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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十四章 それぞれの想い編

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第285話 過去の欠片 ――カイトの仲間――

 歩き始めた桜達だが、里の入り口に立って直ぐに、ティーネは立ち止まった。まあ、もし彼女が立ち止まらなくても、桜達は立ち止まって聞いただろうが。


「ここの道を右に行けば、ダーク・エルフ達の里。左に行けば、私達エルフの里よ」

「え、一緒なの!?」


 立ち止まったティーネの言葉に、魅衣が思わず目を見開いた。まあ、よく語られる物語などでは、必ずと言っていいほどにエルフとダーク・エルフは対立しているのだ。それがまるでお隣さんのように生活しているのだから、驚くのも不思議はない。が、驚きはこれでは止まらなかった。


「まあ、ぶっちゃけると、中で一緒になってるから、分けてる意味無いんだけどね。ただ単に、昔は別々だったんだけど、今は一緒なだけで、その名残」

「え、えぇー……」


 ティーネの言葉に三人がちらりと里の中の様子を伺ってみると、そこには彼女の言葉通りの光景が広がっていた。普通に純白の肌のエルフと褐色の肌のダーク・エルフ達が一緒に歩いていたり、中にはいちゃついていたりするのまで居た。如何なる言葉よりも雄弁に、二つの種族が共同して暮らしている事が見て取れた。


「まあ、そう言っても流石に族長の家だけは昔からの物を使っているから、流石に私達は左側から入って、そのまま道なりに歩いて行くわね……じゃあ、ついてきて。あ、ただいま、お父さんの所行って来る」

「お帰りなさいませ、お嬢様。それといらっしゃい、お客人」

「あ、はい。こんにちは」


 ティーネはそう言うと平然と門番に挨拶して里の入り口をくぐっていく。始め呆然としていた三人だったが、遅れては拙いと少し急ぎ足にその後ろを続いた。

 そうして、ゆっくりと周囲を観察しながら歩くこと20分程度。里の中でもかなり大きめの館に辿り着いた。3階建ての木造建築で、かなり味のある館だった。


「で、ここがウチよ」

「瑞樹ちゃんのご自宅と似てますね」

「そうなの?」

「あはは。ウチは元々西洋から持って来た家ですので……似たような建築ですわ」


 桜の感想を受けてティーネが瑞樹を確認すると、彼女は少し照れた様子でそれを認める。ちなみに、大きさだと同じくらいだったのだが、庭などの存在から、瑞樹の実家の方が大きい。


「まあ、それはそれとして……ただいまー」

「お邪魔します」


 兎にも角にもそんなお話よりも、早めに挨拶をしない事には何も始まらない。なので一同はとりあえず中に入り、族長ことティーネの父親に会いに行く。既に話は通っていた上、来客もなかった事もあって、謁見は直ぐに行われた。


「いやー……ウチの娘が非常に申し訳ありません」


 そうして現れたのは、どう見てもまだ10代後半から、20代前半の青年だった。流れる長い金糸の髪に、澄んだ青色の瞳、長い耳を持つまさにエルフといった見た目だった。

 とは言え、実は彼がここまで若い様相なのはエルフという種族が長寿であり、また、彼が年不相応に若作りであったことも影響していた。実際にはクズハよりも更に年上で、既に倍の600歳を超えている、との事だった。そんな彼は、応接室に桜達を通すやいなや、娘の不手際にかなり照れながら謝罪した。


「昔からそそっかしい娘なんですが……」

「あ、あはは……」


 父の言葉に、ティーネは真っ赤になって照れ笑いを浮かべるしか出来ない。そんな娘に、彼は更に溜め息を吐いた。


「はぁ……おっと。申し遅れました、私は現エルフ族族長・マーベル家当主エリウッド・マーベルです」


 どうやらおっちょこちょいというのは、彼からの遺伝なのかもしれない。実は彼も彼で自己紹介もせずにここまでしゃべっていたのであった。そうして暫くの雑談の後、彼が告げた。


「あまりここでお引き止めして公演に影響しても問題ですね。ホテルの方は既にご用意させていただきました。ティーネ、みなさんを連れて、ホテルまでご案内しなさい。それが終わったらアルシア殿の所に行き、ご挨拶を忘れないように」

