第2903話 闇で蠢く者編 ――仕事――
ソラと瞬の飛空術の実用試験の最中に見付かった大空に浮かぶ謎の遺跡。それはかつて存在したルナリア文明よりも更に昔。数千年も昔の超古代の文明の遺跡であった。その遺跡の調査報告を取り纏めて皇国に提出したカイトは遺跡に興味を持った皇帝レオンハルトに命ぜられ遺跡の早期復旧を目指す事になる。
というわけで、今度はマクダウェル家として調査隊を組織する事にした彼は軍と学者達による調査隊を遺跡に入らせると自身は一旦いつも通りの冒険者としての日常に戻っていた。
「さて、と……依頼は四つ。討伐二つに採取が一つ。失せ物が一つと……」
いつもの小型飛空艇を自動操縦に切り替えると、カイトは改めて今回の依頼書四枚を手に取る。
「えっと……討伐は依頼書ってより手配書か。手配書が他にまで出回るのは割りと久しぶりだな……まぁ、こいつは早いもの勝ちの依頼だから下手すりゃ骨折り損のくたびれ儲けになるかもだが……」
手配書は依頼書とは違ってあくまでも手配書だ。誰かに討伐を依頼するものではないため、普段の依頼の様に受注処理を行えるものではない。なので偶発的に討伐した魔物が手配されている事も往々にしてあった。
「ま、終わったなら終わったでも良いか……取り敢えず順番としちゃ採取で失せ物、その後に討伐二種で良いか。となるとまず向かうべきは……」
南隣のマクシミリアン領か。カイトはそう判断すると、自動操縦の行き先をマクシミリアン領に設定する。失せ物探しの依頼では魔物が収集したとされる遺品類を専用の袋に回収する必要があるのだが、それを受け取らない事には依頼は始められないのだ。となると兎にも角にも現地のユニオン支部に行ってそれを受け取る事が先決だった。
「よし。セッティング完了と……さて後はのんびり待つだけか」
こういう時に一人乗りの飛空艇は小回りが利いて良いな。カイトは後は現地付近まで自動で向かってくれる様になった飛空艇の中でそう考える。ここら、大型の飛空艇だとどうしても空港が無いような小さな街だとどこに停泊するかなどを考えねばならなくなってしまうのであるが、一人乗りの小型飛空艇だと空中に停止させておくという選択肢を取る事も出来た。
無論空中に停泊させるということは乗り降りに飛空術かそれに類する何かしらは必要になるのであるが、それはカイトには無用な心配というものだろう。というわけで、カイトは後は適当に時間を潰すか、と持ってきた本でも読みながら到着を待つ事にするのだった。
さてカイトがマクスウェルを出発してからおよそ二時間。今回は急ぐ旅でもなかったため、現地のユニオン支部に到着したのは昼前の事だった。というわけで街の付近で飛空艇からバイクを降ろすと、彼はバイクで街に到着。そこから徒歩に切り替え、街の中を歩いていた。
「ふーん……ここらはかなり久しぶりに来たが……あまり変わらないもんだな」
今回カイトが訪れたのは、マクシミリアン領南西部にある小さな街だ。一応冒険部の活動範囲からもギルド同盟の影響範囲からも外れている所で、街の規模からあまり大規模な依頼が発注される事も少ない。なので冒険部としてもこの街を訪れる事はあまりなく、カイトも来たのは三百年ぶりという塩梅であった。
「普通はこんなもんなんかね……どうなんだろう……」
やはりカイトはどうしても三百年もの間エネフィアを留守にしたという経緯がある。復興の最中だったという事もあるが大きく変貌を遂げた街というものをいくつも見知っており、こういった三百年前からさほど変化が無い街というのはそれはそれで物珍しかったらしい。
というわけで少しだけ興味深い様子で街の様子を見て回りながらも、さほど変貌を遂げていないが故に彼の足取りはたしかだった。そうして歩く事十数分。街の大通りの一角にあったユニオン支部に到着する。
「いらっしゃいませ。依頼の受注ですか?」
「ああ。マクスウェルで依頼書と手配書を確認した。この四枚について確認したい」
「マクスウェルから?」
