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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2922話 闇で蠢く者編 ――殺し屋ギルド――

 冬前最後の大依頼をソラと瞬に任せ、自身は受け手のない厄介だったり面倒だったりする依頼の攻略に臨んでいたカイト。そんな彼は道中で殺し屋ギルドから刺客を差し向けられる事になりはしたものの、それらすべてを捕縛。殺し屋ギルドの情報を収集するべく聴取を行っていた。

 そうして得られたのはやはり大半が酸鼻を極める来歴を持っていたり、当人さえ知らぬ間に明らかに組織の道具として育てられたりと様々な来歴を持つという事であった。

 そんな殺し屋の刺客についてカイトは子供二人に関してはある種の被害者として保護を決定。当人が望んで殺し屋ギルドに所属した者たちについては裁判沙汰として、今回の一件はひとまずの落着とする事にする。というわけで、マクスウェルへの帰還から数日後。彼はそれらの裁定にマクダウェル公として判を押していた。


「良し……これでひとまずか。取り敢えず皇都を介して刑務所に監査を入れないと……で、これマジ?」

「マジよ。当人の選択というか……ガキンチョにも確認を取ったわ。仕事以外だとああいう格好だったみたいね。ああしていないと正気が保てないというべきか、そもそも正気でないというか……」

「ちっ……いや、良い。わかった。そういった子供を保護する……それがウチのやり方だ」

「了解です、御主人様」


 カイトの改めての明言に、ルーナが上機嫌に笑う。彼女が報告しているのがなんだったかというと、殺し屋ギルドの刺客である少年だ。数日が経過しひとまずの報告を持ってこさせたのだが、やはり彼が負った傷は根深いものだったようだ。


「で、殺しを担当していたガキの方は? 確かあっちはジェレミーだったか」

「今は鳴りを潜めているみたい。というより、私生活はデュイアちゃんに任せっきりだったみたいね」

「デュイア……女の子の人格の名前か」

「ええ……主人格に関してはまだ私の前には出てきていないわね。ミースさんは知っているっぽいけれど」

「そっちは報告を受けている」


 先に複数の人格が指摘されていた殺し屋の少年であるが、どうやら主人格に関しては日常生活でも出て来ないらしい。この数日ミースやルーナを筆頭に、孤児院の教員らが傍にいて常時監視体制を構築していたそうであるが、催眠によって呼び出して以後一度も姿を見せていなかった。


「で、この数日は完全に大人しくしてる、と」

「ええ。初日にジェレミーは徹底的に叩きのめしてやったから、ウチで暴れても無駄は悟ったでしょう」

「見てたよ。気持ち良いぐらいにドストレートが決まった瞬間」


 くすくすくす。カイトはジェレミーが吹き飛ばされる瞬間を思い出し、楽しげに笑う。どうやらあれを数時間繰り返した結果、人格の一つであるジェレミーは自身の逃亡不可を悟ったそうだ。

 無論殺し屋ギルドで仕事が出来るような性格だ。殺し屋ギルドからの救援なぞ期待もしていない。勿論だからと自死なぞするわけもなく、殺されないなら諦めた方が楽とさっさと引っ込む事にしたのであった。


「あれはストレートじゃないわ。あれは置いたのよ。そこに自分から突っ込んできただけ」

「マジすか?」

「マジよ。あんな子供にストレート叩き込んだら気分が悪くなるじゃない」

「……そっすかぁ」


 オレ達何十発も叩き込まれた気がするんだよなぁ。カイトはそう思いながら、笑うルーナに納得した素振りだけ見せておく。


「まぁ、良いや。それで問題としては何かあるか?」

「特には無いわね。ガキンチョ以外は戦闘力は無いみたいだし……ああ、一個だけ。デュイアちゃんなんだけど、ちょっと危ないわね」

「危ない?」

「自分が何者で、どういう目的で生み出されたかを理解してる。そういう人格として生み出されたのかもしれないけれど……そういう事をしたがってる雰囲気はあるわね。それが生きるための処世術か、そういう人格として生み出されたかはまだわからないけれど。流石に淫魔族の力を持っていると危険だから、他の子達とは夜寝る場所を離させたわ」

「……そうか。リーシャに一度因子の診断を依頼してくれ。何がされているかわからん」

「……なるほど」


 自分達と同じかもしれない。カイトの言葉でそれを理解したルーナの目つきが僅かに変わる。自分達の研究資料が持ち出されている可能性が高い事は弟のソーラによりすでに報告されている。その一部が闇ルートで流れ使われたのだとするのなら、それは由々しき事態だった。というわけでその後も暫く報告を受けるわけであるが、そこで通信が入ってきた。


「ん……」

「了解」

「オレだ」

『はい、ダーリン。貴方専属の情報屋。サリアですわ』

「なんだ、サリアさんか……珍しいな、この時間に連絡なんて。今の時間帯は普段にも増して忙しいだろうに」


 この日は他にも溜まっていた仕事があったため、カイトは朝からマクダウェル家で仕事をしていた。というわけで今はまだ午前中で、そうなるとサリアも基本は寝ている間に世界各国から送られて来た情報の処理で忙しいはずだった。


