第2999話 はるかな過去編 ――再会――
『時空流異門』という時の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはこの時代にて騎士として活躍していたカイトや、その義理の弟であるクロード・マクダウェル。カイトを兄のように慕うハイ・エルフのサルファやその婚約者にして魔女であるノワールらと出会っていた。
というわけで元の世界に戻るべく冒険者として活動していたソラ達であったが、その最中に受けた時乃からの助言によりエルフ達の都を訪れていたのであるが、通行許可証を手に入れるために一同はエルフ達の神殿を訪れる事になっていた。
「……」
またこのパターンっすか。ソラは神殿の前にて待ち構える数十人の騎士達から向けられる敵意満載の視線を受けながら、そう思う。まだここに来るまでは興味半分という具合であったが、流石にエルフ達が重要視する神殿までたどり着くと敵意がかなり色濃かった。そんな騎士達を横目に、先に道案内に来たエルフの騎士が告げた。
「こちらだ、お客人」
「あ、はい……」
兎にも角にもこの状況は居心地が悪い。ソラはエルフの騎士に素直に従って、神殿へと歩いていく。そうして開かれていた神殿の入り口を通って中に入ると、一瞬だけ爽やかな風が一同の間を吹き抜ける。が、中で待っていたのは爽やかな者たちではなく、猜疑心に満ち溢れた神官たちだった。
「来たか」
「勇者殿。話は聞いている……大精霊様より神託を受けた者たちだと」
「神官方……ああ。詳しくは私もわかりかねるが、そうである事は事実らしい」
「「「ふむ……」」」
カイトとしてはそうである以上、そうとしか言いようがないのだ。そして彼がこんな周囲を大々的に巻き込むような嘘を吐く人物ではない事は神官達もわかっている。
というより、そうでないとここまで――物々しくはあるが――きちんとした対応は取ってくれないだろう。というわけで、神殿の一番中心に立っていた若い女性神官が口を開く。
「勇者殿。幾らサルファ様やノワール様の書類があれ、そう簡単に信じられるものではない……それは、良いですね?」
「無論です、大神官様」
「ありがとう……正直に言えば、大精霊様が契約者でもない者にお言葉を下さった事は歴史上でもほぼ前例がない。我ら神官でさえ、耳にした事がないという者も珍しくはないぐらいです」
別におかしい事でもなんでもないが、本来大精霊達の声なぞそれに仕える神官でさえ聞いた事がない方が普通なのだ。それはエルフ達の神官も例に漏れず、大精霊の声を聞いたという者はこの中でも片手で足りるほどだった。
「とはいえ、サルファ様が戯れに大精霊様の事をお出しになられるとは思えない。となると、事実ではあるのでしょうが……詳しく話を伺いたいというのが、正直な所です。何故、彼らに声を下さったのか。何が目的なのか……」
「それに関しては、直接当人達にお聞き頂ければ。ただ、一つ」
「何か?」
「人払いを。おそらくなぜ彼らに声を掛けたか、に関しては私もおおよそは理解しているつもりです。ですがそれ故、おそらくこの件は大神官様の耳にのみ留めるべき事と存じます」
ソラ達が時を越えた話をするのなら、それは神官達全員が聞いていては情報が外に露呈する可能性がある。そう判断したカイトは先の女性神官に人払いを願い出る。これに、女性神官は応じてくれた。
「良いでしょう。もし真実大精霊様がお言葉をくださるような事態というのであれば、これだけ人が集まっているというのは良い事態ではないのかもしれません」
かんっ。女性神官は手にしていた杖で地面を軽く鳴らす。それを受け左右の神官達が頷いて、それを受け左右の神官を残して護衛の騎士達や神官達が退出。そしてそれが終わったと同時に、神殿の全域を覆うような巨大な結界が展開される。
「これで、良いですか?」
「ありがとうございます……ソラ。大神官様に話を」
「あ、おう……え? 俺で良いのか? セレスちゃんとかの方が……」
「いや、どちらでも良いが……どうする?」
「私が」
「何かあるのか?」
「ええ」
カイトの問いかけに自らが説明する、と申し出たセレスティアであったが、やはり何かがあったらしい。彼の問いかけに頷くと、一歩前へと進み出る。そうして何かを思い出すように目を閉じて、彼女が口を開いた。
「えっと……確か……良し。時が来たのです、スイレリア」
「……なぜ私の名を?」
「貴女自身より、そう告げるように言われておりました。あの時はなぜ、と私の方がわかっておりませんでしたが……この時、この場で告げるために言われたというわけなのでしょう」
外には出ていない自身の名を呼ばれわずかに驚愕を露わにした――左右の神官が目に見えて驚愕している事を鑑みると、わずかなのはとんでもない事だった――女性神官ことスイレリアに、セレスティアは少しだけ苦笑を浮かべる。そして、この事態にスイレリアもまたセレスティアらが只者でなないと察したようだ。
「私より、そう告げるように言われたと」
「はい……いつ。どのタイミングで、誰に向けて、などは一切おっしゃられず。ただある時、唐突に御身が自らの名を告げられ来るべき時にこの言葉を言うように、と仰っしゃられたのです」
「なるほど……勇者殿。どうやら、彼女らは並々ならぬ状況というわけなのですね」
自身の名は外には一切漏れていないはずだ。スイレリアは両手で足りる程度――カイトは知っていたが彼もまたセレスティアが知っていた事に驚いていた――しか知らないはずの自身の名を呼ばれ、それがしかも自分からそう言うように言われていたという事を信じるしかなかったようだ。そしてどうやら、この状況から考えられる事を彼女はわかったらしい。
「察するに、彼女らは未来から来た……そういう事なのですか?」
「ええ……ですが驚いた。まさかそう告げるように言われていたとは」
「あはは。私自身、大神官様がこの事をご存知だった事には驚きしかないです。ですがそれなら筋が通る」
「時が来た……私らしい言い回しではありますが……それ故、素直に信じられた」
「どういう事なのですか?」
この言い回しでおおよそを理解出来るのは自分ぐらいだろう。スイレリアは自身の言葉なればこそ、自分ならばこれで理解出来ると納得していた。が、やはりこればかりは当人でなければわからないことだ。カイトの疑問にもっともだ、と頷いて教えてくれた。
「簡単です。時が来た……そのままです。別の時から来た。そういう事です」
「あ、はぁ……」
「ふむ……察するに貴女はレジディアの姫ですね。身に纏う風格の中に、レジディアの者特有の気配がある。そして貴女の方は……おそらく未来のマクダウェルの騎士でしょう」
自分に会える立場であり、そして自分が言葉を託すに足る相手。それらを考えスイレリアはセレスティアとイミナの立場をそれぞれ理解したようだ。その言葉に、セレスティアは一つ頷いた。
「はい……今より幾百年の月日を越えた先の、ではありますが」
「なるほど。数百年……その程度であれば、確かに私が生きていても不思議はない。詳しく状況をお聞かせ願えますか? 何が起きて、そしてどうしてこうなっているのか。そして大精霊様が何をお望みなのか……それを知る必要があります」
ここまで特異な状況である以上、大精霊が指示を出していても不思議はない。そしてそうであるなら、自分達が関与せねばならないだろう。スイレリアはそう判断したようだ。そうして、その後は暫くの間セレスティアを中心として未来で何があり、そしてどうしてこうなっているのかという説明が行われる事になるのだった。
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