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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3012話 はるかな過去編 ――手配――

 『時空流異門』という現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。それも魔界の魔族から侵攻を受けていた時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはこの時代にて後に八英傑と呼ばれる騎士としてのカイトやその仲間達と会合を果たすことになる。

 その時代のカイトは今のカイト同様壮絶な戦闘能力を有してはいたものの、今のような政治的な力を持ち合わせないが故にこそ多くの民衆に好かれるのとは対照的に多くの貴族から妬まれ疎まれる存在であった。

 というわけで民衆達の歓声の裏で蠢く貴族達の暗躍を察知したソラ達は自分達が元の時代に戻る上で二つの時代を繋ぐ存在としてカイトの助力が必要不可欠であったことから、今後の貴族達との暗闘に備えて色々な準備を進めることにする。そうして兎にも角にも先立つ物が必要と冒険者としての活動に精を出す中で、瞬は墓所の浄化という依頼を請け負うことになり打ち合わせを行っていた。


「という感じです……基本は我々が外側で待機しておりますので、万が一の場合にはそちらに撤退してください。ただまぁ、もう十年近くこの依頼を出していますが、今まで一度も受けられた方が撤退されるような事態はありませんでした。貴方も問題無いかと」

「それは……迂闊に撤退出来ませんね」

「いえ、万が一の時は本当に撤退してくださいね? 皆さんが怪我をされては元も子もないので……」


 前任者達が問題なく請け負ってきた仕事なのだ。それに泥を塗るわけにはいかない、と気を引き締める瞬だったが、そんな彼にラクエルは大慌てだった。これに瞬は一つ笑って礼を述べる。


「あはは。ありがとうございます……それで日程に関してもわかりました。基本じゃあ、今後もお参りの度には行われるみたいな感じなんですね」

「ええ。月半ばと月の終わり……今はそれが精一杯です」


 本当ならいつでもお参り出来る様にして差し上げられれば良いのですが。ラクエルは少しだけ無念そうにそう呟いた。と、そんな彼女が慌てて首をふる。


「ああ、すいません。今のご時世柄、仕方がないこととは理解しておりますので」

「はぁ……」

「それで仕事ですが、他に疑問はありますか?」

「そうですね……あ、そうだ。外で待機されるということですが、そちらの防衛に関しては?」

「ああ、そちらは問題ありません。少数ですがこの神殿にも警護の者はいますので……ただそちらの討伐に割けるほどの人員が居るわけでもありませんので、ご助力出来るわけではないことはご了承ください」


 やはり時勢もあり、戦える者は基本軍に所属したり騎士として騎士団に所属したりしていることが多かったようだ。なので神殿騎士のような神殿に所属する騎士達はカイトと共に――もちろんその多くの所属は異なるが――魔族との戦いの最前線に向かっており、残っているのは神殿を守る最低限の人員ぐらいだったそうだ。それを瞬も理解したのか、ラクエルの謝罪に首を振る。


「大丈夫ですよ。本来自分達が請け負った依頼ですから、逆にご助力頂くことはあってはならないことなので」

「そう……ではあるでしょうが……いえ、失礼しました。では、そういうことでお願いします」

「はい……ああ、そうだ。あと一つだけ」

「なんでしょう」

「この頂いた地図は任務終了後はお返しすれば良いですか?」

「ああ、いえ。それはそのままお持ちください。もしまた受けられる際にはそちらを使って頂ければと思いますし、昔は普通にお配りしていた物でもありますから」


 今は迂闊に墓所に行かれないために配っていないのですけどね。ラクエルは今回の仕事で必要だろうと神殿側が提供した墓所の地図に対してそう言及する。なお、そういうわけなので墓所へは今は基本神殿の案内人が同行しない限りは入れず、出入り口も鍵が掛けられているそうであった。