『ええ……ですが仕事を差し置いてでもお伝えさせて頂きたい情報がありましたの』

「その顔で一発で分かったわ……」


 口では重要な情報と言いながらも盛大に楽しげに笑っていたサリアに、カイトは何があったかを即座に理解。ガックリと肩を落とす。


「おいくら? あまり安いとちょっとショックだな」

『大ミスリル50枚』

「おぉー。良い値だな。オレ本来の額にゃ劣るが……一年未満である事を鑑みれば十分じゃねぇの」

『ですわね……ダーリン本来の賞金額は大ミスリル1000枚ですもの。それには遠く及びませんわ』

「マジ? すっげぇな、オレ……」


 どうやらオレが知らない間にオレの賞金額はかなり跳ね上がってしまったらしいな。カイトは久方ぶりに聞いた自身の賞金額にどこか感心した様子だった。


『無理もありませんわね。本来ならターゲット行方不明につき取り下げられるべき所を地球にて生存がほぼ確定しているという事で、逆に賞金額が跳ね上げられたそうですわ。まぁ、これにはギルドとなった事で組織的な活動が出来る様になった事も大きかったでしょうが』

「そんな殺したかったんか」

『……そりゃそうですわ。ダーリンが今まで何人の殺し屋ギルドの刺客を叩き潰し、いくつの暗殺計画を水泡に帰してきたかを思えば、取り下げなぞ考えられなかったのでしょう』


 なぜその程度で諦められると思っていたのか。カイトの様子に逆にサリアがびっくりという様子を見せる。が、これにカイトはあっけらかんとしたものだった。


「そんなやったかねぇ……今だとバルフレアの方が回数は多そうだけど」

『ああ、あの方が賞金額では第二位ですわね。ダーリンと並んで意図的に計画を潰しているわけですから』

「あ、そう」


 戦闘力であればバルフレアよりはるかに格上のクオンらが居るわけであるが、今更にはなるが彼女らは殺し屋だろうと雑魚だと興味がない。なので殺し屋ギルドとしても彼女らに関しては天災と一緒と考えており、計画が阻止されようと遭遇した事が悪かったと考えている様子だった。


「ちなみに、バルフレアはいくら?」

『現在700枚ですわね。かつてのダーリンと同額ですわ』

「おー、あいつも良い値段行ったな」


 それだけ殺し屋ギルドとバチバチにやりあった、ってわけか。カイトは不正の絶えないラエリア王国で長年ユニオンマスターをして不正を見張っていただろう事を考え、無理もないと首を振る。

 おそらく殺し屋ギルドの計画を邪魔した数であればカイトを大きく上回るだろう。まぁ、逆に考えればそれを加味してさえ上回るカイトが何をやらかしたのだ、という所でもあった。


『まぁ、追々ダーリンの帰還が伝われば一気に跳ね上がるでしょう。今のダーリンのやらかしに加え、本来のダーリンのもあるわけですから。これ以上跳ね上げても払えるか、と思いますが』

「払えるだけの組織なんだろう……で、これだけ?」

『いいえ、まさか……流石にこんな話題だけでダーリンに連絡を取るほど暇ではありませんもの。情報、入りましたわよ。これもお仕事、ですわ』

「……」


 にたり。サリアの言葉にカイトの顔に裂けたような笑みが浮かび上がる。


「国内? 国外?」

『残念ながら、国内ですわね。おかげで探すのが簡単でしたわ』

「そぉう……すげ替える頭は?」

『ダーリン、そういう事気にされますの?』

「一応はな」


 本当に一応なのだからたちが悪いですわね。サリアはカイトの言葉が本当に一応気にしている程度である事に内心でため息を吐く。が、彼女に情報を出さないという選択肢はなかった。

 ここで情報を伏せようとカイトには最後の切り札である大精霊達が居るのだ。更には何かしらの別の手段さえ持ち合わせていそうでもある。

 そういった誰も見知らぬ切り札を切られてカイトがコントロール出来なくなるより、今ここでコントロール出来る様に首輪を付けておいた方が良い。ティナとサリアは裏でそう合意していたのであった。


「それで? どこのどいつら?」

『地図含みでお送り致しますわ。まぁ、事が事ですし場所が場所なので荒事が起きた所で誰も気にしはしないでしょう。当人達は自分達が誰かわかっているのか、とばかりに好き放題やっている様子ですが』

「オレはマクダウェル公ですが?」

『そういうことですわね。ダーリンの……マクダウェル公の耳に入った。その時点でジ・エンド、ですわ』


 本来誰よりも好き勝手が出来てしまうカイトの逆鱗に触れてしまった以上、碌な死に方は出来ないだろう。カイトの裏をもサポートしているが故にその末路を見てきているサリアは、彼らの末路が哀れで仕方がなかった。といっても、やっていることがやっている事なので同情はしていないが。


「ルーナさん。ちょーっと今日の夜の予定はキャンセルで。お話しないといけない方々が出来てしまったみたいなんで」

「久しぶりね、殴り込みも」

「それだけ他の貴族も頑張ってる、って事で喜んでおこう」


 ぱんっ。楽しげに笑いながら拳を鳴らしたルーナに、カイトもまた笑う。と、そんな彼が一応と告げる。


「ああ、そうだ……あー、あの少年? には伝えるなよ。どう反応するかわからん」

「ああ、それは了解。そうした方が良いでしょう……場合によっては連れて行っても良いのだけど……今だと逆に心が壊れそうね。まぁ、一度ミースさんに聞いてみるわ」


 そこは医者の判断に任せた方が良いか。カイトの指示にルーナも応ずる。そうして、この日の夜。カイト率いるマクダウェル家の裏の部隊が久方ぶりに大々的に動員を掛けられる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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