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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2937話 はるかな過去編 ――蒼き勇者――

 謎の現象に巻き込まれ、セレスティアの世界のはるか過去に飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはそこで偶然にも遭遇した商隊と魔物との戦いに介入したわけであるが、そこで商隊の所属する国の王族でありセレスティアの祖先であるレックス・レジディアという男と遭遇する。

 というわけで、今度はレックスにより導かれこの時代のカイトが居るというシンフォニア王国の王都へとやって来ていたわけであるが、そこで通されたかつてのカイトが率いていた騎士団の拠点にてソラ達はたしかにカイトと再会とも初対面とも取れる状態に陥っていた。陥っていたのであるが、そのカイトはというと親友とじゃれ合いを続けていた。


「と、言うわけで彼らを紹介する。そっちから順番にソラ・天城。瞬・一条……」

「……」


 マジかよ。レックスの紹介を聞きながら、もう一人のカイトはただひたすらにしかめっ面だ。が、その一方でソラ達はソラ達で困惑を浮かべていた。そんな彼らに、レックスは問いかける。


「どした?」

「あ、え、いえ……」

「はぁ……殿下。そりゃおそらく酷ってもんだ。多分あんた、王族状態で話してたでしょう」

「え? あ。やっべ……」


 完全に立場を忘れ一介の戦士としての自分に戻ってしまっていた。つい数時間前までは王族として振る舞っていた事をレックスは今更思い出していた。そんな彼に、カイトが盛大にため息を吐いた。


「はぁ……そんなこったろうとは思ったがな。で?」

「で?」

「何が目的なんだよ。お前が単なる旅人を連れてくるかよ」

「あぁ、それはわかるのな」


 どうやらしかめっ面だったのはなにか変な事に巻き込まれるのではという確信があったかららしい。カイトの言葉にレックスは今までの陽気さが鳴りを潜め、どこか冷酷ささえ感じさせる目でソラ達を見る。


「こいつらが何者かが知りたい……ここなら逃げられねぇだろ」

「「「っ!?」」」

「ああ、安心してくれ。殺しはしないさ……魔族でない、ってのは確実だしな」


 レックスから放たれたまさかの言葉に、ソラ達が仰天。これに対してレックスは冷酷な目のまま告げる。そうして、彼が自らが感じている色々な違和感を口にした。


「まずソラ。お前、その武器なんだ? 次に瞬。お前も同じく気になるのは武器だが……何より懐に仕込んだナイフだ。素材もそうだが、その術式はなんだ? エルフ達が使う物でも魔族達が使う物でも、ましてやドワーフ達が使うものでもない。龍神達の魔術とも違う……」


 これらをほぼほぼ遠目に見ていただけで完璧に理解していたのか。瞬は同じ戦士だからこそ、レックスの腕が途轍もなく遠くにあると理解する。

 彼が指摘されたナイフだが、実はこちらに来てからここまでの間に一度も使っていない。しかもクー・フーリンから貰った封印の布もそのままだ。

 とどのつまり、レックスはその上でナイフの存在然りその全てを見抜いていたのである。そうして瞬達エネフィアから来た者たちの違和感――唯一ナナミだけは非戦闘員なので免れていたが――を口にしていくわけであるが、最後に一番の違和感であるセレスティアとイミナの二人を見る。


「が、何より意味がわからねぇのは……そっちの二人だ。カイト。そっちのイミナは知ってるか?」

「知らねぇが……それが?」

「その子、マクダウェル家だぞ。どこかは知らんがな」

「ねぇな。マクダウェル家の騎士は全員、ウチに所属してる。当然だけどな」

「そうだ……が、そいつは間違いなくマクダウェル家の、それも騎士だ」

「ふーん……」


 こちらも先程までのふざけ合う様が鳴りを潜めたカイトの指摘に対して、レックスははっきりとイミナの正体を断言する。そうしてそんな彼の断言に、カイトは疑う事なく受け入れた。が、だからこそ彼は次の瞬間、消え去った。


