第2923話 闇で蠢く者編 ――殺し屋ギルド――
冬前最後の大依頼をソラと瞬に任せ、自身は単身いつもの様に受け手の少ない面倒だったり厄介だったりする依頼の攻略に臨んでいたカイト。そんな彼であったが、その動きを察知した殺し屋ギルドにより刺客を差し向けられる事になってしまう。
というわけで送り込まれた刺客に対処しながら五つの依頼を攻略した彼は再びマクスウェルへと戻ると自身に差し向けられた殺し屋ギルドの刺客達から情報を入手すると共に、色々と伝手を辿って情報収集。その中からとある裏組織が殺し屋ギルドに繋がっている可能性を見出すと、その裏組織へと襲撃を仕掛ける事になっていた。
「なんだこいつら!?」
「どこの連中だ!?」
幾重にも渡って響き渡る爆発音の中、男達の慌てた声が響く。まぁ、自分達の趣味に耽っている所に地響きを伴う巨大な爆音だ。慌てもするだろう。というわけで彼らは自分達の取り巻きに状況を確認するのであるが、その取り巻き達が状況を理解するよりも前にチェックメイトが掛けられた。
「はーい。皆さん夜分遅くに失礼しやすよー」
「っ!」
「やれ!」
「「「はっ!」」」
扉を突き破って現れたカイトに、男達の一人が敵襲と理解。即座に取り巻き達に討伐を命ずる。そうして一斉に武器を構えカイトへと相対するわけであるが、その次の瞬間にはユリィの雷撃によって全員が昏倒させられていた。
「ほいやっさ!」
「なっ……」
「一撃!?」
「何なんだ、貴様ら!?」
「儂らを誰だと思っておる!」
あまりに圧倒的。そしてあまりにあっけなくやられた取り巻き達に男達は絶句し、慌てた様に声を荒げる。が、それを無視し、カイトは指をスナップさせる。
「うぉ!?」
「何!?」
「何をす、もごっ!?」
「はーい。皆さんちょーっとお口チャックお願いしますねー……ケツアナからこれ以上くせぇ息吐くんじゃねぇ」
「「「っ」」」
明らかにわかる激怒の様子に、魔術により口答え一切を抑制された男達は思わず息を呑む。そうして数瞬。カイトの怒気により沈黙が舞い降りるわけであるが、暫くしてカイトが口を開いた。
「さて。じゃあ、質問。まずひとつ……このガキを覚えてる奴は?」
「っ」
「はい、お前。ああ、わかってると思うが、ここから先。オレへの嘘と口答えは自分達の寿命を縮めるだけだと思えよ」
提示された殺し屋ギルドの少年の写真を見た瞬間、男達の視線が揺れ動いたのをカイトは確認。その中でも一番早かった男の口を解いて問いかける。
「じゃあ、質問だ。このガキはいつまでここに居た?」
「……三年前だ」
「いつからだ?」
「……六年前。奴が八歳の頃にここにジェレミアがここに連れてきた」
「っ、んー! んー!」
ジェレミア。そう名指しされた男が恨めしそうにカイトに情報を話した男を睨みつける。そうして喚き散らす男――ジェレミア――を、カイトが一瞥する。
「んぅ!?」
「黙れ……誰が喋って良いと許可した。てめぇらがどれだけ偉いかは知らんが、今この状況下ではそれは一切役に立たんと思っておけ……まぁ、今後一切役には立たんがな」
どこか冷酷に。喚き散らしたジェレミアを雷撃により――勿論気を失わない程度に加減しているが――黙らせたカイトはどこか狂気さえ感じさせる笑みを浮かべてこれから先の未来を暗喩させる。そうして再び男達を圧倒したカイトであったが、そのままジェレミアの口を解いた。
「さて……じゃあ、ジェレミアとやら。今度はお前だ」
「ぐっ……貴様ら。ただですむと……ぎゃあ!」
「そんな事聞いてねぇし、そもそもお前ら報復出来ると思ってんの? ほらよ」
ことん。カイトは先程暗喩してやったのにも関わらず理解が出来ていないらしいジェレミアを再度雷撃で黙らせると、まるでトドメとばかりに小型のモニターを地面に置く。そこではとある貴族の領地での地元テレビが写っており、中ではニュース番組が放送されていた。
