第2966話 はるかな過去編 幕間 ――四騎士――
セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達。彼らはその時代にて騎士であり勇者と謳われていたカイトと会合を果たす事になっていた。
というわけでそんな彼との出会いをきっかけとして彼の親友にして唯一の好敵手と言われるレックス・レジディア。彼の義弟にして後のイミナの祖先であるクロード・マクダウェルらと出会うのであるが、それをきっかけとして一同はカイトの率いる騎士団の訓練に参加させて貰っていた。そうして戦う彼らを、カイトは感心した様子で見ていた。
「ふぅん……中々やるな」
「団の外では中々な使い手では?」
「そうだなぁ……一年未満なら、相当な才能を持っているな」
クロードの問いかけに、カイトはソラ達から初陣から一年も経過していないという話を思い出す。そしてその話を同じく聞いていたルクスが応ずる。
「才能だけ……ではないでしょう。相当な修羅場は経験しているのかもしれませんね」
「だが所詮その程度。師団長相手に足止めがせいぜいだ。それ以上を相手にするのなら、とてもではないが見れたものではない。竜種の餌……にはならんだろうがな」
「おや……炎帝様のお眼鏡には適いませんでしたか?」
「適いませんでしたか? 適うべくもない。事務仕事を放り出して来てみて、見たのがこれではな」
あ、仕事はサボったんですね。ルクスは長い真紅の髪をまるで炎のように棚引かせ頭を振り、深い溜息を吐く女性騎士の言葉に内心で思わずツッコミを入れる。そんな彼を横目に、女性騎士は心底嘆かわしいと再度盛大にため息を吐いた。
「あれが、未来の団長の仲間だと? 巫山戯るのも大概にしろ。あれでは足手まといにしかなるまい」
「オレもそこまで弱くなっている……とか考えんの? 生まれ変わってるし」
「団長が? それこそ悪い冗談だ。貴公は生まれ変わろうと最強を誇るだろう。怪我でもしていれば、話は別だがな」
カイトの問いかけに対して、女性騎士はまるで鼻で笑うように一笑に付す。そんな彼女はまるでそれが決められているかのように、イミナに問いかける。
「遠きマクダウェルの騎士よ……話は聞いている。まさか団長が弱くなっているなぞと言ってくれるなよ?」
「弱体化……ですか。どうでしょう……ただ彼曰く常時けが人だから無茶はしたくないんだけど、との事でしたが」
「む?」
「え?」
「お?」
「マジすか?」
イミナの返答に、先の女性騎士――冗談のつもりで言っていた――を含め全員が仰天する。これにイミナは慌てて補足する。
「いえ、私も詳しくは存じ上げていないのですが……ただセレスティア様とのお話でそう……」
「……そう、らしいですね。当人はこの程度昔はいつもの事だった、と笑ってらっしゃいましたが。けが人にはとても思えませんでしたが……ただけが人なのは本当らしいです。全力の半分程度しか出せていないだろう、と私の召喚に応じてくださったレックス様との間でそんな事を」
「む、むぅ……単なる冗談のつもりだったのだが」
まさか本当にけが人だったとは。真紅の女性騎士は図らずも本当だった冗談に困ったような表情を浮かべていた。そんな彼女であるが、すぐに気を取り直して問いかける。
「まぁ、良い。それで? 未来の団長は強いのか?」
「勿論です……私とイミナが組んで、足元にも到底及ばないぐらいには。そして異世界にて最強を謳われるぐらいには」
「ほらな?」
なんでそんな自慢げなのでしょうか。先程までの居丈高な態度が鳴りを潜め、まるで子供のように自慢げに笑う女性騎士にそう思う。が、その一方のカイトは盛大に嘆きを浮かべていた。
「オレまた怪我してんのかよ……」
「「いつもの事でしょう」」
「いつもの事だろう」
「だから泣いてるんでしょーに……」
