第2905話 闇で蠢く者編 ――仕事――
ソラと瞬の飛空術の実用試験の最中に見付かった超古代の文明の遺跡。その早期復旧を目指す事になったカイトであったが、彼はそれをマクダウェル家が組織した調査隊に任せると自身は普通の冒険者としての日々に戻る事になっていた。
というわけで彼は冬前最後の大きな依頼として持ち込まれた商隊の護衛任務をソラと瞬に任せると、自身はいつものように手間の掛かる依頼を請け負い単身マクダウェル領の南隣。マクシミリアン領南西の小さな街へやって来ていたわけであるが、それを遠くから監視する影がいくつもあった。
「こんなガキがウチに喧嘩を売ってるのか?」
「そうだ……すでに何十人もの手合が返り討ちにされている」
「雑魚なんかを向かわせるからだ」
カイトが確認した監視者が送ってくる映像を見るのは、殺し屋ギルドが飼っている何人もの殺し屋と殺し屋ギルドの幹部の一人だ。やはり常にはギルドのトップとして集団行動を行う男が急に単独行動をしているというのだ。即座に招集が掛けられ、襲撃の指示が出される事になったのである。
「取り敢えず仕事は簡単だ。このガキを殺せ。流石にこれ以上舐められた事をされるのは困る」
「手段は?」
「問わない。町中だろうが外だろうが関係ない。殺せればそれで良い」
「人質なんかは使わなかったのか?」
「やれるならやっている……ああ、そうだな。そこらについて話しておく必要があるか」
人質を使ってターゲットを殺すというのは彼らの仕事柄日常茶飯事で行われている事だ。なのになぜそれが出来なかったのか。殺し屋ギルドの幹部はそれを語らないわけには、とモニターに表示される映像を切り替える。
「……なんだ?」
「おいおい……なんだよ、こりゃ」
「辣腕とは聞いていたが……」
これはすごいな。今まで少しだけカイトを侮っていた殺し屋達であるが、幹部の表示した冒険部の周辺の状況を見て思わず目を見開いて身を乗り出す。
「これでわかっただろうが、奴の率いるギルドの近辺の警戒網はあまりに強固すぎる。そして何より不確定要素も多い……流石にユニオン最高位の目を持つ二人が常駐し、ユニオン最悪の戦闘狂と言われる剣姫クオンに週に何度もギルドホームに通われては堪ったものではない」
さすがの殺し屋ギルドであっても、剣姫クオンにソレイユ達まで纏めて相手にする事なぞ出来るわけもない。というより、流石にクオンに喧嘩を売った瞬間に自分達が相手をするのはユニオン最強の戦闘集団になるぐらいはわかっている。
そこに加えてユニオンの風紀委員と言われるアイナディスに繋がるソレイユ達だ。こんな状況で人質を取ろうとしたら即座にバレるぐらい子供でもわかる状況だった。
「一体何をやったらこんな状況になるんだ?」
「わかるか、そんなもの。辣腕なぞと言われるより、奴が実は勇者カイトだと言われた方が素直に納得も出来るような状況だ」
「そ、そうか」
どうやら滅多に感情を滲ませない殺し屋ギルドの幹部が若干やけっぱちになるぐらいには、カイトの近辺には不可思議な事象が渦巻いていたらしい。
まぁ、そんな彼が冗談で口にした事がまさか本当だとは誰も思っていなかったが。というわけで、若干やけっぱちになった彼であるがそこはやはり殺しを仕事とした組織の幹部。すぐに気を取り直す。
「……まぁ、それは良い。そんな奴だが、時折ふらりとギルドを離れる事がある」
「女か? かなり女癖が悪いと聞いているが」
「違う……仕事だ。奴はどうしてか時折一人、ないしは二人か三人でふらりといくつもの依頼を受諾して外に出る。この際は一切の護衛やらもおかず、本当に奴一人で数日出ていく事もある」
「「「……はぁ?」」」
ここまで襲撃を警戒した防衛網を構築しておきながら、まるでそれを気にしないかの様にふらりと唐突に一人で行動するというのだ。その奇妙さに殺し屋達は今度は困惑を露わにする。それはまるで誘っているのではないか。そう考えられても不思議のない様子だった。
「こちらの襲撃を誘っている……というわけか?」
「そういうわけではない。奴が唐突に一人で行動を行うのは今に始まった事ではない……これはマクダウェル支部でまことしやかに囁かれている噂だが、どうやら奴は暇つぶしに高難易度の依頼を受諾しているらしい」
