第2982話 はるかな過去編 ――マクダウェル家――
『時空流異門』。何処とも知れぬ空間。何処とも知れぬ時間軸に飛ばされてしまうという現象。それに巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代に飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはこの時代を生きていたカイトやその親友にして唯一の好敵手であるレックス・レジディアという青年らと会合。改めて元の時代に戻るべく、この時代で冒険者としての活動を開始する。
というわけでカイトからの要請で彼と共に黒き森というエルフ達の住まう森に向かう依頼を受ける事になっていたのであるが、その道中で少しの理由からマクダウェル領にて数日を過ごす事になっていた。
「そういえばふと聞いてみたかったんだが……お前らって未来のオレの家を知ってるんだよな?」
「ああ。お前んちって公的な施設も兼ねてるから事務処理の関係で行ったりするからな」
数日過ごすことになった一同であるが、カイトもクロードも有名人だ。なので大っぴらに出歩く事は難しく、暇だという事でソラ達の所に来ていたのであった。というわけで彼の問いかけを受けたソラに、カイトは重ねて問いかける。
「そっちとこっち。どんな感じなんだ? 孤児院があったり色々と違う、ってのは聞いてるけど」
「んー……なんていうか、マクダウェル邸……っていうか、未来の? エネフィアの? に慣れてるとすっげー違和感はあるけど、違和感がないっていうか……」
「……どういうこった?」
「いや、なんていうか……うん。前にもちらっと言ったかもだけど、俺たちが知ってるマクダウェル家ってでかいんだよな。いや、あれで小さい方って言うんだからすげぇんだけど」
何か矛盾する言い方をしていた自身の言葉に首を傾げたカイトに、ソラは改めて未来のマクダウェル家についてを語る。
「なんかそんならしいな。まぁ……オレらしいのかもしれないけど」
「かもな……とまぁ、それはそれとしても、だ。規模は違うんだけど、どこか似てるような様子はあるなー、って。設計思想? そんなのが似てるのかも?」
「うーん……そう言われてもな……流石にこの家の設計についてはオレも詳しくは知らんのよな」
「ここって確か数年前に越してきたんだろ? それまではどうしてたんだ?」
先にカイト曰く、魔族の奇襲を受けたアルヴァを守るべく先代のマクダウェル卿が亡くなった事を受けこの地が遺族に与えられたという事だ。カイトはそれをあくまでも先代の代理として受け取ったに過ぎない。そうなるとここに来るまではまた別の所で暮らしていたはずで、ソラは家も新築されていると思ったのである。
「あぁ、それか。一応王都にも同じ拵えの家があるんだ。元々は王都住まいだったからな。クロードは今もそっちに住んでる」
「お前違うの?」
「オレか……オレは前に言った通り、王城の東棟に住んでる。ここだけの話だが、オレは本来の所属としちゃ近衛兵団なんだよ」
「騎士団じゃねぇの?」
少しだけ困ったように笑うカイトの返答に、ソラは驚いたように目を丸くする。これにカイトは一つ頷いた。
「ああ……といっても近衛兵でもむちゃくちゃ特殊な立ち位置で、第二王女様付きの護衛騎士になる。王族の護衛を行う騎士の所属は一応近衛兵になるからな。兼任という形で蒼の騎士団の団長をやってる、みたいな形か。本来兼任不可な役職だが、状況が状況だから特例としてだな」
「そうなのか……一応ってことは指揮系統とかも近衛兵と完全に別なのか?」
「ああ。オレの主任務は姫様の護衛。だから独立した裁量を与えられている。指揮権としてもアルヴァ陛下じゃなくて、それぞれの主人に属するんだ。護衛騎士なんだから当然だけどな。ま、そう言っても普通は一人の騎士が出来る事なんて限られているから、結局近衛兵と一緒に行動するが」
「お前は別と」
「いや、オレも流石に単独行動は滅多にしないぞ? 確かに護衛任務だけなら問題無いけどな」
これは未来のカイトも何度となく言っている事であるが、幾ら彼が最強と言われるほどの力を手にしていようと一人では出来る事が限られる。それはこの時代の彼もわかっていて、基本的には集団行動を心掛けていた。
「ま、それはそれとして。そういうわけだからオレは姫様の隣の部屋で寝泊まりしてる、ってわけ」
「それでか……ってかよく年頃の男で護衛騎士って許されたな。普通ならイミナさんみたいに女性騎士になるんじゃないのか?」
「……それに触れるか」
「……え、やっぱ色々ある感じ?」
「色々どころじゃねぇよ」
