第2971話 はるかな過去編 ――帰路――
『時空流異門』に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代に飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らはこの時代に居たカイトや、その親友にして唯一の好敵手と言われるレックス・レジディアというセレスティアのご先祖様。更にはイミナのご先祖様にしてカイトの義理の弟であるクロード・マクダウェルという騎士と出会っていた。
そんな彼らとの出会いを経て元の世界に戻るべくこの世界にも存在していた冒険者としての活動を開始した一同であるが、とりあえず人員を二手に分け片方は王城にある図書室でこの世界の調査。もう片方となる瞬達は今後の活動を見越して薬草の群生地へ薬草を取りに行く仕事を請け負っていた。というわけで、薬草の群生地にたどり着いた彼らはそこで一泊。翌朝薬草の採取を行っていた。
「ふむ……」
ここらはもう慣れたものと言っても良いかもしれないな。瞬は久方ぶりといえば久方ぶりの薬草採取の依頼をこなしながら、内心そう思う。と、そんな彼を見てリィルが問いかけた。
「何か嬉しそうですね」
「そうか?」
「貴方が草花を好むとは思いませんでしたが……」
「ああ、違う違う。思えば久しぶりだな、と思ってな」
いや、これはこれでどうなのだろう。瞬は内心そう思いながらも、リィルの問いかけに首を振る。別に草花が嫌いというわけではないが、同時に好き好んでいるわけでもない。というわけで、彼は何を笑っていたかを言及する。
「久しぶりだが……思えば慣れたものだなと思ってな」
「久しぶり……そういえば貴方の場合は討伐や護衛が多いのでしたか」
「ああ。俺に求められているのはやはりそれだろうからな」
常に最前線に立ち、強敵や難敵を倒していくこと。それこそが自身に求められている事だと瞬は考えていた。だからこそ彼は請け負う依頼は基本は討伐や護衛任務等の腕っぷしが求められるものを多く請け負っていた。とはいえ、それなら採集の依頼に関して慣れたというのはおかしいだろう。というわけで、そこをリィルが指摘する。
「ですがそれで慣れたとは?」
「いや、ウチの強みはやはり規模の多さだろう? そうなると薬草の採集を頼まれる事は少なくない。大規模な部隊を組織して大量に、とかいくつかの群生地に、というのもあるからな」
「ああ、よくありますね」
「ああ。その護衛に向かうとやはりどうしても必然手を貸す事も多いからな。なんだかんだ慣れていたんだ」
どういう薬草はどういう採取をしなければならないのか。そういったものはやはり実際にやってみてわかってくる所があり、興味があって瞬も手を貸すついでに学んでいたのだ。というわけで依頼として薬草の採集を請け負うのは久しぶりだが、薬草の採集を行う事そのものは久しぶりとは言い難かった。
「それを思い出した、と」
「ああ……まぁ、やはり幸か不幸かカイトが率いているからだろうな。そういった依頼が多く舞い込むのは」
「でしょうね」
今更になるが、カイトは未来の世界ではマクダウェル公という公爵位にある。なので公的な依頼を発注する事は可能だし、実際に冒険部に何度と大きな依頼を発注している。無論これは冒険部を儲けさせるためではなく、きちんと冒険部が最適――所属する人員の規模――と判断した上での物だ。
「あいつと一緒に居ると色々と経験を積むもんだ……これをその一つと言って良いかはわからないが」
「そうですね……とはいえ、確かにそうである事もまた事実と言えるかもしれません」
「ああ……ふむ。ふと思ったが、カイトがこの時代にも居るからこそ流れ着いたのかもしれんか」
「なるほど……そういう見方も出来るかもしれませんか」
こればかりは誰もわからないだろうし、この時代のカイトなぞもっとわからないだろう。二人はそう思いながら、もしかしたらここでこの時代のカイトと会合出来たのは偶然ではなかったのかもしれないと思う。と、そんな話を繰り広げながら採集を続けること一時間ほど。保管容器が目一杯になるほどの薬草を採取出来た。
「こんなものだろう……二人は?」
「こちらも大丈夫です」
「俺も問題ありません」
イミナの問いかけに、二人は保管容器の蓋を少しだけ開いて目一杯詰め込まれている事を明示する。今回の依頼はこの保管容器がいっぱいになるだけという依頼で、この保管容器ごと幾らという形で報酬が支払われる事になっていた。
「良し……じゃあ、帰るか。今からなら夕方には戻れるだろう。今の季節なら王都の正門が閉じる時間までには帰れるはずだ」
言うまでもない事であるが、今は戦国乱世の時代だ。なので王都の正門は夜には完全に閉鎖され、王都全域には巨大な結界が張り巡らされ魔族や敵対国の侵入者を防いでいる。
