第2941話 はるかな過去編 ――青と赤――
『時空流異門』。それはかつてカイトが奔走する事になった時の歪みの余波により生まれた異なる時。異なる空間に流されてしまうという現象。それに巻き込まれセレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達であるが、そこでカイトの戦友にして親友たるレックスと出会った事により、この時代で騎士として活動していたカイトとも出会う事になる。
そうしてカイトとの再会とも初対面とも言えぬ会合を果たしたソラ達であったが、彼らは北の要塞とやらの攻略に力を借りたいレックスの思惑を受け、カイトによりしばらくの活動拠点を探してもらえる事になっていた。というわけで拠点が見付かるまで彼が率いる『青の騎士団』の拠点である棟屋の客室を借り受けられる事になった彼らであるが、今度はシンフォニア王国の王様から呼び出される事になっていた。
「と、言うわけなんだ。悪いが、一緒に来て貰えるか?」
「あ、はい。全然大丈夫ですけど……全員で、ですか?」
「ああ、いや……どうする?」
今回王城に招いたのはレックスだ。なので筋として王様に呼ばれている事はレックスが説明したのであるが、そんな彼はソラの問いかけにカイトを見る。これに、カイトは王様の考えを考えて、首を振る。
「まぁ……陛下のお考えはわかってる。代表して一人でも良いんじゃないか?」
「だよな……と、言うわけだ。誰か一人で良い。筋としても、陛下とお会いするのにぞろぞろと雁首揃えて、ってわけにもいかないだろうし」
「ですね」
王様との謁見というと一瞬ソラはかつての皇帝レオンハルトとの謁見の場を思い出してしまったわけであるが、普通はあんな数百人も行くわけがない。そんなある種常識的な話にソラも即座に応ずる。というわけで代表して一人を選べ、となったわけでソラは今度は瞬に問いかける。
「となると……先輩の方が良いっすかね?」
「いや……すまん。流石に王様相手だと俺よりお前の方が良いと思う。頼めるか?」
「うぇ……まぁ……あー……」
どうだろう。瞬の返答にソラは僅かに嫌そうな顔で考え込む。確かに下手を打ちたくないのは事実だが、同時に王様と会いたいかと言われればそうではない。
瞬に頼めればな、という様子は見え隠れしていた。が、同時に頭では自身の方が適役――軍人相手なら瞬だったが――というのも理解しており、そこで踏ん切りがつかなかったようだ。
「えっと……王様ってどんな人です?」
「まぁ……武人肌の方ではある。ってか、カイト。お前から説明してくれよ。お前の方が詳しいんだから」
「えぇ……はぁ。陛下は確かに武人肌の方だ。そこまで緊張する必要はない。そして同時に、お優しい方でもある。今回君たちを呼び出したのも、それ故と考えて欲しい」
「それ故?」
なぜ優しいから呼び出した、となるのだろうか。カイトにはわかっているらしい王様の思惑がわからず、ソラは困惑した様子を見せる。これに、カイトからは説明し難いとレックスが口を挟んだ。
「……他国の俺が口を挟んで良い事じゃないんだが……すまん。少し耳貸してもらえるか? カイトからは話せない話になる」
「はぁ……」
「実はカイトの立場はかなり危ういものなんだ。かなりの貴族がこいつの事を……まぁ、嫌ってるわけじゃないんだが、邪魔者とは思ってる」
「うぇ!?」
嘘だろう。この世界、この時代のカイトの立場を聞かされてソラが思い切り仰天する。基本、彼らの知るカイトは政治的にも上手く立ち回り、色々と抜け目なく動いて排斥される事のないようにしている。
それでも功績が大きすぎて去る事になったのが三百年前の彼であるが、それとて邪魔者と思われていたわけではない。仰天も無理はなかった。
「そういうわけで、お前らがこのままここに留まると何が起きるかわからない」
「なんでっすか?」
「まぁ……なんていうか。こいつが勇者だから、っていうか……ヒメアが……あー……セレスティア。君はカイトの事は……」
「……おおよそは」
「そか」
非常に苦い顔を浮かべたセレスティアに、レックスは未来においても王族達はカイトの政治的立場の危うさを知っているようだと理解する。そしてそれなら隠す意味はないだろう、とレックスは口を開く。
「詳しい話はセレスティアから聞いてくれ。俺の口からも詳しくは明かせない」
「良いのですか?」
「恥だろうがなんだろうが、俺には関係ない」
「はぁ……」
