第2998話 はるかな過去編 ――エルフの都――
『時空流異門』という現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へとやってきてしまったソラ達。そんな彼らはこの時代にて騎士であったカイトや、その義理の弟であるクロード・マクダウェルらと会合。元の時代へ戻るべく、冒険者としての活動を再開させる。
そんな中でカイトからの要請により彼と共に黒き森へとやってきていたソラ達であったが、そこでの数日を経てエルフ達の都とやらに足を伸ばす事になっていた。が、そんな一同はエルフの都に入る前に足止めを食らう事になっていた。
「……」
むちゃくちゃ居心地が悪い。ソラは都に入る前。都の正門前でエルフ達の門兵らの敵意満載の視線を受けながら、そう思っていた。とはいえ、そんな視線を唯一受けない男が矢面に立ってくれていたため、ソラ達としては居心地が悪いだけで済んでいた。
「勇者殿。幾らサルファ様のご命令とはいえ、どこの馬の骨とも知れぬ者に通行許可証をお出しする事は容易ではありません。それはご理解頂きたい。無論、都に入れる事も」
「それは十分に承知している。が、私やサルファを筆頭にした八人を訪ねよ、その助力を受けよ、というのが大精霊様のご意思だという。その言葉が真実である事はその書面にある通り。サルファは当然の事ながら魔女ノワールも担保している以上は嘘はない」
「むぅ……」
それはそうなのですが。エルフの門兵の中でも一番位が高いらしい年嵩のエルフが、どうしたものかと悩ましげな様子で深い溜息を吐く。
「元老院のお歴々に対応を確認させて頂きたい。御身やご令弟を筆頭にした騎士達ならまだしも、どこの馬の骨とも知れぬ輩に大精霊様がお言葉を授けられたなぞ前代未聞。御身のお言葉やサルファ様、ノワール様のお言葉に嘘偽りがないとはいえ、あまりに前例がありません故……なにとぞ、ご容赦を」
「構わない。その間、ここで待たせてもらっても?」
「勿論です。本来なら貴殿をこの場で待たせるなぞ、我らとしても忸怩たる思いではありますが……此度ばかりは何卒」
このエルフはエネフィアで言う所の古い性質を持つエルフ達と同様の性格と考えて良いだろう。が、そんなエルフはカイトに対して深々と頭を下げて許しを請う。これに、カイトは首を振った。
「いや、急に話を持ってきたのは私だ。詰りこそすれ、謝る筋合いは無いだろう。気にしないでくれ」
「かたじけない。では、すぐに」
「頼んだ」
カイトの言葉に、エルフの門兵は馬を飛ばして都の中へと駆けていく。そうして去っていった門兵を見送って、カイトはため息を吐いた。
「時間、掛からないと良いんだが」
「なんかお前、やっぱすごい人物なんだな」
「まぁ、これでも何度も黒き森への侵略を防いでるからな……すまんな、足止め食らって」
「ああ、良いって良いって。エネフィアでも似たようなもんだったし」
「それなら良いんだが……」
ソラの言葉に、カイトは少しだけ照れくさそうに笑う。実際、彼が黒き森を救ったのは両手の数では足りないほどで、後にソラが調べれば流石にそこまでやればエルフ達も彼を特別扱いしようものだというほどだったそうだ。とはいえ、こんな様子を見て笑っていた人物が一人居た。セレスティアである。
「ですがこうやって黒き森の都で止められると、私達としては自分の世界に帰ってきたのだと思います」
「そうなの?」
「ええ……エネフィアの……いえ、マクダウェル領のエルフが特殊過ぎるのかもしれませんが」
「あー……あそこのエルフ達はエネフィアでも特殊過ぎるからなぁ……」
セレスティアの言葉に、ソラはエネフィアに来る前まで自身の持っていたエルフの性格を思い出して納得を示す。マクダウェル領のエルフは生真面目さこそ紋切り型であるが、排他的な様子などはかなり薄い。酒場で飲み交わすエルフもよく見られる光景だ。
それに対してこの地のエルフはというと、排他的な様子などもひっくるめまさに紋切り型なエルフと言えた。とはいえ、逆にこの世界のカイトからすればこの紋切り型なエルフこそが自身の思い描くエルフだ。エネフィアのエルフが想像出来なかったらしい。
「どんなエルフだよ」
「どんなって……まぁ、排他的じゃないし、何より女王様の時点で……ねぇ」
「まぁ……な。天道達から聞くと他のエルフ達も似たりよったりみたいらしいが」
「あー……らしいっすね。カイトが長いんだ、神殿の話は……とかなんとか言って泣いてたとかなんとか」
「ど、どんなのだ……」
それはそれで見たいかもしれない。カイトはソラと瞬から語られる未来の自分が関わるエルフ達の話に僅かな興味を抱く。
「あははは。ですが本当にそのとおりで……未来のカイト様が築かれた関係は本当に良いものなのでしょう。あんなエルフ達が居るなんて、私は想像も出来なかった。あの世界の貴方の街は、知らない事だらけでした」
「……そうか。オレには想像も出来ないが……そう言ってくれるのなら、頑張れたんだろう」
決して嫌っているわけではなく、非常に尊い物を見た様子で語られる言葉にカイトは僅かな安堵を抱く。やはり彼からすれば未来で自分が街を作ったなぞ信じられる話ではないのだ。どこかに不安が見えていたとて、不思議はなかった。
というわけで、エネフィアやこの世界のエルフ達について話しながら待つこと暫く。どうやら結論が出たらしい。正門の扉が開いて中から僅かな光がこぼれ出て、中から先のエルフの門兵が現れる。
