第2962話 遥かな過去編 ――雷の一族――
セレスティア達の世界の過去の時代に飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは過去の時代にて騎士として活躍していたカイトやその親友にして唯一の好敵手と言われるレックス・レジディアというセレスティアのご先祖様と会合。元の世界に戻るまでの拠点と活動の自由を約束して貰うと、この世界にも存在していた冒険者として活動を開始する事となる。
というわけで冒険者活動を再開するべくまずはこの世界の魔物の実力を測りに出た一同であったが、そんな所に偶然訓練に出たカイトの弟クロード・マクダウェルとの出会いをきっかけとしてカイトの率いる騎士団の訓練に参加させて貰う事になっていた。
「へぇ……まずまずって所か」
「まぁ……確かにまずまず、という所でしょうか」
イミナとクロードの戦いを観戦するカイトの言葉に、ルクスが応ずる。イミナで、まずまず。その時点で彼らの実力が窺い知れた。そんなつぶやきに、ソラが反応する。
「まずまずって……あれでも?」
「んー……お前ら別世界ってならあんまり聞いても意味無いかもだけど……雷迅卿ってなんで雷迅卿って言われたか知ってる?」
「雷迅卿の由来? 雷迅ってと……雷のように速い、とかって意味?」
「お……半分正解」
ソラの返答にカイトは僅かに目を見開いて笑う。そうして、彼が自らの属する一族であるマクダウェル家がなぜ雷迅卿と呼ばれるかを教えてくれた。
「雷迅ってのは雷を纏い雷鳴が轟くより速く敵を討つ事からそう名付けられたんだ。本来は雷神マクダウェルって意味だったそうだが……そこらは良いか。風迅は風の如き流麗さで、という感じだな」
「まぁ、雷迅卿になぞらえた感はありますね」
「ま、雷迅卿……開祖様に比類する騎士である、という所から四騎士はスタートしてるからな。そこはしゃーないだろう」
これは後にカイト達がソラ達に教えてくれたのであるが、元々は開祖マクダウェルが居て彼に並ぶ者たちという事で四騎士と呼ばれるようになったそうだ。ただ風迅卿以外は速さに長けているわけではなかった事等から、最終的には氷帝・炎帝と呼ばれるようになったそうであった。というわけで、雷迅卿の由来を語ったカイトはその直系の子孫であり、自身の義弟であるクロードを見る。
「ってな塩梅で、雷迅卿と呼ばれるようになったわけだが……当然その一族……マクダウェル一族にはその性質が色濃く受け継がれている。その直系たるクロードにもまた」
「だったら、なんなんだ?」
「さっき言っただろ? 雷迅……雷を纏い、って。纏わせられるか否か。纏えるか否か……雷迅の由来を」
「雷を纏う? それって……」
「ん?」
どこかで聞いた話だ。ソラには言うまでもなく瞬の<<雷炎武>>が思い浮かんだらしい。そして同様に、当人も同じ印象を受けていた。
「いや……俺もまた雷を纏えるんだ。正確には雷と炎だが……だがイミナさんがそれを出来るとは聞いた事がなかった」
「ああ、それはわからないでもない……なにせマクダウェル家にとって纏うのは秘中の秘だ。おいそれとは語らなかっただろうし、使わなくとも不思議はない」
瞬の疑問に答えるカイトの顔に、僅かな羨望があったのは気の所為ではなかっただろう。というわけで一同は改めて、仕切り直しをしていたイミナとクロードを見る。そんな二人が模擬戦を再開するのは、それとほぼ同時だった。そして今度もまた攻めかかったのは、イミナの方だった。
「ふぅ……ふっ!」
「っ」
転移術。クロードはイミナが消失したのを見て、今度は速度ではないと理解する。やはりカイト達が見抜いた通り、イミナとクロードであればクロードの方が上だった。それは単純な力もそうだったし、イミナが得意とする速度もまたそうだった。
「っ!」
「転移術の弱点には対処したようですが……それ故の弱点は理解していますか?」
転移術の弱点。それは転移の瞬間はその性質上転移の直前か直後の一瞬障壁を無効化せねばならず、どうしても無防備になってしまう事であった。
