第2955話 はるかな過去編 ――初仕事――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはこの時代で騎士として、そして勇者として生きていたカイトとその親友にして唯一の好敵手でありセレスティアのご先祖様でもあるレックス・レジディアという青年と会合を果たす。
二人との会合をきっかけとしてカイトが仕えているシンフォニア王国の王都城下町に拠点を手に入れる事になった一同であったが、拠点の準備と共にこの世界にも存在していた冒険者として登録。色々とありはしたものの、改めて活動に移れるようになっていた。
というわけで、ソラと瞬の二人が冒険者として登録した翌日。拠点については引き続きナナミや由利に任せると、改めて冒険者協会に顔を出していた。
「ふーん……やっぱ仕事はあんま変わらないっすね……」
「変わっても困るがな」
「そりゃそうっすね」
仕事の一覧が貼られている掲示板を見ながら、ソラと瞬はそう言って笑い合う。そもそも過去だから、別世界だからと人の生活が大きく変わっているわけではない。
エネフィアのように飛空艇が発達しているわけでもなければ地球のようにある程度魔物の出現に法則性を見出し安全圏の確保が出来ているわけでもないので、強いて言うのであれば討伐に関する依頼が多いぐらいだろう。しかも現在は戦争中だからか軍の仕事も一部冒険者達に割り振られている様子で、仕事に困る事はなさそうだった。
「でもどうします? なんかそうなってくると別にしいてこれ、って受けておくべきっぽい依頼って見当たらないっすけど……」
「それは……まぁ、そうだな。とはいえ、何かしらは受けておきたい所ではあるが……ふむ……リィルを連れてくるべきではあったか……?」
現在リィルは唯一の非戦闘員であり立場的にも拠点の管理を一括して任される事になったナナミの護衛として買い出しやらに付き合っていた。更に言えばソラ達が今後の活動資金調達に動くように、今後に備えて王都の地理を把握する役割もあった。
「まぁ、良い。取り敢えず適当に選んでみるか。どうする? 失せ物探しはひとまず無しだろうが」
「そうっすね。あれはどっちかっていうと戦闘が得意じゃない人達が受ける仕事ですし……」
今受けたいのは外に出て魔物の強さを測る事の出来る仕事だ。ソラも瞬もそんな様子で考えを一致させていた。やはり戦争中という事もあり王都への出入りはかなり制限されており、出るなら出るで手続きが必要らしかった。が、それも外に仕事がある冒険者ならある程度簡略化出来るらしく、そこらも含めて仕事を確保する予定だった。
「しかしそうなると……ふむ。存外、魔物が分からないというのは困るな。しかもランク制度が採用されていないから、敵の力量の推測も難しいな……」
「うーん……時間ある時に図書館にでも行った方が良いっすかね。魔物図鑑がある、って話はしてましたし……」
「それも一つ手か……」
下手に適当に依頼を選んで、もしも今の自分達の手に負えない魔物が相手になってしまった場合は非常に危険だ。その面で考えれば、ソラ達はエネフィアのランク制度の恩恵に預かっていたのだと今更ながらに思わされる事になっていた。
「……やはりこうして見ると、色々とシステム化して安全に依頼が出来るようにしてくれていたんっすね」
「だな……しかも俺達の場合は相談に乗ってくれる相手もいる。本当に至れり尽くせりだったか」
本当にカイトやその周辺には頭が上がらないかもしれない。ソラも瞬も早期の段階で相談出来る体制や危険度の高い依頼をハネられる仕組みを整えていたカイトの凄さを改めて認識する。元々冒険部での生還率の非常な高さは知られていたが、その一因が改めて浮き彫りになった形だった。
というわけでカイトに感心しつつ、依頼の見極めに四苦八苦しつつ掲示板とにらめっこを繰り広げる事十数分。二人は取り敢えず安全そうと思われる依頼を手にしていた。
「すいません。これの受注をお願いしたいんっすけど」
「かしこまりました。東草原でのゴブリン種討伐ですね」
