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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2916話 闇で蠢く者編 ――帰還――

 冬前最後の大きな依頼の統率をソラと瞬に任せたカイト。そんな彼はいつものように単身、受け手の居ない依頼の攻略に臨む事になっていた。

 というわけで今回の依頼は自領の南隣。マクシミリアン領から流れてきた物が多かった事から、それらを一括で受注。マクシミリアン領南西部のとある小さな街を経由地として依頼に出る事になる。

 そうして依頼に出たわけであるが、そこに更に今までのやらかしから殺し屋ギルドから刺客を差し向けられる事になっていたカイトであったが、そんな彼は三日間の間で四人――プラス名馬一体――の襲撃を退けるに至っていた。


「良し……警戒網に関しては問題無いな?」

「はい……昨日今日に関しては一気に北上してしまえば問題ありません。ですがよろしいのですか?」

「あぁ、流石にもう移動中に仕掛けてくるほどの刺客は残ってないだろう。視線はあるが、軍の介入に気付いて介入はしてこなさそうだ。そうなれば後は街だけだが……」

「そちらは支配人が、と」

「そうだな。あちらに関してはストラに任せてるから、余計問題はないだろう」


 支配人とはカイトが言う通りストラの事で、彼がマクスウェル東町の最終的な支配人である事からそう言われていた。そしてカイトの身辺警護を裏で行う彼ら彼女らの多くが娼館の従業員も兼任している事も多い。支配人と言った方が彼らも楽だった。


「まぁ、それはそれとして。馬は?」

「落ち着いています。どうやら自分の立場がわかっている様子」

「あー……やっぱ良い馬だな。賢い」


 今回の旅最大の収穫だった。カイトは名馬と呼べる馬を捕まえる事が出来た事に心底の喜びを露わにする。後はこれで殺し屋ギルドからの刺客の男が身の振り方さえ理解してくれれば、カイトとしては万々歳だった。


「あの馬には絶対に傷を付けるな。牝馬か牡馬かはわからんが、名馬には違いない。それと馬が大人しくしている限りは乗り手の男の方も丁重に扱え」

「逆の場合は?」

「それは知らんが……多少の手心は加えてやれ。あの名馬を飼いならし、気遣われるだけの乗り手だ。根そのものは悪くないのだろう。身の振り方さえ理解すれば良い騎兵になる」

「かしこまりました……誰に預けますか?」

「もうその話か。気が早いな」


 誰に預けるか。これは言ってしまえばどうせ素直に応ずる事なぞないのだから、『調教師達(教育室の誰か)』に預けて厚生させてしまえ、という話であった。

 早い話が昨日の少年と一緒だった。というわけで笑うカイトであったが、こちらに関しては特に考えてはいなかったようだ。


「まぁ、誰でも良いっちゃ誰でも良いが。ウチの竜騎士で引退した奴とかって居た? もしくはお目付け役や教官になってる奴。あー……でも、あいつは素直に受け入れそうになかったからなぁ。できるだけ腕っぷしの強い奴のが良い」

「見繕いましょう」


 どうせアクの強い人材なぞマクダウェル家には山ほど居るのだ。というよりアクの強い人材しかいないと言っても良いのがマクダウェル家である。

 なのでカイトとしてもこの従者としてもその誰かで手が空いている者で良いか、と考えていたようだ。というわけで話しながらもカイトは再出発の用意を整えていくわけであるが、その彼の横にはエドナが一緒だった。


「そういえば……閣下。ここからは再びバイクで?」

「いや、久しぶりにのんびりとこいつに乗って……うん。この見た目だと語弊が物凄いんだけど、こいつに乗って戻るよ。久しぶりにそれでも良いだろう」

「かしこまりました。万が一の場合は」

「こいつに追い付ける奴が居るか?」


 なにせ次元を切り裂く天馬である。それこそカイトと一緒なら世界さえ駆け抜けるのだ。追い付けるのはこのエネフィアでもトップクラスの猛者しかいなかった。


「そうでしたね……では、失礼致します」

「おう……ああ、他の連中に関しても情報が整い次第、執務室に届けてくれ。そこから色々と判断する」

「かしこまりました」


 カイトの改めての指示に、従者が消える。そうしてステルス機能を展開していた飛空艇が遠ざかっていくのを見送って、カイトはエドナを見る。


「エドナ。そろそろ戻ろう」

「ええ……おんぶの方が良い?」

「やめてくれ。帰ったは良いがどんな変態に見られる事か」


 楽しげに笑うエドナに、カイトは少しだけ呆れる様に笑う。彼も流石に怪我もしていないのに白銀の美女におんぶされて街に帰るなどという羞恥プレイはごめんだった。というわけで彼の要望を受け、エドナは再び天馬の姿へと変貌する。


「よっしゃ……どうすっかね」

『ゆっくり帰る?』

「どうせ早く帰っても、という所だしな。それにお前が本気出せば街どころかマクスウェルまで戻れちまう。久しぶりに昔みたく草原をのんびりと駆けながら、で良いだろう」

『街には戻るの?』

「依頼の達成で一件だけどうしても経由地に戻らないとダメでな。マクダウェル領に直帰はできんのさ」


 今回の五つの依頼の内採取や討伐に関しては実は経由地であったマクシミリアン領の街でなくても良い。というのも薬が不足しているのはあの街に限った話ではなく、マクシミリアン領全域での事だからだ。

