第2958話 はるかな過去編 ――カイトの弟――
時の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは当時を騎士として生きていたカイトやその親友にして好敵手であるレックス・レジディアというセレスティアのご先祖様達との会合を果たしていた。
というわけでそんな彼らとの出会いを経て自分達の世界に戻るべくこの世界にも存在していた冒険者としての活動を開始する一同であったが、その前段階としてこの世界の魔物の実力の見極めを行う事として、王都の東にある草原にて軽い戦闘を繰り広げていた。
それも終わった頃に偶然訓練に出てきた騎士達との会合を経て、一同はこの時代のカイトの弟というクロード・マクダウェルという若い騎士の呼び出しに応ずる事になっていた。
「ふむ……」
「どうしたんっすか?」
「……強いな、全員」
ソラの問いかけに、瞬は少しだけ苦笑気味に笑う。現在外に来ていた騎士達は基本的に若手が多く、中にはソラ達より若い騎士も数多く見受けられた。
といってもこれはここまで若い少年を戦争に駆り出さねばならないというシンフォニア王国の苦境を示しているわけではなく、若くとも十分な実力を有する優秀な騎士が居る事の証拠に他ならなかった。そんな光景に、同じ事を考えていたらしい<<偉大なる太陽>>も同意する。
『うむ……おそらく最低でも今の貴様らと同格にはあるだろう』
「俺達と同格って……」
「だろう……凄まじいな、これは」
才能も経歴も自分達が培ってきたより凄いのだろう。瞬は周囲の若い騎士達を見ながらそう思う。と、そんな所に先に自分達の所に来た騎士の片方――もう片方はカイトの方へ報告へ行った――が口を開いた。
「まだまだです。これでも団長達には遠く及びませんよ」
「いや……あれは別格じゃないっすかね……」
「そうですが、憧れているだけでは追いつこうなんて到底出来はしませんよ」
「……それはそうっすね」
もしかすると彼女らの強さの理由はここにあるのかもしれない。ソラは自身の言葉に滲む僅かな諦めを理解し、そして彼女らはカイトと並び立とうとしているのだとも理解する。
と、そんなわけで若い少女騎士に先導されながら歩くこと暫く。外にあった旗と同じ旗が立て掛けられた拠点の中にあるテントの一つに案内される。
「ここがクロード卿がいるテントです。クロード卿、お連れ致しました」
「ありがとうございます。入って下さい」
やはり声音はかなり若いな。瞬は中から響いてきた声にそう思う。というわけで、少女騎士が開いてくれた入り口を通って、中へ入る。そこで待っていたのは、金髪の若い少年騎士だ。
「皆さん、よく来てくださいました。クロード・マクダウェルです」
「あ……ソラ・天城です」
差し出された手と自己紹介に、ソラは慌ててそれに応ずる。というわけで一通り自己紹介が交わされた所で、ソラが問いかける。
「それで、どうしたんですか? 俺達に会いたいって……」
「ああ、皆さんの事は兄さん……団長から伺っていました。なんでも未来から来られたとか」
「まぁ……間違いじゃないんですけど」
正確には未来の世界の更に別の世界から来たんだけど。ソラはクロードの言葉にそう思う。とはいえ、それを答える必要もないかとそのままスルーする事にするわけであるが、その必要もなかったようだ。
「ああ、いえ。正確には違う事は存じていますが……少なくともその世界にも兄さんが居たという事は伺っています」
「あ……はい。一応、あの世界にもカイトが……いや、てか未来のカイトっていうかこの次のカイトっていうか……」
「あはは。説明に困るのは仕方がないですよ」
どう説明したものか。そんな様子のソラに、クロードが笑う。と、そんな彼はそれでも、と告げる。
「でもそれでも、兄さんについて聞いてみたくて。どんな人だったんですか? その未来の……もうひとりの兄さんは」
「どう……って……言われてもなぁ……」
正直この世界のカイトをあまり詳しく知らないからどう説明すれば良いかわからない。ソラはクロードの問いかけにそう答える。これにクロードも頷いた。
「あはは。そうですね……本当に見たまま、感じたままで良いです」
「となると……」
「まぁ……まず騎士じゃないな。騎士となるつもりもなかったみたいだし……」
「あの兄さんが?」
騎士の中の騎士たる事を何よりも心掛けていたカイトが、未来の世界では騎士ではないという。クロードにはそれが何より驚きに値したようだ。というわけで、瞬に続けてソラが自分が見る公的な立場としてのカイトを語った。
「んー……なんってか騎士っていうより王様に近いかもしれないですね。あ、そうだ……何よりこっちのリィルさんの主人がカイトですし」
「はい……若輩ではありますが……彼の興したもう一つ、というべきマクダウェル家に仕えています」
「もう一つのマクダウェル家、ですか……」
