第3004話 はるかな過去編 ――遭遇戦――
少しだけ、時は遡る。かつてラエリア内紛にて大地の賢人と呼ばれる精霊より転移術の基礎技術を入手した冒険部では転移術の研究が開始されるにあたり、上層部向けに転移術の基礎的な勉強会が開かれていた。
といっても、勿論これは別に大地の賢人から手に入れた技術があればこそではなく、単に都合よい偽装が出来たしこれから研究を始めるにあたって先に教えられる部分は教えておこう、と思っただけだ。というわけで講師は当然、ティナであった。
「というわけで、総括すると転移術のデメリットは二つ。超絶難易度とどうしても発動時、自他問わずに障壁が完全無力化されてしまう事じゃな」
「なんってか……何度か聞いてたけどさ。障壁の完全無力化ってデメリットとしちゃ痛すぎるよな……」
ティナの総括を聞いたソラが非常に苦い顔で呟いた。何度となく触れられている話であるが、転移術はその仕様上障壁が無力化されてしまう事がデメリットとして挙げられる。これは転移術の仕様上の問題なので、ティナでさえ対応は不可能だった。
「しゃーない。本来居るべき場所から一瞬で別の場所へ移動する、と言えば簡単じゃがやろうとするととてつもない技術になる。一瞬も比喩としての一瞬ではなく、事実としての一瞬。コンマゼロ何秒より更に短い時間じゃ。それで情報をすべて移さねばならぬ以上、邪魔になる障壁を取っ払わねばならんのは仕方がない」
「ん? ということは……時間を掛ければ障壁そのままで転移出来るってことか?」
「それ、意味あるか?」
「んぁ」
ごもっともでした。問いかけたソラであったが、瞬の指摘に恥ずかしげに問いかけを取り下げる。一瞬で移動出来る事こそが転移術最大の利点なのだ。その最大の利点を潰してしまっては意味がなかった。というわけで答えは出たようなものであったが、そんな問い掛けにティナは一応答えてくれた。
「出来るは出来るぞ。まぁ、意味のあるものではないがのう。難易度は変わらんし」
「だよな……てか気になったんだけど、転移術の直後に攻撃する事とかって出来るのか? 具体的にゃどこに移動するか見抜くコツとかさ」
「無論それは出来るし、余なら先読みして攻撃仕掛けるのう。直撃すりゃ一発じゃし」
やはりティナレベルになると出来るしやるのか。上層部一同は彼女の言葉にそう思う。とはいえ、これは言うほど簡単でない事ぐらい誰にでもわかろうものであった。
「コツとしては転移の直前の一瞬だけ生ずる空間と次元の歪みを察知し、そこに攻撃を置く。威力より速度重視で良いので簡単な魔術で良いのは良い点じゃな」
「その直前の一瞬ってどれぐらい?」
「術者によって異なるが……転移術を使える時点でコンマ何秒もあるまいな」
ほぼほぼ無いに等しいというわけか。現実的に見ればそう言っているような物であると一同は理解する。と、そんな一同であったが、ふと瞬が問いかけた。
「ユスティーナなら確かに狙い撃てるのだろうが、もし狙い打たれた場合の対抗策とかは無いのか? いつもいつでも成功するってわけでもないだろう。最悪は全周囲攻撃でも放てば当てられる可能性は高くなるだろうしな」
「お……良い点に気付きおったな。転移術を潰す手の一つはお主の言う通り、全周囲に攻撃を仕掛けてしまう事じゃ。こうすりゃ転移の兆候が掴めずとも攻撃は出来る」
偶然ではあったが、どうやら瞬の言葉は転移術への対策として正解であったらしい。ティナが一つ頷く。とはいえ、これは話の本筋ではない事もまた彼女は理解していた。というわけで、瞬の問いかけに答える事にする。
「で、狙い撃たれた場合の対策じゃが……出来なくはない。カイト」
「あいあい……めっちゃやりたくはないが」
「そう言うでない。余でも出来んからな、あれは」
「あいあい……」
狙い撃たれた場合の対策に関しては、どうやらカイトぐらいでないと技術的に出来ないらしい。というわけで狙い撃たれた場合の対抗策についての実演をされる事になるのだが、それを見た一同はただただ言葉を失う事になるのだった。
