第3011話 はるかな過去編 ――大神殿――
『時空流異門』。それは別の時間軸。別の世界へと飛ばされてしまうという異常現象。その異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。よりにもよって戦国乱世と呼ばれていた動乱の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは何の因果かこの時代で騎士として生きていた当時のカイトや、その仲間達と会合を果たしていた。
そうしてカイト達との出会いを経て改めて元の時代へと戻るべく冒険者としての活動を開始させる一同であったが、その中でこの時代のカイトが多くの貴族達に妬まれる存在である事を理解。大精霊から助言を受けるためには彼と関わらない選択肢がなかった事から、注目されていない今の間に万が一に備えた準備を整えるべく資金を蓄えるべく依頼の日々に邁進していた。
というわけで、その一環として王都の神殿からの依頼により墓所の浄化の露払いを請け負う事になった瞬はその打ち合わせを行うべく神殿に赴く事になっていた。
「ふ……む……大神殿というぐらいだからわかりやすい……と思うんだが……なにか見た気もするし、見てない気もする……」
どれだろうか。一度ホームに戻って書棚に仕舞っておいた王都全体の地図を開いた瞬は大神殿の場所を探す。一応活動に関係のありそうな施設に関してはこの時点ですでに暗記していたが、神殿などの無関係そうな施設は知らない事もまだまだ多かった。というわけで地図とにらめっこをする瞬であったが、そんな彼へとリィルが問いかける。
「瞬。地図を見て何を探しているのですか? 貴方が今更地図とにらめっこなぞ珍しい」
「ああ、リィルか……いや、今度の依頼は大神殿からのもので、事前に打ち合わせが要求されているんだ。まぁ、打ち合わせそのものは今日じゃなくても良いという事だから明日朝一番に訪れようかと思っているが」
「ああ、なるほど……神殿ですか」
「わかるのか?」
「ええ。以前貴方とソラが黒き森に出かけている際、王都を色々と見て回りましたので……そこで目印として神殿を活用していました」
瞬の問いかけを受け、リィルは彼が覗き込んでいた地図を見る。そうして彼女は自身の記憶を頼りに自身が目印とした施設を思い出して、更にそこから逆算して神殿を探し出した。
「これですね。王城から少し離れていますが、この道具屋を目印にすると良いでしょう」
「あぁ、そうだ。この道具屋のそばを通った時に見かけたんだ。思い出した……ああ、ありがとう。あの道具屋なら覚えているから、なんとか辿り着けそうだ」
後は実際に赴く際に道に迷わなければ良いか。瞬はリィルの助言に一つ礼を述べる。
「いえ、構いません……打ち合わせそのものは大丈夫そうですか?」
「ああ。言ってしまえば依頼の打ち合わせなぞ今も昔もやっていたことだからな。よほど特殊な依頼ではないと問題はない」
「それもそうですか。ですが神殿という事は」
「わかっている。いつも以上に礼儀作法には十分に注意する」
相変わらず心配性というかなんというか。瞬はリィルの言葉に少しだけ笑いながら、問題無い事を口にする。そうして彼はこの日はひとまずソラやセレスティアら残りの面子に今回の依頼の事を伝え、この依頼の受諾に問題無い事の意思統一を行って翌朝に神殿に赴く事にするのだった。
さて瞬が大神殿からの依頼を請け負った翌日の朝。彼はそろそろ到着するという回復薬の精製用魔導具の受け取り準備を進めるソラ達――依頼の終了処理と次の依頼の受注を彼が一人で行っていたのはそれ故――とは別に、一人神殿に赴いていた。
(これは……やはり王都というだけはあり大きいな。いや、大神殿というのだから当然か)
何を当たり前な事を言っているんだろう、自分は。瞬は改めてはっきりと確認した大神殿の大きさについてそう思う。まぁ、これは当然というかなんというか、やはりこの世界にも大精霊を祀る神殿は普通にあった。一応他にも神を祀る神殿もあるそうなのであるが、一番大きい宗派というかそういうものは大精霊を祀ったものの様子だった。
そして幸いな事に大精霊を祀るのであれば、エネフィアでは神殿都市というもはや都市そのものが神殿のような街があるのだ。そこと馴染みの深い瞬は気後れしなくてよかった。
(よし……とりあえずは入ってみるか)
このまま外で待っていても埒は明かない。瞬はそう思うと、大神殿にお祈りに向かう周囲の人々と同様に大神殿の中へと入っていく。そうして少しだけ周囲を見回して、受付のようなものがある事を確認するととりあえずそちらに声を掛けてみる事にした。