兄さんの心のどこかに、自分達の事があったのだろうか。そうであったら嬉しいものだ。クロードは何処か微笑ましげに、おそらく自分達のことなぞ何も覚えていなかっただろうにも関わらず同じ家名を名乗っていたらしいカイトにそう思う。まぁ、そんな彼も実は今のカイトの中にこの時代のカイトが眠っていて、それがこの名を家名として選ばせたのだと知る由もないだろう。
「どんな家ですか? なんか兄さんが興した家だと面白おかしい家になってそうですけど」
「あ、いえ……あー……」
「いや、あれはもう面白いを通り越してるっていうか……」
「色々と凄まじい家……という感じですね。なんかどこ歩いてもトラブルが起きてるっていうか……」
「兄さんらしい」
三人の反応にクロードは非常に嬉しそうに、そして楽しげに笑う。そんな彼に、ソラ達は逆に納得という塩梅であった。
「ってことは……ここも?」
「え? あ……えーっと……」
どうやら今度はクロードの側が口籠る側になったらしい。ソラの問いかけにクロードは視線を泳がせる。が、これはもう答えを言っているようなものだった。というわけで、相手が未来とはいえカイトの関係者とありこれは逃げられないと悟ったようだ。
「……はい。ここも似たようなものですよ。皆強く良い騎士達ばかりではあるのですけどね」
「あはは。わかります。未来のカイトも同じ様にもっと多くの仲間が居るんっすけど……誰も彼もおんなじようなもんでした」
「でしょうね」
そうでなければ兄さんではない。生まれ変わろうと決して変わっていない根っこに、クロードは安堵にも似た様子で笑う。と、それならと瞬が問いかける。
「ふむ……それだとこの時代のカイトにも多くの……その、なんだ? えっと……」
「あー……」
「どうしたんです?」
「いや……その、多くのこれ? 居るんっすか」
「え゛?」
聞いた事のない声が溢れたぞ。恋人を示すように小指だけを立てたソラを見て、クロードの顔が凍り付く。
「あの……それって……どういう意味ですか?」
「いや……恋人って意味ですけど」
「……ですよね? え? 兄さんが?」
「え、あ……はぁ。むちゃくちゃ多いらしいっすね。いや、貴族なんでしゃーないとかは思うっすけど」
「いや゛ま゛ぁ……え゛?」
声が完全に裏返っている。クロードはソラの言葉に真っ青な顔で信じられない、という表情を浮かべていた。まぁ、彼とて貴族なら多くの妻を娶らねばならない事はわかっていたが、それでもこれは信じられない事だったようだ。
「あの、兄さんが……? え? 本当ですか?」
「いや、まぁ……そうっすね。なんか開き直ったように」
「……すいません。一つだけ、良いですか?」
「どぞ」
何をそんなに怖がる必要があるかはわからないが、兎にも角にもクロードは何かを恐れている様子だ。一同は彼の様子にそう思う。
「それ、絶対に……ええ。絶対に公言しないで下さい。特に兄さんの周辺では絶対に禁止です」
「いや、まぁ……聞かれなきゃ答えませんけど」
「聞かれても答えないでください。先に聞いておいて良かった……」
心底聞いたのがここで、なおかつ自分だけで良かった。クロードはソラの反応にそう思う。
「どういうことです?」
「これ、絶対に言わないでくださいね?」
「……はい」
「ええ……兄さんと姫様……第二王女のヒメア様が幼馴染、というのはどこかで聞かれましたか?」
「ええ」
これについては王城に居た時に何度かレックスから聞いており、一同も隠す必要もないと頷いた。これに、クロードも頷く。
「でしょう……その、なんといいますか……姫様がヤキモチを焼くのです。その状況になると、僕らでは抑えられない。兄さんがどんな目に遭うか……というか、周囲もどうなることか……」
「あー……」
確かにカイトからすれば未来の自分ではあるが、無関係といえば無関係だ。なのにこの時代で折檻を食らうというのはいささか筋が通らないだろう。が、相手はお姫様。しかも自分の仕える相手である。否やは言えないのであった。
「少なくとも絶対に言わないでください。姫様は兄さんの事に関しては本当に危険なので……いや、全体的に兄さんが悪いんですが」
「は、はぁ……」
そりゃあれだけ心配掛けまくってればああもなりますよ。小さくため息混じりに告げるクロードに、ソラは生返事を返すしか出来なかった。そんな彼に、クロードははたと気付く。
「あ、すいません。ここらはどうでも良いですね。今のは忘れて下さい……いえ、姫様関連は忘れないで頂きたいのですが」
「もし喋ったら?」
「最悪皆さんが死にます」
「「「え゛?」」」
「あはは。冗談です。流石にそうはならないですよ」
ああ、これは彼なりの気遣いなのか。ソラ達は笑うクロードにそう思う。というわけで、その後は気を取り直して未来のカイトとこの時代のカイトについての話を繰り広げる事になるのだった。
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