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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2918話 闇で蠢く者編 ――人形使い――

 冬前最後の大仕事をソラと瞬に任せる事にして、自身はいつもの様に単身受け手の少ない高額ながらも厄介だったり面倒だったりする依頼の攻略に乗り出す事にしていたカイト。

 そんな彼は今回の依頼がマクシミリアン領であった事からマクシミリアン領南西部のとある街に移動し依頼に取り掛かっていたわけであるが、その最中に今までのやらかしなどから彼は殺し屋ギルドから刺客を差し向けられる事になる。

 とはいえ、そこはカイト。最強を謳われ、そして最高位の冒険者だ。殺し屋ギルドの腕利き達を難なく撃破し、また長く放置されていた魔物達や依頼を攻略。すべての依頼を終わらせ街に戻ってきたわけであるが、そんな彼を待ち受けていたのは『人形使い(ドールマスター)』というカイトさえ耳にした凄腕の殺し屋による襲撃であった。


「ふむ……ある意味これは凄いな。これだけオレに差し向けても一切勢いが落ちない」

「魔力量は相当?」

「相当だな。数百万……いや、この勢いだと何千万単位になるかもしれん」


 おそらく皇国全域を見回しても自分達を除外すればトップクラスの魔力保有量だろう。カイトは無数とも言えるマリオネット軍団を操りカイトに消耗戦を仕掛けてくる『人形使い(ドールマスター)』に僅かな称賛を口にする。


「相手がオレだった、という一点さえなければこれだけの軍勢に攻め掛かられれば普通は堪えきれん。多分こいつは今回放たれた殺し屋全員が失敗した時点で動く様に命ぜられた本命だな……まぁ、こんな奴を他の奴と組ませるわけにもいかんだろうが」


 連携も何もあったもんじゃない。何千何万と繰り出されるマリオネット軍団を見ながら、カイトはそう口にする。まぁ、これだけの数を単騎で繰り出せるのだ。『人形使い(ドールマスター)』の性格がどんなものかわからないが、少なくとも連携が取れる戦士は中々いないだろう。とはいえ、そんな軍勢を見ながらエドナは笑う。


「貴方とは相性良さそうね」

「うん?」

「貴方が編んだ武器をこのマリオネット軍団に持たせると良い軍団にならない?」

「あはは。確かに……そう言っても敵なんですけどね」


 楽しげに笑い合う二人であるが、攻め寄せる無数のマリオネット軍団の勢いは留まる事を知らない。無論おそらく数千万は誇るだろうと思われる『人形使い(ドールマスター)』の魔力保有量だろうと、無尽蔵と言われるカイトには遠く及ばない。このまま持久戦になってもカイトは大丈夫ではあるが、いつまでもこのままにはならないだろうとは彼も思っていた。


「そろそろ次のフェーズに移動してもおかしくはないと思うんだが……」

「動きそうね」

「みたいだな……マリオネット軍団は次に移行するための時間稼ぎか」


 カイトとエドナは上空を見上げ、そこに浮かぶ巨大な魔法陣が『人形使い(ドールマスター)』の次の一手と理解する。そうして巨大な魔法陣が妖しく光り輝くと、今まで為す術もなくカイトに一方的に破壊されるだけだったマリオネット軍団が赤紫色の光を纏う。


「ん? おっと……ちょっと強度が上がったな」

「ちょっとで良いの?」

「オレからすればちょっとだ」


 冒険者として比較するならランクC相当だったマリオネットの力がランクB相当にまで引き上がっている。そしてこの状況下だ。ランクSの冒険者であっても状況に即した手立てを持っているかクオンらの様に極められていなければ危うい状況であったが、そのどちらでもあるカイトにとっては特に何かが変化するわけではない。

 マリオネット軍団が強くなるなら、こちらは武器に込める魔力を更に強めるだけであった。そんなわけで特に興味もない様子でカイトはマリオネット軍団を再び押し返すわけであるが、そんな彼の耳に声が聞こえてきた。


「……うん?」

「どうしたの?」

「何か……声が聞こえたな、と」

「声……?」


 身体能力であればカイトの方が圧倒的に高いのだ。そしてカイトに任せたエドナはさほど身体能力を高めていない。というわけでカイトの言葉に彼女も身体能力を高め、更にカタカタと鳴り響くマリオネット軍団の音を除外。何か声は無いかと聞き分ける。


「あら、これは……女の子の声ね。女じゃなく女の子」

「そうなのか? オレはそこまではわからんが……『人形使い(ドールマスター)』か。怒ってるかと思えば……」

「喜んでるわね、これ」


 ある種の狂乱を伴った声が響いていたので一瞬自分が操る無数のマリオネットを破壊されて怒っているのかと思った二人であったが、言葉をしっかり聞いてみるとそれどころか非常に喜んでいる様子でさえあった。それにカイトもエドナも思わず苦笑する。


「みたいだな……はぁ。また変人の類かよ。面倒くさいな」

「変に周囲に被害が撒き散らかされないで済むから良いじゃない」

「そりゃそうなんだがな」


 激昂し見境をなくすと、今度は周囲の被害が厄介な話になってくる。現状はストラ達が裏で周囲の建物に強度を増加させる魔術を展開してくれているので大丈夫だが、それとて限度はある。