それなら後で話しておくべきだろう。セレスティアはレックスの意向を受け、そう判断する。というわけで事情は追々説明して貰う事にして、レックスは続けた。
「とまぁ、それはそれとしてだ。そういうわけだから下手に厄介に巻き込まれないためにも、陛下がお会いしておくのがちょうど良いんだ」
「守るために、という事ですか?」
「そう考えてくれ。何より、陛下が守りたいのは……」
「……」
僅かに視線を向けられたカイトは何も言わない。が、レックスの言葉が意味する所はソラにも理解できた。そしてならば、彼に迷いはなかった。
「なら、大丈夫です。俺が行きます」
「そうか。悪いな」
「ありがとう」
「ああ、いや……大丈夫です」
なんかやりにくい。自身が知るカイトに非常に似ながらも、全く自身を知らないカイトにソラはそう思う。とはいえ、今はそんな事を考えていられる余裕はなかった。というわけでカイトを守る事に繋がるなら、と意を決したソラと共に三人は王城の本丸に向かう事にする。
「良し。じゃあ、行くか」
「はい……あ、そうだ。歩きながらで良いんで、一つ聞いて良いですか?」
「「ん?」」
王様の呼び出しに応ずる事にしたソラであるが、そこでふと気になったらしい。カイトとレックスの二人に問いかける。
「そういえばお二人って付き合い長いんですか? なんか色々と良く知ってる様子ですけど……」
「んー……長いっていうかなんていうか。13歳の時からの付き合いか?」
「どーだろ……つるむようになったのは13からだけど……ぶっちゃけ知ってたと言えばもっと昔から知ってたは知ってただろ」
レックスの問いかけを認めつつ、カイトが思い出すのは義父が存命だった頃の事だ。あの頃は彼もまだ勇者ではなく、単に高名な騎士の一族の子供でしかなかった。なのでお互い素を曝け出していたわけではなく、そういう意味で言えば単なる知り合いに過ぎないとも言えた。というわけで、その頃を思い出したのかレックスが面白げに笑った。
「まぁ……そりゃな。それを考えりゃ、不思議な話だよな。13で魔王……まぁ、軍団長クラスだったけど。二人でぶっ倒してそっからもう何年だ?」
「十年ぐらいか」
「そんなんか。あの時はお互いボロボロだったよなー」
「今も変わらねぇだろ。軍団長と戦った後は」
「あははは。マジでな」
どうやらカイトにとってレックスとは完全に気兼ねなく話し合える親友のような存在らしい。単なる青年でしかない二人の様子にソラは少しだけ羨ましさを抱く。が、そんな彼であったがレックスの言葉の意味を理解して、仰天する。
「え? 13歳で魔王を倒した? しかも二人で?」
「あ、何だ。流石にそこらは完璧には伝わってないのか……まぁ、そりゃそうか。普通信じられないよな」
「普通に考えりゃな」
おそらく未来じゃ何千人の部隊を率いて戦った事になっているんだろう。レックスはそう思い笑い、カイトはそれはそうだと納得していた。後のレックス曰く、これは間違いではないといえば間違いではなかったそうだ。が、実際には魔王はたった二人の少年により討伐されていた。というわけで今度はその時の事を思い出し、レックスが再度笑う。
「だよな。今更ながら俺達バカだったよな。たった二人で魔王倒すなんて」
「いや、まぁ……なんていうか……すまんかった」
「良いって良いって。俺達二人ならなんとかなるだろ、って思ってたし。実際なんとかなったし……まぁ、お前の不思議な力に助けられた所はあるけど」
「これなぁ……何なんだろ。あの時発現したわけだけど」
「っ……」
カイトの双腕に浮かぶ龍の紋章に、ソラが思わず息を呑む。今の彼にも、そして当然カイト達にもわからなかったが、彼がこの世界の神の一族である証たる双龍紋だ。というわけで未来のソラならなにか知ってるかも、とカイトは問いかける。
「なにかお前知らない?」
「いや、わかるわけないだろ」
「は?」
「え、あ……えっと……」
しまった。ソラは思わず素で返してしまった事に大いに慌てる。が、これにレックスは逆にやはり、と思ったようだ。
「やっぱりな……ソラ。君にいくつか聞きたい事がある」
「は、はぁ……」
おそらくレックスの事だ。自分が未来に属していてもこことは異なる世界の出身だと理解するのは十分だったとソラは察したらしい。というわけで、レックスの質問に応ずる形で、ソラは自身の事。そして未来でカイトと知り合った事を語るのだった。
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