「わかりました。大切に保管させて頂きます」

「ふふ。お願いします……あ、そうだ。間違って現地集合とかはされないでくださいね。時々うっかり先に出てしまわれて大慌てで戻ってきたという方がいらっしゃいますから」

「あはは。気を付けます」


 冒険者にしてはえらく丁寧な方だ。そう思い笑ったラクエルの言葉に、瞬も一つ笑って同意する。実は地図は貰えたが鍵は管理上の関係で受け取っておらず、先の外で待機する神殿側の人員が門を開閉してくれることになっていた。というわけで、瞬は必要な打ち合わせを終えて大神殿を後にして、仕事日まで準備に勤しむことになるのだった。




 さて瞬が神殿で打ち合わせを終えていた頃。ソラはというと彼に依頼の終了と次の依頼の受注を任せると、こちらはクロードと共にエルフ達の都への通行許可証と王都への通行許可証の二つの発行を行ってもらっていたわけであるが、それも終わったので今はクロードの紹介してくれた事務員から通行許可証を受け取る段階だった。


「これが都からの発行された通行許可証です。そしてこちらが王国が発行している通行許可証……ただしこちらは黒き森と王都への往来に限っての物になりますので、そこはご注意ください」

「わかりました」


 やっぱかなり面倒だよな。ソラはご時世柄仕方がないとは思いつつも、国内の移動――今回はある種国外だが――だけでも非常に困難な現状に内心で辟易していた。


「すでにクロードさんから聞いていると思いますが、この通行許可証は二つで一組です。どちらか片方を紛失されただけで、砦の通行は非常に困難になります。実質不可能とお考えください」

「それか、半月ほど待てってことでしたね」

「そうなります」


 やはり魔物が出てしまう関係で、通行許可証が失くなってしまうことはないではない。なので王国も都もそこまで非情ではなく、止むに止まれぬ事情と本人の確認が出来れば再発行はしてくれるらしい。が、そうなると共に王都と都から人を寄越してもらうことになり、非常に手間になってしまうそうだった。というわけで、再度諸注意を聞いた後。ソラは正式に通行許可証を二つ受け取ることになる。


「では、確かにお渡しいたしました。こちらの書類にサインを」

「はい……これで大丈夫ですか?」

「……はい。確認しました」

「ありがとうございます……それで一つだけ良いですか?」

「なんでしょう」


 受け取った二つの通行許可証を見比べていたソラであったが、それで少しだけ気になったことがあったらしい。彼は小首を傾げる事務員に対してそのまま問いかけた。


「通行許可証ってこんな豪華? な物なんっすか? てっきり紙に書かれたなんかだと思ってたんですけど」

「ああ、それですか……まぁ、色々と事情はありますが……」


 ソラの問いかけに、事務員は少しだけ苦笑気味に笑って通行許可証を見る。素材こそソラにはわからなかったが銀色のプレートで、シンフォニア王国側の通行許可証には蒼い宝石が。黒き森側の通行許可証には暗緑色の宝石がはめ込まれていた。


「一つには現在の情勢下では何より偽造防止が重要になりましたから。それを刻み込もうとすると、どうしても材質が金属になってしまったのです。無論、それでも時と場合によりけりという所ではありますが……」

「と、言うと?」

「まだ紙面での発行もしています。こちらが多いのは商人達など、迅速に発行して貰いたいという場合に使われます。ただし紙面での通行許可証は偽造の可能性が高まりますので、こっちの金属製の物に比べて信頼度が落ちるんですよ。当然、砦などでの検査もそれだけ厳重になります」

「なるほど。発行の手間を惜しむとそうなる、と」


 今回はクロードが動いてくれていたから金属製の手間が掛かる方になっていたのか。ソラはおそらく戦闘なども鑑みてこちらを選択してくれたのだと納得する。そしてそんな彼に、事務員は一つ頷いた。


「そういうことですね。更に言うと黒き森側は紙面での通行許可証の発行は今も昔もしていません。昔は木製の物に今の宝石を取り付けていたそうですが……今はもう全て金属製ですね」

