第2986話 はるかな過去編 ――八英傑――
『時空流異門』という現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の世界に飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはこの世界で騎士として活躍していた当時のカイトや、その義理の弟にであるクロード・マクダウェルらと会合。改めて元の時代・元の世界に戻るべく冒険者として活動を開始する。
そんな最中にカイトと再会を果たした一同であるが、彼からの要請により黒き森と呼ばれる地まで彼と共に竜車を護衛する任務を引き受ける事になり、その道中でこの世界のマクダウェル邸にて数日を過ごす事になる。
というわけで、その最中。ソラ達の支援を行うべくなにかの調整を行っていた時乃からの連絡を受けたソラは彼女よりこの世界における指針を受け取ると、それをカイトや瞬らに相談していた。
「八英傑……まさか全てに出会えとは」
「八英傑ねぇ……オレら、未来でそう呼ばれてるんね」
どうやらこの世界の未来においては、カイト達八人の事を八英傑と呼ぶのは一般的だったらしい。とはいえそれは未来の事らしく、この時代ではそういった名称はなかったようだ。というわけで驚き感極まる様子のイミナに対して、カイトは怪訝な様子だった。
「まぁ、大精霊様のお言葉だから信じるしかないんだけど。てか、オレ中継機? とやらの扱いになんのね」
「お前、色々と良いように使われてるな」
「光栄……な事っちゃ光栄な事なんだろうけど。なーんか釈然とせん」
大精霊全てと契約を果たすのは未来の自身であり、それが何をしようと自身には何ら影響はないのだ。が、そのくせ自分はその繋がりを利用して中継局のように使われている事にカイトは少しだけ不満げだった。まぁ、ここで大精霊のしている事を相手に不満を見せられるあたり、根っこは彼という事なのだろう。というわけで改めてそれを見たイミナが頬を引き攣らせる。
「そ、そう言えるのはおそらく貴方様だけだと思いますが……」
「そんなもんかね……とりあえず話を戻すか。まぁ、確かにその八英傑? 心当たりはある、っていうかぶっちゃけりゃよくつるんでる八人、ってのだろうな」
「ってことは全員知ってるのか?」
「ああ……といっても、ソラ。お前はもう半分出会ってるだろ」
「半分? レックスさんにお前……あ、後サルファさんか」
そういえばさっきサルファの名前が出ていた。ソラは時乃の言葉を思い出し、三人は思い当たる事に気づく。が、どうしても後一人はわからなかったようだ。
「でもあと一人……誰だ?」
「姫様だ。回復術と防御術の当代きっての使い手。オレとレックスが全力で戦う上で姫様の支援がなければ戦えない」
「山も湖も全て吹き飛びますからね、兄さん達の場合」
「冗談じゃないから、笑えないな」
クロードの冗談めかした言葉に対して、カイトはそれだけの力なればこそ若干持て余し気味なのかため息混じりだ。
「ま、そういうわけで。姫様が防御系の魔術に関しては頂点だ。オレとレックスが今までまともに戦ってこれたのも全て姫様が裏で支援してくれていたからだ」
「そんなすごいのか……」
元々ヒメアがこの世界でも有数の結界や封印の使い手である事は聞いていたソラであったが、カイト達の戦いについてこれる領域だとは思っていなかったようだ。とはいえ、決してそれだけではなかったらしい。セレスティアが口を挟んだ。
「加え優れた巫術等の使い手でもあられた、と伺っております」
「そうだな。姫様はああいった儀式を用いた魔術も得意だ……が、それに関してはベルの方だな」
「そのベルさん? ってのはどんな人なんだ?」
「ベルはレックスの婚約者だ」
「それってこの間発表された?」
「そ……レックスとベルは幼馴染なんだ。まぁ、それで言ったらオレとレックス、ベル、姫様の四人は全員幼馴染だけどさ」
「「はー……」」
後の世の大陸の覇者の王族二人に、今の世の統一王朝の王女様。それに加えて王国に仕える騎士団長の息子。確かにわかりやすい繋がりではあるだろうが、それでも言われてみれば凄まじい立場なのだとソラと瞬――セレスティアとイミナは何を今更でしかなかった――は思わされるばかりだった。