「はい、お父様」

「では、明日の公演を楽しみにさせていただきますね」


 エリウッドの言葉を受け一同は執務室を後にする。そうして桜達が案内されたのは、全周200メートル程はありそうな巨木をくり抜いて出来た縦長のホテルだった。そこの四人が泊まれるぐらいの広さの部屋が、今回の彼女らの部屋だった。


「えっと……あの、私も良いのでしょうか……?」

「いいわよ、別に。ここで一人別の部屋、っていうのも変だしね」


 4人の相部屋、ということで椿も一緒だった。なので彼女が少し気後れしながら問いかけたが、答えた魅衣も桜達もそんな事を気にする様な面々ではなかった為、そのまま同室となる。

 そうして、この夜は珍しく、お嬢様にメイドという一見すれば可怪しくなくて、おかしな組み合わせの一夜が過ぎゆくのであった。




 翌日の昼過ぎ。一応の演目の打ち合わせなどを終えた一同は、荷物番をすると言った椿を置いてティーネの案内でダーク・エルフ達の領域――と言ってももう名ばかりだが――にあるとされた英雄像とやらに向かった。

 始め今回来賓として来て打ち合わせに参加していた様々なお偉いさんからは演奏会も近いのに、と良い顔はされなかったが、シルフィこと風の大精霊直々の命令と聞いて、全員が一瞬顔を見合わせて、大慌てで了承を示したのだ。


「で……これが英雄像なんだけど……あ、ユリシア様とアウローラ様が居た」

「あれ?……ああ、みなさん、こんにちは」

「おー……」


 英雄像とやらは、里の広場の真ん中に設置されており、それを神妙な表情で見ていたユリィとアウラも直ぐに見つけられた。此方から見つけられるので、向こうからも簡単に見つかり、猫被り状態のユリィが荘厳さを浮かべ、一同に挨拶した。猫被り状態なのは、一応は衆目と自身が率いる学園生の姿があったからだ。その隣のアウラはそんな事を気にもせず、普通にVサインだったが。


「どうされましたか?」

「いえ、昨日風の大精霊様にお会い致しまして……此方に桜達をご案内しろ、と」

「シルフィード様が、ですか……? 他になにか仰られてはいませんでしたか?」

「ええ、ただ、此方にご案内しろ、とだけ……」


 ユリィの問いかけを受けてティーネが答えると、その意図を探るように、ユリィは少しの間黙考する。そうして、1分程黙考して、苦笑したように、口を開いた。


「そういうことですか……」

「ユリィ……ダメ」

「……そうだね。じゃあ、これじゃ、ダメだよね……」


 どうやらこの間だけで、何があったのかをユリィもアウラも見抜いたらしい。二人は少しだけ寂しげで、少しだけ物悲しそうで、それでいて、懐かしさの混じった表情をする。


「ねえ、この像について、何か知ってる?」


 アウラの言葉に口調を本来の彼女の物に変えたユリィは微笑んで、桜達に問いかける。それを受けて、一度顔を見合わせると、昨日の内に椿から聞いていた為、桜が代表して答えた。


「……確か、勇者カイト様のお仲間達の像、と」

「うん……順に、ヘクセン……」


 小さな姿に変わって舞い上がり、最も左の像に直接手を当てながらユリィは懐かしげに語る。それを受けて、一同は初めて、カイトの仲間の姿を知る。

 ヘクセンは、かなり大柄な男だった。鎧はかなり重厚で、垣間見える身体は筋肉質だった。その像で最も特徴的なのは、両腕に鎖が絡みついていた事だろう。これはカイトが遺品として使う鎖だった。カイトの使う彼の遺品から繊細な技巧派と思っていた桜達は、その大柄な見た目から少しの意外感を得る。だが、そんな彼の表情は冷静さはあるが、同時に寡黙そうな男だと印象づけた。


「これが、馬鹿のアンリ……いっつも突撃してさ。よくカイトと馬鹿やってたなー……」


 続いてユリィが示したのは、少し小柄だが、快活そうな笑みを浮かべたまだ辛うじて少年と言える年頃の像に手を当てた。

 彼はどうやら人間では無いらしく、何らかの動物の獣耳が生え、見えていた犬歯も少しだけ尖っていた。だが、そんな彼の歯よりも、彼の鉄甲が一番尖っていた。これはかつてのトーナメントでカイトが腕に嵌めていた鉄甲だ。それを握り、今にも飛びかからんとしていた姿だった。