「っ!? 何を!?」

「……ふっ」

「っぅ!?」


 カイトより振るわれる無情の拳に、イミナは困惑ながらも必死で抗う。その一撃一撃は途轍もなく重く、彼我の差を否が応でも思い知らされる。これに、ソラが声を荒げた。


「おい! いきなり何を!?」

「ソラ! 止めるぞ!」

「おっと……」

「「!?」」


 これほどまでか。ソラも瞬も自分達が動くよりも前に闘気だけで自分達を屈したレックスに恐れ慄く。そうして、そんな彼が告げた。


「手出しはするなよ。それとも俺の命令が聞けないか?」

「っ……まさか……」


 あり得ない。セレスティアは自身を見据えるレックスが自分達がどういう来歴をたどりここに来ているかを察している事を理解し、思わず言葉を失う。その一方で、無数の拳を放っていたカイトが拳を止めた。


「こんなところで良いか?」

「ああ……間違いなかったろ?」

「間違いないな……が、色々とおかしい。オレはこんな戦い方を知らん」

「だろう。俺もだ……ああ、悪かったよ。どうしてもカイトの意見が聞きたくてさ。そうなるとこれしかなかったんだ」

「い、いえ……」


 これがこの時代の彼ら。これまでに何があったかはわからないが、時として冷酷な目をする事を厭わないのだと一同は理解する。そうして困惑ながらも謝罪を受け入れた一同に対して、カイトはレックスに問いかける。


「で? こいつらなんだ?」

「んー……未来人」

「……頭、大丈夫か? みらいじん? なんだそりゃ? 結婚で浮かれるのもほどほどにしろよ?」

「てめっ! 巫山戯てるわけじゃねぇよ!」


 多分普通に考えればカイトの反応が正しい。セレスティアは答えにたどり着いていたレックスの知性に驚きながら、内心でそう思う。その一方、レックスは再びはっきりと断言した。


「……セレスティアに関しては俺の子孫だろう。何年……いや。何百年先かまではわからないけどな」

「ってことはイミナってのはオレの子孫と」

「いや、違うだろ。多分クロードの方だな」

「なんでだよ」

「いや、バカっぽくないし」

「てめっ!」


 この二人は本気なのか巫山戯ているのかわからない。幾度目かになる巫山戯合いに、一同はそう思う。が、そんな所に口を挟んだのはやはり、ラシードだった。


「はいはい。殿下。テンション高いのはしょうがねぇですが、取り敢えず話進めて下さいよ」

「あ、おう……カイト。ちょっと手どけろ」

「はぁ……」


 レックスの要望を受け、クロスカウンターを決めていたカイトが手をどける。そうして脱線を挟んだ後、レックスは告げた。


「まぁ、それはそうとして、だ。流石にお前の子孫がマクダウェルを名乗るわけねぇだろ」

「なんでだよ」

「お前の、だぞ。ヒメアが許すわけねぇよ」

「おい、待て。なんでだからその前提で話進めんだよ」

「まぁ良いから聞けって」

「聞けるか」

「はぁ……おい、カイト。お前も話の腰を折るな」

「あ……すんません」


 どうやら副団長とは言うものの、やはり従兄弟叔父というだけはありラシードにカイトは頭が上がらないらしい。身内の言葉で話され、彼は思わず頭を下げて黙っていた。その一方、ラシードは次いでレックスに向けてどこか非難がましい様子で口を開く。


「殿下も、今ヤバい状態ってのは誰よりわかってんでしょ。下手な事は言わねぇでください……あんたの事だから冗談じゃない、ってのは俺も承知してますがね。ですが聞くヤツが聞けばどうなるか。あんた、わかってるでしょ」

「わかっているさ……だからここを選んだ。この国で一番警戒が厚いここをな」

「ガキ共は平然と入ってきますがねぇ」


 どこか威圧するかのような自身の言葉に応じたレックスに、ラシードは盛大にため息を吐く。まぁ、そのガキ共は全員が騎士だ。腕については彼らが一番わかっており、この棟屋への潜入が難しい事は誰よりもわかっていた。


