第3010話 はるかな過去編 ――依頼の日々――
『時空流異門』という現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。それも戦国乱世と呼ばれていた動乱の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはこの時代で騎士として活躍していたカイトや、その仲間達と会合を果たしていた。
そうして再び元の時代へと戻るべく冒険者としての活動を開始させたわけであるが、カイトからの要請で黒き森というエルフ達の住処へと赴いたわけであるが、その帰り。
彼が多くの貴族達から妬まれる存在である事を察すると、今後自分達が彼と関わらない道理が無い事から注目されていない今の内に対応策を打つ事にして、瞬が冒険者を束ねるおやっさんに相談を行ったわけであるが、結局は先立つものが必要と一同はいつも通り冒険者としての活動に邁進する事になっていた。
「これが依頼の品です」
「……はい、確かに。お疲れ様でした。では所定通り、報酬に関しては口座振込を行っておきます」
「ありがとうございます……ふぅ」
「大変でしたか? 今回の依頼は」
「ああ、いえ……久しぶりに竜種と戦いましたが、良い運動になりましたよ」
ギルドの受付嬢の言葉に、瞬は笑って首を振る。今回請け負ったのは、翼竜種という飛竜種の一種を討伐。その牙と爪を指定数納品するという依頼だ。というわけで宙を舞う飛竜と飛空術を使った空中戦を行ったわけで、瞬としては久方ぶりに存分に戦えたという感じだった。そんな彼に、受付嬢も笑った。
「あはは。そう仰っしゃられるのでしたら、心配は必要なさそうですね」
「なにかありました?」
「いえ……何分新しく入られた方が自分の実力を見極められず亡くなられる事は多いものですから。飛竜相手に良い運動になった、程度を言えるという事は実力は相当なもの。そして皆さんが冒険者として登録されて一ヶ月近く。その間ほぼ手傷もなく無事に戻られていらっしゃいますので、皆さんの場合は自分の実力をご理解されていると言って良いのでしょう」
「なるほど……」
この世界の冒険者ギルドはエネフィアの様にランク制度を導入し、自身の腕に見合わない依頼を受けられない様にされているわけではない。あくまでも冒険者ギルドは依頼人と冒険者を繋ぐ仲介組織という側面が強く、おやっさんが言う様に自分の実力が見極められず死亡する冒険者は少なくなかったのだ。そしてこれに、瞬は一つ頷いた。
「ええ。元々俺たちに教えてくれた人たちは全員、自らを知る事を重要視してたので」
「そうですか……ああ、とりあえず。これで依頼は完了です。後の手続きはこちらで行いますが……どうされますか? 次の依頼を見繕いますか?」
「そうですね……」
受付嬢の問いかけに、瞬はどうしようかと悩む。一応この世界の冒険者ギルドではエネフィアの様に相談窓口があるわけではないが、別に相談に乗ってくれないというわけではない。一つの支部に長く所属すると似た様に趣向からこの依頼はどうだ、と冒険者ギルド側が持ちかけてくれる事もあるらしかった。というわけで、一ヶ月程度所属した事もあり瞬は試しに問いかけてみる事にする。
「逆になにかおすすめはありますか?」
「そうですね……ああ、そうだ。そう言えば瞬さん達は今高効率の依頼を多く受けてらっしゃるんでしたか?」
「ええ……少しあって家を改修したいな、と」
「でしたね……それでしたらこの依頼はどうでしょう。危険度がそこそこ高いので、あまりおすすめはしませんが……皆さんでしたら達成出来る可能性は決して低くはないかと」
「これは……」
また珍しい類の依頼だな。瞬は提示された依頼書を見ながら、わずかに目を丸くする。
「墓所の浄化? 浄化と言っても俺達はそういった事が出来るヤツは居ないんですが……」
「ああ、いえ。流石に皆さんに専門的な浄化を依頼する事はありませんよ。この依頼は墓所の浄化を行う前の露払い、という所でしょうか。露払いが終わった後はすぐに神殿の神官達が墓所に入り、入念な浄化を行う事になっています」
「ああ、なるほど……ぶっちゃけてしまえば単なる討伐任務、という所ですか」
「あはは。そうですね。ただし場所が墓所ですので狭い地域での戦闘が想定されますし、当然墓所なので破壊を伴う戦闘行為は禁じられます。なのでそれ相応に腕が必要なのです」
ギルドの受付嬢の言葉を聞きながら、瞬はかつてルーファウスとアリスが来たばかりの頃を思い出す。その時に請け負った依頼も丁度今と同じ様な墓所の内部に巣食う魔物の討伐だった。というわけでそれを思い出していた彼は今の自分達にそれが出来るかを考え、一つ頷く。
「わかりました。前に実は同じ様な墓所の浄化の仕事を受けた事があるので、問題無いかと」
「そうだったんですか?」
「ええ。と言ってもその時は俺もソラも別のヤツがお膳立てしてくれたので、主体的に動いたわけではないんですが……やり方は横で見せてもらったので、問題無いかと」
「わかりました。それでしたら、ぜひお願いします」
後におやっさんが言う所によると元々こういった墓所の浄化は難易度もありあまり請け負ってくれる冒険者が居なかったらしいが、瞬達レベルの実力と経験があるなら安心と受付嬢も判断したようだ。一つ頷いて依頼の受注処理を行ってくれる。
「はい。これで完了です。詳細は依頼書をご確認ください」
「はい……あ、すいません。そもそもこの依頼書にある神殿……ってどこですか? よく考えたら俺、一度も神殿に向かった事がなかったもので……」
「あ、あぁー……ああ、えっと。以前おやっさんが地図を渡されていませんでしたか?」
「え、ああ、そう言えば受け取りましたね。そっちに?」
「ええ。あれは大本が王国が発行しているものですから、基本的な施設については掲載されています。神殿も乗っていたはずですよ」
今までは冒険者の活動に必要な施設を中心として見ていたので気付かなかったか。瞬はギルドの受付嬢の言葉に恥ずかしげながらそう理解する。というわけで、瞬は依頼の打ち合わせを行うべく今度は王都にある大神殿とやらを目指す事にするのだった。
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