「……これはもう、言う必要も無いよね。アウラのお爺ちゃん……初代皇国宰相にして、おそらく皇国で最も助平な爺……でも、誰よりも包容力があって、誰よりも、賢かった」

「私がユリィと一緒に居る事になったのも、お父さんとお母さんが死んで塞ぎこんでいた私の為にカイトが引き取られる事になったのも、全部、おじいちゃんが決めた事。正真正銘、勇者カイトの生みの親」


 涙ながらにユリィが手を当てたのは、一人の翼の生えた老人の像だった。老いているが為にかなり深いシワが刻まれていたが、それが更に、彼の柔和な笑みの好々爺な印象を深めていた。

 彼は、ゆったりと羽織れるローブを身に纏い、木製らしき杖を手に持っていた。これらは言うまでもなく、カイトが着込んでいたローブに、手にしていた杖だ。この杖は実は公爵邸と同じく世界樹の破片で出来ており、この世に同じ物は一つとして存在しない、初代皇王から与えられた彼の為だけに誂えられた物だった。


「……最後が、アルテシアの姉御。ふふ……誰よりも明るくて、誰よりも豪快で……そして、誰よりも面倒見が良かったなー……だから、皆からは姉御、って言われてさ。本人も結構乗り気だったから、悪い気はしてなかったみたいだけどね」

「今もそうだけど……あんな状況でも、あの頃は楽しかった。多分、お姉ちゃんのお陰」


 最後にユリィが手を当てて、アウラと共に泣いた様な笑顔で告げたのは、ダーク・エルフの女性の像だった。彼女は誰よりも明るく、そして豪快な笑みを浮かべていた。

 彼女は鎧を全く身に着けていなかった。それどころか本当にこれで戦うのか、と思える程の軽装備で、服装は深いスリットの入ったスカートに、タンクトップよりも少し露出が少ない服を身に纏っているだけだった。服装だけを見ても女でさえ嘆息しかねない様な色っぽさだったが、彼女は加えて、誰もが羨む様な美貌と、豊満な肉体を兼ね備えていた。例えるならば、色っぽい女傑。相反する二つが兼ね備わった美女だった。


「彼女達にカイトを加えて、これで皇国陸戦部隊所属第17特務小隊。爺ちゃんが選別した面子で構成された、特殊遊撃小隊……カイトが唯一所属した、皇国軍の正規部隊だよ」

「唯一?」

「うん。一応今でこそあの部隊は連合軍麾下の特務大隊って言われてるけど、実質的にはカイトが結成した義勇兵……約1000人の超高位の実力者だけで構成された、当時……ううん。有史上最強の遊撃部隊。各種小型艇だけでなく、後の皇国旗艦となる船、当時まだ実戦配備どころか研究開発段階だった飛空艇を3隻も有する義勇兵としては破格の部隊」


 瑞樹の疑問を受けて、ユリィが頷いて答えた。カイトは仲間を失って以降、一度もどこかの正規軍に加わった事はなかったのだった。

 因果な話であるが、強すぎるが故に性格の癖も強く、この部隊の全員が規律を無視しやすかった。カイトもまた、その一人だった。それ故に連合軍の結成からそう言った者達を集めた結果が、有史上最強の遊撃部隊となったのだった。そうして、ユリィは更に続けた。続く内容は、その義勇団の結成について、だった。


「……ある街の防衛戦で、連合軍の決定は街を捨てての撤退。当時はまだ連合軍も結成が決定したぐらいで、街を守れるだけの兵力もなかった。だから、出来る限り戦力を減らさぬ為の、戦略的撤退。住人達は可能な限り撤退させたけど、全ては間に合わない。後の戦いの為、逃げられぬのは見捨てるしかない。それが、命令だった……」


 そう語ってから、ユリィは笑みを浮かべる。それが意味する事は、一つだった。


「でも、私達……私とカイトは聞かなかった。ルクスやウィル達の制止も聞かなかった。そもそも目の前で倒れようとしている奴が居るのに、見捨てられるか、って。だから、たった二人で殿を務める事にした。時間を稼ぐ為に……でも、戦いを続ける程に、殿の数は増えていった。始めは、副長……当時街の警護隊隊長だったラシードと、彼を慕う街の警護隊の皆が。その次は、カイトと同じ馬鹿……ルクスや、おっちゃんとそのギルドのメンバー達が……そうして集まったのが、約100人。よくもまあ、ここまで馬鹿が居たもんだ、と今にして思うよ」


