第2934話 はるかな過去編 ――待機――
謎の現象により、セレスティア達の世界の過去の時代に飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは状況に困惑しながらも商隊に助太刀した事により、同じく商隊の救援を行ったかつてのカイトの親友にして好敵手であるレックスと出会う事になる。
というわけで、そんな彼に導かれかつてのカイトが仕えていたというシンフォニア王国の王都に招かれたソラ達は割れんばかりの喝采――勿論彼らに対する物ではないが――の中、王城にてルクスの前世であるルクス・エドウィンによって王城の中を案内されていた。
「レックス殿下より伺いましたが皆さんは随分とお強いのだとか……どうされました?」
「え、あ、いえ……知り合いによく似ていたものですから」
よく似ているというより後の世の貴方なんっすけど。ソラは小首を傾げるルクスの問いかけにそんな事を思いながらも、当たり障りのない言い訳をしておく。
「はぁ……ああ、すいません。取り敢えずこれからご案内するのは団長の所です。あ、今更ですが団長はご存知ですよね?」
「あ、はい。カイト・マクダウェル卿……ですよね?」
無茶苦茶呼びにくい。ソラはそう思いながらも、ここで自分達の正体がバレるわけにはいかないとこの時代のカイトの名を告げる。そしてそんな戸惑いが見え隠れするソラの返答であったが、幸いな事にルクスからは大英雄との会合によるものと勘違いされたようだ。
「ええ……我らが団長です。と言っても、今すぐにお会い出来ないのはご了承下さい」
「あ、そうなんですか?」
「ええ……団長は陛下と共にレックス殿下とお会いにならねばなりませんので……かくいう私もそうなのですが」
「それなのにご案内いただけたんですか?」
「レックス殿下より直々の依頼であれば、多少は融通せねばなりませんから」
おそらくすぐにではないのは、レックスにお色直しの時間が必要だからだろう。どちらも王族。立場や格の違いはあるのか等ソラにはわからなかったが、それでも到着してすぐの謁見はよほどの事態しかないだろうと察せられた。
「そうですか……それじゃあ今はどこに向かってるんですか?」
「ああ、今向かっているのは我々が使っている会議室……というべき所でしょうか。ひとまずそこでお待ち頂ければ」
どうやら自分達はあくまでも騎士団が招いた客として扱われるらしい。ソラは王城の応接室ではなく、騎士団に与えられた一角で待機する様に告げるルクスからそう理解する。
というわけで王城の中を歩くこと暫く。中庭を抜けて設けられていた外の建物の一つにソラ達は通される。と、そんな建物の前で青い鎧を身に纏う騎士に問いかけられる。
「エドウィン卿。随分と早いお戻りですが……如何なさいました?」
「レックス殿下より、団長に彼らを引き合わせる様に依頼を受けました。とはいえ、流石に時間も時間ですのでひとまずは会議室でお待ち頂こうかと」
「なるほど……なるほど。少しはやる、という所でしょうか」
「こらこら」
勝手に値踏みしてはいけませんよ。青い鎧を身に纏う騎士の言葉に、ルクスは少しだけ困った様に笑う。そしてそんな言葉に、ソラは内心で驚きを隠せなかった。
(少しはやるって……マジかよ……)
『嘘やはったりではないだろう。この男も生半可ではない戦士だ。これが門番でしかないのだとするなら、やはり神使殿の前世もまた並々ならぬもので間違いないだろう』
どうやらソラの困惑は<<偉大なる太陽>>には読み取れたらしい。しかも何千何万という戦士を見てきた神剣だ。この青い鎧の騎士がソラ以上の強者と察していたようだ。と、そんな青い鎧の騎士はソラ達の驚きを知ってか知らずか、ルクスに告げる。
「とはいえ、珍しいですね。レックス殿下が旅の者を団長に引き合わせたいなんて」
「殿下としては次の北の要塞攻略を見据えてらっしゃるのでしょう。あの要塞を突破せねば北部の帝国との間で連携が取れないままだ」
「なるほど……確かに帝国との間で連携が取れれば……ですが、あの国との連携なぞできますかね?」
