁ、騎士ともあろう者たちが揃いも揃って騙し討ちのような事をしてしまっていますから。お詫び、という事で良いでしょう」
「……なんで私を見るのよ」
「いえ、いつもの貴方なら面倒とか言ってさっさと逃げてしまいますので……良いですよね?」
「……」
むっすー。楽しげに笑うルクスの問いかけに、ライムは少しだけ不満げに膨れて見せる。どうやら無愛想な様に見えて、こうやって親しい間柄では年相応の所は見て取れるらしかった。
「というわけで、全員の合意が得られたわけで……良いですよ。グレイスもしばらくは戻ってこないかもしれませんし」
「そう言えば何をしに彼女は? もう一つの本題、という事でしたが」
「それは……少しお楽しみに、という所です。明かしても良いですが……それはそれとしておきましょうか」
「はぁ……」
ソラは自身の問いかけに楽しげに笑って隠す事にしたルクスに、困惑気味ながらもとりあえず受け入れるしかなかった。幸いな事に四騎士達なので本当の騙し討ちのような事は無いと安心出来た事も大きかった。というわけでそれを受け入れた後。ソラと瞬は一瞬顔を見合わせ目線で会話。筋として自分達全員に関わる方を先にするべきだろう、とソラが口を開いた。
「えっと……俺の方なんですけど、さっき言った通り今後の活動に関しての質問です」
「そういう話でしたね。何か困った事でも?」
「困った事……というわけじゃないんですけど、異大陸についての話を知りたくて。で、もし可能ならアイクさん? を紹介して欲しいな、ってのもあったんです。まぁ、正確にはアイクさんを紹介してくれるレックスさんに話を通して欲しいな、という所なんですけど」
「ああ、確かにアイクさんならレックス殿下の方が話は通せるでしょうね」
今更何を言う必要も無いだろうが、カイトの率いる騎士団の最高幹部である四騎士だ。彼らも当然八英傑の一角と言われるアイクなる人物とは昵懇の仲と言って良い間柄で、アポイントもなく訪ねた所で歓待されるほどの間柄と言えた。
「ですが、異大陸の話ですか……まさかそちらへ?」
「いえ、行きたくないから聞きたい、って所です。行くと多分数ヶ月は戻れないでしょうからね」
「あはは……そうですね。アイクさんも一度異大陸に向かわれると二ヶ月は戻ってこない。それを考えれば半年……下手をすると一年は戻れないでしょうね」
ソラの想定を聞いて、ルクスは笑いながらその判断を支持する。というわけで異大陸について少しは知っていそうだったので、ソラはそのまま問いかけてみる事にする。
「異大陸へ渡る方法は船しかないんですか? いや、海を隔てているんでそりゃそうだろ、って話なんですけど……えっと、なんていうか定期便? そんなものは無いのかな、って」
「定期便……未来ではそういうものもあるんですね」
「まぁ、船といっても空を飛ぶ船なんですけど。それが定期便として運行してます」
「「「……は?」」」
何だその珍妙なものは。唐突に出てきた飛空艇の話に、四騎士達が揃いも揃って仰天を露わにする。が、これにソラが目を丸くした。
「え、あ……そうっすよね。そうなりますよね」
「空を飛ぶ船って……あの空を飛ぶという意味?」
「そうです。空中を飛んで移動する船です。それがこっちじゃ基本的な移動方法……まぁ、勿論普通の船もありましたけど。異大陸になると流石に時間が掛かるんで、普通は飛空艇……あ、その空を飛ぶ船を使ってます」
あまりの驚きに思わず問いかけたライムに、ソラははっきりとうなずきつつ詳細を説明する。これに、改めて四騎士達は彼らが未来の存在なのだと理解する。
「まさかそんなものまであるんですね」
「未来なのだからそういう事もあり得て不思議はないと思いましたが……幾らなんでも船が空を飛ぶとは」
「あ、ちなみにそいつを考案したのがカイトです」
「「「……」」」
あの人か。それはあり得て不思議はない。ソラのさらなる情報開示に、四騎士達は今度は言葉を失った。が、そうしてその意味を理解して四騎士達は大爆笑した。
「あはははは! 兄さんなら確かに好きそうですね!」
「やりそうね……いえ、やるわね。絶対に」
「大喜びでやるでしょうね……それを作るために爵位を受け取った、と言われても納得しますよ」
「あり得る」
ルクスの言葉にライムがものすごい楽しそうに笑いながら同意する。どうやら戦士として、騎士としての真面目な様子が見て取れながらも、この時代のカイトも素は子供っぽい所が見て取れたらしい。四騎士達はその姿を見ていればこそそう話し合う。
「どうなの? そこのところ」
「あ、いや……流石に違うらしいです。なんか戦乱の時に世界一の大企業を動かしたりするのに草案を提示したり、食料の輸送とかを考えたりしたそうですけど……すんません。そこはあんまり」
「「「……」」」
思った以上に真面目だった。ソラからの返答に四騎士はわずかに顔を顰める。カイトの事なので乗り気でやった事に違いはないだろうが、思わぬ真面目な理由に笑った自分達が少しだけ恥ずかしくなったらしい。そういうわけで気を取り直した彼らは改めてソラに問いかける。
「まぁ……それは良いわ。とりあえずそんなものはこの世界には無いわね」
「っすよね。カイトが作るまでエネフィアにもなかったんで」
「そ……でもまぁ、そういう事なら私も少しは語れるかしら」
「ご存知なんですか?」
「一度渡った事があるから」
どうやらライムは異大陸への渡航経験があったらしい。それなら、とソラも少しだけ身を前に乗り出した。というわけで、そこからは少しの間ライムから話を聞く事になるのだった。
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