さて『時空流異門』なる異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。それも戦国乱世の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは元の時代へと戻るべく冒険者としての活動を開始させる。
その中でこの時代のカイトからの要請により黒き森と呼ばれる地へと赴く事になっていたソラ達であるが、その帰り道。普通は通らないルートを通る商隊と遭遇。軍人として街道をよく理解していたカイトとイミナが訝しんだ事により商隊が魔族が偽装した一団である事を見抜き、偶発的な戦いへと発展していた。
「っぅ! 先輩、セレスちゃん! 無事だな!」
「ああ! まさかいきなり両者問答無用か!」
当然なのだろうが。瞬は偽造を見抜いたと同時に抜き放たれた刃とそれに応ずるように幌の内側から放たれた無数の矢――魔族達側も巡回の兵士が来たと見抜かれる可能性を理解し準備していた――を弾き飛ばすソラを見ながら、一つ悪態をつく。当然と考えたのはやはり今が戦時中だからだろう。
敵と確定している相手に降伏を問いかけるほど、カイトも甘くはなかった。というわけでいざ戦闘開始となるかと思われた瞬間、商隊の護衛に化けていた魔族の戦士達が一斉に同時に消える。
「っ、転移術!?」
「はぁ!」
やはり流石は魔族と戦い続けていた戦士の一人というわけなのだろう。戦闘開始を見て取るや即座に大鎧を脱ぎ捨て身軽になったセレスティアが一閃。ソラの展開した巨大な障壁の内側に潜り込んできた魔族の戦士の一人を切り伏せる。
「転移術持ちはこちらで始末します! お二人はそれ以外を!」
「お、おう!」
流石に転移術持ちとは戦っても勝ち目はない。瞬はセレスティアの指示に素直に従わせてもらう事にする。そうして転移術の兆候を見抜いては転移を妨害したり、もしくはかつてティナが言っていたように無防備になる瞬間を狙い澄まし斬り伏せたりするセレスティアの一方。
カイトとイミナの両名は商隊の隊長と副隊長に偽装していた魔族の隊長格二人――カイトが魔族の隊長。イミナが副隊長を相手にしていた――と相対していた。
「ふ」
放たれる剣戟の鋭さは並大抵のものではなく、この魔族の力が他の雑多な魔族達とは比べ物にならない事を如実に示していた。そしてであれば、魔族であればそこそこの腕利きなら使える転移術も普通に使いこなしていた。
「おっと」
自身の後ろに回り込まれた事を察したカイトもまた、転移術を使用。前後を逆向きにして、自らの後ろに跳躍していた魔族を正面に捉えるような形で斬りかかる。
が、これに魔族の隊長はカイトの転移の兆候を見抜いていたのか、更にその上に転移術で跳躍。カイトへと斬りかかる。
「甘い」
再度の跳躍により転移した魔族の転移を見抜いたカイトであったが、今度はその背後を取る形で転移術を行使。それに魔族の隊長もまた転移術を行使し死角へと回り込み、と両者一歩も引かぬ転移術合戦へともつれ込む。そうして始まった転移術合戦であるが、先に飽きを見せたのはカイトだった。
「もらった!」
転移術の直後の一瞬をねらい打てる。魔族の隊長はカイトの転移術行使のタイミングと自身の転移のタイミング。更には攻撃のタイミングなどを測り、自身の攻撃が直撃出来る状態を構築出来たとほくそ笑む。が、彼は知らなかった。それこそがカイトの狙い通りであったことを。
「……あ?」
完璧なタイミングで、完璧な攻撃を放った。魔族の隊長は自身の胸に走る激痛に、困惑した様子を露わにする。
「転移直後を狙い撃てた……そう思ってたならご愁傷さまだ。あいにく、オレは転移術で失われる障壁が再構築するより前に動けるように訓練してたんでね」
「きさ……ま……ゆうしゃ……かいと……」
自身の胸を貫いた巨大な大太刀を見て、魔族の隊長は自分が相手をしていたのがカイトであると理解したようだ。が、理解した所で遅かった。こうして、魔族の隊長は続けて放たれた大剣による一撃で跡形もなく消滅。残る残党達も程なくして全滅させられる事になるのだった。
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