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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2906話 闇で蠢く者編 ――森――

 冬に入る前最後の大仕事をソラと瞬に任せる事にしたカイト。そんな彼は空いた時間を利用して、いつもの様に受け手が少ない高額報酬ではあるが手間が掛かる上に面倒な依頼を終わらせる事にする。

 というわけで、今回の依頼がマクシミリアン領から流れてきた物であったため、彼は飛空艇にてマクシミリアン領南西部へ移動。そこで更に追加で薬草の採取の依頼を請け負って、バイクに乗って一つ目の依頼の現場へ移動していた。


(うーん……ついて来てる……わけでもなさそうだが)


 バイクに乗って移動するカイトであるが、そんな彼が気にしていたのはやはり殺し屋ギルドの刺客の存在だ。先の街で感じていた視線は流石にすでに感じなくなっているわけであるが、これで終わりとは到底考えられなかった。


(多分依頼書は抜かれてると思うから……別に急いで追いかけないでも良いと考えてても不思議はないか)


 殺し屋ギルドの動きの早さを鑑みるに、ユニオンの内部情報が抜かれているのは確実。カイトは今までの状況からそう判断していた。というわけで、バイクに乗って時速百数十キロで移動する彼に追走し警戒される事を厭ったのだと考えられた。


(……今回の任務、洞窟……なんだよなぁ。面倒にならなきゃ良いが)


 現在カイトが請け負っている依頼は失せ物探しだ。なのであるが、勿論これはそう単純な話ではない。ある魔物が自分が倒した冒険者達の遺品などを収集し、巣に集めているらしい。その中の一つの回収を依頼されていたのである。そしてその巣の場所というのが、別に調査された結果洞窟の中であると判明していたのであった。


(横槍は良いんだけど洞窟の中で横槍かまされるのは困るんだよなぁ……崩落したりするとユニオンというかマクシミリアン家への報告が面倒になる。いや、殺し屋ギルドの殺し屋と一戦交えました、で良いっちゃ良いんだけど……どうにしても面倒臭い事にならなきゃ良いんだがなぁ……)


 そこらへん、考えてはくれないだろうなぁ。カイトはバイクに跨がり風を切りながら、そんな他愛もない事を考えていた。まぁ最強と謳われ最高位の貴族である彼にとって、自身を狙う攻撃というのはいっそどうでも良い事ではあったのだろう。

 それより洞窟が崩落したりする事によって地形が変わってしまってマクシミリアン家に報告しなければならなくなる方を面倒に感じていたようだ。と、そんな益体もない事を考えながらバイクを飛ばすこと一時間近く。マクシミリアン領もほぼ外れに差し掛かってきた所で、彼はバイクの速度を落とす。


「ここらへんから件の魔物の生息域か……見通しは……かなり良いな」


 バイクの速度を落として周囲を観察するカイトであるが、現在はまだ草原だからか見通しは悪くない。そんな彼であるが、速度を落として暫くして少し遠くに森を見付ける。


「あれか……確かにかなり鬱蒼としていて見通しは悪そうだな」


 あの更に先に山と洞窟があり、その洞窟が今回目指す場所だ。というわけで、カイトは森に差し掛かってきた事もありバイクを降りる事にする。流石に手入れのされていない森の中を進めるほど、このバイクも万能ではない。


「さて……ふぅ」


 バイクを降りて森に入ったカイトは、一度だけ深呼吸をして周囲の気配を読む。こういった強大な魔物が居る場所では森の気配がかなり独特な物になる事が多く、そうかどうかを確かめる事にしたのである。


(これは……居るな。森の動物達が特定の方角にのみ固まっている。厄介な魔物の縄張りがある時特有の森の様子だ)


 やはり森の事は森の動物達が一番良く知っていた。そして森の動物達は敏感なので、強大な魔物が出てくるとすぐに逃げていく。なので森の動物達の気配が無い空白部分こそが、今回のターゲットである魔物の縄張りだと割り出せるのであった。そして同時に、カイトはもう一つ見抜いていた。


(これは……ふむ動物達の統率が取れている。数百年級の長が居るか。話しておくのが吉……か)


 カイトが言う長というのは人語さえ理解するほどに強大な獣の事で、人の手が入っていない未開の地にはそういった数百年を生きた獣が居る事が珍しくなかった。

 そしてそういった獣達の協力を得ておける事は非常に重要で、大精霊達と共に生きるカイトが軽視する事は決してなかった。というわけで、彼は周囲に誰も居ない事を確認するといつもは出さない大精霊達の力に端を発する力を解き放つ。