「勇者殿」
「ああ……どうだった?」
「とりあえずは、お通りいただくようにと。ただ最終的な判断は元老院と神官達がくだされるとの事ですので、そのまま神殿をお訪ねください」
「わかった。すまなかったな、手間を掛けて」
「いえ。貴殿に掛けていただいた手間に比べれば、この程度なぞ……神殿より遣いが参ります。中に入ってよりは、そちらに従って頂ければ」
「かしこまった」
カイトの謝礼に対して、戻ってきたエルフの門兵が一つ首を振る。そうしてわずかだが警戒が解かれた後、古めかしい木で出来た大きな正門が大きく開かれた。これを見て、ソラが思わず歓声を上げる。
「おぉー……」
「おー……」
「な、なぜセレスまで驚くんだ……」
「え、あ、いえ……すいません。まるっきり同じ街並みだったもので……」
長寿かつ物持ちの良いエルフ達なので珍しい事でもなんでもないのであるが、数百年経過してもこのエルフ達の都の街並みは一切変化していなかったらしい。
なのでまるっきり同じ街並み――実際には少し差異はあるが言われねばわからないほどの変化だそづあ――に、セレスティアは思わず驚きと感嘆が滲んだ声を零してしまったのであった。そんなわけで恥ずかしげな彼女に、カイトが笑う。
「あはは……ということは、神殿とかの場所はわかるか?」
「ええ。おそらく変わらないのでしょうから」
「それはオレにはわからんが……まー、変わらんだろうな。開祖様の手記にあった地図とこの都の街並みが殆ど変わってなかったから」
「そ、そんな昔からなのですか……」
下手をしなくても千年単位で街並みが変化していないのでは。カイトの言葉にイミナが思わず頬を引き攣らせつつも、周囲の木で出来た街並みを見る。と、そんな所でふと瞬が疑問を呈する事になった。
「……ん? そういえば……この都? は随分と明るいな。というか……本当に黒き森の中なのか?」
「厳密には黒き森の中じゃないらしい。エルフ達が有している異空間……だそうだ。オレも詳しくは知らんがな。ただ太陽は滅多に見えないし、数日もすればここが外とは異なる事はわかるようになる」
「いや、今の時点で十分外とは違う事はわかるな……」
カイトの言葉に外を見ていた瞬であったが、視界の端に浮かんでいた雲がわずかに金色に似た幻想的な輝きを有しているのに気付く。それに気付いた彼が更に注意深く観察してみると薄っすらと虹の滲んだような雲があったり、と幻想的な様相はより一層強まっていた。
「そうか……兎にも角にもそういうわけだ。正門の場所も隠されているから、ここへは並大抵の事じゃ攻め込めん。まぁ、だから通行許可を出したりするのはかなり難しいんだ」
「なるほどな……」
それほど外からの侵略を警戒しているというわけなのだろう。エルフ達なので大精霊の名が出れば即座に対応してくれても不思議はないのに、と思っていた瞬は現状を鑑みればそれも不思議はないかもしれないと思う事にする。とはいえ、実際には逆だったようだ。
「ですがここまで素早く元老院や神殿が動いてくれたのは大精霊様のお言葉があればこそ……でしょうね」
「だろうな。大精霊様のお言葉という一文がなければ、サルファやノワールの推薦があろうと一ヶ月は待たされていた」
「一ヶ月なら良い方では? 我々でそれですから……今の我らなら、半年待たされても不思議はないのではと思っていましたから」
「あっははは。確かに」
「「おぉう……」」
どうやら自分達が思った以上にエルフ達の行動は遅いらしい。ソラも瞬もイミナと笑い合うカイトの様子を横目に、頬を引き攣らせる。とはいえ、エネフィアも本来はこんなものなので、別にこの世界のエルフが珍しいわけではなかった。というわけでそんな話をしながら道案内を待っていると、街の中心部から白い馬に跨った偉丈夫が現れた。それを遠目に見て、イミナが目を見開く。
「驚きました……あの格好は神殿騎士。それも高位の神殿騎士では?」
「うん? あれは……おっと。思わぬ大物が来たぞ」
イミナの問いかけに、エルフの騎士が近付いてくる事に気付いたカイトがそちらを見て目を見開く。そうして案の定、エルフの騎士の用事はカイト達にあったようだ。一同の前まで来て馬を止める。
「驚いた。貴殿が直々に出迎えるとは」
「ははは。元老院のお歴々や神殿の神官達が私が出迎えに行けと」
「あはは。我々の言葉が嘘でないのなら、正しい判断だ」
偉丈夫はエルフの中では物わかりが良い類のエルフだったらしい。カイトの前に来るや、快活に笑っていた。そしてどうやら、彼とカイトは知り合いだったらしい。握手を交わした後、ソラ達を見る。
「彼らが?」
「ああ」
「ふむ……確かにそちらの女性には気品が感じられる……ふむ。そちらの女性には騎士に似た凛とした様子もある。確かに、これなら不思議はないやもしれん……」
どうやらセレスティアとイミナの纏う風格から、この二人は只者ではない血筋を有していそうだと直感的にエルフの騎士は判断したらしい。これなら大精霊が助力を申し付けても不思議はないかも、と思ったようだ。そうして内心で納得を得た騎士は一つ頷いて、馬の踵を返す。
「付いて来られよ、お客人。神官達がお待ちだ」
従うしかないのだろう。ソラ達はエルフの騎士の言葉にそう思う。そうして、一同はひとまずエルフの騎士に従って都の中心にある神殿を目指す事になるのだった。
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