 というわけで基本的には原料となる薬草も転売などを防止する目的でマクシミリアン家が管理する事になっているため、この薬草も一度マクシミリアン家が買い取って薬に加工。各地の病院などに卸す事になっていたのである。


『そう……じゃあ、何時ぐらいに到着する予定で動く?』

「16時……ぐらいで良いだろう。冒険者としては普通の時間だ」

『かなりゆっくり出来そうね』

「お前の速度で動く事なんて考えちゃいないからな」


 音速は普通。魔力さえ潤沢にあれば亜光速さえ出せてしまうのが今のエドナだ。そうなるともはや街と街の移動なぞ瞬く間でしかなかった。というわけで、主従は一気に帰る事もなく沈んでいく夕日を見ながらゆっくりと帰っていくのだった。




 さてゆっくりと戻った二人であるが、流石にエドナを天馬のまま街に入らせると馬小屋に入れられるので街に近付くと同時に女性の姿を取らせると、そのままペアの冒険者として街に入っていた。そうしてどこに向かうかというと、当然この街のユニオンの支部である。


「いらっしゃいませー……あら。早かったですね」

「あ、あの時の……丁度良いや。依頼、全部終わったんで完了の処理をお願いします」

「はいはい、完了報告……え? 全部終わった……? 全部終わったぁ!?」


 どうやら偶然にも丁度カイトが出る時に世話になった受付嬢が空いていたらしい。彼女に気軽に声を掛けたわけであるが、その一方の女性は驚愕で声を大にする。どうやら彼女はあまりに早い帰還だったため、カイトが言うだけ言っておめおめと逃げ帰ったものだと思ってしまっていたらしい。


「全部って……全部ですか? 討伐も採取も全部……?」

「ええ。あ、ついでに『財宝を守る屍竜(しりゅう)』は討伐しておきました。ちょっと手こずりましたけど……問題ありません」

「あの厄介な『財宝を守る屍竜(しりゅう)』を? 異常進化個体は?」

「それも勿論」


 終わったものは終わったのだから、別に隠す必要もない。そしてここで終わったと言わなくても、どうせギルドホームに戻ってからソーニャに完了報告を行った際には全部終わった事がこの支部にも連絡される――掲示板の手配書を外す必要があるため――のだ。

 なのでカイトは頬を引き攣らせる受付嬢にさも何かありましたか、とばかりに頷いていた。まぁ、若干この大仰な反応を見せてくれる受付嬢が楽しくてやっている様子も見受けられたあたり、やはり彼らしくはあっただろう。


「うそでしょ……?」

「これ、一応証拠も持って帰りました。勿論ユニオンの登録証にも概念は確保されているはずです」

「……えぇ……」


 あり得ない。おっかなびっくりという塩梅でカイトから提出された証拠と登録証を専用の機材に通して、ユニオンの受付嬢は盛大に頬を引き攣らせる。


「あれ……一応ランクS冒険者さえ追い返された記録があるのですけど……あなた本当にランクAですか……?」

「あはは……昇格試験、そろそろ受けたいですねー」

「……」


 一体全体何なんだ、この男は。受付嬢は楽しげに笑うカイトに何か異様な物でも見るような様子を覗かせる。


「ま、それはそうとして……別にここまで早かったのはオレ一人だけだったから、というわけじゃないですよ」

「あれは……そういえばご一緒に入ってこられましたが。そういえばお一人だったのでは?」

「古い知り合いで。少し故あって道中で合流したんですよ」

「ああ、なるほど……」


 あの白銀の美女が何者かはわからないが、余裕たっぷりの様子から何人もの冒険者を見てきた受付嬢にもカイトと同等クラスの腕利きに思えたらしい。彼女と二人だったのならこの異常なまでの戦果も不思議ではないのでは、と若干無理矢理感はあったものの自らを納得させる。


「では報酬に関しても彼女と分割の方が良いですか?」

「ああ、いえ。その必要はないですよ。彼女は俗に言う協力者になるので」

「そうなんですか。それは……なんというか勿体ないですね」

「あはは。まぁ、色々とあるんですよ」


 別に協力者が珍しいわけではないが、やはり腕利きでありながら協力者のままであるとユニオンとしては惜しいと思うのは仕方がないだろう。

 とはいえ、当人がそれを選択したのであればユニオン側としても無理強いは出来ない。というわけで、ひとまず自らを納得させたユニオンの受付嬢はカイトの提出した二つを以って依頼を完了とさせる事にした。


「はい。これで依頼は完了です。今回は依頼内容が単純になりますので、報告書などの提出は必要ありません。報酬に関しては後日指定の口座に振り込まれます。振り込まれましたら書面でのお届けをご希望ですか?」

「あ、お願いします」


 今回は受け手の居ない依頼が五つとはいえ、終わってしまえば後はその他の依頼同様の処理だけだ。というわけでカイトはその後は十数分掛けて依頼の完了の処理をすべて終わらせて、エドナと共に宿屋に戻るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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