「はい……これ、ゴブリンってだけあって種類の指定とかないんっすけど、大丈夫なんっすか?」
「あー……あ、そういえばおやっさんが言ってた新人さんですか?」
そうならしっかり説明しておいてやるか。そんな様子で協会の受付の男性が問いかける。これにソラは一つ頷いた。
「あ、はい。そうですけど」
「それならこういった依頼は初めてですね。なら説明させて頂きますか?」
「あ、お願いします」
説明が受けられるなら受けておきたい。ソラはそう思い、受付の男性の問いかけに即答する。というわけで、これを受けて受付の男性が教えてくれた。
「わかりました……一部の依頼ではこのように特定の魔物の指定がありません。この場合……そうですね。例えば今回のゴブリン種の討伐のように、ゴブリン種との指定だった場合はゴブリン種であれば何でも構いません。また数のカウントは登録証が自動で行ってくれるので、携帯は忘れないでくださいね」
「あ、そんなのも出来るんですね」
「凄いでしょう? まぁ、外側からでは確認出来ないので多めに討伐しておいて頂いた方が安全は安全です。そうじゃないともう一度外に出て規定数を討伐しないといけなくなりますからね」
「あはは。確かにそれはそうですね。それか自分で数をしっかり数えとけ、って話ですか」
「そうなりますね」
笑いながらのソラの言葉に受付の男性もまた笑う。が、これは言ってしまえばそういった不正行為は出来ないぞ、という意味でもある。元々そのつもりはなかったが、重要な事と言えば重要な事だろう。と、そんな事を話す受付の男性であったが、一転して気を引き締めた。
「っと、それはさておき。その他もし依頼で必要になる物がある場合、前金として準備金が支払われるか任務に必要になる道具をこちらから貸与する事になります。それに関してはその都度必要に応じて、となりますので依頼受注の際は必ずこちらへお声がけ下さい。一見単純に見える依頼でも時々注意事項がある時もありますから」
「わかりました」
どうやら依頼書を引っ剥がして達成処理だけ、という事は出来ないみたいだ。二人は受付の男性の言葉にそう思う。とはいえ、これは仕方がない側面はあった。
というのも、依頼書はA4サイズ程度しかなくそこに色々と記載せねばならないのだ。しかもそれを読まさないとならないのである。全てを記す事なぞ到底できそうになかった。
「で、この依頼に何か注意点はあるんっすか?」
「そうですね……まぁ、しいてはありませんね」
「すよねー」
ゴブリン種の討伐とあるだけで、特定の魔物の名前の記載はないのだ。例えば最弱のゴブリンを規定数倒すだけでも良いといえば良い。無論それを探し出す手間を考えれば、勝てると思った相手から倒すのが一番楽だし早いだろう。場所も草原と見晴らしも非常に良いだろうと考えられる。危険性は比較的低い任務と考えられ、これを選んだ一因にはそれがあった。と、そんな二人に受付はそうだと告げる。
「あ、でもそうですね……一応これは気にしておいて貰えれば、という程度なんですが」
「何かあるんですか?」
「街道沿いの魔物を多めに討伐しておいて貰えれば、往来が安全になります。まぁ、この依頼の本来の意義としてはそれになりますので……」
「「なるほど……」」
と言ってもやはりゴブリンなのですぐに繁殖してしまうんで、ほぼほぼ常設の依頼になってしまってるんですけどね。納得を露わにする二人に、受付の男性は困ったように笑う。まぁ、名前こそ分からないが性質そのものはおそらく大差はないだろう、とは二人も思っていた。そして案の定というわけだったようだ。
「あ、すいません。それは良いですね……取り敢えず確認ですが、この依頼を受注という事でよろしいですか?」
「あ、はい。お願いします」
「わかりました。では受注処理を行います」
瞬の返答を受けて、受付の男性が二人から受け取った冒険者の登録証に受注処理を行っていく。そうして、二人はこの世界では初仕事を請け負う事に成功するのだった。
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