というわけでイミナは距離がある間に障壁を無効化し接近後の隙をなくしたわけであったが、それ故にこそ先に現れた障壁により転移術の出現場所をクロードに見抜かれたのである。そしてそれを理解し、イミナは目を見開いて回避行動を取った。
「ふっ」
「くぅ!」
間一髪。転移を完全に見抜かれ、転移した直後を捉えられたイミナはクロードの剣戟をすんでのところで強引に身を捩る事で回避する。とはいえ、その動きにはかなりの無茶があったようだ。彼女の顔には苦悶の色が色濃く滲んでいた。そしてそこに、クロードは容赦なく蹴りを叩き込む。
「はっ!」
「ぐふっ! っぅ!」
「ふっ」
自身の一撃で吹き飛ばされ、地面を抉りながら減速を掛けるイミナにクロードは消えたかと思うほどの速度で肉薄する。そうして肉薄してきた彼に、イミナは地面を強く踏みしめる形になっていた足の力を利用して力を込め、真正面から迎撃する。
「はぁ! なっ!」
「その程度ですか?」
「っ」
あまりに実力差が有りすぎる。真正面からの強撃を軽く受け止められて、イミナは師団長を相手にしてさえ感じなかった圧倒的な実力差を理解し目を見開く。そんな彼女にやはりクロードは容赦なく、第二撃を叩き込まんと剣を翻した。
「っ」
これは一切相手になっていない。イミナは迫り来る刃を加速した意識で追いながら、同時に自らの不甲斐なさを嘆く。もう少しやれると思っていた。一族の秘中の秘を切らずとも、もう少し良い線を行けると思っていた。そう思っていたのだ。
が、それが全くの思い違いだと思い知らされた。そして相手はこの時代では若輩ではあれ、後の世には偉大な騎士と伝えられる男なのだ。ならば、秘中の秘を切る事にためらいなぞなかった。
「はっ」
今まではバレないように意識の加速にしか使用していなかった雷の力を、イミナは自らの全ての加速にまで拡張する。そして、次の瞬間。彼女の身体を稲妻が包み込むように迸った。
「はぁあああ!」
クロードの速度に追従出来る速度にまで加速し、イミナが吼える。そうして剣戟を回避した彼女はその速度を駆って、再度クロードに攻勢を仕掛けた。
「っ」
仕掛けられる無数の拳打を剣一つで防ぎながらも、クロードの顔に苦味の滲んだ笑みが浮かぶ。が、これに驚くのはセレスティアだ。
「イミナの全力を剣一つで……」
後にセレスティアが語る所によると、雷を纏った状態の超高速のラッシュを全て防ぐのはセレスティアでも無理だし、彼女の義理の姉やレクトールでも不可能に近いらしい。あまりに速すぎて防御が間に合わないのだ。
といってもこれは威力を若干犠牲にしているので一撃でノックアウトとなる事はないそうなのだが、どうにせよ全てを防ぎきれない時点でダメージが蓄積していき、やられるのは目に見えていた。
それを、正面から何十秒も耐えしのぐのだ。クロードの実力が窺い知れた。が、流石の彼も師団長級の全力を剣一つは厳しかったようだ。一分ほど経過した所で、流石にこれは無理と悟ったらしい。もう一振りの剣を抜き放った。
「お見事です……もう少し威力があれば、という所でしたが」
「っ」
今まで苦戦を強いれていたのは単に剣一つだったからというだけ。イミナは双剣に切り替えるや否や涼しい顔で自身の超速の連打をいなし始めたクロードに目を見開く。それに、彼女は改めて自身の絶対的不利を理解する。
「っ!」
だんっ。どうやら雷を纏うと一言で言っても、瞬の<<雷炎武>>とイミナの纏いでは若干の差があったらしい。瞬であれば雷の弾けるような音と共に軽やかに跳躍するのであるが、イミナは普通の時と同様の力強さを有して地面を蹴っていた。そうして大きく距離を取った彼女は、ならばと地面を強く踏みしめる。
「ふぅ……はぁあああああ!」
連打で威力が足りないのであれば、一撃に全てを込めるまで。イミナは一瞬だけ呼吸を整えると、地面を強く蹴って雷を纏いながら、正しく雷迅の名に恥じぬ速度でクロードに肉薄する。が、その彼女を更に上回る雷光の如き速度で、クロードは彼女の後ろに回り込んだ。
「ぐっ……」
「ありがとうございました」
雷を更に上回る雷光の速度。それで背後から一撃でイミナを昏倒させ、クロードが一礼する。こうして、子孫と祖先の戦いは祖先の圧勝という形で幕を下ろすのだった。




