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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2915話 闇で蠢く者編 ――騎馬戦――

 冬前最後の大規模依頼。この依頼の経由地にミナド村が含まれていた事から統率をソラ、そのサポートを瞬に任せる事にしたカイト。そんな彼はいつもの様に空いた時間を利用して受け手の少ない依頼の攻略に乗り出すわけであるが、その最中。彼は今までの積もりに積もったやらかしから殺し屋ギルドから刺客を差し向けられる事になってしまう。

 というわけで、殺し屋ギルドの刺客を撃退しつつ依頼の攻略を行っていた彼であったが、ふとした事からその刺客の一人と意気投合。バイクではなくエドナを駆っての騎馬戦にもつれ込んでいた。


「「はぁ!」」


 馬を駆った二人が同時に気勢を上げて、その愛馬の腹を蹴る。それを受けた二匹の馬達は同時に草原を蹴って駆け出していく。


「「……」」


 数瞬。どちらも無言で愛馬に草原を走らせる。まだどちらも攻撃するつもりはないらしい。そうして先に仕掛けたのは、殺し屋ギルドの刺客だ。


「行くぜ」


 それはカイトに声を掛けたのか、それとも愛馬の方か。彼が小さく告げると共に、彼の愛馬が魔力を纏って急加速。黄金の閃光と見紛うばかりに草原を突っ切っていく。そうしてある程度加速した所で大きく地面を蹴って、大空に飛び出した。


「普通に虚空を蹴って走ってるな」

『どうする?』

「当然……行くぜ」


 虚空を蹴って走るぐらい、こちらにも出来るのだ。故にカイトは楽しげに笑いながら、殺し屋ギルドの刺客に応ずる。そうして、エドナの背に純白の翼が現れる。そしてこちらに加速なぞ必要ない。翼がはためくだけで、エドナは大空へと飛翔する。


『カイト』

「懐かしいね!」


 大昔のあの頃はこうやってオレ達主従を目当てに何度も戦いを挑まれたものだ。騎馬兵としても優れた武名を残した事をカイトは思い出す。そうして、彼らが大空へと駆け出した直後だ。黄金の閃光が彼らの正面から肉薄してきた。


「「はぁ!」」


 殺し屋ギルドの刺客が使う武器はランスだ。騎馬兵としては一般的な武器で、竜騎士や竜騎兵達もまた使うものだ。なので冒険部でも割りと多くの竜騎士達が使っており、カイトとしても馴染みは強かった。というわけで何度か模擬戦をした経験のあるカイトにとって、正面からの激突は慣れ親しんだものだった。


「とっ……龍騎兵部隊を抱えてるって話は聞いてたが! まさかお前も!?」

「天馬も竜もさほど変わらん! 模擬戦には参加してるさ!」

「怒られろ、てめぇ!」

「あっはははは!」


 大太刀とランスで打ち合いながら、両者は楽しげに笑い合う。その様子は決して殺し合っている様には見えないが、その実交わる一撃一撃はランクC程度の魔物なら消し飛ばんほどだ。そしてカイトに騎馬戦の経験は薄いと見ていた殺し屋ギルドの刺客は思わぬカイトの腕前に、一度仕切り直しを選択する。


「っと、仕切り直しだ!」

「おっと」


 放たれた強撃で、両者の合間に僅かな隙間が出来上がる。これにカイトは距離を詰めようとするが、その前に殺し屋ギルドの刺客は愛馬の腹を蹴って前に飛び出す様に加速させた。


『どうする?』

「オレらを舐めるな……だろ?」

『速度上げるわね』

「オーライ」


 エドナの言葉に、カイトは楽しげに笑って武器を弓矢に切り替える。そうしてカイトが殺し屋ギルドの刺客を狙う一方で、エドナは虚空を蹴って加速。自分達に肉薄しようとする殺し屋ギルドの主従を突き放す。