「森の声を聞く者たちよ。我は自然と共に生きる者。大精霊と共に歩む者。良ければ姿を見せて欲しい」


 森の長達に声を掛けるのに、大声を出す必要はない。彼らはエルフや妖精達同様に森の声を聞く事が出来る。なので森に声を乗せるだけで、長達に声が届くのである。

 というわけで、カイトが森を介して語りかけて十数秒。さすがはカイトという所で、すぐに森の長が姿を現した。それは巨大な犬のようであり、狼のようであった。が、そんな森の長はカイトを確認するなり大きく目を見開いていた。


『これは驚いた……かの伝説の勇者か。あえて光栄だ』

「森の長よ。騒がせてすまない。故あってこの森にやって来た。入らせて貰いたいが、構わないか?」

『構わぬ……貴殿が来たということは即ち、そういう事なのだろう。我らとしてもあの魔物には手を焼いている。あれを倒してくれるのであれば、我らも森も貴殿を拒む事はない』


 どうやら優れた戦士であるカイトが来た事や森の現状などから、森の長はカイトの目的がこの森を荒らしている魔物の退治だと察したようだ。森の長はカイトの立ち入りに快諾を露わにする。これにカイトは頭を下げた。


「助かる。なるべく騒がせない様にはしたいが……」

『流石に貴殿でも無理だろう。あの乱暴者は貴殿ほど強くはないが、それでも弱いと言えるほどのものではない。今まで何人もの人の子が挑み、そして散っていった。騒がしくはなるだろう……しかしまぁ、気にされる事はない。彼奴は何が癪に障るか日に何度か暴れまわる。それがたまさか大きな物になるぐらいと捉えよう』

「それは有り難い。手早くは済ませよう」


 少し冗談めかした様子で笑う森の長に、カイトもまた笑みを見せる。とはいえ、いつもならこれで終わりとするわけであるが、今回ばかりは事情が異なるのでカイトもそれについて言及しておく事にする。


「それで一つ申し訳ないのだが、どうやらオレを狙う何かが居るらしい。ついて来ている様子はないが、どこで襲いかかるかがわからん」

『ほう……人気者は辛いな』

「あははは。本当に」

『……構わぬよ。貴殿が大精霊様と共に歩む者である事も、人の子らに人気である事も我らは知っている。さればこそそんな貴殿を厭う者が居る事もまた、知っている。愚かしい事ではあるが』


 やはり流石は数百年の時を生きた獣という所だろう。大精霊と共に歩むカイトを狙う事の愚かしさを嗤いながらも、同時にそれがカイトに咎があるわけではない事も理解していた。故にカイトが狙われて森に被害が及ぶ可能性も理解し、それは仕方がないと理解してくれたようだ。


「申し訳ない」

『構わぬ……それもまた人の世の常なのであろうからな。ただ、あまり騒がせないで貰えると有り難い』

「それは心掛ける。ただもし森に手を出すのなら、少し森の力を借りる事もあるやもだが」

『貴殿に森が力を貸すのであれば、それは森の意思だ。我らがとやかく言うべきものではない……おそらく森はそうするだろうが』


 カイトの言葉に、森の長は首を振る。大精霊と共に歩み、何人もの森の精霊と友好関係を結ぶカイトだ。彼の身体にはその気配が染み付いているためか、エルフ達と同等かそれ以上に森はカイトに肩入れしてくれるのであった。そしてそれは森という概念の意思である以上、あくまでも森に住まう獣の長に過ぎない森の長もとやかく言う事は出来ないのであった。


「ありがとう……まぁ、その代わりと言っては何だが魔物の討伐は確実に成し遂げよう」

『そうしてくれ。あれが昼夜問わず暴れまわるのでおちおち寝てもいられん……ああ、案内は必要か?』

「いや、必要ない。この様子だと森に聞く必要もないだろう」

『そうか……では、よろしく頼む』

「ああ」


 これ以上話す事は何もない。森の長はそう判断すると、足に力を入れて大きく跳躍。数百メートルも離れた場所へと着地し、そのまま森の中へと消えていった。そしてカイトはそれを見届けると、森の中に入り動物達が居ない一角を目指して歩いて行く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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