第2902話 闇で蠢く者編 ――依頼――
ソラと瞬の飛空術の実用試験の最中に見付かった大空に浮かぶ謎の遺跡。それはかつて存在した超古代の文明の遺跡であった。そんな遺跡の調査報告を取りまとめ皇国に提出したカイトであったが、その結果彼は遺跡に興味を抱いた皇帝レオンハルトにより遺跡の早期復旧を命ぜられる事になる。
というわけでその遺跡の早期復旧に向けて動き出したカイトであったが、マクダウェル家の調査隊を組織するとそちらについては軍と学者達に頼み自身はいつもの冒険者としての日々に戻っていた。
そんな中で皇都へ向かう大規模キャラバンの統率をソラと瞬に任せる事を決めると、彼は自身が暇になった事を受けて何か手頃な依頼はないかとソーニャに問いかけていた。
「さてさて……どんな依頼がありますかね、と」
「討伐が2。採集が1。失せ物探しが1です」
「討伐依頼が2に採集が1。失せ物が1……失せ物ね」
こういった場合の失せ物探しは町中での失せ物探しではない。外での失せ物探しだ。とどのつまり、魔物の蔓延る外での探索任務となり、戦闘の危険性が非常に高いと想定された。
「ええ……失せ物というよりも遺品の探索と言っても良いかもしれません」
「魔物にやられたか」
「はい……同封している手配書をご確認頂ければ」
「なるほど」
手配書が出される魔物というのは基本的に同種の魔物達より非常に強く、何人もの冒険者を返り討ちにしている事が大半だ。そしてその追い返した数に応じて賞金額は跳ね上がっていくのであった。
「少し遠いな。マクスウェル近郊というわけでもない」
「ええ。ですので今まで依頼には含めませんでしたが……残念ながら現地のユニオン支部に所属する冒険者達でのこれ以上の討伐の見込みは無いだろうと判断。近隣の大都市のユニオン支部にも増員が」
「それでマクスウェルにも、か」
これは当たり前だが、手配書を遠くのユニオン支部に張り出した所で効果は薄い。興味を持った所で遠いからだ。が、そう言っていられないほどに被害が大きくなると、この様に遠方のユニオン支部にも張り出されていく様になるのであった。
「わかった。こいつに関しては請け負おう。これ以上放置もしていられんだろうしな」
「かしこまりました」
「おし……で、こいつなんだが。色々と収集癖があるみたいなんだが、収集された物に関しては?」
「これ以外にもいくらかの回収が依頼されている様子ですので、一旦ユニオンにすべて提出をお願いします。そこから持ち主が不明な物に関しては今回の報酬に含まれる形となります」
「若干困窮してる状況というわけか」
基本こういった場合に回収された物はすべて遺品だ。なので基本的には元の持ち主が探される事になるのであるが、こういった討伐が中々されない場合は遺品を取り分として出してしまう事もあるのであった。
「まぁ、良い。そこらはどうでも良いしな……他の依頼は?」
「討伐は今更良いでしょう。採集は危険地帯にある薬草の収集です。好みかと」
「好みは好みだね……で、この流れで持ってきてるという事は方角は全部一緒と考えて?」
「大丈夫です」
「そうか……なら、答えは決まったな」
どれもこれもがさほど大きくない依頼ではあるが、一癖二癖あるような魔物だったり状況だったりが多い様子だった。というわけで、カイトはそれらを一挙に引き受ける事にしてそれらすべての依頼書を確認する事にするのだった。
さて明けて翌日。カイトは三日ほどで請け負った依頼すべてを終わらせる事にすると、早速支度に取り掛かっていた。
「で、こいつらと」
「飛空艇とバイクの組み合わせが一番小回りが利くからな」
「ま、ソロで動く文にはそれが一番じゃろ」
今回であるが、誰かと組んで動くような大きな依頼ではない。採集の依頼も量はなく、一人で収集して持ち帰れる量だ。一応失せ物探しで出されている魔物が収集している遺品類が相当量になりそうであるが、これに関しては現地のユニオン支部が専用の回収袋を用意しているとの事であった。
