第2960話 遥かな過去編 ――訓練――
時の異常現象によりセレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らを待っていたのは、この時代のカイトとその親友達だった。
そんな彼らとの会合と時乃の助言を受け、元の時代に戻るまでの間をこの世界で生き延びる事になったソラ達はカイトの紹介によりこの世界にも存在していた冒険者として登録を果たすと、改めて活動を開始するべくこの世界の状況把握に努めていた。
というわけで王都東の草原地帯にて様々なゴブリン種の討伐を請け負っていたわけであるが、そこで出会ったのはこの時代のカイトの弟にして四騎士と謳われるクロード・マクダウェルであった。そんな彼との出会いをきっかけとして、一同はカイトの率いる騎士団の訓練に参加させて貰う事になっていた。
「良し……じゃ、やるか」
「ふぅ……参ります」
訓練が開始されてすぐ。何人かの若い騎士が共に刃引きされた剣を手に二手に別れてクロード達が設営した拠点から少し離れた所に移動していた。どうやら集団戦という所らしい。何組かの集団に分かれ、少し距離を取っていた。それを遠目に見ながら、ソラがカイトに問いかけた。
「そういえば……訓練ってどんな訓練をやるんだ?」
「ああ、そうか。そりゃ知らないか……流石に個々の模擬戦やらは個々にやれ、って話になるし。それなら王城の修練場でも十分に事足りる。外でやるのはそれが出来ないような規模の大きい訓練……そうだな。主には乱戦状態を想定した集団戦だ」
「乱戦か……厄介だな」
乱戦時は油断すると味方への誤射が発生しかねないのだ。如何に的確に敵だけを攻撃し、迅速に味方への攻撃を防ぐか。それを見極めねばならなかった。その難しさは集団を率いて戦う事の多い瞬にはよく理解出来ていたようだ。
「ああ。だからこうして訓練する」
「なるほど。納得だ……だが乱戦を想定するにしても規模が小さくないか?」
「ん? ああ、もっと派手にやるのは明日だ。今日は小規模の乱戦で肩慣らし。明日は対軍団長クラスを想定した大規模戦闘だな。後は外での野営訓練も必要だ」
「対軍団長……どんな訓練になるんだ?」
この世界の魔族はそういった位階に分けられて呼ばれている事は瞬も聞いていた。が、その強さがどれほどかは肌身で感じていない上、それを想定した訓練と言われてもどういう事をするかわからなかったようだ。と、これに答えたのはクロードだった。
「簡単ですよ。全員で兄さんに挑んで、何分保つか……それだけです」
「「「え゛」」」
「あはは……でも単独で軍団長に勝てるのはウチでも少ないですからね。かといってその上の将軍級を想定すると今度は全員で挑まないとならない……軍団長級を想定するのが訓練には丁度よいんです」
「我々からすれば何人も軍団長に単独で勝ってしまえる事が驚きでしかありませんよ……」
笑いながらカイトなら普通に出来ると言われ、未来において最前線で軍団長級や師団長級との戦いを繰り広げていたイミナが盛大にため息を吐く。彼女らは最前線でエースとして活躍していればこそ、軍団長がどれほどの強さを実感していた。なので嫌というほど軍団長級の強さを知っていたのである。
「そりゃまぁ、最初は負けたけどさ。負けたままってのも嫌だったからな。必死で修行したし」
「どんな修行ですか……」
「んー……なんかレックスと一緒に戦ってたらここまで強くなった」
「でしょうね……」
後の世にもカイトがなぜここまで強くなったか、と言われればレックスと常日頃から模擬戦をしていたから、と語られているしかないのだ。イミナはそれだけでそこまで強くなったという事にただただ呆れるしか出来なかった。そんな彼女に、瞬が問いかける。
「そんな強いんですか?」
「強いなんてものじゃない。海を隔てた大陸では軍団長一人により何個かの国が滅ぼされている……そうだな。エネフィアで言う所の<<死魔将>>が率いている軍団長みたいなものと考えてくれ。あれが何人も居るのだ……流石にあそこまでではないかもしれんが。あれに比肩するクラスではあるだろう」
