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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2925話 闇で蠢く者編 ――提案――

 冬前最後の大依頼をソラ達に任せ、自身は単身高額報酬ながらも手間が掛かったり厄介な相手がターゲットだったりして受け手の居ない依頼の攻略に乗り出したカイト。そんな彼であったが、単身で動いた事を受け殺し屋ギルドから刺客を差し向けられる事になってしまう。

 とはいえ、そこは世界最強を謳われる彼だ。刺客を難なく捕縛しながら厄介な依頼も面倒な依頼も軽く攻略してしまうと、差し向けられた刺客の一人から殺し屋ギルドに繋がっている裏組織を見付け出してその組織へと襲撃を仕掛け、ついに殺し屋ギルドの下部組織の存在を掴むに至っていた。


「閣下。見張りを含め、屋敷に居た者達全員の捕縛が完了いたしました」

「そうか……組織というか会合の主催者達は最奥で寝てる。起きるかは知らん。どうせ引き渡す必要もないから、手錠か何かを嵌めて放置しておけ。ウチへの手前をすげ替えた首がどうするかに任せろ」

「かしこまりました」


 カイトのまるで興味もないとばかりにそっけない言葉に、ストラは全く無感情に応ずるだけだ。彼とて今回カイトの逆鱗に触れた者たちが一切の情状酌量の余地が無い事はわかっている。なので容赦も同情も存在していなかった。と、そんな彼が今回の一件の最中に入ってきた連絡を報告する。


「そういえば閣下。閣下がお話をされている最中にサリア様より連絡が」

「ん? 何かあったか?」

「は……件の『人形使い(ドールマスター)』に関する報告です」

「聞こう」


 今回の一件で捕らえたというか保護した『人形遣い(ドールマスター)』であるが、彼女はかなりの名家の令嬢として育てられていた。流石に組織の事もあり社交界に出た事はない様子だったが、屋敷の外には出た事があったらしい。が、それも色々とおかしな点が見受けられたため、サリアに情報を集めてもらっていたのである。


「該当する情報は無し……との事です。彼女の言うような街は存在していない、と」

「……なるほど。どうやら敵はかなりの規模というわけか。いや、そんなものは当然か」

「は……おそらく奴らは彼女のためだけに、街を作り上げていたのではないかと」

「彼女のためだけかはわからんぞ? 組織の人員の偽装の練習やらその他色々に活用していたかもしれん。存外、そういう物は一つ持っていると色々と役に立つからな」


 エネフィア全土に跨って活動出来る大組織だ。確かに各国に対する影響力や組織全体の規模であれば例えばラグナ連邦でソラが壊滅に一役買った<<黒き湖の底(ブラック・ラグーン)>>のような非合法組織の方が強いが、殺し屋ギルドはそういった所から依頼を受ける組織だ。街一つを密かに作り上げられるだけの力を有していても不思議はなかった。


「とはいえ……そうなると皇国出身ではなさそうか。いや、そもそも国籍や住民票やらがあるかどうかも怪しいか」

「かと……そういった物があるとややこしいですので」

「か……むぅ」


 こちらに関しては親兄弟を探す事はほぼ不可能と考えた方が良いか。カイトは『人形使い(ドールマスター)』の来歴に関してこれ以上の追跡は不可能と判断。さりとて人道的に見ても他の側面から考えても放置は出来ない。というわけで、彼は結論を下した。


「改めてだが、彼女はウチで保護する事にする。暫くの間の身辺警護は任せる……まぁ、流石に殺し屋ギルドもウチの本邸に突っ込む事はせんだろうが。それ以外も怖い」

「かしこまりました……それが一番かと」


 先天性の魔術師。それも異界化という普通に訓練してさえ魔術師が到達出来るかどうかもわからない領域の魔術を使えるというのだ。現状では外側から引っ張り出さないと難しいそうだが、それでも非常にレアな体質と言って良い。

 殺し屋ギルドのみならず、どんな魔術師に狙われるかわかったものではなかった。というわけで、カイトからの指示を受けたストラが消える。


「よっしゃ……これで終わりかね」

「じゃー、帰りますかー」

「おうよー。もうちょっと暴れられりゃ良かったんだが」

「ほとんど暴れてないよねー」


 あれだけやって暴れていない。余人が聞けば何を言っているのやらと思われるユリィの発言であるが、実際この二人なら本来は全部二人だけで始末する事も可能だったし多くの時はそうしている。

 それを今回は遠方だからという理由で自分達は最深部へ直行し、制圧は従者達に任せていた。というわけで、いつもよりほとんど暴れていなかったのであった。というわけで、二人はとある町外れの山の中にある豪華なお屋敷――但しカイト達が暴れた事で嵐が通り過ぎたかのようであったが――を後にして、マクスウェルに帰還するのだった。




 さてカイト達による襲撃から明けて翌日。夜遅くに戻ってこようと朝はやってくるわけで、早朝からカイトには来客があった。


「珍しいな。お前が朝から来るなんて」

「本当は昨夜来てやっても良かったがな。遠慮してやった」

「お見通し、ってわけ……」


 楽しげに笑うレヴィの言葉に、カイトは盛大にため息を吐いた。どうやら、彼女は言われるまでもなくカイトの状況やらを理解していたらしい。というわけで、あまりのタイミングの良さにカイトは一つ問いかける。


