第2976話 はるかな過去編 ――ミーティング――
『時空流異門』という現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代に飛ばされてしまったソラや瞬達。彼らはこの時代において騎士として活躍していたカイトやその親友にして唯一の好敵手と言われるレックス・レジディアという青年や、カイトの義理の弟であるクロード・マクダウェル等の戦士達と会合を果たしていた。
そんな彼らとの出会いを経て更には時乃の助言により元の世界に戻れるまでこの世界で過ごす事になった一同であるが、この世界にも存在していた冒険者としての活動の中で再会したカイトや彼を兄と慕うサルファというハイ・エルフの少年により黒き森と呼ばれる地へと赴く事になっていた。
というわけで、黒き森への招きからおよそ一週間。その間も数個の依頼を請け負いながら準備を進めていたわけであるが、出発の前々日になりカイトが顔を見せていた。
「おーう。元気か?」
「あ、カイト。おう。久しぶり」
「おう……あ、地図か。ちょうど良かった」
服装こそ自分達の知るカイトと異なる所が多々あるが、性格としては自分達の知るカイトとさほど変わらない。ソラらはこの半月ほどのこの地での滞在でそれを理解していたようだ。
そしてカイトもそれを理解したらしい。未来の彼とさほど変わらない付き合いが出来るようにはなっていた。というわけで、そんな彼が一応の確認として問いかける。
「明後日黒き森に向けて出発するわけだが、支度は大丈夫か? 地図見てくれてた所を見ると、事前準備の真っ最中って所みたいだが」
「ああ。それに関しては今日で完了するよ。今先輩が居ないのはそれが理由だし」
「そうか……まぁ、食料関連に関してはこっちで用立てるから、さほど気にしないでくれて良い。非常食でも持っていれば安心安全という所だろうからな」
「それも大丈夫だ。そこらはお前から口酸っぱく言われているしな」
「そか」
未来の自身がどのような人物かはカイト自身にはわからないが、自分が何度も言い聞かせたのなら問題はないだろう。カイトはそう判断し、それ以上は何も言わない事にしたようだ。一つ頷いて話を進める事にした。
「で、前にも言っていたが明日は夜に王城の入り口に来てくれ。今回の事案に関しては陛下も承諾されているから、本来は閉ざされている裏口から入れるように手配している」
「お前が待っててくれるんだよな?」
「ああ。流石に何も無しに入れるわけじゃないからな」
ソラの問いかけに、カイトは一つ頷いた。今回、ソラ達が黒き森に行く事になったのはカイトが誘ったからという所がある。無論これには彼の方にもいくつかの思惑があるわけであるが、誘ったのが彼である以上彼が出迎える事になっていた。
「で、その後は翌朝に出発だ。これに関しては夜明け前に発つ事になるから、体調管理とかはしっかりな」
「大丈夫。これでも冒険者やってそこそこ時間は経過してるからな。夜明け前に動き出す、ってのは何回もやってるよ」
「そうだったな」
冒険者としての仕事の中には時間帯が限定される依頼も少なくない。それはエネフィアでもこの世界でも変わらないらしく、冒険者として活動してすでに数十ヶ月が経過している以上そういった依頼も請け負っていて不思議はなかった。というわけでソラの言葉に納得したカイトが更に続けた。
「で、それ以降の日程だが一旦マクダウェル領に移動後、そこを経由地として黒き森に移動する。若干特殊な移動方法を使う事になるが、それについては追々話す」
「俺たちはその道中の護衛として動けば良いんだな?」
「そうだな……どうしても今回の仕事はあまり大っぴらに騎士団が動けん。何より貴族共に知られたくない所も大きい……まぁ、オレが動く以上望み薄ではあるが……大人数の護衛を動かすともっと察知されやすくなるし、さりとて四騎士達が動くと一緒だった」
「で、そこそこ腕が立って注目されてない俺達にお鉢が回ってきた、ってわけか」
言うまでもない事であるが、この世界においてソラ達は無名の存在だ。なので実力に関しても知られておらず、動いても注目度は低いのである。無論、魔族達に関しては全く知らないも同然だ。
カイト達からしてみれば自分達はそこそこ腕は立つ事がわかっていて、貴族や魔族達から注目されない存在である点が最大の利点として採用されたようだ。
「そういうことだな……まぁ、もし万が一道中で魔族に出会っても、オレが居るからさほど問題にはならないだろう。流石に将軍級や軍団長級が動いてくるなら話は完全に別になるが……」
「動きそうにはないのか?」
「ない……とは思う。多分まだバレてない。バレてもまだ多分そこまで警戒はされない……はず」
ソラの問いかけに、カイトはどこか自信なさげに答える。この世界のカイトにはヴィクトル商会のような情報屋に類する存在がいないのだ。しかも相手は異界の魔族。敵がどういう情報を持っているかはほぼほぼわからない状態で、そうだろうと言うしかなかった。というわけで、そんな様子のカイトにソラが困ったように笑う。
「自信ないなぁ」
「しゃーねーだろ。魔族共はどこに潜んでるかさっぱりだ。おまけに貴族共も油断ならんから、どこで魔族共と繋がってるかわかりゃしない。どんな情報を掴んでるか、ってのはさっぱりだ……流石に今回のブツに関しては貴族達にさえ言っていないからバレてないとは思うがな」
「でもそれさえそうだと良いな、という程度でしかないと」
「そうなんだよなぁ……ったく。人の苦労も知らないで」
ここまで立て直すのにどれだけ苦労したと思ってやがる。カイトはそれでも内在的に存在している裏切り者達に対して悪態をつく。とはいえ、こんな話はどうでも良いと言えばどうでも良い。なので彼はすぐに気を取り直す。
「まぁ、そりゃ良い。兎にも角にも明後日からはよろしく頼む。その報酬と言っちゃなんだが、オレからは魔道具。サルファからは黒き森の図書館への入場許可を出させる」
「おう」
今回の案件であるが、非公式――先の通り魔族達に察知されないため――ではあるが冒険者への依頼という形を取る事になったらしい。なのでカイトも今回は騎士ではなく冒険者として久しぶりに動く事になったそうだ。そしてそういうわけなので四騎士達も彼が率いる騎士団も動かせず、ソラ達が選ばれたのである。
「そういえば道中何か注意するべき点とかあるのか? 一応地理は見てたんだけど、どうしても情報が足りなくてさ……一応、イミナさんにも聞いてはいるんだけど。流石に数百年先の情報だからなぁ」
「あー……そうか。そこに関してだけは、お前達に足りない点か」
これは仕方がないというか当然の話になるが、エネフィアにおいてソラ達が数々の情報を保有していたのは然るべき伝手があったからだ。しかもその伝手とて情報の有用性を説いたカイトにサリアが同調。
情報屋ギルドを立ち上げたがゆえに手に入れられるものなので、そのどちらも存在していないこの世界で情報を入手する事は出来ない。そして公的機関の支援を限定的にしか受けられない現状では、軍事機密に属する詳細な地理情報の入手なぞ不可能だった。
「そうだな。流石に地理の情報を与える事は出来ないが……ある程度情報共有をしておかないと、仕事に差し障るか。わかった。何か書くものはあるか?」
「あ、ペンがあるけど」
「よし。貸してくれ」
どうせ道中に教えないといけないのなら、今ここで教えておいて準備して貰っておいた方が良い。カイトはそう判断したらしい。というわけで、その後も暫く今回の依頼の留意点等を含めた簡単なミーティングを行う事になるのだった。
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