『えー。代表が病気により倒れられたとの事ですが。病状は安定しているのでしょうか』
『現在、医師団による賢明の治療が……』
「「「!?」」」
モニターに写っていた男の内、片方にこの男達は見覚えがあったらしい。全員が驚愕に包まれる。まぁ、当然だろう。なにせこの男達の中の一人の息子だったからだ。そして語られている内容は明らかに父が急病で倒れ、自身が代表を代行する事になったという内容の記者会見だった。
「ご理解できましたでしょうか? すでに根回しも全部終わってんだよ。早かったぞー。連絡してからお前らを切り捨てるのは。ああ、他にも明日の地元紙の朝刊の三面とか見る? あんたが引退するって影武者が表明してる所とか掲載されてるぜ?」
「「「……」」」
どうやらここに来て男達も自分達の状況を理解したらしい。カイトが告げた者たち以外も全員が同じ状況と悟るのに時間は必要なかったようだ。
自分達が側近や息子達から切り捨てられるとは思っても居なかった様子で、喚き散らしていた者や元々押し黙っていた者問わず誰しもが沈黙し顔を青ざめさせていた。
「さて……じゃ、状況の共有が出来ました所で。改めてお伺いいたしましょうか」
「……何なんだ。何なんだ貴様は!?」
「あ?」
「何が目的だ!? もごっ!」
「はぁ……さっき解いた後に閉じ忘れてたな」
カイトは一番はじめに問いかけた男が喚いたのを受け、再度彼の口を封ずる。そうしてため息混じりに首を振ると、そのまままぁ良いかと教えてやった。
「何なんだ貴様は、という問い掛けには答えかねるが……」
「別に良いんじゃない? どうせ彼ら、もう完全に切り捨てられちゃったし。ウチを怒らせた以上、復活の目は無いでしょ」
「まぁ、生かしておく意味も必要性もないが……解放した所で末路は見えてるしな」
すでに組織の頭の挿げ替えは終わりつつあり、ここで男達が全員死んでもすげ替えられた頭が後はなんとかするだろう。激怒したマクダウェル家というのはそれほどまでに厄介な相手と認識されており、後始末も含めてすべてやってくれそうな勢いであった。
「でもまぁ……教えるのは勿体ない。が、何が目的か、ってのは答えてやろう。どうせこの次に聞きたい事だしな」
「「「……」」」
どうやら男達はもう抵抗する気力もほとんど失われていたらしい。今まで彼らがやらかしてきた事がやらかしてきた事なのだ。相当恨みは買ってきたし、権勢を失えばどうなるかは彼ら自身が一番良くわかっていたのだろう。先に喚いた男を含め、カイトの視線に誰も何も言う事はなかった。
「このガキに命を狙われてね。このガキの情報を辿っているとお前らにたどり着いたのさ……でまぁ、胸糞悪いから叩き潰すついでに、殺し屋ギルドに関する情報が欲しくてね。このガキがここに居た事はわかっている以上、どこかしらに殺し屋ギルドのコネがあるんじゃないか……そう思った次第ですよ」
「「「っ……」」」
自分達がかつて蒔いた種が今になって自分達を苦しめた。そう理解した男達の顔が盛大に歪む。その中には少年に対する怒りも多分に含んでいる様子で、カイトはそれを目敏く理解する。
「おい……てめぇらがやらかしてんだろうが。何ガキにいちゃもんつけてやがる」
「話進まないから」
「っと……で? ジェレミアさん。詳しくお話を伺いましょうか。連れてきた、って事はあんたがその後も飼ってたわけ? それともここで飼い殺し?」
「っ……元々奴は借金のかたに親に売られたんだ。顔は良かったのでな」
もうどうやっても自分達は助からない。それを理解したジェレミアはカイトの問いかけにぽつりぽつりと少年の更に昔の来歴を語っていく。そうして、カイトは彼らから殺し屋ギルドに繋がる情報や少年の来歴に関する情報を入手する事に成功するのだった。
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