「流石に情報の入手が早すぎるぞ。まさかと思うが、裏技を使ってないだろうな?」

「少しは使っている」

「お前な……」

「世界樹への接続やら、度を越した事はしていない……あまりやりたいものでもないしな。それにおかげで貴様はゆっくり眠れただろう?」


 自身の返答に苦言を呈しそうになったカイトに、レヴィは僅かに笑う。これに、カイトもその程度なら良いかと呆れながらも受け入れる。


「まぁ、それはそうだが……いや、良いか。流石に限度がわかっていないわけもないか」

「そうだ……それに裏技を使わずとも別の方法もある。単に楽なのが裏技を使う方というだけだ」

「そっちはオレとしちゃ嫌は嫌か……ん。了解。取り敢えず良いや……で、おおよそは理解してる、って事で良いんだな?」

「ああ……殺し屋ギルドからシステム的に情報を抜かれている。私もバルフレアも薄々勘付いてはいたが。ほぼ確定と見て良さそうか」


 今更言うまでもない事であるが、カイトだけでなくユニオンの幹部達――バルフレアやアイナディス達――は何度も殺し屋ギルドと戦っている。その中で明らかにユニオンの内部に内通者なりが居ないと手に入れられない情報が無いと出来ない事があったのだ。


「なぜ今までそっちを調べなかった?」

「調べはした……が、如何せんシステムが高度過ぎた。幸か不幸かな」

「それは作者が作者だからしゃーないが……」

「それに加えて、内通者の可能性もあったので内偵を行っていた。それで成果が挙げられたのも悪かったと言えるだろう」

「なるほど。トカゲのしっぽ、というわけか」


 システムか内通者か。どちらかわからない状況ではそのどちらも調べるしかない。が、前者は成果があまり挙げられず、後者で発見があったとなるのだ。なら必然内通者が見付かった時点で前者の活動は有名無実化してしまったとて仕方がない所はあっただろう。


「そういう事だ……まぁ、元々疑いはしていたし改修も行わせはしていたが……ここいらで一度大規模な改修は行わねばならないだろうとは思っていた」

「で、渡りに船とばかりにウチに来ました、ってわけか」

「そういうことだ……数日ユニオン全体の活動が停止してしまうのは色々と痛いが……遠征前の最後の調整と考えれば逆に良いかもしれん。バルフレアの奴もそう言うと前向きに検討すると言っていた」

「へー……バルフレアも乗り気か。あいつが一番渋りそうかと思ったんだが」


 やはりユニオン全体の活動を取り仕切るユニオンマスターとして、バルフレアもユニオン全体の動きを停止しないといけない話には難色を示す事は多い。事実『リーナイト』襲撃の際にさえユニオン全体としては一切動きは止まっていなかった。というわけで意外感を滲ませるカイトに、レヴィは首を振る。


「いや、遠征隊の情報を抜かれる事を考えれば、奴も乗り気になるしかなかったと言えるだろう」

「なるほど……遠征隊は規模が規模。参加する冒険者も数が多い。その穴を殺し屋ギルドに突かれると困るか」

「そうだ……なので向こうに対応される前に帰還まで果たしたい。なるべく全体として負担の無い様にしたい、というのが奴の意見だ」

「ということはまさか内偵調査もやるわけか?」

「それに関してはすでに行っている。こちらに合わせて改修をして欲しい、というのがバルフレアの意見だ」

「おいおい……無理を言うなよ。どれだけの時間が必要だと思ってるんだ」


 当然だがシステムの改修を、と言われても一朝一夕で出来るものではない。事前に何度も検証を行う必要はあるし、アップデートに時間も掛かる。無論カイト達が協力したとて限度はある。故に、レヴィがユニオン側の提案を行った。


「わかっている……全体の大規模改修なぞ今から計画していれば一年二年は必要な計画だ。ユニオンのシステムはそれほどまでに巨大だからな……なのでユニオンとして依頼したいのは、マクダウェル家が最深部にやっているのと同じ改修だ。無論あれを導入するとなると専用機材が必要になるし、それを全部のユニオン支部で導入するのは物理的・予算的・時間的に不可能。やるのは最深部のみだ」

「あれか……確かにあれを前提として最深部のみ改修するのなら、まだ短縮は可能か……」


 レヴィが言及したのは、マクダウェル家が最重要機密の保持に施している方法。先にカイトとユリィが言及していた地球の技術を併用する方式だ。あれを使うのであれば、確かに情報を抜かれる可能性はゼロに等しかった。


「だがそうなると細部はまた抜かれるぞ?」

「そちらは一時的で良い。先に言った通り、全体としては今回の遠征さえ保てば良い。細かい改修と全体的なセキュリティの強化は年単位で考える」

「ふむ……」


 確かにユニオンとしてもどこまでの情報が抜かれているかわからない以上、最低限最深部の情報だけは抜かれない様にしないと他の作業が出来ない。どこまでかはわからないでも情報が抜かれている事がわかった以上、この対応が最優先となってしまうのは仕方がなかっただろう。


「わかった。即答はできんが、一度ティナ達に聞いておこう。オレとしても情報が抜かれっぱなしだとこっから面倒しか起きないだろうからな」

「そうしてくれ。マクダウェルの各支部に入れるぐらいなら、マクダウェル家が協力したのでとしても問題はないだろう」

「あいよ。それで一回検討してみる」


 カイトとしてもこれから単独行動をする度に殺し屋ギルドから刺客を差し向けられるのでは面倒な事この上ない。対応はして欲しい所ではあった。というわけで、カイトとレヴィは利害を一致させるとそれぞれ各所への調整や意見の統一を行うべく奔走する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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