確かにマクスウェルに依頼書が流れた事は受付も知っていただろうが、それでもマクスウェルほどの遠方から冒険者が流れてくるのは稀な事だったらしい。カイトの言葉に受付の女性は少しだけ驚いたような顔を見せる。
「ああ。ま、ちょっと色々とあってこういった手間な依頼を多く受けててな。あまり気にしないで貰えると有り難い」
「は、はぁ……」
ユニオン側としては依頼さえこなしてくれるならそれで良いのだが、それでもわざわざ手間な依頼をマクスウェルから来てまで請け負うほどの奇特さというのはかなり物珍しかったようだ。
まぁ、こういった手間になる依頼というのは何か別の依頼と並行して受注して、達成出来ればそれで良いような考えが冒険者としては一般的だ。カイトの様にわざわざそれを選択する事は普通はないのであった。だから長く依頼が残ってしまうのであるが。そして依頼が長く残るのが良い事ではない事はこの受付嬢もわかっていたようだ。すぐに気を取り直す。
「いえ、すいませんでした。依頼の受注処理ですね」
「ああ……この失せ物探しの依頼に関してはユニオンから専用の回収袋が受注者に貸与されるとあったんでな」
「はい。ですが、その……そちらの依頼は相当高難易度であるとユニオン側からは言わざるを得ません。ソロで大丈夫ですか? 拝見するに、ギルドを率いていらっしゃる様子。この依頼は複数人での達成が望ましい物となりますが」
もうすでに何人もの冒険者が挑んでは返り討ちにされているのだ。こういった依頼では冒険者側に複数人での受注をユニオンは推奨していたのである。無論だからといってユニオン側がソロは不許可と出来るかというとそうではない。あくまでも推奨なので、カイトがそれに従う必要はないといえばなかった。
「問題無いよ。ランクAで油断してる、とかじゃない。その点に関してはウチで依頼してるユニオンの職員とも話し合って、オレならソロで攻略が可能と判断している」
「……かしこまりました。ただこちらの依頼は先に申しました通り、高難易度の依頼となります。万が一の場合に備え、ユニオンからは回収袋と共に緊急時を報せるベルが貸与されます。依頼の達成が困難な状況に陥った場合、そちらを使用してください。ユニオンが依頼する冒険者が救援に駆け付けます」
「了解した」
こういった高難易度かつ危険性が非常に高いと判断された依頼に関してはユニオン側から万が一の場合に救助を要請する事を可能にする魔道具が貸与される事が一般的だ。
彼らとて高難易度の依頼を受諾出来る冒険者に死んでもらっては困るので、こういった措置が取られるのであった。というわけで、それら魔道具類の支度が行われるのをカイトは待つ事にするのであるが、その間にカイトは受付嬢に少し聞いてみる事にする。
「そういえば……何か他に高難易度の依頼はあります?」
「え゛」
「あはは。こういった高難易度の依頼を専門みたいに請け負っているんで。近くならついでに、と」
「……失礼ですが、正気ですか? 私が知るかぎり、あなたのギルドの現状でそこまで纏まったお金が必要には思えませんが……」
「あはは」
こういった高難易度の依頼を複数個一気に受注する冒険者は普通はいない。普通は一つ一つの依頼が激戦になってしまい、受ける余裕が無いからだ。
そしてさすがは高難易度という所で、報酬としても装備の手配などを考えても十分暫くは遊んで暮らせるだけがある。更に請け負おう、というカイトの正気が疑われても仕方がなかった。
「……ま、そこらは色々とあるんですよ。本当に色々とね」
「はぁ……かしこまりました。依頼書を確認させて頂きます」
兎にも角にも冒険者当人が他に無いか、というのだ。そしてユニオン側としては複数個の依頼を同時に請け負ってはダメという決まりはない。ならば探すしかないのであった。というわけで、カイトは更に他の依頼を見繕って貰う事にして、暫くの時間を潰す事にするのだった。
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