「「「……」」」
あの化け物達が何人も。イミナの言葉で一同は軍団長級が何人も居るというヤバさを身にしみて理解出来たようだ。
「そうだな……こちらの時代でもそれはさほど変わらない。正直、ウチが大丈夫なのはオレ達が居るからってのは大きいだろう。色々と準備もしたしな。いや、オレじゃねぇんだけど」
「準備?」
「同盟の間じゃ騎士団が自由に移動出来るようにしたり、技術の融通とか色々だな。通信網ももう少し時間があれば間に合ったかもらしいんだが……サルファ達が頑張ってくれても限度はあった」
やはり何事も事前準備が大切と教えられていたソラは準備が気になったらしい。彼の問いかけに答える形がカイトが一度目の襲撃からこれまでの間に行ってきた準備を語る。そうして思ったのは、本当にシンフォニア王国やらレジディア王国やらは魔族を甘く見なかったという所であった。
「ってな具合か……この数年。本当に色々と準備をしたんだ。出来る限りな」
「王様達が凄い頑張ったんだな」
「当たり前だろ。陛下ほど親身に話を聞いてくださった方はいない……レジディア王も同じだろう。あのお二方が尽力してくださればこそ、オレ達は満足に戦える。それを怠ったから、連合は滅んだ」
カイトの語気に若干の怒りが見え隠れしていたのは、やはりその結果養父を失う事になってしまった悔しさがあればこそだろう。とはいえ、彼はすぐに首を振る。
「いや、すまん。彼らの中には頑張ってくれたヤツも居るんだ。それを悪し様に言うつもりはない。ただ甘く見ていた者があまりに多すぎた、というだけだ」
「ですね……そうだ。兄さん。僕らの模擬戦はどうしますか?」
「ああ、そうか。確かにそれも考えないとな。今回はどうするかな」
今日は小規模の乱戦を想定しているという事であるので、訓練は何回かに分けて行われる事になっていた。今はまだ若い騎士達を中心として訓練させるため、熟練と言われたり腕利きと言われたりする者たちは参加していなかった。その中でも四騎士と呼ばれる騎士達は圧倒的な強さを有しているため、下手に組み込むと乱戦にならないのであった。というわけでどうするかと考え込むカイトに対して、声が掛けられた。
「団長。おまたせしました」
「お、ルクスか……みっちりしごかれたらしいな」
「「申し訳ありません……」」
「あはは」
楽しげに笑うカイトに応ずるアルとルーファウスの二人が若干やつれて見えたのは、気の所為ではなかっただろう。まぁ、今までずっとお説教を受けていたというのなら、無理もなかったかもしれない。と、そんな彼らを見て何かを思いついたようだ。カイトがそうだ、と少しだけいたずらっぽい顔を浮かべる。
「そうだ……イミナとセレス。君達はクロードと。ルクスはアルとルーを率いてソラや瞬達と戦ってみるか? いや、流石にルクスが入るとマズいか?」
「流石に私はね」
「そりゃそうか」
ルクスはクロードと同様の四騎士だ。先にクロードが言っていた軍団長と単騎で戦える騎士の一人だ。これにソラ達が挑むのは無理筋と言うしかなかった。というわけで、彼はそれならと話を変えた。
「そうだな……後若手の騎士二人入れてこっちは人数差無しでにするか。どうだ?」
「俺達?」
「ああ。どうせだ。見てるだけでなく、実際に戦ってみると良い。それでわかるものもあるだろうしな」
確かにカイトの言う通りで、一応見学はさせて貰っているが対人戦の経験に乏しい彼らとしてみれば実際に戦わせて貰う以上に良い経験は無いと言えた。というわけで、瞬が二つ返事で応ずる。
「参加させて貰って良いなら」
「おう。じゃ、決定だな……さて、後二人は誰にするかな……ちょっと選ぶから待っていてくれ」
瞬の返答に笑ったカイトが、誰にするかを考え始める。というわけで、それから暫くの後。瞬達も一緒に模擬戦に参加する事になるのだった。
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