「何のために」
「暇つぶしだと言っただろう」
「何を考えてるんだ、奴は……」
やはり殺し屋の中には冒険者を兼業していたり、もしくはかつて冒険者であった者は少なくない。というわけで普通の冒険者からは考えられないカイトの行動に困惑が隠せなくなっていた。とはいえ、だからこそと幹部は告げる。
「それでその気まぐれを昨日起こしたそうだ」
「で、俺達が急に集められたと」
「そうだ……今回の依頼は奴のこれまでの実績を鑑みればどれもこれもさほど時間が掛かるわけではない依頼だが、数が多い。数日は外に出たままになるはずだ……そこを潰せ」
「「「……」」」
流石に現状を知らないカイトではないと思うが、それでも一人で動いている事だけは事実。ならそこを狙わない道理はない。殺し屋ギルドの幹部の言葉に、殺し屋達はこれが少しだけ仕組まれているものなのではと思いつつもこれが同時に絶好の機会である事も理解していたようだ。そうして、殺し屋達は一人二人と闇に溶ける様に消えていくのだった。
さて殺し屋ギルドに所属する専属の殺し屋達が動き出した一方その頃。カイトはというとマクシミリアン領の宿屋を後にすると、そのまま街の外へ向かってバイクを押していた。
「おっしゃ……相変わらず遠くからの監視は存在しているわけなのですが。兎にも角にもお仕事ですよ、と」
どうせ監視なぞ気にした所で始まらない。そして良くも悪くもカイトは監視される事には慣れていた。というわけで、彼はいつもの様に街から出るとバイクに跨ってゴーグルを掛けていた。
ここらの地理情報に関してはマクダウェル家を介してマクシミリアン家に協力を依頼して測量を終えており、ユニオンの頒布する地図より自前で用意した地図の方が精度は良かった。
「さて……まず向かうのはここから更に南西。ほぼほぼ隣との境界線の近くか。兎にも角にも遺品の回収をしちまわないとな……」
カイトが一番最初に攻略する事にしたのは、何度か言われていた失せ物探しの依頼だ。一応距離としてはこの街から失せ物探しの魔物が居る場所、採取依頼のあった薬草の群生地。手配書の魔物達の順に遠くなっている。なので遠い順から攻略していこう、という算段だった。
「よし……地図オッケー。天候も……問題なし」
ここから数日は晴れか。カイトは空を見上げながら、そう判断する。というわけで早速バイクを走らせるわけであるが、その道中。彼はやはりと思う事になっていた。
(うーむ。やっぱり監視の目はオレを補足したままか。こりゃ、戦闘中の横槍は覚悟した方が良さそうかね)
今回カイトがバイクを使っている理由はあくまでも移動距離が長いので、移動で楽をするためだ。これが普通の冒険者なら徒歩で数日掛けて移動したり急ぐなら馬や地竜を借りたりするわけであるが、そこはやはり色々と技術を持つマクダウェル家のトップという所だろう。エネフィアではかなり目立つので、補足するのは容易だった。
(つってもまぁ、こんな目立つ乗り物で移動すりゃ補足も容易いか……問題はそれをどう判断するか、という所ではあるが)
一応バイクの存在は知られていても、これが何なのかまではあまり知られていないと思うが。カイトはバイクのエンジンに火を入れながら、殺し屋達の動きについて考える。
やはりターゲットが不可思議な乗り物を乗り回すのだ。警戒はされるだろう。そんな事を考えるカイトであったが、暫くしてどうでも良さげな感じで首を振った。
(いや、どうでも良いか。どうせやる事は一緒……ランクS級の殺し屋が来ようとさほど問題にはならんし。気にするべきは町中で仕掛けられるか否か、だけだな)
ストラにも言っているが、カイトにとって周囲に気兼ねなく戦える状況というのはほぼほぼ勝利が確定しているような状況だ。いっそ外で仕掛けられる事に関してはどうでも良かったようだ。というわけで、カイトは外では何も気にしない事にしようと考えてバイクに乗って移動を開始するのだった。
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