自身に仕える四騎士の内この場に居る全員から何を今更と言われ、カイトはただただ肩を落とすだけだ。まぁ、誰よりも仲間を守るべく最前線に立ち続け、怪我を負い続けた男だ。そうなるだろう事は誰より彼自身が理解していた。そして、四騎士達もまた理解していた。
「だがだからこそ、心底幻滅だ。団長の腹心となろうというのなら、最低限クロードレベルには欲しい」
「おいおい……クロードを舐めるなよ? 潜在性だとこいつが一番だとオレは思うぜ?」
「まぁ、そうでなければ四騎士を名乗ってもらっては困るからな」
「ちょ……」
思わぬ所からの称賛に、クロードがかなり恥ずかしげだ。どうやら現時点では四騎士最弱と言われるクロードであるが、その才能は四騎士全員が認めていたようだ。というわけで、誰より彼の将来性を認めていたカイトが告げる。
「あはは……ま、そういうわけでクロードレベルは中々厳しいと思うわけですよ」
「厳しいから、と背負い込むのが貴公の悪い所だ」
「手厳しいね」
「手厳しいと思うのに、いたずらに突っ込む癖を改めるべきとは思わないのね」
苦笑するカイトへと、今度はどこか冷酷さを感じさせる女性の声が響く。そんな声に一同が振り向けば、そこには銀の女性騎士が立っていた。そんな彼女は他の四騎士達と同様に、カイトの横に並び立つ。
「皆興味があったのね。未来で団長がどんな人を仲間にしているのか」
「氷帝とあだ名される女も、流石に団長の仲間と言われては興味も湧くか」
「無いわけがない」
なにせ自分達と同じ立場の者達なのだ。騎士ではないとは聞いていても、気になるのは仕方がなかった。というわけで、予定より遥かに早い時間での集合に、カイトはため息を吐いた。
「四騎士揃い踏み、か。そんな皆して観戦してやらんでも、と思うんだがね」
「見る価値はないけれど。見る意味は見出だせるわ」
「きっついなぁ……」
そうなんだろうけども。カイトは銀の騎士の言葉に僅かに苦笑する。とはいえ、彼女らからしてみればソラ達は遥か格下だ。唸らせる事は難しかったようだ。そんな四騎士達の揃い踏みの様相に、イミナはどこか感動を覚えていた。
「グレイス・スカーレット。優美なる炎帝……ライム・ブレス。絶対零度の氷帝……ルクス・エドウィン。神速の颶風……クロード・マクダウェル。輝ける雷光」
全員が後の世に名を残す大英雄達。それが一堂に介しているのだ。かくあらんとしていたイミナにとって、この状況は正しく夢のようであったという所だろう。そんな彼女のつぶやきに、ライム――先の銀の騎士――が盛大にため息を吐いた。
「貴方が優美と言われるのは中々滑稽な気もするわ」
「何か疑問が?」
「どちらかといえば優美というより苛烈と思うのよ」
「む……あながち間違いではない言葉で反論し難いな」
これで侮辱にも似た言葉であれば喧嘩の一つでも買ってやるかと思ったらしいグレイスであったが、自身が苛烈な攻めを得意とする事は彼女自身も理解していた。故に困ったように笑う彼女に、カイトが笑った。
「どちらでも間違いはないだろ。戦場では猛火のように苛烈に。社交界では優美な花のように華々しく」
「それが私だ」
「その自信満々な態度……本当に変わらないわ」
「まぁな」
褒めてるわけじゃないのだけど。ライムはグレイスの返答に盛大にため息を吐く。まぁ、こんな明け透けな態度を取れるのも、四人がそれだけ親しいというわけなのだろう。というわけで女性騎士らが親しげに話をする一方で、男三人も話をしていた。
「クロードとしては、どう思いますか? あの瞬くんの力」
「似てはいますが……別種でしょう。妙な力を感じます。あとそれと、まだまだ発展性はありそうですね」
やはり雷を纏って戦うのであれば、クロードには一家言存在していた。というわけで彼もまた瞬の戦い方を興味深げに観察していた。というわけで、そんな四騎士達の見守る中で戦いは更に続く事になるのだった。
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