「すいません」
「いらっしゃいませ。お守りですか? それとも告解をお望みですか?」
「ああ、いえ。すいません。えーっと……墓所の浄化に関わる依頼を受けてきたのですが」
「ああ、いつもの……わかりました。少しお待ち下さい」
いつもの、という事は定期的に冒険者に依頼が出されているのか。瞬は神殿の受付に立っていた若い男性聖職者の反応からそう察する。そうして少しだけ待っていると、奥から若い女性聖職者が現れた。
「お待たせいたしました……墓所の清掃活動に関しては初めてですか?」
「ええ。ただ地元では何度か似た依頼は受けてきました」
「そうでしたか……ただ地元とこちらでは色々と違いがあるかもしれません。詳細をお話いたしますので、ついてきてください」
一応今までギルドから派遣されてきた冒険者達の実績の積み重ねがあるからか、神殿側も初見の冒険者であっても普通に取り合ってくれたようだ。
実際この依頼を受けられるのは受付が直に話してみて問題なさそうだと判断された冒険者だけらしく、後日瞬も気が付いたのだが掲示板には掲示されていない依頼だった。というわけで、応接室に通された後。ひとまず女性聖職者が口を開く。
「ああ、そうだ。まずは何より自己紹介が先ですね。私はラクエル・ガードナー。この大神殿にて大精霊様に仕える神官の一人です」
「あ、瞬・一条です」
「……変わったお名前ですね」
「ああ、東の方の出身ですから……」
「ああ、それで……っと、失礼しました」
流石に名前を聞いて変わった名前というのは失礼ではないだろうか。そう思ったラクエルという女性神官は慌てて頭を下げる。これに、瞬は首を振った。
「ああ、いえ。大丈夫ですよ……それで今回の依頼は墓所の浄化の前段階。露払いという事でしたが、おおよそは魔物の討伐という認識で大丈夫ですか? 受付でもそう聞いていたので……」
「ええ、おおよそはそれで間違いはありません。ただしおそらく聞いているとは思いますが、墓所になりますので大規模な破壊を伴う戦闘行為は禁止。墓所の防衛もまた依頼に含まれる事になります。また本依頼は大神殿からの発注になっておりますが、その大本は王国からの物とお考えください。なので故意の破壊が認められた場合、王国からの処罰も考えられる物となります」
「かなり責任重大ですね……」
おそらく敢えて脅すような言い回しをしているのだろう。瞬はラクエルの言葉に対してそう思う。そして実際、これに関しては脅すような言い回しを意図的にしていたようだ。
「ええ。ああ、そうだ。墓所と申しましたが、王都出身ではないとの事でしたので一応詳しくご説明しておきましょうか?」
「なにかあるのですか?」
「いえ……時折外から来られた方だと、墓所が地下にあったりする事をご想像されていらっしゃったりするので。なぜかは私も良くわからないのですが……」
「あ、すいません。自分もそう勘違いしていましたが……違うんですか?」
王都の外にある墓所で魔物も出るというのだから、てっきりカタコンベなどの地下に深いものだと思っていた。瞬は逆に困惑を露わにしていたラクエルの問いかけに申し訳無さそうに申し出る。これに対してどうやら言う通りいつもの事だったのか、ラクエルは教えてくれた。
「いえ。普通に外にあるものですよ。ただどうしてもこのご時世柄、あまり強固な結界を常時で展開する事も難しいですから……月に二度。皆様がお参りになられる時だけにされているのです」
「そしてその数度の前に、定期的に依頼を出していると」
「ええ。そしてその後に我々が浄化を行い、同時に簡易の結界を展開。しばらく保たせるというわけです」
「なるほど……」
その月に二度のお参りのための準備として、冒険者達が墓所で討伐を行っているというわけか。瞬はラクエルの言葉からそう理解する。
「とはいえ、それならさほど魔物は強くなってなさそうですね」
「そうですね。この依頼を受諾された方は総じて、魔物よりうっかり墓を壊さないかヒヤヒヤする、と仰っしゃられていらっしゃいます」
「あはは。そうですね。自分もそう思います」
笑ってこの依頼を受けられる冒険者にとって魔物はさほど強くないだろうと口にするラクエルに、瞬も注意するべきはそちらかもしれないと思う。というわけで魔物の強さに関してより墓の破損に注意するべきだろう、と判断した瞬はその後も詳しい流れをラクエルと確認。併せて実際の仕事日を決定する事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