 周囲に被害が出る前に終わらせたいところであった。というわけで呆れながらも無数のマリオネット軍団への応対は怠らないカイトであるが、そこにエドナが僅かに目を見開く。


「……あら?」

「どうした?」

「これ……詠唱じゃない?」

「うん?」


 一応、かなり遠くで声が響いている事はカイトも掴んでいる。そしてこの状況なのでこの声の主――女である事まではわかったが――が件の『人形使い(ドールマスター)』だろうと思われていたが、言葉の内容までははっきりとは掴んでいなかった。というわけでカイトは更に身体能力を上げて、女の声に耳を傾ける。


「あははは! 我が悪夢(ナイトメア)よ! 我が夢は世界を侵食せし!」

「おぉ……マジか。更に上がある、ってのか?」

「中断させる?」

「いや……これは乗った方がこっちとしても良さそうだ」


 この詠唱を行っている魔術が何をするためのものなのか。カイトは『人形使い(ドールマスター)』の声で変化していく周囲の様子を見ながら、エドナの問いかけに首を振る。とはいえ、そのままでは被害が増すだけというのもわかったため、彼は即座に行動に入る。


「ストラ」

『はっ』

「状況はわかったな? オレ達以外を除外させろ。この程度の相手の魔術に介入出来ないとは、言わせんぞ?」

『かしこまりました。ご武運を』


 勿論できるに決まっている。カイトの言葉にストラは笑い、再び気配を消失させる。本来は彼単騎でも『人形使い(ドールマスター)』は始末できるのだ。カイトの言いつけ程度が出来ないわけがなかった。

 そうして、『人形使い(ドールマスター)』の詠唱により周囲が塗りつぶされていき、それがある閾値を超えた瞬間。一気にカイト達の周囲が塗り替えられた。


「おっと!」

「あら……お姫様抱っこされたわ」

「嫌か?」

「乗せるのはよくやるけど乗るのは初めてね」


 周囲が塗り替えられると共に二人が乗っていた宿屋も消失。地面へと落下したわけであるが、その直前にカイトがエドナを抱きかかえ着地していた。そうして地面に着地した二人は改めて周囲の状況を確認する。


「異界化か……やっぱりホラーじゃねぇか」

「でもお姫様は可愛らしいみたいよ?」

「うん? おぉ、こりゃ確かに」


 完全に悪夢を再現したとしか思えない薄暗い赤黒い空と荒れ果てた荒野の様子。そこに蠢く無数のマリオネット軍団。正しく出来の悪い悪夢としか言い得ない状況の中で、はるか彼方に見えたのは金髪碧眼のとびきりの美少女――エドナの言う通り少女の年頃だった――だ。が、その顔には狂気の滲んだ笑みが浮かんでおり、彼女が美少女であればこそ殊更恐怖を演出していた。


「アリス・イン・ナイトメア……ってところか?」

「どういう意味? アリスってアリスちゃん?」

「地球に不思議の国のアリスって童話のシリーズがあってな。不思議の国(ワンダーランド)に迷い込んだ女の子のお話なんだが……だからアリス・イン・ワンダーランドって言う事もある。迷い込んだのは悪夢でした、ってわけ」

「なるほど。確かに悪夢みたいね」


 その悪夢の中でさも平然とした様子の自分達は何なのだろう。そう思わないでもないエドナであったが、どうにせよこんなものなぞ悪夢とも思えない修羅場をいくつも突破してきた二人にとってこの程度は悪夢にならなかった。

 というわけで、別段何も変わらないどころか自分達と『人形使い(ドールマスター)』だけが取り込まれる形になったので被害を気にしなくて良くなったとしか思わない二人は改めて気を取り直す。


「どうする? この程度の異界なら一足で殺しに行けるけど」

「あんまり気乗りしないな。若い女の子を殺すと寝覚めが悪くてな……いや、女の子っていうより子供を殺すと、なんだけど」


 どうしても必要なら殺すが、よほどその必要無い限り殺す気はない。基本的にカイトの少年兵に対する方針はこの一択だ。というわけで、いくら狂気に侵されようとうら若き乙女である『人形使い(ドールマスター)』も殺さず捕まえる事にしたようだ。


「じゃあ、もう少しお遊戯に付き合ってあげるわけね」

「そうする……面倒ではあるがな」


 すでに『人形使い(ドールマスター)』の操るマリオネット軍団の力はランクAの冒険者相当にまで引き上げられている。伊達に詠唱までして異界化したわけではないだろう。それだけの力はあった。

 とはいえ、異界化がすべて敵に有利に働いたわけではない。周囲の被害を気にしなくて良くなったし、何より周囲の目もなくなった。故に、カイトはまるでマリオネット軍団に応ずる様に自らのみが使える力を展開する。


「さぁ……軍団には軍団を。かつてオレが『影の勇者(トワイライト)』と呼ばれた所以を見せてやろう」


 もはやこの中には殺し屋ギルドの監視さえ及ばない。ならばここで自身が勇者カイトであるという最大の証明たる影を呼んだところで、誰にもわからない。唯一『人形使い(ドールマスター)』が居るが、それも捕らえてしまえば問題はない。そうして、彼の影が伸びて大きくなっていく。


「夜分に悪いが、戦いの時間だ! 起きろ馬鹿ども!」


 カイトの影の中から、無数の影で構築された戦士達が姿を現す。まぁ、昔の様に誰かを模したわけではない単なる影で出来た戦士だが、『人形使い(ドールマスター)』程度に使うには十分だった。

 こうして、カイトの召喚した影の軍勢と『人形使い(ドールマスター)』のマリオネット軍団が悪夢の中で激突するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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