「大神官って言われてるってことは何かの神殿に居たりするのか?」
「いや……統一王朝が崩壊しているから、ベルは今はレジディアに居る。元々は確かに大神殿に居たけどな。まぁ、丁度レックスとの婚約が控えていたし、レジディアとしても大義名分として丁度よいとか何とかで保護? って形になってるっぽいな」
「なるほどな……確かに滅んだつってもあった事は事実だもんな……」
あった事が事実であるのなら、今後大陸の統一を考えるのならそれを利用しない手は無いだろう。特に王女様との婚約が確定しており、当人達はそれを抜きにしても昵懇の仲という。今後の政治的な戦略上で旧王朝の復興という形を取るなら、彼女の身柄は格好の大義名分となるだろう。というわけで六人目を理解し、ソラが続けて問いかける。
「後の二人は?」
「後の二人はアイクとフラウの二人だろうな」
「大提督アイクと銀の女王フラウですね」
「女王……になるのか。なるわな」
「え、あ……申し訳ありません」
この時代ではまだ女王に就任していなかったか。イミナは驚いた様子ながらも納得したカイトの様子から、自身が未来の形で言及してしまったと理解したらしい。これにカイトは笑う。
「ああ、良いって良いって。そうなるだろう、ってのは誰もが思ってた事だしな」
「は、はぁ……」
「まぁ、それはさておいて。とりあえずその二人を入れて合計八人が八英傑というわけか」
「そうなんだろうさ」
瞬の確認に対して、カイトは一つセレスティアらを見ながら頷く。そうしてそんな彼の視線を受け、セレスティアもまた一つ頷いた。
「ええ……<<蒼の勇者>>カイト。<<紅の英雄>>レックス。<<白の聖女>>ヒメア。<<黄の教皇>>ベルナデット。<<翠の賢者>>サルファ。<<黒の魔女>>ノワール。<<銀の女王>>フラウ。<<橙の海王アイク>>……この八人を八英傑と呼ぶ」
「もしくは八耀……だったっけ」
「その八耀はわかりかねますが……八英傑と呼ばれている事は事実です」
どうやら八耀に関してはこの世界や未来の言い方ではないらしい。ソラは自身の言葉に首を振るセレスティアにそう理解する。そして同様にそう理解した瞬であるが、この話は追求する意味はないと理解していたようだ。彼は話を先に進める事にする。
「そうか……で、この内五人とは会えている、と」
「そうなります」
「そのベルナデットさん、ってのと会うのをまずは目指した方が良さそうか?」
「うーん……そうはそうだろうが……今は厳しいだろうなぁ」
瞬の提案に対して否定を入れたのはカイトだ。そうして、彼がその理由を口にした。
「さっきも言ったが、ベルは今レジディアに保護されている立場だ。オレやクロードなら兎も角、お前らみたいに何処の馬の骨とも知れないヤツが会おうとして会える相手じゃない」
「お前でもなんとかならないのか?」
「おいおい……オレはシンフォニア王国の騎士団長だぞ? そこまで無茶は通せないって」
レックスが色々とぶっ飛んだ事をしている上にシンフォニア王国でもある程度の配慮を貰えているのだからカイトも同じ事は出来ないだろうか。そう思ったらしい瞬であるが、やはり王族と騎士団長では扱いは違うらしい。カイトが何をおかしなことを、とばかりに笑っていた。とはいえ、それができる男が居るのは周知の事実だ。
「まぁ、やるならレックスに頼む事だろうが……最大の問題は会いに行くとなるとレジディア王国まで行かないといけない事だろうな」
「「あー……」」
「何か問題なのか?」
カイトの指摘の意味を即座に理解したソラとセレスティアに対して、瞬は小首を傾げて問いかける。これに、ソラが教えてくれた。
「他国なんっすよ、レジディア王国」
「そうだな」
「で、今は戦争中っす……幾ら友好国でも簡単に行けると思えます?」
「あ……」
レジディアとシンフォニアは友好関係かつ同盟関係にあるが、戦時中である事に違いはない。幾ら友好国の民だろうと簡単に入国ができるとは思えなかった。これもやはり、カイトやレックスが特例的に自由に入出国が出来ている事が災いしただろう。というわけで、特例を貰っている男を見ながら瞬もため息を吐いた。
「なるほど。カイトやレックスさんが普通に出入りしている、という事だったから簡単なのかと思ったが……」