普通に考えればであるが、カイトのような若い男性騎士を同じ年頃の王女の護衛に付けるなぞ有り得ない話だろう。間違いが起きては事だからだ。
確かにカイトが優れた武勲を立てている事を鑑みれば特例として認められても不思議はないが、幼馴染である事を鑑みればそれでも認められるとは思わなかった。
「貴族達がなーんも言わないというよりも、貴族達は言ったらヤバいって理解したから表立っては言わないだけだ」
「ヤバい?」
「その昔、オレの処遇をどうするか、っていう話が出た事があるんだよ。そこでちょっと一悶着あってな」
「処遇?」
「前の侵攻の後の話だ。当然だがオレとレックスの二人で尖兵を退けこの国を救った以上、国としちゃ何かしらはしなければならない。で、王国としちゃ特例として従騎士からの格上げで終わらせるつもりだった、とか色々あるんだよ。後、姫様の……あ、待った。これは完全に忘れろ。これは話したらだめなヤツだ」
やはりソラは未来においてカイトとそこそこ親しい立場に居るからだろう。カイトも色々と話しやすかったらしい。危うく機密事項に属する話をしそうになっていたようだ。
ここら、やはり未来の彼に比べてうっかりは生じやすいらしかった。と、そんな彼の様子にソラは呆気にとられながらもそれならと了承を示す。
「お、おぉ……まぁ、それならそれで良いんだけど」
「悪いな……というわけでオレは東棟だけどクロードは王都の実家に住んでる感じだ。で、話を戻すとこの館はその王都の家をまるっきりコピーして来た感じ、かな。と言っても庭園とかは母さまが管理してたから、庭園の備品やらはそっちから移設。あっちの庭園はクロードが好きにやってるよ。訓練用のスペースとか広げたがってたしな」
「あ、それでクロードの傷が付いた柱がこっちにあったわけか」
「あはは。そういうこと」
どうやら厳密にいえば完全に一緒の物が王都にあるというわけではないようだ。ソラは楽しげに笑うカイトにそう理解する。というわけでそんな彼にソラは告げる。
「でもまぁ、なんていうか設計思想が似てるってのはお前が暮らしやすい環境を求めたらこうなったのかもな。要望は当然してたはずだし」
「なるほどな……確かに転生した後の心の何処かにここの記憶があった、ってのはあり得る話か」
こればかりは当人に聞かねばわからない話だし、なんだったら当人に聞いてもわからない話かもしれないだろう。ソラもカイトもそうなのかもしれない、と思うばかりであった。
「ああ、そうだ。そういえば一つ気になってたんだけど、開祖様? 初代様の絵ってあるって話だよな? あれ、見る事って出来るのか? どんな人か気になってさ」
「ああ、あれか。まぁ、見せられはするな。大広間に飾ってるし、父さんが客と会食する際には大広間を使ってたって話は聞いてるし。クロードもそうだったかな」
どうやら初代マクダウェルの絵画は隠されているとかではなく、一般開放こそされていないが普通に見れるものだったようだ。ソラの要望を受けてカイトが立ち上がる。そうして向かうのは、大広間だ。
「これが、初代様のお姿だ」
「へー……」
初代マクダウェル卿は半人半魔の騎士だった。そう聞いていたソラであるが、彼のイメージとは異なりその姿は騎士というより若い貴族の男性という様子だった。と、そんな姿を見てソラがふと気が付いた。
「あれ? 銀髪? でもクロードって金髪だよな? あれ? イザベルさんも金髪じゃなかった気がするし」
「ああ。ここには無いが奥方様が金髪だったそうだ。だからクロードの髪色はそっちから引き継がれてるそうだ」
「へー……その奥さんってどんな人だったんだ?」
「それがさっぱりでな……一説には幼馴染だったり、旅の最中に出会った僧侶だったり……果ては王女様なんてのもある」
「古すぎてわかんない、ってわけか」
「そういうことだな」
初代マクダウェル卿というのは、この時代からして数百年も昔の人物だというのだ。この時代の技術水準等を鑑みその数百年前になると、情報があまり残っていなくても不思議はなかった。というわけでひとしきり初代マクダウェル卿の絵画を見せてもらったわけであるが、そんなソラにカイトが問いかける。
「まぁ、折角だから他に見たい物があったら聞くぞ。暇だからな」
「あはは……そうだなぁ……それだったら何かあるかな……」
先にも触れられているが、今のカイトはやれる事がなさすぎて暇という所が大きい。というわけで、この後はソラはカイトの暇つぶしを兼ねて色々と見せてもらう事になるのだった。
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