第3014話 はるかな過去編 ――墓所――
『時空流異門』という異なる時間軸。異なる空間へと飛ばされてしまうという現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そこはよりにもよって、魔界の魔族の侵攻とその策略により大陸全土が疑心暗鬼の状態に陥るという、いわゆる戦国乱世と呼ばれる時代だった。
そんな中、この時代にて後に八英傑の一角と呼ばれることになるカイトと出会いを果たしたわけであるが、元の時代へ戻る冒険者としての活動の最中。彼から請け負った依頼をきっかけとして、カイトが多くの貴族達から妬まれ、疎まれる存在であることを理解する。
というわけで、大精霊の助力を受ける上で今後カイトと関わらないことがあり得なかったことから一同はまずは先に防備を固めることを選択。兎にも角にも先立つ物が必要と資金集めに精を出すことになっていた。
「変わらないな、ここは本当に……」
「未来でもここは残っていたんですか?」
「ああ……といっても一部は荒れていたが……流石に後に起きた騒乱でもこの墓所にはあまり手を出さなかったようだ。おおよその概形は残っていた。この門扉も、若干風化こそしていたが形は完全にそのままだったな」
瞬の問いかけに、イミナは少しだけ苦笑気味に墓所の門扉を見る。そこは王都から出て徒歩でおよそ一時間。馬車なら十数分掛かるかどうか、という所だ。
まぁ、王都の住人達が本来なら行き来出来たというのだから、その程度の距離で不思議はなかっただろう。と、未来でもほぼそのまま残っていた門扉を見ながら笑うイミナに、セレスティアもまた笑う。
「まぁ、一節にはカイト様が後に修繕されていた、とも言われていますけどもね」
「そうですね……やはり鍵が掛かってるな」
「当然でしょう。私達の時代でだって鍵は掛かってましたから」
イミナが近付くと共に浮かび上がった魔法陣に、セレスティアが笑う。これにイミナもまた昔を懐かしむ様に笑って当時聞いた話を口にした。
「あれはまぁ、学生が勝手に入ってたことが何度かあって、という所だったかと」
「そうだったんですか?」
「ご存知なかったんですか?」
セレスティアの驚きに対して、逆にイミナが驚きを露わにする。まぁ、所属する学科が異なっていたこともあるだろうし、担当する教員が異なれば話す内容も異なるだろう。知らなくても無理はないかもしれなかった。そんなこんなで雑談をしていたわけであるが、それには理由があった。
「もう少し時間が掛かりそうでしょうか」
「どうだろう……一度聞いてこようか?」
「あまり急かすようなのも感心しませんが……確かにこのまま待たされ続けるのも困るは困りますね……」
瞬の問いかけに、リィルはどうするか考える。今回の依頼は瞬、リィル、セレスティア、イミナの四人での任務になっていた。この割り振りの理由は単純で、墓所なので多い所謂不死系の魔物に有効な攻撃――火属性と光属性――を多数有しているからだ。というわけで、ソラと由利は今回はお留守番だった。とまぁ、それはさておき。兎にも角にもこのまま待ちぼうけというのも困るのだ。なので瞬は一度聞いてくることにする。
「すいません。まだ時間、掛かりそうですか?」
「ああ、いえ……すいません。もうしばらくお待ち下さい。一応、もう入っては頂けるのですが……」
「なにかありましたか?」
「それが……持ってきた道具が一部動かなくなってしまったみたいで。昨日のチェックの時は動いていたらしいのですが……」
ラクエルは瞬の問いかけに対して、少しだけ焦ったような、それでいて困ったような顔で事情を説明する。
「ということは移送中に?」
「と、考えるのが自然なのかなと」
「どんな魔導具ですか?」
「清掃用の魔導具です……おや?」
「すいません! ラクエルさん! あ、お話中ですか?」
「あ、いえ。どうぞ」
ラクエルら神官達とは別のツナギのような格好をしていた青年に対して、彼女は話の先を促す。これに青年は深々と頭を下げた。
「すいません……さっきの魔導具の件ですが、どうにも新入りが間違えて来週廃棄予定だった旧式の持ってきちゃったらしくて。ちょっと駄目っぽいです。壊れてるから間違えるな、つったんですけど……パッケージは似てるんで間違えちまったみたいで」
「あら……」
「あー……」
それは動かないだろう。ラクエルも瞬も清掃業者の青年の言葉にそう思う。とはいえ、流石にそれで瞬達まで巻き込むのは筋が違うと彼も理解していたようだ。
「今本社の連中が急いで用意してくれているので、追っかけ来ると思います。先に作業を始めて頂いて大丈夫です」
「作業に遅れは?」
「大丈夫です。そちらもこちらでフォロー出来る様に手配してますから」
「でしたら、大丈夫ですね。そちらはそれでお願いします」
ラクエルは清掃業者の青年の返答に一つ頷いた。というわけで急いで手配に入った清掃業者の青年を横目に、彼女は瞬に告げる。
「一条さん。そういうわけですので、先に作業を始めてしまいましょう」
「わかりました。では先の打ち合わせ通り、我々が先行し発生した魔物を討伐します。その後はそちらで浄化と結界の展開の準備を」
「はい……では鍵を開けますから、少し待ってください」
「お願いします」
ラクエルの言葉に、瞬は一つ頷いて道を空ける。そうして一同が見守る中、ラクエルがネックレス型の魔導具を取り出して掲げ、墓所の重い門扉の鍵を開ける。
「これで大丈夫です。後はお願いします」
「ありがとうございます……良し。じゃあ、行くか」
ぎぃ、という重い音と共に開かれた門扉を大きく開いて、瞬は墓所の中に足を踏み入れる。まぁ、墓所と言っても別におどろおどろしい雰囲気はない。そして幸いなことに今日の天候は晴れ渡っており、湿度もカラッとした感じだ。外を出歩くには丁度良く、不死系の魔物と戦うにしても良い状況だった。
とはいえ、戦う云々であるのならまずは敵を探す必要があった。というわけで周囲を見回すリィルであったが、ぱっと見は見当たらなかったようだ。イミナに問いかける。
「ふむ……外から見ていた時点でわかっていましたが。相当な広さですね。イミナ、この墓所の広さはどれぐらいですか?」
「む? そうだな……大体マクダウェル家……ああ、そちらのマクダウェル家の倍……程度という所か」
「そ、それはまた広大ですね……」
「なぜかは私にも聞かないでくれ。ただ私が聞いた話では、という所だ」
思わず呆気にとられたリィルに、イミナも少しだけ困った様に笑う。それだけの敷地面積を四人で全て討伐せねばならないのだ。苦労は推して知るべし、という所であった。
「それに何より、見たと思うがこの墓所は周囲が壁で覆われている。内部で発生した魔物は外に出ていかない……まぁ、その分結界などの残滓も残るから魔物の発生も抑えられてはいるのだろうが……」
「どうにせよこの広大な墓所を全て見て回らないとならないことは変わらない、ということですか」
「そういうことだな」
これはマクダウェル公爵邸の二倍の敷地を全て見回るしかなさそうだ。リィルはイミナの返答に気を引き締める。そうして、気を引き締めた一同は仕事に取り掛かることにするのだった。
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