「オレもレックスも特例だ。その特例もアルヴァ陛下やレイマール陛下のご理解の賜物と言っても良い。あのお二人がご理解くださらなければ、こんな特例なぞあり得んよ」
レイマールというのはレックスの父で、レジディア王国の現国王だ。この彼もまた古くからの同盟国であり隣国でもあるシンフォニア王国が為す術もなく一夜で滅ぼされた事を見て、敵が油断ならないと理解していたのである。
というわけで自分達の言葉を真摯に受け止め周囲の反対や無理解を押し切って準備を進めてくれたこの二人の国王をカイトは深く尊敬していたのであった。
「そういうわけっすね。どうにかしてレジディア国の王都まで行かないとっすけど、そこまで行くのは相当難しそうってところっすね。出てくる事とか無いの?」
「魔族の侵攻やら逆にこちらからの攻略作戦があった時には、オレ達の支援に出てくれるが……それぐらいだ。基本レジディア王国に出向かないと会えないと思った方が良いだろうな」
「だよなぁ……」
なにせ滅びた統一王朝の王女様だ。魔族の侵略を退けた後の復興を担う上でこれ以上ない大義名分だ。危険は冒せないだろう。それでも出てくるのはそれだけ彼女の腕が確かであり、同時に魔族が人類側にとって厄介と捉えられているのだと考えられた。
「後の二人は? そのアイクさん、ってのとフラウさん、っての?」
「アイクは……」
「あ、あはは……」
「だよなぁ」
自身の視線を受け半笑いになったセレスティアに、カイトも苦笑いしか浮かべられなかったようだ。そうして、彼がソラの問いかけに答えてくれた。
「アイクはさっきセレスも言ったが大提督……船団を指揮しているんだ。つまり海に居る……連絡が取れないわけじゃないが、確実に連絡が取れるわけでもない。下手すると別の大陸に出てる可能性もあるしな。まぁ、その時は一声掛けてくれるからわかってるけど」
「「おぉう……」」
とどのつまり海の男。アイクはそういう人物であると教えられ、ソラも瞬も眉の根を付ける。が、海の男である以上、どうしようもないと言うしかないのだ。そしてそれなら、とソラは最後の一人に言及する。
「えっと……それならフラウさんは?」
「こっちもオレからは望み薄だな……オレが黒き森に行きやすいのなら、銀の山に行きやすいのはレックス……レジディア王国だ。というか、あっちからしか行けん。こっちもやっぱレックスに話を通してもらわない事にはどうしようもないな」
「ってことは……お前が渡りを付けられるのはヒメアさんとサルファさん、ノワールさんの三人。レックスさんが渡りを付けられるのがアイクさんとフラウさん、ベルナデットさんってわけ?」
「そう考えてくれて大丈夫だ」
ここでは言及されていないが、アイク率いる艦隊が母港としているのはレジディア王国にある港らしい。そういうわけなのでアイクに会うならレジディア王国に入らねばならず、レックスに言った方が良いと言っているらしかった。
ちなみに、これは別にレックス側で挙げられた四人とカイトが親しくしていないという意味ではなく、単にソラ達が会いに行くのならこうなるというだけだ。この八人はお互いにノーアポイントでさえ問題ない相手に違いはないらしかった。
「ってことはまずレジディア王国に行ける手段を手に入れないと、ってわけか」
「そうなるな……流石にそこらはオレには出来ん。悪く思わないでくれ」
「それはわかるから大丈夫」
このカイトには未来のカイトのような政治的な力は無いのだ。である以上、ソラとしても彼に頼める範囲を超えていると理解していた様子だった。そしてそれなら、とソラは告げた。
「兎にも角にも今は実績を積み上げて、レジディア王国に入国できる実績を手に入れないとって感じか」
「そうなるな……時間は掛かるだろうが」
「しゃーないよ。お前……未来のお前も言ってたけど、信頼は失うのは一瞬だが積み上げるのは途方もない時間が掛かるからな。ま、腕を磨きながらのんびりやってくよ」
何より生きていくには冒険者として活動していくしかないしな。ソラはカイトの言葉に頷きつつ、そう口にする。というわけで、一同は改めてこれからの指針を定めひとまずは依頼をこなして行く事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