それ以外にも王都の内外を昼夜問わずで兵士達が巡回しているし、滅多な事は出来なかった。というわけで、あまり遅い時間にならないように王都へ戻るべく三人は薬草の群生地を後にする事にするのだった。
さて三人が薬草の群生地を後にしておよそ三時間と少し。昼休憩を挟んで再び出発する事にした三人であるが、14時頃になり巨大な爆音が響き渡るのを耳にする。
「なんだ?」
「戦闘……ですね?」
「みたいだな……」
二人共姿勢を下げろ。イミナは瞬とリィルの二人にジェスチャーで姿勢を低くするように指示する。音源がある方角から迸る魔力は並々ならぬもので、それだけで三人には抗いようのない力を持つ何かしらが戦っているのだとわからせていた。
「これは相当だな……何なんだ?」
「わからん……魔物、ではないだろうが」
魔物がここまでの魔力を放っていた場合、基本的には周囲に爆発を伴う破壊が撒き散らかされているはずだ。三人はこの魔力を放つ両者が魔物でない事はわかりつつ、あまりに強大な力に警戒を隠せないでいた。この世界にはイミナでさえ到底勝ち得ない魔族も居るのだ。下手に目立つ行動は出来なかった。
「「「……」」」
爆音と衝撃が迸る中。三人は姿勢を低くして目立たないように少し離れた所にある大きな木の麓へと移動する。一旦そこに隠れ、状況を確認するつもりだった。というわけで巨木の裏に隠れ、二人は猛烈な勢いで移動する何者かを観察する。
「とてつもない力だな……その癖破壊は殆どしていない。相当な猛者だ」
「ええ……これはおそらく我々を遥かに超えている。戦いには……ならないでしょうね」
これはもし敵だった場合は発見された場合は一巻の終わりだな。三人はそう思いながら僅かに苦笑を交えあう。この力はまずランクS級が確定しているし、技にせよ何にせよ自分達では到底勝ち目がなさそうだと思うしかなかった。というわけで息を殺して隠れ潜むこと更に少し。槍投げを使うが故に三人の中で最も目が良い瞬が困惑を露わにする。
「あれは……カイト? それにレックスさん?」
「「は?」」
「い、いや……蒼い光と紅い光が激突してる……みたいなんだが、どうにも二人に見えるんだが……えぇ……?」
あのカイトと互角に戦っている。瞬はこの世界でもカイトがトップクラスと思えばこそ、それとほぼ互角どころか完全に互角の戦いを演じている――しかもまるで友人達がじゃれ合うように楽しげに――レックスに困惑を隠せないでいた。とはいえ、それでイミナには納得出来たらしい。肩の力を抜いていた。
「っ……なるほど。あの方々なら納得だ。いや、待て。あのお二方が戦われている?」
「あ、ああ……そう見えます。そろそろそちらでも見えるかと」
「っ……これは……マズいな」
「マズいとは……何がどう?」
「あのお二方の訓練の際は必ずヒメア様がご同席され、周囲の被害を抑えられていたという。だがどうにもお二人は本当にふとしたことからなんというか……喧嘩? いや、じゃれ合いのように戦われていたらしくてな。その際、周囲に被害が生まれヒメア様やらに大いに怒られていたという……伝説では山が一つ二つ消し飛んだ、という伝説も」
「「……」」
カイトとその同格の存在が喧嘩しているというのだ。山が一つ二つで済んだのなら良いのではなかろうか。イミナの言葉に二人はそう思う。が、そんな二人が近くで戦っていて、結界等が貼られている様子はないのだ。現状が魔物だなんだよりよっぽど悪い事を二人もすぐに理解した。
「それは……マズいですね」
「ああ……っ!?」
「「!?」」
リィルの言葉にイミナが応じた瞬間。カイトとレックスの激突により、天が割れて周囲の雲が消し飛んだ。そしてその反動で一瞬だけ蒼と紅の輝きが遠ざかるわけであるが、これはいよいよ嵐の中に巻き込まれた泥舟も一緒と瞬は判断。なんとかして気付いて貰う事にする。
「っ、とりあえず気付いてもらう方が先か!」
「どうするつもりです!?」
「とりあえず叫んでみる! おぉおおおおお!」
リィルの問いかけに答え、瞬は巨木の影を飛び出して声を大にして雷を立ち昇らせる。そしてどうやら、これは功を奏したようだ。今まで収まる事のなかった強大な魔力が鳴りを潜め、ボロボロのカイトとレックスがこちらを振り向いた。
「っと……お前らか。どうした?」
「あ、久しぶり」
「「「ど、どうした……」」」
なぜこうもあっけらかんとしているのだろう。まるで何もなかったと言わんばかりの二人に、瞬達が揃って言葉を失う。とはいえ、これによりなんとか二人の戦いは終わり瞬達は命拾いをする事になるのだった。
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