「おいおい、マジか!?」

「……」


 その速度で、この速度の俺達を狙うつもりか。超高速で駆け抜けるエドナの背で弓を構えるカイトに、殺し屋ギルドの刺客が仰天した様子を露わにする。

 敢えて言うまでもないが、加速した両者は超音速で動いている。これが騎手だけなら単にちょっとどころではなく速い流鏑馬だが、両者がその速度で動いているのだ。難易度は考えるまでもなかったし、普通の弓兵でも中てるのは難しかった。


「っ」


 いや、この男なら中てられる。殺し屋ギルドの刺客は無理だと思う自身の甘えを捨て去って、愛馬の腹に自身の下半身をしっかりと固定。刹那しか許されないだろうタイミングにランスを合わせられる様に気を引き締める。


「ふっ」

「……はぁ!」


 カイトが引き絞った矢を放って数瞬。もはや先読みでその場所に置いたとしか思えない正確さで自分達の進路上に飛来した矢を殺し屋ギルドの刺客が切り払う。そうして一矢を斬り裂いた彼が見たのは、続く無数の矢の嵐だった。


「っ……」


 これはなるほど。どうやら今までの刺客達が為す術もなくやられてきたのも仕方がない。殺し屋ギルドの刺客は自分達も殺し屋ギルドの幹部も揃ってカイトを甘く見すぎていた事を理解する。

 無論放たれた矢の多くは単なるブラフ。逃げ道を潰すだけのものだ。が、そのいくつかには確実に殺し屋ギルドの刺客を殺すために放たれた矢があり、下手を打てば一撃で致命傷を受ける事が察せられた。


「行くぞ」


 これは本気で抜ける必要がある。殺し屋ギルドの刺客は愛馬に向けて声を掛け、それと共に自身もまたあらん限りの力を振り絞る。そうして、彼の愛馬の嘶きが響き渡った。


「おぉおおおお!」


 愛馬が嘶くと共に、殺し屋ギルドの刺客もまた雄叫びを上げて槍に魔力を纏わせる。そうして騎兵達が敵に突撃する様にランスを前に構えると、主従は矢の嵐の中へと突っ込んだ。


「む……見事。エドナ」

『了解』


 敢えて矢の嵐の中に突っ込んで被害を最小限に抑えるか。カイトは致命傷となる一撃はランスの切っ先で弾いて、それ以外のブラフは愛馬の魔力を纏うタックルにより弾き飛ばす主従に称賛を口にする。

 とはいえ、称賛してばかりもいられない。故にエドナは自分達に突っ込んでくる主従に対して翼をはためかせて再度加速。殺し屋ギルドの主従にその背後を追わせる形とする。


「……ふっ」


 自分達に追撃してくる主従に向けて、カイトは容赦なく弓を引き絞る。今度の一撃はブラフではなく、しっかりと殺し屋ギルドの刺客を狙った殺すための一撃だ。が、これに殺し屋ギルドの刺客はランスを僅かに動かして難なく軌道を逸らす。


「はっ!」

「っと……これは何度やっても同じ……っ!」

『とっ』


 これは何度やっても同じそうか。そう思いながらも再度矢を放とうとするカイトであったが、そんな彼は殺し屋ギルドの刺客のランスの切っ先に宿った黄金色の輝きに気付いてエドナの腹を蹴る。それにエドナも状況を即座に理解。虚空を蹴って、上空へと舞い上がる。


「ふぅ……あまり追撃戦はよろしくないか」

『分が悪そうね』

「まぁ、昔から追い掛け回されるのは苦手だったからな」

『捕まったら危なかったものね。いろんな意味で』

「うるせぇよ」


 本当に色々な意味で捕まったら危なかった。それが身の危険を感じさせるものから、性的な意味での危険を感じさせる物。果ては学術的な研究まで様々。カイトはそんな事を思い出してエドナの言葉に笑う。そんな彼にエドナもまた笑って問いかける。


