第2953話 はるかな過去編 ――再出発――
『時空流異門』と呼ばれる現象により、セレスティア達の世界の過去の時代に飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはその時代を生きていた当時のカイトやその親友にして唯一無二の好敵手であるレックス・レジディアというセレスティアのご先祖様と会合を果たしていた。
というわけで、自分達の世界と時代に戻るまでの間この世界で生き延びる事になったソラ達はこの世界にも存在しているという冒険者として登録を受けるべく冒険者協会――エネフィアの冒険者協会のようなもの――を訪れ、そこの統率者をしているというおやっさんと会合。彼の腕試しを受けていた。
「はぁ……良し。まぁ、こんなもんだろ。お互い色々とまだ力は隠しちゃいるみたいだが……」
流石に飯の種を全部明かすほどこいつらも甘いヤツじゃないだろうな。大ぶりな両手剣に込めていた力を抜いて腰の鞘に収めたおやっさんはそう思う。
事実、今回の戦いではソラは<<偉大なる太陽>>由来の力も<<地母儀典>>の魔術も使わなかったし、瞬は<<雷炎武>>も酒吞童子由来の力も使っていない。
無論それはおやっさんにも言い得る事で、彼もまた色々と隠し持つ力を使ってはいなかった。というわけで、自身に追いつけずとも追い縋る事の出来る程度と理解したおやっさんは頷いた。
「それを加味しても十分な強さだ。お前さんらなら、存分に活躍してもらえそうだな」
「うっす」
「頑張ります」
「おう……カイト。ありがとよ。上玉を連れてきてくれたじゃねぇか」
「お気に召したのなら何よりだ」
二人の返事に気を良くしたおやっさんの言葉にカイトが笑いながら肩を竦める。おやっさんとしてはここ暫くなかった生き延びられるだろう新人が来てくれて上機嫌な様子だった。
「おう。こいつらなら、十分やってけるだろう。で、そうなると仕事の話だ。どうする? なんか依頼でも受けていくか?」
「ああ、いえ……取り敢えず今日は登録だけで拠点を片付けたりしっかり用意しないとなんで……だよな?」
「そうっすね。取り敢えず拠点をしっかり準備しておかないと。あとこの王都周辺の状況とかもしっかり把握しとかないと後々痛い目に遭いますからねー」
瞬の問いかけに、ソラはまだまだやることが山積みだ、と盛大にため息を吐いた。エネフィアに来たばかりの頃はここらを全てカイトがしてくれていたわけであるが、こうなっては自分達で頑張るしかない。今まで培ってきた物を総動員して生き延びるしかなかった。というわけで明確な指針を持っている様子の二人に、おやっさんが嘆息する。
「はー……こーやってしっかり色々と考えて動けりゃ、馬鹿みたいに死ぬヤツも減るってのに。こりゃ育ちかねぇ」
「どうなんかねぇ」
「お前さんだって良い所の出じゃねぇかよ」
「あははは。そりゃ否定はしないがな」
基本政治的な思考回路は育てられていないこの時代のカイトであるが、同時に騎士を率いる者としての英才教育は施されており、軍略に掛けてであれば今のソラやトリン並の才能を有していた。というわけでそんな指摘に笑うカイトであるが、一転して彼もまた首を振る。
「ってか、そんな事を言ったらおやっさんだって名門の出じゃねぇか。放逐されたか自ら出てったかは知らねぇけどさ」
「もう実家はねぇけどな」
「でも弟さんは生きてるだろ? ならいつか復興の目だってあるだろうに」
「そんときゃ仕えてる国はレジディアになってるだろ。ウチのと言うべきかねぇ」
どうやらおやっさんにも色々とあってここに居るというわけらしい。生え抜きの冒険者かと思われたおやっさんの意外な過去にソラも瞬も少しだけ興味を覗かせる。が、一方のおやっさんはあまりこの話には触れたくなかったようだ。すぐに気を取り直した。
「そいつはどうでも良いな……取り敢えず二人は今日は受けないんだな?」
「そっすね。取り敢えず拠点の支度して、城下町の確認して……色々買い出しやらもしないと」
「だな……良し。それなら良いもんをくれてやろう。ついてきな」
何をくれるのかはわからないが、気に入られたのなら悪い物ではないだろう。ソラも瞬も――勿論カイトも――上機嫌に歩いて行くおやっさんの後をついていく。というわけでたどり着いたのは、先程同様に協会の受付だった。