 語ってから、ユリィは笑いながら溜め息を吐く。この中で最も馬鹿は誰だ、と言われれば、言うまでもなく彼女とカイトだ。もう笑うしかない、とはこの事だろう。


「そんな事やってまあ、逆に敵を撃退させたもんだから、上は困ったもんだ、と頭を痛めるしかない。たった100人で時間稼ぎどころか、万に届かんとする軍勢を撃退。救われた街どころか、避難民達が逃げた街や周辺の連合軍の一般兵士達さえ巻き込んで、お祭り騒ぎの大狂乱。確かに戦史としてみれば小さな勝利だったけど、当時はまさに奇跡の大勝利。聞いた者達は英雄の誕生だ、って……でも処罰しないわけにもいかない。だってここで命令違反を見逃せば、せっかく結成出来た連合軍が瓦解しかねない……そこで、ウィルが下した決断が、カイト達100人の兵士達の連合軍からの除隊処分」


 仕方がないよね、とユリィはあっけらかんと笑いながら告げる。そう、仕方がない。当時は結成して直ぐ。一番重要な時期で、連合軍を一枚岩に出来るかどうかの分水嶺。結成に一役買おうと、命令違反に対しては強い対処を示さなければならなかったのだ。

 だが、そうなってくると、当然気になる事が出てくる。なので、それを瑞樹が指摘した。


「民衆は怒らなかったんですの?」

「うん……まあ、これにはからくりがあってね。その後に密かに、ウィルはある言葉を続けてるんだ。が、これは連合軍としての指揮下から外す、というだけで、戦うというのなら、連合軍としても、食料など融通しよう、って……まあ、これで当時のカイトはわかんなかったから、ウィルが呆れた顔で……はぁ、馬鹿が。つまりはお前ら100人で義勇団を作って遊撃隊をやれ。俺が後方支援してやる、ということだ……って。今思えば、英雄を好き勝手にされない為の対処だったんだろうねー」


 ユリィは笑いながら、当時のウィルの口調と表情を真似る。ちなみに、当時のユリィも言われた意味が理解出来ず、二人して首を傾げていたのであった。


「まあ、あの時は政治家って怖い、って思ったねー。片方で処罰しときながら、片方で除名じゃなくて脱退した事にして、カイト達の命令違反そのものをなかった事にして英雄として喧伝を始めたんだから」

「あの時のウィルの顔を時々カイトもやってる」

「ねー。あの二人、いつしかおんなじ顔で笑ってるもんねー」


 アウラの言葉に、ユリィも笑いながら頷く。つまりは相当腹黒い顔をしていたのだろう。二人は少し楽しみながら、あーでもないこーでもないと変なゲス顔をしていた。そうしてそれに飽きると、ユリィは続けた。


「……で、それからティナに試験的な飛空艇を作って貰って、世界各国を遊撃。そうすれば、当然おんなじように馬鹿はどこの国にも居るもんだ。気付けば義勇団は増えまくって飛空艇は戦闘艇3隻、輸送艇2隻の計5隻になって……始めは木製だった飛空艇もティナにオーアとかが調子に乗って金属製にしたり、装備も今の最新鋭の戦闘艇にも劣らない性能に。内装もカイトがお風呂作れだおっちゃんが酒場作れだ……馬鹿なのだと、カジノ作れ、ってのも居たね。皆で馬鹿やって、大騒ぎ。そんな毎日だったよ」


 語るユリィは、先とは違い楽しげだった。そうして、彼女は僅かな過去語りを行って、桜達に問いかけた。


「これが、カイトの過去の断片だよ……さて、皆に質問。こんなお話を、どうしてカイトは皆に語ってくれないのかな?」


 それは、桜達が聞きたい事だった。だが、今の話を聞いた所で、理解出来なかった。こんな話なら、語ってくれても良いように思えたのだ。それでなお、語られない理由がわからなかった。そうして、桜達の疑問を見て取って、ユリィは本題に入るのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第286話『過去の欠片』


 2015年12月5日 追記

・表記修正

『殿の増えていった』→『殿の数は増えていった』

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