「懸念はわかります……自国の内部でさえ連携が取れないような国だ。一筋縄ではいかないでしょう」
もしかすると政治的な話の方が厄介になるかもしれませんね。ルクスは青い鎧の騎士と共にそんな話を交わし合う。と、そんなこんなでこれからの激戦を予想させる会話が繰り広げられるわけであるが、唐突に青い鎧の騎士は笑う。
「ま……どちらにせよ俺らは今回も生きて帰るだけですか。政治的なお話は丸投げですからね」
「あはは。違いありません。今回も、そして次も。そしてそのまた次も。団長と共に生きて帰る。我らはそれだけです」
所詮こんな話は自分達にとっては無駄話だ。二人はそう笑い合う。と、そこまで話した所でルクスが少しだけ目を見開く。
「っと……すいません。あまり話し込むわけにも。陛下とレックス殿下の謁見に同席せねば」
「っと……失礼しました。お通り下さい」
どうやら青い鎧の男としても長々引き止めるつもりはなかったらしい。というわけで通された建物の中であるが、入って早々に彼らを出迎えたのは大きな青い旗だった。
「これは……」
「ああ、我々の旗です。こうしておかないと新兵が迷って自分の棟でない棟に入ってしまう事が多発してしまいましたので。いっそ建物そのものに刻めば、とも思わないでもないですが……あはは。実は全く別の用途でこの棟は利用していたのですが、色々とあって我々が使っているのです。戦いが終わったら元の用途になりますからこの旗を目印代わりにしているのですよ」
「はぁ……」
掲げられていたのは、青地に竜の紋章が施された旗だ。それはどうやら彼ら『青の騎士団』の旗らしい。ルクスの説明でソラはそう理解する。
「もし皆さんが騎士団に入られる場合は、目印にしてくださいね。では、こちらへ」
兎にも角にも目的地はこの建物の中にある会議室とやらなのだ。なのでルクスは大きな旗の説明をそこそこに建物の中を進んで会議室に一同を案内する。
「こちらへ。もし何か御用がありましたら、そこのベルを使って下さい。すぐに人が参りますので」
「あ、ありがとうございます」
ルクスから指し示されたベルを見て、ソラは一つ頭を下げる。そうしてそんな彼らを残して、ルクスは去っていった。というわけで残された一同は用意されていた椅子に腰掛けると、揃って盛大にため息を吐いた。
「はぁ……びっくりした」
「ああ……まさかルクスさんまで居るとは」
もともとこの時代のカイトが居ると聞いていたが、ルクスまで居たなんて。ソラも瞬も思わぬ人物との再会に心労が耐えなかったようだ。というわけで、瞬はどこか恨みがましい目でイミナを見る。
「イミナさん……まさかバランタインさんまで居る、とかは言わないですよね?」
「いや、私は聞いた事はないが……事実、先の四人にはそのバランタインという人物は見えなかっただろう」
「そうですね……多分、居なかったと」
あの四人がどういう騎士達かはわからないが、この時代のカイト麾下の騎士達の中でもかなり地位の高い騎士とは察せられた。というわけで、今度はイミナにソラが問いかける。
「そういえばあの四人ってどういう人達だったんっすか?」
「ああ、あの四人……四騎士か。雷迅卿・風迅卿・炎帝・氷帝。代々四つの騎士団に与えられていた称号だ。本来シンフォニア王国には四つの騎士団があり、それぞれの騎士団長だったんだが……」
「その一人がさっきのルクスさんだし、この時代のカイトの義理の弟? とやらだと」
「少し違う……本来、この時代の風迅卿はルクス様のお父君になる。が、彼は戦傷により半ば隠居されていてな。更には先のマクダウェル卿……お父君の方の雷迅卿は魔族の奇襲から陛下を逃すべく戦われ戦死。紆余曲折があり、四騎士の騎士団が一つとなったらしい」
詳しい話は流石に私にもわからないが、そういう流れであるとは伝わっている。ソラの問いかけにイミナはそう答える。というわけで、その後はレックスの謁見が終わりカイトが戻ってくるまで暫くの間。一同は今度はカイトが率いた騎士団の説明を聞いて時間を潰す事になるのだった。
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