「木製……どっちにしろすごい時間は掛かりそうですね」

「でしょうね。これはオフレコですけど、その当時を知ってる先輩方曰く通行許可証の細工が工芸品並に細かいパーツが多かったから触るのが怖いのなんの、とかなんとか」

「あははは」


 少しだけおどけてみせてくれた事務員に、ソラが楽しげに笑う。どうやら一度目の魔界からの侵攻の時点でエルフ達もカイト達の進言――サルファも進言している側だったことも大きかった――を受け入れ、通行許可証を偽造が難しい金属製に取り替えていたらしい。

 ちなみに工芸品並の細工と言われた黒き森の通行許可証であるが、実は今の金属製の通行許可証も工芸品並の細工が施されていたりする。ただ木製ではないので壊しにくくなった、と事務員達は喜んでいるらしかった。


「まぁ、でも今も細工は細かいですね」

「ええ……あ、これも完全にオフレコですけど、だから通行許可証を失くしたらエルフの細工師に思いっきり怒られた、なんて話もありますから注意してくださいね」

「あー……まぁ、どっちにしろ失くさないようには注意しておきます」

「それでお願いします」


 これは再発行してもらうとなったらかなり時間が掛かりそうだな。ソラは見事な細工が施された黒き森の通行許可証を見て、内心でそう思う。

 実際通行許可証の発行にここまで時間が掛かっていたのはこれを一つ作るのに職人が行っているからだそうで、本来はもっと時間が掛かるものらしい。今回一ヶ月で発行して貰えたのは王族のサルファと大神官のスイレリアの口添えがあったからだった。というわけでこちらは通行許可証を正式に受領すると、ソラはそれを手にホームへと帰還する。


「ただいまー……うおっ。なんか薬品の匂いが……」

「あ、ソラくん。おかえりなさい。さっき回復薬の精製用の魔導具が到着して、今はリィルさんとイミナさんが二人でチェックしてる所。私はそれで説明書の整理で、由利がお昼ごはんのお買い物」

「あ、そういうことね……」


 それで薬品の匂いがしてたのか。ソラは家中に漂う薬品の匂いにそう理解する。そんな薬品の匂いを嗅ぎながら、ソラは一つ笑う。


「でも、これ……ナナミだともっときつくないのか?」

「そうだけど……そうも言ってられないでしょ?」

「まぁ、そうだけど……でも今後誰かを招くってなったり来た時にこれじゃあ困るよなぁ」

「あー……確かにお客様は招けないね……」


 ナナミは仕方がないと思ったわけであるが、確かに今後来客が無いかと言われれば絶対にないとは言い切れない。なのでそれを考えれば匂いはなんとかせねばならない、と彼女も思ったようだ。


「なにか芳香剤買ってきた方が良い?」

「いや、芳香剤だと最悪薬品の調合に影響が出ちまうから……うーん。換気が出来る様になにか考えるしかないかー」


 こういうことだと流石にカイトかおやっさんに相談してみるしかないか。ソラは漂う薬品の顔ろに顔を顰めながら、そう思う。と、そんなことを考えていると、再び後ろの扉が開かれる。


「ん? ソラ……ん? なんだ? この匂いは」

「ああ、先輩。いや、回復薬を作るための魔導具が届いたらしいっすよ。で、その匂いらしいっすね」

「なるほど……ああ、そうだ。ソラ。今度の仕事の件で今のうちに話しておけるか?」

「あ、了解っす。確か神殿の依頼で墓所での掃討戦でしたっけ」

「そんな所だな」


 昨日の間にソラとも依頼の内容を簡単には話しており、彼も素直に受け入れたようだ。そうして、ソラと瞬――に加えて一人暇を持て余していたセレスティアも――はひとまず午前中いっぱいを用いて次の依頼の打ち合わせを行うことにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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