そこらの小回りなどを考えると小型の飛空艇で現地付近まで移動。そこからはバイクで一気に、という手をカイトは取るつもりらしかった。というわけで、使うとなって調整を依頼していたティナに状況の確認を、と彼はマクダウェル家の地下研究所に来ていたのであった。
「まぁ、性能そのものはさほど変わっておらんよ。強いていうのであれば、若干スピードは上がった程度じゃが」
「何か変えたのか?」
「単に出力バランスを再調整しただけじゃ。後は中の収納部に関しても少し改良し、物がもう少し入るようにはしておいた……まぁ、ここらはイマイチお主に関係が出る事ではないがのう」
「一応野営はする予定だから、テントは持っていけると助かる……いや、必要にならねぇな」
おそらく寝る時は飛空艇の宿泊施設を使うだろう。カイトはそう考え、一転して首を振る。彼なので討伐時間が伸びる可能性は無いに等しく、そして夜に動かねばならない状況はまず作らない。なので寝る場合はきちんと拠点である飛空艇に戻れる可能性が高かった。
「そうじゃろうのう。バイクにテントを積むぐらいなら身軽になってさっさと帰った方がお主には良いじゃろ……ああ、そういや食料の類は?」
「そっちはもう手配済みだ。冷蔵庫への詰め込みもやってくれる事になってる」
「要らぬ心配じゃったか……まぁ、今回は聞く限り特に問題のなさそうな依頼じゃ。さっさと終わらせてさっさと戻ってこい」
「適時報告は受けるさ。そのために飛空艇で行くわけでもあるしな」
ティナの言葉にカイトは一つ笑う。まぁ、さっさと戻ってきて欲しい理由なぞ単にテスターが居ないから実験が進まない、というだけだろう。そもそもカイトの場合は彼自身の魔導機の開発もあるのだ。これに関しては彼専用である事もあり、彼がいない事には始まらない。色々と彼が居ない事で進まない事は多かった。
「そうじゃな……ああ、そうじゃ。そういえば報告で思い出した」
「うん?」
「重特機の件じゃ。前に話しておった建造を宇宙で、という件じゃが、やはり建造は宇宙でやった方がよさそうじゃ。あそこまでデカいと、建造するたびに自壊を防ぐ専用の術式を構築せねばならん」
「それは元々わかってただろ」
「うむ……が、これが思った以上に手間になっておっての。暫くの建造計画は現状の一機だけでストップした方がやはり良さそうじゃ」
「そもそも現状じゃ使う事もない。それで良いよ」
重特機は元々宇宙に住む超巨大な魔物に対抗するために作られているものだ。なので宇宙艦隊が無い現状ではそもそもの用途で使う事がなく、今作った所で技術的な蓄積は出来ても無用の長物に過ぎなかった。そして技術の蓄積に関しても今の一機あれば十分。これ以上新造した所で無駄の方が多いとティナも判断したようだった。
「うむ……ああ、それとそれ以外にもじゃが……」
「まだ何かあるのか?」
「色々と拵えてはおるからの……あった。次じゃが、カナコナの外装に関してじゃな。あれの格納庫というか飛空艇。あれの再セットアップが終わった。若干長引いておったが、これで全部のドレスが使えるぞ」
「それは久しぶりに良い報告だな……当人は?」
「なんぞ悪ぶってはおるが、喜んでおったぞ。やはり愛着やらがあるみたいじゃな」
「そうか……ま、あいつらしいと言えばあいつらしいか」
なんだかんだ言いながらもカナタもコナタも父が好きだったのだ。その父が遺した物がこうして使える様になって嬉しいのだろう。カイトはそう思い笑う。そうして、それからも暫くの間カイトは報告事項を受け取っていく事にするのだった。
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