「それも込みで、だな……取り敢えず。イミナがマクダウェル家ってのは間違いない。それはラシードさん。あんたもそうだろう?」

「まぁ……俺が感じてた妙な感覚にはそいつで説明が付きますね」

「そうか……取り敢えず。セレスティアには俺の血が妙に反応してるんだよ。そこにイミナ。マクダウェル家の騎士が一緒に居るって時点で可能性は絞れる。後は常識を度外視すれば終わりだ」

「ふーん……」


 そんなもんか。そんな様子のカイトに、どうやらこの時代のカイトは自分達の時代のカイトとは異なり知性は感じられないらしい。いや、やはり彼なので素養はあるし端々に賢さが認められるが、鍛えてはいないとソラ達には思えたのだ。というわけで色々と受け入れた彼はそれならと一つ告げた。


「まぁ、良いや……オレはカイト・マクダウェル。『青の騎士団』の団長だ。未来人ってんならお前らの方がオレについて知ってるかもしれないけどな」

「「「……」」」


 どう答えるべきか。取り敢えず敵対は避けられたらしい事に安堵するソラ達であるが、同時にこの時代のカイトを、そしてレックス達を知らないが故に答えに窮する。そうして最終的な決断を下したのは、やはり誰よりもこの場の三人を知るセレスティアだった。


「……否定はしません」

「つまりは肯定、と」

「はい、陛下。歴史書でしか知りませんが、同時になればこそこれより先の御身らをも存じております」


 改めてになるが、セレスティアもイミナもカイト達の事をこの世界の未来において語られる伝説でしか知らないのだ。なのでそれがどこまで事実なのかさえわかっていなかったが、ある程度はわかっているのもまた事実だった。というわけで、敢えて陛下と呼んだセレスティアは改めて問いかける。


「……何か証明でもした方が良いでしょうか」

「あぁ、良いよ。別にどうでも……単にそうだろう、って思っただけだし」

「何も知るつもりはない、と」

「ないよ……俺もこいつも……あ、いや。悪い。一個だけ知りたい事あるわ」

「はい?」


 未来について聞きたい事は何もない。嘘偽りなくそう断じたレックスであるが、一転してカイトを見る。これにセレスティアは小首を傾げるが、彼女がなにかを言うまえにカイトが告げる。


「お前な……あいつとの事ならぶん殴るが?」

「違う違う……お前のご両親の事だ。何かわかったか?」

「っ……」


 自分の未来の事や国々の、民達の行く末ではなく問いかけるのは友の事。それも今の彼らではどうしようもない、下手をすれば生きている間にもどうしようもないことだ。これにセレスティアは思わず息を呑み、しかしその血脈を知ればこそ口を閉ざすしかなかった。


「……」

「……そっか。良い意味で黙ってくれている事を願うよ」


 肯定も否定も出来ない。カイトの本来の血脈とはそれほどのものだ。が、もしそれがこの時代のこのタイミングで明らかになればどうなるだろうか。セレスティアはこの時代のカイトが抱える最大の問題を理解していればこそ、それを明らかに出来ないと考えていた。というわけで押し黙る彼女にレックスはどこか儚げに笑い、そしてそれにカイトが呆れる様に笑う。


「お前な……そこは国の事とか聞くんじゃないか?」

「それは必要ないさ。俺達が居て、悪くなる事なんて無い。俺が道を間違えればお前が止めてくれるだろうし、お前が道を踏み外せば俺が叩き直す。だろ?」

「ちっ……」


 否定はしないしするつもりもない。レックスの言葉に、カイトは照れ隠しに舌打ちするしかできなかった。その姿はどこか、未来の彼にそっくりだった。というわけで恥ずかしげな彼はまるでこの話題を終わらせるかの様に口早に告げた。


「はいはい。わかりましたよ……で? この未来人さん達をどうすんだ?」

「それは何も考えてないんだよなー」

「あのな……」


 こいつは本当に。カイトはレックスを見ながら、改めて呆れた様にため息を吐く。そうして、お互いの立場や状況をおおよそ理解した両者は改めてこれからの話し合いに臨む事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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