『で、今は変わったの?』

「今も変わらねぇな……あっはははは……はぁ」

『ふふ』

「取り敢えず……今度はこっちから突っ込むぞ」

『了解』


 ものすごい和気あいあいとした様子であるが、戦いの真っ只中だ。故に主従はすぐに気を取り直すと、大きく弧を描く様にして進路を変更。今度はこちら側から殺し屋ギルドの主従を正面に捉える。


「「……」」


 瞬間。両者の視線が交わった。そうして一瞬の後、超音速で両者が激突する。


「はぁ!」

「おぉ!」


 カイトの大太刀と殺し屋ギルドの刺客のランスが激突。金属同士のぶつかり合う大きな音が響き渡り、衝撃が周囲へと撒き散らかされる。そうして再度数十の強撃が交わっていく。


「っ」


 先に苦味を滲ませたのは、考えるまでもなく殺し屋ギルドの刺客だ。地力も経験値も何もかもがカイトとは格が違うのだ。そしてそんな苦境を従者はつぶさに感じ取ったらしい。


「っぅ!?」

「何!?」


 空振った。唐突に起きた事象にカイトが驚きを浮かべ、それ以上に殺し屋ギルドの刺客が驚きを浮かべる。これにカイトは仕切り直しかと思ったが、次の瞬間に殺し屋ギルドの刺客は大きくその距離を離す。そしてそれと同時に、殺し屋ギルドの刺客の怒声が響いた。


「おい、何のつもりだ!」

『良い従者ね、あれ』

「みたいだ……やはり欲しいな」


 殺し屋としての来歴は後で調べるが、それは横に置いておいても愛馬には相当な信頼と親愛を抱かれているらしい。カイトは主人の敗北を悟るや否や主人の命令をも無視して一目散に逃げ出す愛馬に対して心底の称賛を抱く。

 あの判断があそこで出来ていなければ、数秒後には主人はカイトの一撃にやられ地面に墜落していただろう。まさに絶妙なタイミングだった。


『あら、浮気?』

「まさか。お前以上に信頼出来る馬なんぞいやしねぇよ……が、あいつを心変わりさせられればすごい優秀な騎兵になってくれるだろう?」

『それは認めるわ。主人はさておいても、あの馬の方は見事なものね』


 主人は最悪なんとか出来る。人材の面で言えばマクダウェル家は豊富は豊富なのだ。が、馬の方だけは探して見付けられるものではなく、是が非でも欲しい存在だった。というわけで、意見を一致させた主従はこのまま逃げられるわけにはいかない、と本気で行動に移る事にした。


「っ!」

「っと……すまないが、逃げられるわけにもいかなくてね……っと」

「「「……」」」

「これは……」


 どうやらカイトが本気で動いた事を察したらしい。彼がエドナの斬り裂いた次元で殺し屋ギルドの刺客の進路上を塞いだのを見て、今まで密かに隠れていたマクダウェル家の従者達――但し飛翔機付き魔導鎧などで軍に偽装していたが――が殺し屋ギルドの刺客とその愛馬を完全に包囲する。


「まぁ、見ての通りオレが殺し屋ギルドに狙われている事なんぞマクダウェル家にはお見通し……この通り密かに軍の警護も入ってた、ってわけだ……改めて聞くぜ? マクダウェル家に下っておいた方が良いんじゃないか?」

「……この状況がわからないほど、俺も馬鹿じゃない。俺の負けだ。それに何より、馬に気を遣われちゃ終わりだ」


 騎馬戦でも敗北だし、戦略的にも完全に敗北と言っても良い状況。殺し屋ギルドの刺客はそれを理解して、ランスを放り投げる様にカイトへと投げ渡す。そうして、彼は優れた馬とその乗り手を捕縛。マクシミリアン家にはバレない様にマクダウェル領まで彼を移送する様に命ずるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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