「ほれ、これがあったら便利だろ」
「これは……地図?」
「これ、普通に王城で貰える地図じゃねぇかよ。これだったらこいつらの荷物に含まれてるぞ」
「ちげぇよ。それに協会が手を加えてる地図だ。色々と書き加えてるから、王城で配ってるのより良いものだぞ」
どこか不貞腐れた様子でおやっさんはそう言うと、ソラと瞬に協会が発行しているという地図を渡す。というわけで渡された地図を他の誰でもなくカイトが興味津々という様子で覗き込む。
「ふーん……具体的には何が違うんだ?」
「まず宿屋についてはあっても、道具屋の類は乗ってねぇだろ? 他にも鍛冶屋とかもよ。そういった冒険者に必要な店やら施設やらの情報を書き足してるんだよ」
「あー……オレも乗せてくれ、って頼んだけど地図作ってる連中やってくれねぇんだよな……」
「あ、お前やっぱ言ってるのな」
それは必要だ。そう納得を露わにするカイトに、おやっさんもこの男は言ってそうだと思っていたらしい。先の不貞腐れた様子が一変して納得に変わっていた。
「そりゃそうだろ。だから軍は軍で独自に地図を作ってる。非効率的極まりない、ってレックスには呆れられたけどな」
「まぁな……ま、そんな感じで冒険者をやるなら、って感じで必要な施設が乗ってるってわけだ」
「「なるほど……」」
確かに見た感じだと、一般市民には必要の無いだろう道具屋や魔道具を取り扱っている雑貨店のような店も記載されている。と、そんな地図を見ながらあれこれと考える二人に、おやっさんはそういえばと思い出したように告げる。
「あ、そうだ……魔道具やら取り扱ってる店で買い物をする時は必ず登録証を提示しろよ? そうじゃないと売ってくれないからな。まぁ、自前で用立てるってならそれはそれで良いけどよ」
「え、あぁ、そうっすね。魔道具やらって危険っすもんね」
「そういうこったな。だから魔道具やら弓矢に塗布する毒薬やらを取り扱う店じゃ登録証か軍の認識票は必須だ。顔パスなのはカイトぐらいなもんだろ」
今更言うまでもない事であるが、魔道具は使い方を少しでも誤れば普通に人は死ぬ物が殆どだ。なので一般家庭用に作られているものでない限り、取り扱いに制限を掛けるのが最良だろう。いや、そもそも一般家庭用でない魔道具を一般市民が手に入れたとて意味はないだろうが。それはさておき。おやっさんの冗談にカイトはため息を吐いて首を振る。
「んなわけあるかよ。オレも顔パスじゃねぇよ……多分。買わないからわからねぇわ」
「買わないのか?」
「いや、お前さんらな……カイトなら使う魔道具は基本エルフ達の謹製か魔女様謹製だ。買うなんて事は起きないだろう」
何を今更そんな常識的な事を言っているんだ。そんな様子でおやっさんはため息を吐く。が、これにカイトが助け舟を出した。
「おやっさんこそ、こいつらが東の果てから来た事忘れてんぞ。オレの噂もそこまでは轟いてないみたいだしな」
「あっと……そっか。すまねぇな。ま、そういうわけでこいつは基本魔道具を買う事がない。買った所で使えるかって疑問もあるけどな」
「無理だろうな」
「だろうな」
一般的に売られている程度でカイトのような最高位の戦士に対応出来る事はないだろう。自身もこの世界でもトップクラスの猛者の一角に名を連ねればこそ、おやっさんはカイトの言葉が当然と思うしかなかった。何より彼自身もまた、戦闘で使う魔道具は特別に拵えてもらった特注品しかなかった。
「ま、そこらはお前さんらも似たような話になってくるんだろうが。一応買える事だけは覚えておいた方が良いし、何より修理キットとかも取り揃えてくれてるからな。どうしても、って場合には自分で覚えちまうのも良いだろう」
「そんなのも売ってるんっすか」
「このご時世だからな。自分で出来る事は自分で出来るようになっておいた方が良いのさ」
驚きを露わにしたソラに、おやっさんはそう告げる。そうして、その後も暫くの間おやっさんからこの世界での冒険者の基礎知識を学んで、ソラ達は改めて用意して貰った拠点に戻るのだった。
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